70人定員の映画館で観てきた映画
数カ月ぶりに土日連休。しかしカネもヒマもない。黙々とパソコンに向かい、2本のテキストブックの最終校正をしていた。書いている時は楽しいが、あとから読み直して、推敲添削をするのはあまり楽しくない。これがたんに文章を磨いていく作業であるなら、それはそれでいいものなのだが、この、テキスト校正は、ページレイアウトのための、配置換えや文章の書き換え作業なので、しばらく続けていると、うんざりしてくる。今日も、昼過ぎにうんざりがやってきた。そこで、外は雨だし、妻に「映画にでも行こうか」と誘いをかけて、天神に出掛けた。こういう時はミニシアターがいい、とシネテリエの『ONCE ダブリンの街角で』を観てきた。この映画の原題は『ONCE』だけ。「ダブリンの街角で」は、輸入元が勝手につけたのだろう。これは悪くない。最近の洋画のタイトルは『ボーン アルティメイタム』だなんて、辞書を引かなきゃ分からない、意味不可解な英語そのままカタカナ音訳の芸のないものがズラリでつまらなくなったものだが、この映画のタイトルは、昔のスタイルとの合成ですね。内容は、現代映画の8大要素である《エロ・グロ・バイオレンス・スリル・スピード・危険・正義・勝利》の全てを欠いた珍しいラブロマンスで、サクセス場面を予感させるサクセスストーリーだった。安心して観ていられた小品佳作。私の気分転換にぴったりだった。主人公のストリートミュージッシャンであるグレン・ハンサードが、出会った女マルケタ・イルグノヴァに、自分が作ったメロディがあまりロマンチックなので歌詞がない、キミ書いてくれない?とCDを渡す。マクケタが家で聴いていると電池が切れてしまって、真夜中にコンビニに行って電池を入れ換え、ウォークマンで聴きながら帰ってくる道すがら、彼女が歌うIf you want me,satisfy me…のリフレインはいい。この映画の一番いいところだ。ダブリン。アイルランドの首都だが、ちっともきらびやかじゃない。ヨーロッパのさえない田舎の風情。マルケタは、チェコからの移民で花売りと家政婦の仕事で貧しい。隣の部屋から同郷の若者がテレビを観にドカドカと入ってきたりする。電話もない。そういえばケイタイも持っていない。第一、グレンの稼業は掃除機の修理屋だ。こういうシチュエーションはいい。こんな映画が、アメリカで受けたとは。アメリカは、やっぱり、侮れないな。