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2010/05/09(日)20:09

書評『民主主義がアフリカ経済を殺す』

書評(13)

開発経済学の世界的権威ポール・コリアーの新著。前作「最底辺の10億人」に続く発展途上国への援助に関する考察。サブタイトルは「最底辺の10億人の国で起きている真実」 原題:Wars,Guns,and Votes / Democracy in Dangerous Places 紛争と貧困に苦しむ、最底辺の10億人の国、そこでは不正な選挙に象徴される偽りの民主主義が横行している。 その民主主義は「主権という聖域」によって守られている。 冷戦終結後、民主主義の普及ということで「選挙」がこれらの国に浸透した。 選挙制度は、選ばれた政府に対して、アカウンタビリティ(責任)と正統性を与えるはずであった。 しかし、最底辺の10億人の国々では、アカウンタビリティも正統性ももたらさない。 これらの国では、選挙は、規律と善良な政策に導かず、いっそう劣悪な方向に向かわせる。おそらく、われわれは選挙を普及させるなかで、最底辺の10億人の国々を、機能できない中途半端な場所に着地させてしまったのだ。 多くの国の指導者は、国民的アイデンティティではなく、民族的アイデンティに依拠している。 最底辺の10億人の国々の多くは、民族的多様性をもつ国家である。 民族的アイデンティティによって「選挙によってアカウンタビリティのある政府をもつ可能性」が事実上封殺されてきた。 その事情は、民族間の紛争を引き起す。 和平調停の動きはすばらしいが、紛争後の情勢は非常に危うい。終ったはずの紛争の40%が10年以内に紛争に後戻りする。 政治形態別に見ると、独裁体制は25%しか逆行しないが、民主体制の国では70%が紛争に後戻りする。 最底辺の10億人の国々にとって、脅威は国内的なもので、外部的なものでなくなってきている。反乱と内戦が最も大きな脅威なのだ。 平均して援助費の11%が軍事費に漏れている。370億ドルの11%⇒37億ドル程度と試算される。 アフリカは54の小国に分かれているが人口の合計はインドより少ない。 そして、小さな国ほど軍事費の割合が大きい。 紛争後の国は概して軍事大国になるが、抑止力となるどころか、リスクを誘発している。 内戦を引き起すものは貧困である。所得水準の低いほど、成長速度の遅いほど内戦リスクは高まる。 結局のところ、経済開発は暴力からの重要な救済手段である。 クーデターは誘導装置のないミサイルのようなものだ。 ひとつのクーデターが次のクーデターを引き起す。 皮肉なことに、援助をGDPの4%追加するごとにクーデターのリスクは約3分の1ずつ増える。援助はクーデターにとって甘い餌でしかない。 最底辺の10億人の国々は「国家」として機能していない。 多くの小国は主権維持に欠かせないふたつの公共財~アカウンタビリティと安全保障の壊滅的な供給不足に陥っている。こうした国には、国際社会がそうした公共財を供給する段階が必要だ。 国際基準に沿った公正な選挙を実施し、公共支出の誠実性を維持することを条件に安全保障を提供する。政府が内乱の危機に直面したときには軍事介入して政府を支援する。主権の一時的な制限を容認する。 公共支出の誠実性を高めるためには「監査能力と検証」が必要。健全な予算執行計画がなければ援助は行うべきでない。 政府各省と供給物たちの間には、資金を扱う機関が置かれるだろう。 国際社会による安全保障の提供は、その国家よりも狭い規模であなく広い規模で行われる必要がある。分散的な提供は内戦リスク拡大をもたらす。 主権に対して断固たる態度で臨むことが必要だ。それはいわば「主権の共有」とも言うべきものだろう。 その役割を負うものとしては、2005年に安全保障理事会と国連総会の共同諮問機関として発足した「平和構築委員会」が適当である。 平和維持軍、経済開発、選挙をめぐる意思決定・・・この三者は10年間は維持する必要がある。 そして、経済復興こそ平和維持活動の唯一の真の出口となる。 援助によって紛争後の国々政府はインフレという選択肢を強行する必要がなくなる。 通貨が安定し、資本逃避も減少する。 2004年までアフリカの私有財産の割合は36%にすぎない。(資本の逃避) 【所感】 コーリアの主張はひとことで言えば、民主主義のための暴力、それも援助側の暴力を活用せよというものだ。 著者が「本書で述べた様々な主張はすべて統計調査に基づいている」と主張する通り、膨大なデータを駆使した実証分析には圧倒させられる。ただ、実証分析は過去の行動の実証には役立っても、それだけで真の出口を示すことができるのかという疑問は残る。 著者の主張する「所得水準の低さ」は民主主義にとっての致命傷であろう。 民主主義は「一定の経済の発展水準」にリンクするものであるから、それは当然である。 しかし、「選挙」によって選ばれた最底辺の10億人の国々の指導者たちが、偽善と強欲と出身民族の利益代表者としての行動規範しか有さないのと同様、外部からの援助(軍事介入を含む)が一定の政治的判断と価値観の押し付けにならない保証もどこにもない。 10年以上も主権不在を放置されてきたソマリマは悲劇の代名詞であるが、最大限に介入したイラクとアフガニスタンではいまだに「自立」の兆候すら見えていない。 民主主義を実現できるだけの経済発展段階に達していない国での「独裁」についての複眼的な見かたも必要ではないか。民主主義を守るための独裁もある。 現代の発展途上国のおかれた困難な状況を知るためにも、一読をお薦めします。 <書評>・・・過去記事より・・・ 『ロッキード事件「葬られた真実」』(平野貞夫) 『わが友・小沢一郎』(平野貞夫) 『「特捜」崩壊』(石塚健司) 『共生経済が始まる』(内橋克人) 『米金融危機が中国を変革する』(真家陽一) 『チャイナ・アズ・ナンバーワン』(関志雄) 『株の損は株で取り戻せ』(若井 武) 『行動ファイナンス理論』(真壁昭夫)

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