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M17星雲の光と影

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2008.09.14
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カテゴリ:音楽
土曜日、スーパー・バター・ドッグの解散コンサートに出かける。場所は日比谷野音。開場は16:00。開演は16:45。異例の時間帯である。

朝夕、涼しい風が立つようにはなったものの、日中はまだ夏の日差しが顔を覗かせる。曇り空の下、日比谷公園に到着。お茶か水を買おうと思って、公園の周辺をぶらつき始めると、「ずん、ずん、ずん」というベース音が耳に入ってくる。続いて、あの聞き覚えのある永積タカシの声が。ああ、リハーサルをやってるんだ。たまたま舞台の裏手方向に当たる位置を歩いていたのだが、実によく聞こえる。誘蛾灯にふらふらと誘いこまれる蛾のようにそばまで近づく。時計を見ると、16時ちょっと前。おそらく最後のリハーサル曲なのだろう。今の今まで、まだ解散コンサートに出かけるという実感がわかなかったが、青空に響き渡るタカシくんの美鼻声(「びびせい」、あるいは「びんびんごえ」)を聞いて、やっとその気になってきた。あああ、来ちまったんだなあ、ここに。

ということで、コンサートの感想を書こうと思ったのだが、正直、ことばがうまく出てこない。その後、17:00過ぎに「犬にくわえさせろ」で始まったライブは20:30分過ぎ、実に三時間半の長きに渡って行われた。その間、座った時間は正味10分以内。立ちっぱなし、踊りっぱなしの三時間半。とても客観的に描写する気にはなれない。席は前から六番目。正面、やや右寄り。何もいうことのないポジションだ。私もまた当事者の一人になっていた。客観的な感想なんて一言も浮かんではこない。

ライブ後半、降り仰いだ夜空にはぽっかりと満月が浮かんでいた。時折、会場外から「ウォー」という叫び声が聞こえてくる。会場に入れなかった人たちが外で叫んでいるのだ。それに向かってメンバーが呼びかける。それにまた「ウォー」という叫びが返ってくる。そういうコンサートというものが、はたして想像できるだろうか。ステージと会場外で呼び交わす声と声のちょうど真ん中にぽっかりとまん丸い月が浮かんでいる。そういう情景を思い浮かべられるほど、私は想像力に恵まれていない。私はただその場にいて、音を聞き、月を見、体を揺すり、手を挙げ、手を叩き、口ずさみ、笑う、ひとつの肉塊に過ぎなかった。たくさんのことを感じたけれど、何も考えなかった。たくさんの音を聞いたけれども、その意味を問うことはしなかった。

バタードッグの音楽をどうことばにすればいいか。私にはよくわからない。私はバタードッグ活動休止期間中に永積タカシが始めた「ハナレグミ」を知り、やがてコンサートに出かけるようになり、その世界に魅了された人間である。

そこからさかのぼって彼がボーカルをつとめるバタードッグに出会った人間だ。だから、このバンドに対して何かを述べる資格を持ち合わせてはいないのかもしれない。

だけれども、でも、どうしても、何か一言ぐらい言っておきたい気がする。

たとえばファンクというもの。私はいまだにこの言葉をうまく定義できない。

ファンクとは何か。それはロック・ビートとどこが違うのか。私にはうまく答えられない。

「ああ、あのタテノリの音楽ね」。そう言われる方もおられるかもしれない。

たしかにそうなのだけれど、それだけでは言い尽くせない何かが残る。それがファンクだ。

私はこの音楽の核心は「裂け目」にあるのではないかと思う。道を歩いていて、突然、目の前の道が地割れする。その割れた地面に吸い込まれる。と思うと、地底のマグマの噴出で再び地表に弾き出される。その往復運動がファンクの基本的なリズムではないか。突然「裂け目」に吸い込まれ、その「裂け目」から地上へと弾き飛ばされる。その律動がファンクの基本運動だと言いたくなることがある。

そして、昨日の夜、私はその律動を存分に体感することができた。

SAWADA SYUICHIのドラミングの素晴らしさ。平板な日常に裂け目を入れる鑿の切れ味は見事だった。聴衆は沸騰し、地底に吸い込まれ、地上に吹き上げられる。予定調和のヨコノリを許さない、激しい垂直方向のバイブレーション。それこそがファンクの核心だと私は信じる。

さて、それで、私はいったい何を言えばいいのだろう。三時間半のライブのどこをどのように描写すればいいのだろう。もちろん、私にはそれを述べることばの持ち合わせがない。

それに代えて、彼らの「セ・ツ・ナ」という曲をご紹介したい。

まず小刻みなドラムとギターでリズムが刻まれる。その後、リズムがうねりはじめる。ドラムのリズム・パターンはレッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムばり、「どん、どん、ずっちゃちゃ、どん、ど、どどどん。どん、どん、ずっちゃちゃ、どん、ど、どどどん、」というパターン。重厚なベースとキーボードがそれに絡む。ジョン・ポール・ジョーンズの無表情な顔が浮かんでくるようだ。次に乾いたドラム音が鳴り響く。「どん、どん、ずったた、たった、たん。どん、どん、ずったた、たった、たん、」

さあ、そこでボーカルの登場だ。金色の長髪を振り乱しながら、筋肉質長身、ハイトーンボイスのロバート・プラントが、じゃなかった、短身痩躯短髪、黄色い縁取りの眼鏡も鮮やかな永積タカシが切々と歌いあげます。曲は「セ・ツ・ナ」。はい、どうぞ。

イクゼッテモ ナニイエーバ イインデスケー
ソリャネッツト ハラッタツコトモ アンデース
デモ ハーテ ソレガナンダッテ イウンデー
デヘヘッツテ ハナシダシテミタコッテー
ダラッカップラップエー モー アキガキマッセー
ダラッカップラップエー ソー イロアセマッセー
ダラッカップラップエー モー シューカンデモッテー
ダラッカップラップエー ソー ワスレテコーネー
アーアーアーアー セ・ツ・ナー シ・ミ・テ・クー
アーアーアーアー セ・ツ・ナー 

タリネエッツテ ハナツメッセージ ナクネー
ヒビダーテ サシテヘンカナンカ アルケー
ネレネッツト オレダケッツテ コトナワケー
イケネーッツテ ワライダシテミタコッテー
ダラッカップラップエー ハシャイデミタッテー
ダラッカップラップエー オワリハキマッセー
ダラッカップラップエー モウキオクトナッテー
ダラッカップラップエー ソーワスレチャウダケヨー

アーアーアーアー セ・ツ・ナー シ・ミ・テ・クー

アーアーアーアー セ・ツ・ナー

セ・ツ・ナー セ・ツ・ナー アーアー セ・ツ・ナー
  

見事なサウンド、そして素晴らしい歌詞である。といっても、私のことばではその万分の一も伝えられないのが残念である。

ここで永積タカシは、日頃の善人ぶりをかなぐり捨てて、表面的にはラップを批判している。しかし、そのメッセージはさらに深部に達している。

彼は音楽をメッセージを伝えるための手段とする人々の対極に位置している。

彼にとって音楽とは、何をさておいても「目的」である。けっしてそれ以外の何かの手段となってはならないものである。

だから、彼の音楽にはメッセージはない。ただ音楽があるだけだ。

この曲を通して、彼は「オレの音楽にはメッセージなんてないんだ」という強烈なメッセージを叫んでいる。「オレたちの音楽は、音楽だったんだー」という同義反復を彼は声を限りに唄っているのである。

それにどんな意味があるんだい。そう口にする人間に返すことばは何もない。「月の裏側で昼寝でもしてな」。そういう以外には。

ステージでもメッセージなどけっして口にしない永積タカシが、珍しくラストライブでこの曲を演奏する前にこう言った。

「オレたちの音楽って、要するに、このフレーズに尽きるんじゃないかなあ」

そして、「タリネエッツテ ハナツメッセージ ナクネー」

そう言った。

それは、三時間半に及ぶラスト・ライブのほんの数十秒の出来事であった。

そして、それは彼らの14年間の音楽活動を凝縮した瞬間でもあった。

「タリネエッツテ ハナツメッセージ ナクネー」

スーパー・バター・ドッグよ、永遠なれ。







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Last updated  2008.09.16 17:59:30
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感涙です   eico さん
南桂孝の記事でこのブログに辿り着きましたが、
スーパーバタードックのことがかいてあり、
びっくりしました。
わたしは大阪のときに行きました。
日比谷のもDVDでみました。
ライブの情景、十分に伝わりました。
大阪も最高のライブでしたよ。 (2010.08.03 11:09:01)

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和久希世@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) >「彼はこう言いました。「それもそうだ…
kuro@ Re:「チャンドラーのある」人生(08/18) 新しいお話をお待ちしております。
あああ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 非常に面白かったです。 背筋がぞわぞわし…
クロキ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 良いお話しをありがとうございます。 泣き…
М17星雲の光と影@ Re[1]:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) まずしい感想をありがとうございました。 …
映画見直してみると@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 伊集院がトイレでは拳銃を腰にさして準備…
いい話ですね@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 最近たまたま伊丹作品の「マルタイの女」…
山下陽光@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) ブログを読んで、 ワクワクがたまらなくな…
ににに@ Re:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) 文句を言うだけの人っているもんですね ま…
tanabotaturisan@ Re:WILL YOU STILL LOVE ME TOMORROW(07/01) キャロルキングの訳詩ありがとうございま…

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