天麩羅そばの憂鬱天麩羅そばの憂鬱「へ~ちゃん、そろそろ名古屋に着くから起きてね」 「ふ~あ~。もう名古屋?なんか小腹空かない?」 「もうお腹空いたの?さっき、初雪見ながら、美山荘で摘草料理食べたばっかりじゃん!」 「だって、食後に寒い中、峰定寺を見て回ったし、帰り道はバスで小一時間も揺られて京都駅まで戻って来たら、全然お腹に残ってないよ。 だからさ~、プラットフォームで駅そば食べない?おじさん、久しぶりに天そば食べよかな~。」 「食べよかな~って、さくらヤダ!駅そばって、立ち食いでしょ?女の子はそんなおじさんムンムンワールドには入れないよゥ~(涙)牛丼よりイヤ~!」 嫌がっているさくらちゃんの手を無理矢理引っ張って、ホームの端っこのそば屋さんに入って行くへーちゃんです。 「なんだ、今は自販機か。昔はキャッシュアンドデリバリーだったのに(そんなカッコイイもんと違うって!) かきあげ天そばが500円もしてる!! 高い!名古屋高速と同じくらい高い!許せん! 何様だと思ってんだ?駅そばだぞ~。東京なんて350円で売ってるのに。JR東海、殿様商売しとるな~。(ちなみに名鉄知立駅は400円です。)」 「イヤだよ~、やっぱり、おじさんしか居ないし、異様に静かだし・・・でも、さくら、きしめん貰おっかな~。 あれッ?かきあげって、別に出て来ないんだね?へ~ちゃん、いつもは別皿なのにね。」 「駅そばはそんな上品じゃなくて、これがいいんだ。 最初に、こうして坂角の『ゆかり』みたく硬いかきあげをだね、麺の下に一旦埋めて、仕方なく、蕎麦を数本すすったり、おつゆを飲んで、あ~やっぱりダラダラの八二の麺(二八の逆ね)だな~とか、つゆが刺々しいな~とか言って、時間を稼ぐんだ。」 「何よ?時間稼ぐって。さくらのきしめんはどうすんの?かけ頼んだから、かつを節しかのってないよ。」 「きしめんはそれがいいんだよ。きしめんはかけが一番!!醤油の匂いだけのおつゆが、たっぷりのかつを節のおかげで、いい香りになって、しかも、きしめんと一緒に食べると美味いから。」 「ふ~ん、でも、さくら、ねぎよりほうれん草を載っけて欲しいな~。」 「そんな贅沢は言わないの。・・・なんて喋ってる内に、ほ~ら、かきあげの油がおつゆに少しずつ染み出してきたぞ~。 どれどれ、かきあげちゃんはどうなったかな?・・・だいぶフニャフニャになってきたな。もう少しおつゆの中で我慢しててね。後で、おじさんが食べてあげるからね。ウフ。」 「へ~ちゃん、さっきから何してんの?普段、天そば頼むと、天麩羅は別皿に貰って、天つゆも別でないと怒る人が、そんないつまでも天麩羅を沈めてたら、衣がダラダラになっちゃうよ!」 「町場の蕎麦はかつをだしが効いて、おつゆ自体が美味しいから、天麩羅の油がおつゆに混じると重くなるけど、駅そばはこれがいいんだな~。 だしが入ってんだか、判んないような薄っぺらなおつゆに、かきあげの油がこくを付けてくれるから。 ホロホロにほどけた衣と、腰のないズルズルくたくたの蕎麦と一緒にすすると、フワホロトロズルで、唇に快感が走るね。」 「おかし~な~。さくらは、揚げたての天麩羅がおつゆの中で、まだピチピチ音をたててるのを、ハフハフ食べちゃうのが好きよ~。へ~ちゃんも、そうだったでしょ?」 「だから、それはちゃんとしたお蕎麦屋さんの話。駅そばは、頑なだったかきあげが、おつゆの中で、柔わくなってくのが魅力なんだな。 なんて言うか、最初はキチッと浴衣の襟を合わせていた娘が、酔いが廻るにつれ、だんだん襟がはだけてきちゃってさ、鎖骨の辺りが見え始めて、仕舞いにはもう、『今夜は悪い子でいいもん』状態になっちゃうのがいいんだよ~。 かき揚げの中身もほんの少し、オキアミみたいな海老と、たまねぎとにんじんと青いねぎのみじん切が入ってりゃ充分。 極端な話、たぬきのかき揚げでもかまわんよ、おじさんは。 簡単に言えば、つゆの骨格・油の滲出量・衣の分解度および麺の膨加度の経時的混沌化を体験することが、駅そばにおける、かきあげ蕎麦の存在意義です。」 「・・・・・・へ~ちゃん?ホントは町場のお蕎麦屋さんでも、その、経時的ナントカの混沌化の存在意義を確認したいんじゃないの?」 「エッ?エ~ッ?そ、そんな粋じゃないこと・・・・・・・・思いっ切し試したいナ~!!」 「でも、へ~ちゃん、覚えといてね。さくら、簡単には襟元はだけちゃうかきあげ天にならないから!(きっぱり)」 「・・・・・・・・・・・・(箸を持ったまま固まるへ~ちゃん)」 美山荘 京都市左京区花背原地町375 075-746-0231 摘み草料理が有名な料理旅館、日本版オーベルジュ。素朴な味わいですが、女性には量が多いかも。杉木立の中をドライブがてら行かれることをお薦めします。銀閣寺のそばにある「草喰料理 なかひがし」は弟さんのお店です。 満留賀 名古屋市中村区名駅南2丁目3-28 052-581-4859 11:00~16:00 日祝休 立ち食いではありませんが、カウンターのみの小さな蕎麦屋さん。常連客で固まったディープなお店です。冷やしたぬき300円が人気。丼いっぱいの麺で混ぜるのが難しいくらいですが、常連客はこれに小玉子丼350円をセットで注文しています。絶対嵌まります! けんどん 名古屋市中区新栄1-5-11 052-249-1885 18:00~2:00 日休(祝営) 広小路通沿いにあり、おしゃれな隠れ家です。深夜まで蕎麦が食べられるので、飲んで小腹が空いたときにどうぞ。もり390円、だし巻き500円、明眸 純米造り680円 |