西武鉄道西武球団売却打診:不祥事コクド、赤字限界 今年の「日本一」球団までもが、“身売り”の危機に直面した。西武鉄道グループの中核企業「コクド」(東京都渋谷区)が、子会社のプロ野球球団「西武ライオンズ」を売却する方針を固めた。有価証券報告書虚偽記載から始まった一連の問題は、西武鉄道グループに抜本的なリストラを迫る事態に発展した。オリックスと合併する近鉄、親会社が産業再生機構への支援要請を決めたダイエーに続く球界激変の動き。楽天の新規参入決定で一段落したばかりの球界再編問題も、改めて再燃しかねない状況だ。【吉田慎一、町田明久、湯浅聡】 ◆鉄道株急落追い打ち コクドが西武ライオンズの売却に動いたのは、主力のレジャー産業の不振に加え、西武鉄道の有価証券報告書虚偽記載問題の影響が大きい。所有する西武鉄道株の株価急落など資産の含み益が大幅に劣化し、球団の売却益で財務基盤を強化する必要に迫られたからだ。「私としては(球団を)持ち続けてほしい」という堤義明・前コクド会長の言葉に応えられないほど、コクドの財務は火の車になっている。 同社は、堤前会長の父で元衆院議長の堤康次郎氏が1920年に設立した箱根土地が前身で、現在はプリンスホテルや西武グループのゴルフ場、スキー場、レジャー施設などの多くを保有。西武ライオンズやプリンスホテルを完全子会社として持つ。 コクド自体は株式を上場しておらず、有価証券報告書も提出していない。資本金は1億500万円と、保有資産(04年3月期で3830億円)に比べて極端に少ない。株主構成は非公表だが、堤前会長が4割程度を出資しているとみられ、堤氏がグループを間接統治するための存在といえる。 95年3月期までは本業のもうけを示す営業損益は黒字だった。もうけは土地や新たな施設建設に回し、さらに膨大な資産の含み益を背景に資金を借り入れて、資産を増やしてきた。投資で利益を圧縮し、納税額を少なくする戦略でもあった。 しかし、バブル崩壊後、主力のレジャー事業が低迷。96年3月期以降は営業赤字になり、本業でもうけられない体質になった。資本が極端に少なく、赤字がかさむと債務超過に陥る懸念があるため、資産をグループ内に売却して営業外利益を計上、最終(当期)利益で黒字を保つ戦略に変えた。しかし今後、資産の含み損計上を義務付けられる減損会計に移った場合を考えると、その手法も限界に達しつつあった。 追い打ちをかけたのが、西武鉄道の有価証券報告書虚偽記載問題だ。コクドと子会社のプリンスホテルが保有する西武鉄道株約2億株の時価総額は今年3月末は3020億円だったが、問題発覚で株価が急落し、今月5日段階で906億円に減った。今後は、西武鉄道株の買い戻しを求めている企業に対応するための資金も必要になる。 コクドは箱根仙石原プリンスホテルを先月末、初めてグループ外の日産自動車に売却するなど保有資産のリストラに着手した。事業の見直しに聖域はなくなり、球団も売り出すしかなくなった。 ◆提示額200億円 ライブドア断る ライブドアの広報担当者は6日、西武側の提示額が200億円だったことを明かした。「高すぎる」と断ったが、提示額が下がれば柔軟に検討する意向という。 プロ野球球団は非上場で財務状況を公表しておらず、過去の球団売却例も少ないため、「相場」の判断は難しい。ライブドアが近鉄に買収をもちかけた際は10億~30億円の提示だったという。 最近では02年3月に横浜ベイスターズの親会社がマルハから東京放送(TBS)に変わったが、TBSグループは球団の株130万株のうち70万株を140億円で購入したとされる。1株2万円となり、球団価値は計260億円の計算になる。 西武の今季観客動員数はパ・リーグ2位の165万人だが、ダイエーの307万人の半分程度。巨人戦主催ゲームの放映権収入が見込めるセ・リーグと違い、毎年20億~30億円程度の赤字とされる西武は、200億円では割高との指摘もある。 また、西武球場前駅の年間乗降客約280万人のかなりの部分を野球観戦客が占めており、鉄道事業との関係で、埼玉県所沢市の西武ドームを本拠地として継続使用することも条件とみられる。しかし、西武ドームは都心から離れていて観客動員に難があり、売却交渉でこの条件がマイナスになる可能性もある。 ◆第2の合併、再浮上も パ・リーグは6球団で年間150億円以上の赤字を出してきた。構造的な赤字体質を支えてこられたのは、セ・リーグに比べ親会社に電鉄系企業など大企業が多かったからだ。「広告塔」としての役割を重視し、親会社が球団の赤字を広告宣伝費で補ってきた。 しかし、バブル崩壊を経て親会社に余力がなくなり、連結決算制度の本格導入で子会社の赤字にも厳しい目が向けられるようになった。93年のフリーエージェント(FA)制度導入などを機に選手年俸も高騰した。 年々膨らむ赤字に、西武の堤前オーナーは10月、「パ・リーグは破産状態。経営努力だけでは補えない」と漏らした。楽天参入を決めた2日のオーナー会議後も、オリックスの宮内義彦オーナーは「膨大な赤字でヘトヘト」、ロッテの重光昭夫オーナー代行も「問題は解決していない。再編の動きはまだまだ続くだろう」と話していた。 ダイエー、西武が売却された場合、新規参入の楽天、合併で誕生する新オリックスも加えると、来季、パは4球団が新しい経営母体となる。西武の売却交渉がまとまらなければ、西武を軸にした「第2の合併」構想が浮上し、1リーグ化の動きがよみがえる可能性もある。プロ野球の将来に不透明感が増している。 毎日新聞 2004年11月7日 0時45分***************************************************************** 西武 株は資金借り入れの担保 40年以上にわたる有価証券報告書への虚偽記載-。西武鉄道が厳しく問われている“反則”だ。東京証券取引所は、この行為を「組織的」とし、市場からの退場処分を決断する構えだ。実現すれば、西武株を担保に不動産開発を手がける西武グループの経営に激震が走る。大ピンチの“西武ビジネス”を緊急検証した。 (経済部・村上豊) ■三本柱 「一つはコクドを変えること」 「もう一つは西武鉄道が自主性を発揮すること」 西武グループのホテルで記者会見した西武鉄道の小柳皓正社長は、当面の立て直し戦略を淡々と述べた後、「上場を維持していくため全力を尽くす」と力を込めた。 実は緊急に設定されたこの日の会見には、明確な“理由”がなかった。だが「上場廃止へ」の情報が駆けめぐる中、西武側が会見を、流れを阻止するためのアピールの場にしようとしたことは明白だった。 西武側が上場に執着するのはなぜか。同社は表向き「(自社の)資金調達と社会的信用」と説明する。だが-。 西武グループの主なビジネスは鉄道事業のほか、ホテルやゴルフ、スキー場を中心としたレジャー事業で構成されている。その多くが戦後の復興期、日本列島改造論(一九七二年)、リゾート法施行(八七年)と、国の施策と共同歩調で事業を拡大してきた。 現在プリンスホテルが五十カ所以上、スキー場とゴルフ場はそれぞれ三十カ所以上で、そのほかプロ野球球団の西武ライオンズや遊園地の豊島園などがある。 この後ろ盾となったのが堤家のブランド力、戦後に一部は格安で手に入れた都内の土地などの資産、それに高値維持を続けてきた西武鉄道株の含み益の三本柱だ。これらを担保に銀行から多額の資金を調達して開発を手がけてきた。 ■瀬戸際 都内一等地にあるプリンスホテルなどの土地の評価額は、八〇年代に十兆円を超えるともいわれた。西武株の時価総額も虚偽記載が公表された十月十三日の時点で四千億円を上回っていた。 しかし今回の虚偽記載問題で堤氏は、西武グループ全体の経営から引退を表明。土地の含み資産もバブル崩壊とともにしぼんだ。最後のとりでとなる西武株まで上場廃止となると、グループのビジネス戦略は大きく崩れる。 現在、借入額は西武鉄道が約九千億円、コクドが約三千億円あるとされる。ある銀行関係者は「今はコクドの債務者区分が『正常先』となっているが、今後の展開では見直しも考えられる」と語る。つまり上場廃止となると今後の銀行取引にも影響することになりかねない。 「浅間山の噴火で(プリンスホテルなどがある)軽井沢が打撃を受け、新潟の地震で周辺のスキー場も。台風でも。もちろんこっち(虚偽記載問題は)は天災ではないが」。この日、退任が公表された三上豊コクド社長は一週間前の夜、ポツリとグチをこぼした。 レジャーの多様化で利用者が減り続けるホテルやレジャー施設。さらにホテル事業は、二〇〇七年に都心部で外資系高級ホテルが相次いで開業する「二〇〇七年問題」で、供給過剰は必至だ。 最悪の経営環境の中で浮かび上がった“四十年間のツケ”は、ベールに包まれていた西武グループの経営を確実にむしばみつつある。(東京新聞11.14) *************************************************************** 金持ち元世界一 堤西武、資産膨張の現場 (2004年11月1日号) 米フォーブス誌はかつて堤義明氏を「金持ち世界一」と認定した。しかし、ご本人分もグループの資産も、全容は霧に包まれている。 ◇ ◇ 下着大手のワコール(本社・京都市)が、コクドから買い受けた西武鉄道株の買い戻しを請求している。9月末、250万株を28億2000万円で購入していた。 コクドから依頼された際は「西武株保有比率を引き下げたい」と説明されただけで、上場廃止基準に抵触している事実は伝えられなかったという。引き受けたのは、プリンスホテルのブライダル事業などで取引があるかららしい。 ワコールの創業者、塚本幸一元会長(故人)が、コクドの堤義明前会長のために、法廷の証言台に立ったことがある。 1990年2月、京都地裁。西武鉄道が開発した宝ケ池プリンスホテル(京都市左京区、322室)をめぐる住民訴訟だった。97年の「地球温暖化防止京都会議」の会場として知られる国立京都国際会館の隣に立つホテルである。 ホテルの敷地約8400坪は宝ケ池公園内にあった。市が84年、都市公園区域の指定を外し、約29億3000万円で西武に売却した。 住民は区域変更が違法だと訴えた。京都商工会議所会頭だった塚本氏が証人に呼ばれたのは、 「京都にサミットを誘致するには、国際会館付近に大型宿泊施設を建設するのが、必須条件だ」 と、ホテル誘致を推進していた経緯からだった。 証言によれば、堤氏はその10年ほど前に塚本氏を食事に招き、 「父(康次郎氏)が実現できなかった京都進出の夢を、自分が実現したい。ぜひ協力してほしい」 と依頼した。進出構想はいったん頓挫したが、83年夏に再び機会が訪れた。塚本氏が当時の市助役から、宝ケ池へのホテル誘致に協力を求められたのだ。 ◆調整区域のまま開発 塚本氏はこう証言した。 「義明氏は私とは商売も違うし、性格も清二氏(義明氏の兄、元西武百貨店会長)と違って、あまり男の付き合いをなさらん。個人的に飲んだりする関係はなかった」 勘繰られるような利害関係はないという文脈なのだが、義明氏のドライさを印象づける話だ。 ただ、「採算の合わないことを頼むことをためらっていた」塚本氏に、堤氏が「ホテル事業部としてはできないが、社長直裁事業として考えてもよい」と助け舟を出してくれたとも証言している。 裁判で、住民側は公有地売却のあり方も問うた。競争入札ではなく、西武と相対の随意契約だったこと。周辺宅地は坪単価が150万円程度なのに、坪あたり約35万円で売却したことだ。 住民側は訴訟とは別に、開発審査会への審査請求で、市が本来、ホテル開発ができない市街化調整区域の枠を外さないまま、開発を認めたことの是非も問題にした。調整区域内は原則的に都市計画税もかからない。 判決は、市側にほかに選べる立地がなく、価格決定の経緯も合理的だと認定。住民の訴えを退けたが、この宝ケ池プリンスホテルの開発は、公有地や旧宮家の土地を活用した西武グループの資産拡大策の一端も示している。 同ホテルの敷地は、西武の有価証券報告書では簿価5億3800万円。購入価格の5分の1に満たないのは、神奈川県で保有地が収用された分と相殺して「圧縮記帳」という処理をしたためだという。あえて周辺宅地と比較すれば、今の相場は「坪80万円」(地元不動産業者)という。8400坪なら70億円に迫る計算だ。 ◆都心5ホテルで2000億 有価証券報告書によれば、西武鉄道と子会社の資産は1兆1360億円、このうち土地は3338億円と記されている。しかし、これもあくまで帳簿上の価額だ。 例えば、東京プリンスホテル(港区)の敷地は4.9ヘクタールあるが、帳簿上は6000万円。赤坂プリンスホテルの敷地は簿価が1坪10万円余、高輪は約5万円、新高輪は約3万円だ。 「今なら、農村部か市街化調整区域の土地しか買えない値段です」 と都内の不動産調査会社の調査員が言う。登記簿によると、高輪と新高輪の敷地は竹田、北白川の両旧宮家、東京、品川の敷地は徳川・毛利両家から1950~60年代初頭の間に買い取られた。 では、時価はどれくらいか。先述した都心の4ホテルに品川、新横浜、幕張(千葉)の各プリンスホテルを加えた7ホテルの敷地について、この調査員に最新の路線価を使って算出してもらった。 その結果、現在の推定額は都心部5ホテルの敷地だけで、ざっと2000億円。簿価の約67倍に当たる計算になる。東京プリンスに至っては、約1000倍と算出された。新横浜プリンスも、簿価の約18倍の約57億円。幕張プリンスも同約116倍の約107億円となった。 非上場のコクドに至っては、保有資産がほとんど判明しない。同社保有とみられるホテルやリゾート施設など44物件について同社に確認を申し込むと、 「登記簿でご確認ください」 との答えが返ってきた。 米誌フォーブスは87年、堤氏の資産を「210億ドル(3兆1500億円)」と推計し、「世界一の金持ち」と報じた。 作家の猪瀬直樹さんは86年刊行の『ミカドの肖像』で、「西武鉄道グループが所有している土地は、日本全国に四千五百万余坪、東京二十三区の四分の一に匹敵する。その土地の時価は、銀行筋の推計ではおよそ十二兆円であると伝えられている」と記している。 堤氏は当時、猪瀬さんの取材に、 「ホテルは通常、稼働率が7割必要ですが、うちは5割でいいのです。投資し終わっていますから」 と、先代が蓄積した資産の上に立つ経営の余裕を示していた。 猪瀬さんは、コクド・西武グループの今の苦境をこう分析する。 「株の問題で企業として信頼を失い、土地が売れなくなる危険がある。土地の『含み』がいくらあっても取引が成立しなければ意味をなしません。それが、含みの上に成りたつ経営の危うさなのです」 ◆「北の国から」縁結ぶ 堤氏が組織委員会副会長を務めた98年の長野冬季五輪を機に、軽井沢プリンスホテルと直結する長野新幹線軽井沢駅が新設された。グループのホテルやスキー場が多い志賀高原も、高速道路が整備されてアクセスが向上した。公共事業がグループの資産価値を高めたことは間違いない。 もっとも、とかく我田引水な商売と見られがちな義明氏が、詩人・作家であり文化事業も手がける兄・清二氏の世評をうらやみ、 「うちにはむだ飯を食う人がいないからなあ」 と漏らすのを、親しいジャーナリストの上之郷利昭さんは聞いたことがある。上之郷さんによると、北海道の富良野市からスキー場建設の相談を受けた堤氏は、スキー・ゴルフ・テニスの3施設を逆提案したうえ、旧友の倉本聰さんを紹介。「北の国から」で、富良野が有名になるきっかけを作った。 「堤氏は損得だけではない非常に優れた経営者。ただ、今の時代に求められるコンプライアンスや公開性は、あまり意識になかったでしょう。そのために人手をさくのが『むだ飯』に思えたのかもしれません」 (アエラ編集部・各務滋、坂井浩和) (11/04) ジャンル別一覧
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