991010 ランダム
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できるところから一つずつ

1998年

コスモス1月号

子の妻が来ている間は「Oh, thank you」夫と私も英語を話す

その妻と並べば不思議わが子にも世帯主とふ貫録のあり

わが町のホッケーチームが東京に試合に行きぬ話題攫ひて


コスモス2月号

「最大の私の遺産はあなた達三人の子」と遺書に書きおく

頭より徐々に画面に現れぬ電子メールの友の写真が

葉の陰の薄暗がりに低く咲く冴えざえ白き茗荷の花が

徐々徐々に緩びて淡き帯となり飛行機雲が空に融けゆく

 
コスモス3月号

大きめにメロンを切りて皿に盛る誰も気付かぬ我が誕生日

前日と同じ夕食献立に同じ酒飲む宿の2泊目

冷戦には日本が勝つたと友が言ふ平和と見えし日々の裏側

戦争の無きがに見えし五十年に外交・経済・貿易摩擦


コスモス4月号

ボンネットにばらばら落ちて弾みたり師走半ばの気まぐれ霰

高層のビルの谷間の教会に中世の空気ひんやり籠る

大病をせし君なれど元気なり持薬も時に薬を飲み忘れして



コスモス5月号

女には女の論理 飛躍など気づかぬふりで長く電話す

早春の淡き日を受けほんはりと梅が行く手の空に広がる

丘の辺に光集めて梅の花白が五分咲き紅は四分咲き

息継ぎが三回出来て今日急に望み出できぬわれの水泳


コスモス6月号

優しくて線しなやかで単純な「り」の字のやうな女でゐたい

若き日に夫の彫りくれし夫婦雛細き目をして今年も並ぶ

愛を言ひ料理を褒めて新婚の息子が「カナダの夫」を演ず


コスモス  7月号 奥村選

四分休符空にぱらぱら撒きしごと北へ北へと雁の戻り来

一群れのすぐ後に又別の群スノーギースがひたすらに飛ぶ

ざあざあと受話器を伝ひ聞こえくる子の住む町に驟雨降る音

白き肌春陽に曝し着替へをり段ボールに住む若き女性が

「幸せな一生だつた」と夫が言ふまだ先がある身なのにあなた


コスモス  8月号  武田選

六十個ゴルフのボールを贈られて還暦の夫遊びせむとや

イギリスへの飛行機の中早速にTOMATOトメートがTOMATOトマトに早変りする

SOソウをSOサウ、OPENオープンをOPENアウペン」と発音し旧仮名遣ひのやうなイギリス

小さめの青き林檎を齧りつつ暮れはじめたるロンドンを行く


コスモス 9月号  今村選

朝五時半サッカー実況見る夫の「行け!」や「ようし!」に今日が始る

キーパーがボールをしつかり止める時テレビの前には夫の喚声

勝者より敗者が元気に退場すアルゼンチンと日本の試合


コスモス 10月号

デボン紀の岩山黒く翳らせて広きムーアに淡き黄昏

花季に未だ間のある茶緑のヒースが低くムーアを覆ふ

あるは佇ちあるは歩みて野生馬が長きたてがみ風になびかす

日本の参院選が気になりてインターネットをたびたび覗く


コスモス11月号

ジーパンと黄色いシャツのペアルック新婚旅行に発ちて行きたり

子ら巣立ち夫には多忙な仕事ありわたくし一人の日々が始る

心また背伸びしてをり底厚き靴ぽこぽこと歩むアンナは


コスモス 12月号

「HAIKU」俳句とふ商標名に売られをり日本渡来の蕎麦殻枕

色めきてあなたが反対論を言ふ むきになるのは昔からよね

共通の話題探しにやや疲れ二世代夫婦ふつと沈黙

阿佐谷の七夕祭りを見て来しと子の新妻が声を弾ます





水甕1月号

空中に草書のやうな線を描く夏の終りを告げて降る雨

わたつみにあるかもしれぬ風の巣を恋ひて風鈴ちろちろと鳴る

潮退きて取り残されたる海草が浜辺の砂にへたばりてをり

海底に靡きゐし日を恋ふらむか浜に乾ける海草たちは


水甕2月号新鋭集

パソコンの液晶画面に日本の友の画像が瞬時に届く

雛罌栗のゆらゆら揺るる高原に想ひが風の中を漂ふ

碧き水湛へて深き湖に太古の氷河の記憶が潜む

蒼空を突き刺すごとき岩山に寄り添ふ白き雲のひとひら


水甕3月号新鋭集

自衛官なりし友なり悠々と疲れを見せず泳ぎ続ける

ネクタイもスーツもいつも同じなり 私服に慣れぬ元自衛官

日本では本年一のヒットとふ「失楽園」の重き恋愛

メロン一つ土産に君が訪ね来ぬ夫さへ忘れしわが誕生日


水甕4月号

子の妻の父としばらく話したり「カナダの木材輸出状況」

逢へぬまま遠く過ごせし四十年 君には妻が我にも夫が

とくとくと確かなるもの 抱かれし私に伝ふあなたの動悸

頭より徐々に画面に現れぬ電子メールの君の写真が



水甕5月号

4Bの鉛筆の描く太き字が素朴な若き愛を語れり

ピシピシと寒気が音を立てるごと頬刺し目を刺し夜を覆へり

愛といふ引力のもと私があなたを巡る衛星となる

あなたとの距離が時々遠くなる 私の星も楕円運動


水甕 6月号   

湯の宿に語りまどろみまた語る「時」をどこかに置き去りにして

表面の網目こまかきメロン切るジグソーパズルを毀すごとくに

枝広く空にのべたる老木に今年の花がほつほつと咲く

たゆみなく時の刻まれあなたとの愛がいつしか過去になりゆく


水甕  7月号

今朝冷えて池に張りたる薄氷ぼんやり白く梅を映せり

湖に注がんとして騒立てり氷河より来し白き川の面

ながきながき眠りを覚まし流れ出す氷河の底のコバルトの水

休止符を空にたくさん並べたる如く飛び来る春の雁達


水甕 8月号   

自らの尾を銜へ込む蛇のごと議論ぐるぐる果てなく迴る

この今も膨張している宇宙にて広がりそこねの心鬱々

皿洗ふ洗剤液に抜け落ちぬ緩くなりたる結婚指輪

四分休符空にぱらぱら撒きしごと春を飛びゆく雪雁の群


水甕 9月号 

「幸せに絶対基準はないんだよ」いつも明るき友の口癖

手をつなぎ娘夫婦が入りゆくロックの響くCDの店

子の妻のくれし真紅の石楠花が昨夜の雨を吸ひて艶やか

どこまでも広き平原その果てを目指すがごとく車が続く


水甕 10月号

テキサスの広き平原その果てを目指すがごとく車が続く

それぞれに出身国を応援す移民の国のカナダ人達

ミュージカル見終へて思はず口遊む耳を離れぬ主題メロディー

逆光の杉の木立に降り立ちて影絵のやうな鴉が揺れる


水甕 11月号

もう子らの遊ばぬ広き裏庭に隠元・豌豆・トマトの育つ

朝露に足を濡らして菜園に莢豌豆の若生りを採る

「日本を考えればね」と言ひ合ひて記録の暑さじつと我慢す

皮膚までが緑に染まると思ふまで庭の隠元日々に食む夏


水甕  12月号 

次々と花火炸ける夜の空にマイペースなる新月と星

二年前父を喪くしし花嫁がヴァージンロードを独り歩み来

招待客の半数以上がカメラ持ちケーキカットの二人を写す

共通の話題探しにやや疲れ二世代二夫婦ふつと沈黙



宮 柊二記念館 第3回短歌大会

秀逸
頭より徐々に画面に現れぬ電子メールの孫の写真が

佳作
パソコンの液晶画面に日本の孫の画像が瞬時に届く


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