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存生記

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2004年06月30日
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「昭和歌謡大全集」をDVDで見る。昔、村上龍の原作の小説を読んだときのことを思い出した。その後、芝居になり、ついに映画化された。「おばさんvsガキ」のバトルという図式が明快だ。ラストがラストだけにどうするのかと思ったが、小説どおりに映像化されていて安心した。原作を映画ではむりやりハッピーエンドにしてしまうことがあるからだ。

 少年がおばさんの後をつけてナンパしようとする。「どうしたらそんなに何も考えずにいられるんですか」と言って、ナイフで喉をかききる。おばさんは刺殺される。そこで殺されたおばさんの友人たちが復讐にたちあがる。復讐という目標に向かって団結することによって、今までにない充実感を味わう。「集中する」「人の話をよく聞く」ということは、これまでの生活ではなかったことである。宗教にでもはまらないかぎりは。それが闘争という現実によってわが身に活が入り、日常の倦怠と虚無が吹き飛ぶのである。

 これと同じことがガキ側にも生じる。これまではただ集まって騒いでいるだけで、「集中する」ことも「人の話をよく聞く」こともなかった。隣家のお姉さんが着替える姿をのぞいて興奮するぐらいが盛り上がる瞬間だった。

おばさんもガキもカラオケ好きで、思考停止を決め込む懶惰なアイテムとして描かれている。あるいは、堕落し、孤立した祝祭として描かれている。しかもそろいもそろって下手な歌だ。下手な歌を聞かされるのは、こちらも苦痛だが、この苦痛こそ村上龍いわく「高度経済成長期以来変わらない日本人」の悪しき姿を直視する苦痛なのだから仕方がない。

 スクーターに乗ったおばさんが、花びら女子短期大学近くで、立ちションをしているガキの喉に、モップの先に庖丁をつけた武器を突き刺す。ぱっくり開いた喉から鮮血がほとばしり、ペニスから小便が吹き出たまま、チャンチキおけさが流れる。このおばさんもガキたちに射殺され、残りのおばさんたちは、在日米軍から横流しされたバズーカ砲でガキたちを殺戮する。そのとき、彼らは、ドラッグクイーンの恰好をして歌いまくっている最中だった。ガキたちもまた日本の戦後社会の醜さを体現する存在となっている。

 ガキたちに武器を供給する兵器屋のオヤジを原田芳雄が演じている。オヤジいわく進化をやめた生物はすべからくおばさんである。老若男女関係ないのだ。このファナティックなオヤジもひどくおばさんを憎んでおり、ついには原爆の作り方まで教えてしまう、川辺でバーベキューをしながら。少年は、「太陽を盗んだ男」の沢田研二のように原爆作りに励む。少年は、ヘリコプターをチャーターし、おばさんたちが住む調布市上空で原爆を投下する。調布市が壊滅したところで、少年は操縦士を射殺し、自分も自殺しようと引き金をひくが弾が足りない。ぶつぶつ呟いて、眠りにおちてヘリが落下していくところで映画は終わる。エンドロールに尾崎紀世彦の「またあう日まで」が流れる。

 村上龍が辛辣に描く戦後の醜い日本人たちが、殺し合うブラックなコメディだ。歌謡曲が昭和という時代をアイロニカルに演出する。おじさんたちが身を粉にしてモーレツに働いた結果、おばさんとガキたちがでかい顔をする社会が到来した。彼らは、互いに近親憎悪を抱いているが、日常ではほとんど接点がない。若い者は、老いゆく者を未来の見たくない自分として忌避し、老いゆく者は若さをまだ保持している若者を鈍感で無知だと嫌悪する。どちらもカラオケで盛り上がるが、別々の場所で別々の集団で盛り上がっている。相手を知らないことによって、敵として殺すことに躊躇がなくなる。この無意味な殺戮によって団結が深まり、充実した生を得るのが皮肉だ。

 樋口可南子が、貫禄の美しさを見せている。軍服姿でバズーカ砲をぶっぱなす場面、モーツァルトを聴きながら恍惚とソファーで自慰に耽る場面が印象に残る。他のおばさんたちもそれなりに綺麗で、ガキたちがそれほど憎む対象には見えない。メスとしての自負心を捨てたオッサンのようなおばさんこそ、唾棄するのかと思ったが、そういう風にキャスティングしてしまうと、ひたすら醜いドンパチ映画になってしまうのだろう。至近距離で弾丸に貫かれる一瞬のエロスによっておばさんが絶命し、迷彩服をみにまとったおばさんにナイフを深々と刺されてガキが意識を失う。意外にも美熟女vs美少年という官能的なたたずまいのあるコメディになっている。
 





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最終更新日  2004年06月30日 00時04分20秒



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