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自然再生と地域社会

[書評・文献紹介] カテゴリの記事

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＜文献紹介＞人為改変された景観に復活したオオカミのリスク効果

先月から新年度の調査や業務が少しずつ動き出してきました。先日は３か月ぶりに科研研究のカメトラのメンテナンスに。データは無事回収しましたが、中身を見るとこれまでとは色々な違いが見えてきてなかなか興味深いです。その合間を縫って査読から帰ってきた論文の修正対応や、外部からの問い合わせ対応も。問い合わせ関係は本来の専門ではないものが結構ありますが、せっかくお声がけをいただくので、自身の勉強も兼ねて前向きになるべく取り組むことにしています。参考資料として、買ってからあまり読んでなかった書籍などを引っ張り出す機会もありますが、改めてじっくりと読むと今後の研究にも生かせそうな情報もあって勉強になりますね。今月初めにはこちらでも何度か紹介した、オオカミの栄養カスケードに関する和文解説がようやく公開となりました。OAでJ-Stageのリンクで無料公開されています。一般の方にもなるべく理解できるように、まとめたつもりですので、興味のある方は是非。これに関連して、最近見つけた論文献を紹介しておきます。海外の博士論文なのですが、オランダの人為撹乱が進んだ景観においてシカ類に対する捕食リスク効果の検証が研究テーマです（PDFが全文公開されています）。Landscapes of fear in anthropogenic environments: How landscapes of fear created by humans and wolves affect deer behavior and structure ecosystems現在実施中の科研テーマとも関係が深い、ヒトの「恐怖の景観」による栄養カスケードを検証していますが、別の章にはオランダで復活したオオカミによるリスク効果を検証した論文も含まれています。章ごとにジャーナルで既に発表されている部分があるので、個別に読むこともできますが、イントロや総合考察もまとめて読めるのは良いですね（まだ全文を読み終えてませんが）。肝心の？オオカミによるリスク効果は、人為撹乱が進んだ景観でヒトによる影響を強く受けている中でも、ヒトとオオカミ（のような天敵）のそれぞれの効果が排他的にはなってはおらず、オオカミの存在が付加的に（additiveに）影響するとの結論のようです。なお、この章の内容だけはまだ投稿中のようなので、ジャーナルでは（一応）未発表ですが、先日こちらのブログで紹介した論文と合わせて読むとよいと思いました。角田＠運営委員

2024.06.06

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＜文献紹介＞オオカミによる栄養カスケードのレビュー文献×２

最近見つけた興味深いレビュー論文二つを紹介します。Dong & Anderson (2022) Predicted impacts of global change on bottom-up trophic interactions in the plant-ungulate-wolf food chain in boreal forests. Food Webs 33: e00253.こちらは２年前の論文なのですが、今年に入ってから見つけたもの。主に冷温帯域におけるオオカミ・有蹄類・森林の関係について、ボトムアップ効果の観点から論じたものです。主なテーマは気候変動によって冷温帯域の森林生態系が様々に影響を受ける中で、食物網を通じて有蹄類・オオカミにどのように影響が波及しうるかを議論しています。お恥ずかしい話ですが、森林生態学をあまりきちんと勉強してこなかったので知らないことが結構ありましたが、その分非常に勉強になって楽しめました。なかなか良い論文だと思うのですが、比較的新興の雑誌に掲載のせいなのか論文自体があまり認知されていないようで、この手のレビュー論文としては被引用数が今一つ伸びてません。（著者からしたら、余計なお世話かもしれませんけどね・・・）せっかくオープンアクセスなのに、とてももったいない！興味をお持ちの方は是非ご一読を。Kuijper et al. (2024) Wolves recolonize novel ecosystems leading to novel interactions. Journal of Applied Ecology 61: 906-921.こちらはポーランドの新進気鋭の研究者によるレビュー論文。このグループの研究は以前から注目してフォローしてますが、こういった斬新な論文を出してくるのはさすがですね。欧州の事例が中心ですが、大規模な人為改変とオオカミの絶滅を経た新奇生態系において復活したオオカミの生態、種間関係、栄養カスケードについて論じています。YNPなど北米の広大な自然環境に比べて、新奇生態系においてオオカミによる生態的機能がどのように変化しうるのかが、自身の研究グループの成果を踏まえて議論されています。印象的なのは、人為改変が進んだ景観ではオオカミの生態・行動も本来と大きく異なったものとなっていて、捕食機能や栄養カスケードを含め、本来言われている（期待されている）ものとは異なった、あるいはかけ離れた結果となる可能性が指摘されています。この点を踏まえると、人口減少や無人化が進む日本で、オオカミ復活を含む栄養段階の再野生化（Trophic Rewilding）を議論する際にかなり重要な示唆を含んでいると思いました。こちらはOAではないですが、グーグルスカラーなどで検索するとアクセスできるものもあったり・・・ちなみに、本当はこれらの論文は、以前に当ブログでもご紹介した、某和文誌の私自身の査読無しレビューの掲載に併せて、と目論んでいたのですが・・・（広告も兼ねて）本当は3月発行のはずなんですがねー冊子体は購読していないので発行状況が分かりませんが、早く電子版も出てくれないだろうか・・・（プレプリントはresearchmapにありますのでどうぞご覧ください）角田＠運営委員

2024.05.14

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＜文献紹介＞環境教育プログラムの評価入門

運営委員の角田です。先月に出版された書籍を紹介します。環境教育プログラムの評価入門（毎日新聞出版社）書籍の詳細はコチラ著者のSさんは、言わずと知れたヒューマンディメンション（あるいはConservation Social Science）についての国内では第一人者とも言える存在。私もオオカミ関係の研究ではいろいろお世話になっています。そのSさんと、一昨年くらいから環境教育に関連するとあるプロジェクトを進行中だったのですが、たまたま本書の出版を知ったので早速購入しました。主に環境教育に関する理論体系や調査手法や解析などのアプローチについて非常にわかりやすく、しかもすぐに実践可能な形で解説されています。門外漢の私にとっては研究手法の部分だけではなく、最初の章の環境教育が行われるようになった歴史的な背景なども簡易に整理されている点も良かったですね。今取り組んでいる自身の研究の理論体系や仮設設定や目的、そして調査の詳細について、本書の内容に照らし合わせながら検討できたので、とても勉強になりました。しかし、よくよく考えると自分が取り組んでいる研究はそもそも著者であるＳさんと一緒に進めているわけで、研究の諸段階において直接ご指導いただいているわけなので、ずいぶん贅沢な話ですね。まだ研究途中でもう少しデータを蓄積していく必要がありますが、この本でしっかり勉強しつつ得られた成果を発表したいと思います。

2024.04.26

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＜文献＞ホークス過程を応用した種間関係解析

運営委員の角田です。ここのところ雑多なことに振り回されているうちに、気が付いたらもう月末になってしまいました。自分の仕事が進んでいないわけではないのですが、何だかただ振り回されているような感じです。つい最近見つけた興味深い文献を簡単に紹介します。Nicvert et al. (2024) Using the multivariate Hawkes process to study interactions between multiple species from camera trap data. Ecology, https://doi.org/10.1002/ecy.4237カメラトラップデータを使った、種間関係の解析手法提案の論文です。タイトルにある「ホークス過程」をご存じでしょうか？私は全く知りませんでした・・・（笑）ネットでざっと調べた限りの情報だと、「不規則に発生する時間事象の発生間隔をモデル化した確率過程」、だそうです。この解説は山形大学紀要に掲載された以下の論文からの引用です。砂田（2021）Hawkes過程の理論と実証 : 東京金先物市場への応用．山形大学：社会科学紀要51巻：1－14より詳しくはGoogleなどの検索エンジンで調べてみてください。元々は1970年代に金融関係の分野で出てきたモデルの考え方のようですが、地震の発生などの研究分野でも応用されているとか。この「不規則な時間事象」を、カメトラデータにあてはめてみたということらしいですね。確かに、考え方としてはカメトラデータにあてはまる気がします。ただ、残念なことにこの論文オープンアクセスではありません！そのため、私もまだ読めていません・・・（地方研究所では購読契約がないのもので）著者が公開してくれるのを待つか、伝手を頼って・・・かな。今回の論文のような、カメトラデータの撮影イベントを使って種間関係を解析する手法はいろいろ提案されていますが、この手法が従来手法と比べてどういったメリットや課題があるのかはとても気になるところです。ホークス過程のRパッケージとかもあるようなので↓、こういったものを使えば意外と簡単に実装できるということでしょうかねぇ。https://github.com/peterhalpin/hawkesいずれにしても論文を読まないことには分からないのですが・・・

2024.02.26

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＜文献紹介＞ベイズ推定による活動時間解析のRパッケージ

運営委員の角田です。久しぶり（だと思う）カメトラ関連の文献紹介です。この15年くらいで急速に関連研究が増えたのは、カメトラデータとRのoverlapパッケージ（Ridout & Linkie 2009）を使った活動時間解析。野生動物研究において、大きなブームを作ったことは違いありません。かく言う私も大変お世話になっていて、特に海外フィールドの食肉目ギルド研究ではもはや欠かせないツールです。このパッケージは確かに手法も簡単で使いやすく、結果が何より感覚的に分かり易い。私のように、数学や統計学に疎い人間でも気軽に使えることもあって、国内で使っている人も随分増えました。一方で、結果の解釈においては、夜行性・昼行性・薄明薄暮の判断が恣意的（解析者任せ）活動時間のピークが緩やかな場合やいわゆるmulti-modalの分布（ピークの山が複数出たとき）の解釈が難しいといった課題もあります。この点に非常に有用な新たなパッケージがリリースされています。Gerber et al. (2024) A model-based hypothesis framework to define and estimate the diel niche via the ‘Diel.Niche’ R package. Journal of Animal Ecology: in press.https://doi.org/10.1111/1365-2656.14035撮影時間の頻度データを基に、昼行性や夜行性の判断をベイズ推定による統計的解析を伴って示してくれるパッケージです。入力データは非常に単純で、昼、薄明薄暮(日の出と日没)、夜の3区分とした撮影頻度データだけ（この区分を客観的に行うには、別パッケージによる事前準備が必要です）。これに対して4種類の方法（Maximizing/Traditional/General/Selection）で活動パターンを検証してくれます（詳しくは本文参照）。単純な昼行性・夜行性・薄明薄暮といった3区分のみならず、明確なパターン無し（いわゆるcathemeral）や、昼・夜行性や日の出＋昼行性といった移行的なパターン、各パターンの相対的な重み付などを、値と視覚的に表現してくれます（3Dの図を書いてくれる）。ちなみに、解析のデモサイトも用意されていて、どういった結果が出されるかを任意の値でお試しできます（これも便利ですねー）。論文を読み進めていくと分かりますが、非常にユーザーフレンドリーな印象で、解析者の加減で日中・夜間・薄明薄暮のデータ上の重みづけなども色々調整できそう。細かな部分を結構丁寧に説明してくれていて、割とすぐに実装できそうです。解析に必要なサンプル数の検証もやってくれています（小サンプルでも対応可能なようですね）。さらに、カーネル法＋角度データを使ったoverlapパッケージとの連携もできて、結果をアレンジして示すようなこともできるようですね。ちなみに、このパッケージではカメトラデータに加えて、テレメの移動データと活動性（いわゆる状態空間のデータ）を組合わせて解析することも想定された仕様になっていて、各手法の適用例も示されています。overlapパッケージにおいて、ある意味物足りなかった部分を補足してくれるものになると思います。もう少し早く出ていれば、私の以前の論文でも活用させてもらいたかったですねー今後恐らくこれを活用した論文も出てくるでしょうが、私の方でも以前から取り組んでみたいテーマに応用できそうなので早々に取り組みたいところ。是非、このトピックに興味を持っている方はお試しください。

2024.01.19

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＜文献紹介＞シカの死亡率に影響を与えるのは？

運営委員の角田です。12月に入り月初から出張続きの慌ただしい日々です。特に先週は、つくばでの学会（4年ぶりの完全対面開催）→科研の調査で南会津→（中日）→東京の展示会→科研調査の浅間山と、ほとんど出ずっぱり。（南会津ではEさんご夫妻とSさんには大変お世話になりました！）移動は車や電車ですが、とはいえさすがに気力・体力ともに疲れました。なかでも個人的には、東京ビッグサイトで開催された某展示会対応が、一番気疲れしましたね。人混みが苦手なので、会場までの満員電車と会場の人の多さに辟易しました・・・打って変わって、今週は多少落ち着いてデスクワーク。まとまった時間を利用して、早速回収してきたデータの確認と入力など進める。無事にたくさんのデータが取れていてありがたい限りです。科研のシカ関係のメインテーマ以外にも、いくつかサブテーマのアイデアもちらほら湧いてきましたので、さらに分析を進めて具体的に検討してみたいと思います。さて、前置きが長くなりましたが・・・本当は出張期間前にちょっとしたきっかけでBES（英国生態学会）のジャーナルをパラパラとみていた時にいくつか発見した文献を紹介したかったのですが、まだじっくり読めていませんので今回は1報だけ。ヨーロッパ全土レベルでシカ類の死亡率に与える影響要因を比較した論文です。Numerical top-down effects on red deer (Cervus elaphus) are mainly shaped by humans rather than large carnivores across Europeオープンアクセスですので、こちらから無料で読めます。以前にはノロジカに関して、同じようなスケールで捕食影響を評価した論文もありましたが、今回はアカシカが対象。結論としては、オオカミ等の捕食よりも、捕獲や土地利用などの人為撹乱がアカシカの生息密度をより強く駆動するとしています。特に捕獲によるトップダウン効果と、土地改変によるボトムアップ効果の双方がアカシカの生息密度にかかわっていることを示していました。一方、人による撹乱が少ない場所では捕食者による効果が見られたことも示されています。この論文の結果で注意が必要なことは、あくまでシカの生息密度への影響だけを検証したこと（タイトルでも、Numericalを文頭に持ってきて強調していることからも分かります）。こちらのブログでもたびたびご紹介しているように、生態系管理（あるいは生物多様性の回復）という観点でシカの管理を考えるうえで、捕食リスク効果やボトムアップ効果、それらによる間接効果・波及効果（栄養カスケード）などを総合的に考えなくてはいけません。この論文をもって、生態系の回復を目指そうとする場合に「シカ管理には人の捕獲のみが有効であり、捕食者は必要はない」、と安易に考えるのはかなり危険です。「シカを減らすこと」に偏重した考え方にとらわれている、ともいえるでしょうか（※）。※もちろん、人による捕獲をすべきかどうか、あるいは、捕食者の再導入をすべきかどうかは、あくまで価値観ですので、どのように考えるかは個々人の自由です。シカ管理はあくまで手段・プロセスでしかありません。「何のために」シカを管理しようとしているのか、この点を常に意識し、忘れてはならないと思います。

2023.12.16

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＜文献紹介＞ドイツのオオカミ生息適地評価＋各国の生息地評価研究

運営委員の角田です。最近発見した論文をちょっと紹介します。ドイツで回復したオオカミ個体群の生息適地を評価・推定した論文になります。数年前にも、ドイツ個体群を題材にした論文はあったのですが（例えばこちら）、今回の論文ではもっとデータも充実しています。Understanding habitat selection of range-expanding populations of large carnivores: 20 years of grey wolves (Canis lupus) recolonizing Germanyhttps://doi.org/10.1111/ddi.13789（オープンアクセス論文のため、無料で全文読めます）特筆は、個体群回復プロセスを考慮した生息適地の評価。初期の東部地域（ザクセン州）からベルリンのほうを経由して、黒海沿岸を中心に分布が回復しているわけですが、それを3フェーズに分けてモデリングして、分布回復のパターンの違いや生息適地として影響する要因のフェーズの違い・地域性などを考慮しています。生息環境の状態は当然地域で大きく異なり、ナワバリ性のオオカミでは先住の群れの有無が分布変化に大きく影響するので、より広域での評価に対してこういった点を考慮した評価・推定が必要かつ有効そうです。ちなみに、今年はオオカミの生息適地を扱った論文がやたらたくさん発表されています。私が把握しているだけでも年内に5報。そして、ほぼすべてがヨーロッパ地域です。ここ10年の分布回復によって軋轢も少しずつ増えているので、EUの保護管理上の大きなトピックとなっているのでしょう。そういった社会ニーズを反映しているように思います。ちょっと気になって手持ち＋ウェブで生息適地評価を行っている文献をざっくりと調べてみると、地域別では以下の通り（あくまで私が把握した範囲）。北米：9件（アカオオカミの例を含む）ヨーロッパ：北欧個体群1件、中欧個体群6件、アルプス個体群5件、イベリア個体群4件、UK1件非欧州ユーラシア：3件やはりヨーロッパ圏が目立ちます。古いものは90年代からあり、長年主要トピックとして研究が行われていることがうかがえますが、やはりここ10年くらい、空間生態学やハビタットモデル研究の隆盛と解析技術の発展も反映してか、すごく増えている印象ですね。これらは、空間スケールも様々で行動圏や複数の群れなどのローカルスケールを扱ったものから、国や複数の国をまたがる広域スケールまでいろいろ。評価・推定のベースとなるオオカミのデータも、テレメ調査に基づくもの、目撃や痕跡など在・不在データ、珍しいところでは大規模な分布衰退が起こる前の19世紀の古文書データを使ったものなどもありました。また手法については古くは回帰モデルなどを応用した例ばかりですが、最近は線形モデルだけではなくMaxEntや深層学習などいろいろなアプローチも行われています。ちなみに、オオカミが完全にいない地域の文献は20年以上前に発表された日本（ちなみにこれは、研究室の大先輩の仕事）と、今年の初めに発表されたスコットランドの2件のみ。やはり在データがないと論文としての扱い（信頼性）がなかなか難しいのでしょうか。ただ、結論（生息適地に影響する要因）はどの論文でもそれほど大きくは変わらないようで。種としてのオオカミは自然分布域の広さを見ればわかるように、究極のハビタットジェネラリストで、北半球であれば砂漠などを除いてほとんどの地域に生息できます（餌さえ十分にあれば）。そのため、地形や植生タイプそのものが影響しているということはほとんどなくて、多くの場合それは人為干渉の代替・間接パラメータとなっています。例えば、いくつかの文献でオオカミの生息環境として高標高地域や森林域が適していることを示していますが、これらも結局は人為改変の少ない土地利用を反映しているだけ（実際に論文でもそのような考察がなされています）。多くの文献で人口密度や道路密度などの影響が議論されており、いわゆる人新世においては、最もクリティカルな要因は人為干渉強度ということになります。さて、私がこの手の文献に着目する理由は、当然？日本での生息適地の推定ではあるですが、それそのものは研究としてあまり面白味がありません。先にも述べたようにそもそも日本では在データを取ることはできないので、結果の信頼性をどう考えるかもあるですが（要するに、単なる机上の空論との指摘も出るわけで）、もっと大きなところは、これまで色々な場面で私自身が述べてきたように、シカやイノシシが全国的に多く分布し森林率が高い日本では、生息適地はすでにたくさんあるというのが自明で、改めて新しい研究（正確には先行研究のアップデート）として実施する科学的意義がなかなか見えません。（再導入議論のベースにはなりえる情報かもしれませんが）既存の（＝海外の）事例の知見を応用した生息適地評価から得た情報を元にして、日本の再導入における何を科学的に議議論すべきか（できるのか）が、新しい研究には求められます。もちろん、私も生息適地評価のみを目指した研究をするつもりはなくて、一ひねり、二ひねりしたアイデアを温めてきていますので、ぼちぼち開始したいところです。私の場合、解析スキルの貧弱さが大きな課題ですので・・・（苦笑）、この辺りはご専門のＥさんから大いに助けを得ながら進めようかと。角田

2023.11.10

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＜書籍紹介＞イエローストーンのオオカミ

運営委員の角田です。先週のことですが、ちょっとしたきっかけで新刊を献本していただきました（ありがとうございました）。せっかくですので、この場を借りてお礼代わりに紹介させていただきます。リック・マッキンタイア著（大沢章子・訳）「イエローストーンのオオカミ　放たれた14頭の奇跡の物語」（白揚社）こちらが出版社のリンク（大手ECサイトやオンライン書店などでももちろん扱っています）https://www.hakuyo-sha.co.jp/science/wolf8/ 著者はイエローストーンのオオカミ再導入の開始時からの25年間とそれ以前のアラスカなどでの活動を含むと、40年以上にわたって毎日（！）オオカミの行動観察を続けてきた第一人者です。Ph.Dを持ったいわゆる科学者・研究者ではありませんが、伝説級のオオカミウォッチャーともいえる存在。イエローストーンのオオカミプロジェクトリーダーのD. Smith博士が寄せた本書のあとがきからもわかるように、著者による観察記録や洞察は科学者からも大きな信頼を得ています。ちなみに、本書の中でも紹介されていますが、来日してオオカミ再導入の話をした経験もあるそうです。本書は2019年に出版された書籍の訳書ですが、1995年に再導入されたイエローストーンのオオカミの創始個体というべき14頭について、2000年までの約5年間に観察された行動や生活と、その生涯が生き生きとそして詳細につづられています。個人的には、まるで著者のフィールドノート（または日報や日記）をそのまま読んでいるような感覚になり、登場するオオカミの動きやしぐさが目に浮かんできました。イエローストーンというと、オオカミの生態的役割の有無といったところばかりが注目されがちですし、何よりここに登場する14頭は人間側の思惑や都合で（彼・彼女らの意思を無視して）新天地に連れてこられた存在です。しかし、そういったことは一旦忘れて、1頭1頭個性を持ったオオカミたちが新たな環境で懸命に生きた姿を、存分に味わえる一冊でした。私自身はオオカミについて、ここ十年ほどはどちらかというと栄養カスケードや保全的な研究テーマに関心を寄せることのほうが多くなっていました。（もちろん、オオカミの新しい論文を見つけたときはテーマに関係なく目を通しますし、図鑑やNHKなどの自然番組でオオカミが登場するシーンなどは今でも楽しんではいますが・・・）何となくオオカミそのものへの情熱のようなものを忘れかけていたような・・・本書を読んで久しぶりに、オオカミそのものの魅力に引き付けられていた若い時分の（ちょうど、ポーランドでオオカミを追いかけていた20年前のような）気持ちを思い出せた気がします。

2023.10.19

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オオカミによる栄養カスケードのレビュー

運営委員の角田です。以前の記事で少し触れた気がしますが、オオカミの栄養カスケードに関するレビュー論文が日本生態学会誌に先月採択されました。角田裕志・江成広斗・桜井良（2023）復活したオオカミによる栄養カスケード：北米と欧州のレビュー．日本生態学会誌：印刷中．査読付きの総説論文ではなくて学術情報というカテゴリではありますが、内容的にはなかなかのボリュームとなっています。今回のレビューでは移送による再導入や移入によってオオカミの個体群回復（一部は導入も含む）が確認できている生息地・地域について、オオカミ・有蹄類（主にシカ類）・植物の三栄養段階の栄養カスケードを扱った事例を取り上げました。したがって、オオカミによるコヨーテ等の中型獣やスカベンジャーギルドへの影響、植生回復による波及効果（例えば、鳥類群集やビーバーへの影響）などは扱っていません。有名なイエローストーンやロイヤル島以外も含む計16地域の事例について、被食者のシカ類にどういった影響が出たのか、栄養カスケードが実際に観察できたのか、などをレビューしました。また単なる事例紹介ではなくて、オオカミの捕食効果・捕食リスク効果と栄養カスケードに関わるメカニズムの解説や、栄養カスケードの有無にかかわる要因について色々な視点で議論しています。私の知る限りで和文はもとより、英文でも栄養カスケードの事例をここまでカバーしたものは（多分）ないはずです。日本への再導入に賛否があることはもちろん承知していますが、そういった価値観を超えて、オオカミの生態的機能や大型食肉目の復活による生態系機能回復（食物網・栄養段階の再野生化：Trophic rewilding）を理解するための基礎的な資料として活用していただきたいと思います。論文が掲載・公開されるまでにはちょっと時間がかかりそうなので、学会誌のルールに従って以下のresearchmapのリンクでプレプリントを公開しています（利用の際はカバーレターをお読みください）。プレプリントのリンクはコチラ是非ご活用ください。これをきっかけに（個人的な再導入の是非といった価値観に縛られず）、我々が進めている科学的な議論や研究に参加してくれる方を歓迎します。

2023.09.20

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＜文献＞Ecological Studies of Wolves on Isle Royale

運営委員の角田です。半年ぶりになりますが、オオカミ関係の文献紹介です。 Ecological Studies on Wolves on Isle Royaleこちらのページでは、過去からの毎年のレポートが無料公開されています。ロイヤル島は五大湖の一つスペリオル湖に浮かぶ島ですが、面積が500平方kmを超えます。さすが北米のスケールのデカさ、というか日本ではなかなか考えにくいサイズですね。ロイヤル島には結氷した湖面を渡ってオオカミが移入し、それ以降、餌であるヘラジカとの個体群動態が長年モニタリングされてきました。オオカミとヘラジカの捕食・被食関係や、バルサムモミも含む栄養カスケードの研究の舞台として、イエローストーンとともにしばしば取り上げられています。その最新版の2022-2023年のレポートがミシガン工科大の研究チームにより発表されています。ここ10年ほどオオカミの近親交配が進み、近交弱性による個体数減少と劣勢遺伝子の発現（奇形個体）が問題になっており、数年前に遺伝的補強を目的に湖岸から野生オオカミの移送（人為的な再導入）が行われました。その効果が出るのか注目していたところでしたが、最新のレポートではオオカミの個体数の急速な増加とヘラジカの減少、ヘラジカによるバルサムモミへの採食圧減少が報告されています。また、キツネ、ノウサギ、ビーバーなどについてもモニタリングされていて、最新の動向も報告されています。オオカミとヘラジカの関係についてはまだ移送から数年しか経っておらず結論を出すのは難しいと思いますが、今後のモニタリングによって遺伝的補強の効果と捕食・被食関係や栄養カスケードがどう変化するのか、検証が行われていくのが楽しみです。ちなみに、最近このロイヤル島にも関連する文章を書きました。まだ審査中で詳細は明らかにできませんが、公開されたらこちらでも紹介したいと思います。

2023.06.28

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IUCN Human-Wildlife Conflict Guideline

角田＠運営委員です。今年の年度初めは会議や打ち合わせが目白押し。いろいろと時間を取られてしまいます。これに加えて、学会関連の仕事や査読等の依頼もなぜか次々と飛び込んできます。通常、査読依頼は（自分の守備範囲であれば）可能な限り断らないのですが、既に進行中の案件が複数抱えている状況だったので、お断りすることに。力になれずに申し訳ありません。さて、最近ちょっと重要そうな、国際的な動きがあったのでご紹介します。以前にもこちらのブログでご紹介したような気がしますが、IUCNにHuman-Wildlife Conflict & Coexistence (HWCC)の専門家委員会が数年前に立ち上がりました。そして、そのキックオフの国際会議が先月末に開催。https://www.hwctf.org/conference元々は2、3年前に予定されていたと思うのですが、コロナ禍で延期し今年開催になりましたす。気になっていたし、丁度外部研究費もあったので参加したかったのですが、日程が3/30~4/1・・・年度またぎのため、日本の研究者にはちょっと難しいですね（特に私のような行政の研究機関にいる身ではほぼ不可能）。これと連動して、つい先日HWCCのIUCNガイドラインが公開されました。とりあえずは英語版だけですが、将来的には多言語版も出るようです。もちろん全文PDFでオープンアクセスです。https://www.hwctf.org/guidelines全文260pでとても全部はまだ読めていませんが、概要くらいはきちんと押さえておきたいところです（今後の研究のためにも）。学生やPDの身分だったら輪読会とかやりたいくらいなのですが、さすがに今の身分では難しい。誰か若手でやってくれる人はいなでしょうかね・・・。この国際会議、ガイドライン、専門家委員会のメンバーなどを見て少し残念に思うのは、日本人の参画者が見当たらないこと。野生動物管理については、日本もそれなりに長年取り組んできていると思うのですが、国際的にはすごく影が薄いように感じます。この背景には、この分野での内向き志向というか、いわゆるガラパゴス化も影響しているのではという懸念が。学術界全体としても内向き志向への危機感が言われて久しいですが、この分野ではこの傾向がますます強まってしまっているように思いますし、捕獲偏重になっている日本の現状を見るとHWCCの理念・考え方と大きく距離を感じますね。幸い、個人的には海外との繋がりを色々持てているので（最近もまた新たな機会に恵まれましたし）、それを大切にしつつ連携の輪や視野を広げる努力を怠らないようにしたいですね。

2023.04.27

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スコットランドのオオカミの生息適地評価の論文

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。ウィズ/ポストコロナに向けて学会もオンサイト再開（ハイブリッド含む）が増えてきていますので、今年（来年度）あたりからシンポなども開催したいところです（この辺りは今後の要検討&要調整ですが）。こちらのブログはこれまで通り月1くらいのペースで文献紹介などを中心に更新しようと思います。さて、新年一つ目も文献紹介です。こちらでも何度か扱っていますが、オオカミのハビタットモデルを使った生息適地推定の関係で、昨年末に見つけた新しい論文。 Gwynn V, Symeonakis E (2022) Rule-based habitat suitability modelling for the reintroduction of the grey wolf (Canis lupus) in Scotland. PLoS ONE 17(10): e0265293. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0265293 これまでのハビタットモデルの多くは、既存の分布データから非分息を含む広域（全国など）のスケールで生息適地の評価や分布拡大を推定するといったアプローチが主流です。しかし、今回のモデルの対象はスコットランド。日本と同様に島国で、同国内にオオカミがいなくて自然分散による分布回復がないので、「既存の在データ」存在しない地域でのモデリングということになります。アプローチとしては他国の既往研究のモデルのパラメータ（の値）などを当てはめて推定・評価するということになりますので、日本でのモデリングを考える上でも参考になりそうです。特にモデルに使用するパラメータの選定などについては、丁寧な説明があるのが良いですね。結果としては、アカシカなどの餌動物がいるHighlands地域、面積でいうとスコットランドの3割弱程度しか生息適地（適地度0.7以上の地域）に該当しないというものでした。一方で、今回の研究で使われているのがファジー理論による解析（正確にはファジーオーバーレイによるマッピング）ですが、私にとっては馴染みがない手法でM&Mの説明を読んでもイマイチよく理解できません。在データがないので、ハビタットモデルでよく使われる手法（GLMとか、RSFとか、MaxEntとか）が適用できないためにこういったアプローチが必要なんでしょうが、複数のパラメータの結果を最終的に一つの生息適地マップに落とし込む手順が不明です。また、今回の結果は古いハビタットモデルを参考（重視）にしている感があり、やや保守的なモデルになっていて生息可能地域が過小評価される可能性があります（この点は考察でも議論されていますが）。その要因の一つには、道路密度や人口密度など米国などでの以前モデルで採用されたパラメータが重視されていることでしょうか。しかし、ヨーロッパ中央個体群では、ポーランド西部からドイツを経てベルギー・デンマークなどにも拡大しており、人口密度・道路密度や森林の被覆率・分断化率の影響については最近の知見を踏まえてモデリングする必要がありそうです。なぜか、そのドイツについては初期におけるハビタットモデルの論文もあるのですが（当ブログでかなり前に紹介しました）、今回の論文では引用すらされていませんし・・・（同じPlos系雑誌に掲載されているのに不可思議ですねー）ちなみに、日本での生息適地評価については20年ほど前にコチラの先行研究があります。しかし、当時に比べてオオカミのハビタットモデル事例は着実に増え知見も多くなりましたし、GISや統計モデリングの技術も大きく変化・発展していますので、再評価の価値はあるのかなと思いました。今回の文献でも触れられていますが、昨今の流行では再導入先の地域社会による動物の許容性や、軋轢（例えば家畜被害）のリスク等を踏まえた、生態・社会統合型のモデリングがより有用かと思います。これについては以前に当ブログでも紹介しましたが、再導入計画が進んでいる米国・コロラド州の以下の研究例は非常に参考になります。 Ditmer et al. (2022) Defining ecological and socially suitable habitat for the reintroduction of an apex predator. Global Ecology and Conservation 38 (2022) e02192.https://doi.org/10.1016/j.gecco.2022.e02192 日本ではせっかく社人研の将来予測のデータなどもあるわけで、人口減少による生息適地の変化なども含めハビタットモデルの予測研究を行ってみたいです。角田

2023.01.10

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＜文献紹介＞カメトラデータにおける「独立性」の問題

角田＠運営委員です。訳が分からない仕事（人？）に振り回されながら、気が付けば10月も後半になってしまいました。↑のおかげで文献をゆっくりと探したり読む時間が犠牲になってしまいます。（研究でない）業務的な愚痴はこれくらいにして、久しぶりにカメトラの技術系論文の紹介です。今回はコチラ↓。Peral et al. (2022) The inappropriate use of time-to-independence biases estimates of activity patterns of free-ranging mammals derived from camera traps. Ecology and Evolution,12, e9408. https://doi.org/10.1002/ece3.9408OA誌なのでフリーで全文閲覧できます。カメトラ調査をして、いざデータ解析という時に出くわす問題の一つですね。ある動物種が連続して撮影されている場合に、1枚目以降のデータの扱い方です。「同じ動物種が〇分以内に連続して（空写りとか他の種の撮影がなくて）撮影されたら、1枚目以降は解析から外す」、というやつです。著者が指摘するように、これって何となくお作法的に行われていて、私も大抵はお作法通り30分間以内といった感じで使っています。以前に、共同研究を行った学生からも同じ質問を受けたこともあって、先行研究に倣っていると答えてきました。本当にこれで良いのか？、についてこの論文ではアフリカの複数種の草食獣と肉食獣のデータを使って検証しています。結論としては、特に社会性の高い種や草食獣ではデータの扱いに気を付けるべきで、日周活動や移動、社会行動を正確に把握できていない可能性もあると指摘しています。また、捕食・被食関係の解析や、希少種などデータを得にくい（撮影頻度の低い）種においても注意が必要と指摘しています。一方で、食肉目では影響が小さくて、社会性の高いハイエナ以外の種では影響は軽微であることが示されています。草食獣への影響というのは、確かに感覚的にもわかる気がしますね。科研などで進めてきた、シカやイノシシはgrazingやrooting的な行動をしていると、カメラの周りをウロついているっぽいデータが結構あって、しかもそれは比較的長時間（数時間）に渡ることもあります。これは、ずっと写っているのではなくて、カメラの周辺でウロウロしている（時々休んでる？）感じなので、フレームイン/アウトが10分～1時間くらいの間隔で連続する場合があります。特に採食場所のような資源パッチにカメラを置くと、そういった動画が撮れます。また、シカでは明らかに繁殖期になるとそれまでメスグループや親子だけが観察されていた場所で、オスが追従する様子なども観察できます。社会性や雌雄差、生活史を詳しく調査しようとすると、ある時間でバッサリ切るやり方は乱暴、という指摘はその通りかもしれませんね。上に書いたように、シカなどで活動パターンを雌雄で比較するなどの場合には、季節で変わる可能性もあるので要注意かもしれません。一方、30分ルール的なものは山中の獣道沿いに置いたカメラのデータから、活動パターンや占有性（いわゆるoccupancy modeling）の種間比較的な解析をする際には有効な気がします。そういった調査デザインでは行動圏やナワバリの見回りをする動物の「通過」が基本データなので、日周活動や占有性の把握という目的への影響が少ないように感じました。特に匂いルアーなど使うとその場にとどまる時間があるでしょうから、むしろ同一個体の重複カウントを除くという目的ならば必要な処理だと思います。これまでやってきた中型食肉目ギルドの研究であれば、とりあえずは妥当そうなのはちょっと安心しました。結論としては、資源パッチや巣穴周りなどのような動物の滞在が予想される場合と、通過がメインの獣道の場合など、調査デザインと目的の違いに応じて、カメラデータの扱い方には注意を払うべきかもしれませんね。

2022.10.21

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書籍「知られざる食肉目動物の多様な世界東欧と日本」の紹介

運営委員の角田です。今月中旬に分担執筆した書籍が出ますのでご紹介します。「知られざる食肉目動物の多様な世界東欧と日本」増田隆一、金子弥生（編著）中西出版より9月17日に発売です。既にAmazonでは予約注文を受け付けています（→コチラ）。私はポーランドのオオカミの近年の生息状況や最新の研究事例の紹介（1章前半）とブルガリアで研究してきたキンイロジャッカル（1章後半および2章）を執筆しました。また、ヨーロッパヤマネコ（3章、共著）、コラム、カラーグラビアなどもいくつか担当しています。足掛け10年以上に及ぶブルガリアでのジャッカルの研究成果（の一部ですが）をまとめることができたほか、ライフワーク的に取り組んできたオオカミについても紹介できたことは嬉しい限りです。さらに、別の章（執筆者は農工大の金子先生）では本研究会でも度々登場する再野生化についても多少紹介しています。食肉目に関して、これまで日本の書籍では扱われてこなかったヨーロッパ（特に東欧地域）の情報を実際に現地の研究に関わった日本人研究者がまとめているという点で、他に類を見ない一冊だと思います。冒頭のカラーグラビアページには、現地で撮影した動植物、自然、文化などの写真もたくさん掲載しています。編者のお二人の先生と、出版社の方には大変なご苦労をいただき、この場を借りて感謝を申し上げたいと思います。なお、中西出版は北海道の出版社ですが、AmazonなどのECサイトのほか一般書店でも注文いただけます。

2022.09.07

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時間ニッチ解析の共著論文

今回は珍しく？自身の共著論文の紹介を（宣伝も兼ねて）。こちらのブログでも何度か関連する文献を紹介してきましたが、自動撮影装置（いわゆるカメラトラップ）を用いた調査はもはや野生動物研究では欠かせないものとなっています。カメラトラップ法で得たデータの中で、特にここ数年急速に使われるようになったのが、時間データを扱う解析でしょうか。ある動物種の日周活動パターンの解析に加えて、異なる種間の日周活動パターンの違い（いわゆる時間的ニッチ分割）の研究例はここ数年で飛躍的に研究例＝論文数が増えていて、私も最近のメインテーマの一つになっています。活動パターンや時間的ニッチ分割で、頻繁に使われる指標としてＤhat（正確には大文字Ｄの上に統計記号の^＝ハットを付して書く）があります。0:00から23:59までの分単位データを角度として考えてラジアン（2倍数）に変換し、カーネル密度によって日周活動の周期性を表すもの（らしい）で、R（統計解析用無料ソフト）の専用パッケージも色々準備されています。この方法は理屈が直感的に理解しやすくて、手法も簡易なので非常によく使われていますし、便利な方法です（統計に弱い私も非常にお世話になっています）。その一方で、ややざっくりとした手法であることも事実で、特に2種の時間的ニッチ分割を考える際には、結果の解釈などを注意する必要があるように思います。例えば、夜行性の2種の活動パターンを解析した場合に、割と高い重複係数（0~1で1に近いほど重複している）が出ますが、活動ピークの時間帯が違っていたり、ニッチ分割が起こってそうな場合があったりします。最近では、別の統計解析手法も開発されていますが（例えばこちら）、新たな手法も含め解析手法については検討・開発の余地があるように感じていました。そんな折に某大のＳさんとその学生さんからお誘いを受けて、今回の共同研究に取り組むに至りました。今回の論文では、従来までによく使われてきた手法に加えて、群集生態学の資源パッチ占有の解析で使われる手法も試行的に取り入れて、夜行性の中型食肉目3種間のニッチ分割の解釈にどのように影響するかを比較・検討しました。当所の仮説（懸念）の通り、Dhatの指数では高い重複率を示しても、より細かな時間単位（1日単位、1夜単位、時間単位）に着目した手法ではニッチ重複を指示しない結果が出るなど、手法による違い・バラツキが見られ、研究対象とする動物種の特性や活動パターンを考慮して適切な手法を使うことが必要であることが示唆されました。査読ではなかなか難解なリクエストもあって苦労させられましたが（ほとんどはＳさんが対応してくださったわけですが）、無事に受理・掲載となりました。私自身がこういったテクニカルな論文に取り組むことは技能的に難しいと感じていたので、今回はとても良い機会に恵まれて非常に勉強になりましたね。今後の調査で得られたデータを今回の論文で提案した手法で試していくことで、より妥当な手法の探索や時間ニッチに関する理解の改善につなげて行きたいと思っています。なお、論文はオープンアクセス誌に掲載したため、フリーで以下のリンクから読むことができます。Watabe, R., Tsunoda, H. & Saito, M.U. Evaluating the temporal and spatio-temporal niche partitioning between carnivores by different analytical method in northeastern Japan. Sci Rep 12, 11987 (2022). https://doi.org/10.1038/s41598-022-16020-w角田

2022.07.19

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オオカミの社会―生態適地モデリングの論文

約2カ月ぶりの更新ですが、今回も前回に引き続きオオカミ関連の文献紹介です。米国のコロラド州では隣接するワイオミング州が擁するイエローストーン国立公園とその広域生態系から、近年オオカミの移入があり、西部を中心に定着しつつあるようです。野生動物関係の雑誌を見ていると、コロラド州に関する論文が時々に目につきます（Human Dimesions分野の論文なども結構ありますね）。そのコロラド州を対象にした非常に興味深い論文です。Ditmer MA, Wittemyer G, Breck SW, Crooks KR (2022) Defining ecological and socially suitable habitat for the reintroduction of an apex predator. Global Ecology and Conservation 38: e02192https://doi.org/10.1016/j.gecco.2022.e02192.（OA論文でどなたでも無料でアクセスできます）シカの生息数や環境変数に基づくオオカミの生息適地モデルと、家畜の飼養頭数やオオカミ再導入への賛成・反対の地域性、土地所有権などに基づくオオカミに対する社会的許容性や軋轢リスクポテンシャルのモデルを組合わせて、社会・生態的な適地モデルを構築・可視化しています。このようなモデルが日本でもできたらなぁ、と個人的に考えていたところだったのですが、とても参考になる事例です（まあ、先を越されてしまいましたが・・・）。生息適地モデルについては、単純にシカの生息数などを入れただけではなくて、複数の変数からオオカミによる捕食成功率を考慮するなど従来の生息適地モデルよりも少しひねった感じです。また、社会・生態適地の結果について、シカ類の生息数を変化させたり、モデルにおける家畜被害のリスク配分割合を大きくするなどのシナリオ分析も取り入れています。日本とは家畜の飼養頭数や地形・気候、想定されるオオカミの生息密度、餌密度などなど諸々の条件が変わってきそうなので、モデルをそのまま使うことはできないでしょうが、使用する変数をアレンジすれば十分に通用しそうです。さらに、例えば将来的な人口密度分布の変化や、シカ、イノシシなどの分布・密度等の情報を変化させて日本独自のシナリオ分析にも応用できそうですね。モデルのconvergeの仕方などはもう少しよく読んで理解しておく必要がありますが、手法そのものは割と単純なので、すぐにでも研究に応用できそうな気がします。まだ詳細は明らかにできませんが、2年前に同誌に発表したオオカミ再導入に関するアンケート論文の発展版も今こちらで進んでいるので、その成果を使いながら今回のようなモデルにトライしてみたいです。角田＠運営委員

2022.06.24

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＜論文紹介＞オオカミによる農業被害削減効果

2カ月ぶりの論文紹介です。オオカミ復活によるイノシシの農業被害削減効果を検証した論文が、保全系雑誌に掲載されていました。Davoli et al. (2022) Changing patterns of conflict between humans, carnivores and crop-raiding prey as large carnivores recolonize human-dominated landscapes. Biological Conservation 269: 109533.DOI: https://doi.org/10.1016/j.biocon.2022.109553コチラのリンクからオープンアクセス論文で読むことができます。イタリアの事例ですが、10数年前位にオオカミが復活した後に、オオカミによる家畜被害とオオカミ復活後のイノシシによる農作物被害がどう変化したのかを解析した論文です。少し注意が必要なのは、野外調査ベースでの研究ではなくて統計データを駆使した研究によって明らかにしている点でしょうかね。イノシシの農作物被害への、オオカミ復活の影響については、少し複雑なアプローチで解析しています。オオカミの生息地モデルによって利用頻度の高いと予測される場所（＝生息適地）をMaxEntモデルで解析し、その場所でのイノシシ被害の年変化や年ごとの発生状況（同じ場所で被害が出ているかという、再発生頻度みたない感じ）を事後の統計解析（GLMMなど）で検証しています。結論として、オオカミが復活した後にオオカミのコアの生息地付近では、イノシシがオオカミを避けたことによってイノシシによる農作物への加害が減った（再発生しにくくなった）可能性を示しています。（なお、この地域のオオカミのメインの餌種はイノシシです）これまで欧米でのオオカミーシカー自然植生のカスケード効果は複数の研究例がありましたが、イノシシと農作物被害を対象にした事例ははじめてであり、非常に興味深い結果です。ただし、繰り返しになりますが、今回の研究は従来のオオカミのカスケード研究と異なって野外観察に基づくデータではないので、論文の内容は慎重に扱う必要があるでしょうね。このようなアプローチをとった理由として、（日本と同様に）イタリアでも獣害の数的・客観的に精確なデータを集めるのがなかなか難しいという事情もあったようですが。オオカミ復活に関しては生態系影響だけではなくて、農作物被害軽減についても関心がある方もいます。これまで、イエローストーンなどの自然生態系以外の事例が乏しかったですが、一事例としてこういった話が出てきたのは面白いと思いました。一昨年？に紹介した、五大湖周辺でのオオカミ復活による交通事故減少を解析した論文もありましたが、最近は自然生態系影響だけではなく、社会的インパクトがより大きそうな生態系サービスについてオオカミ復活について扱った論文が複数出てきていて、興味が尽きません。（例えば、最近EU圏で急拡大しているアフリカ豚熱との関係を扱ったものなどもありました）時代の流れかもしれませんね。一方で、イエローストーンにおける生態系影響については過去の先行研究における不備を指摘する論文が出されるなど、こちらも議論は一向に収束していきません。例えばコチラ。この手の論文がいまだに発表され続けているので、絶えず情報収集を行っておくことの重要性を改めて感じますね。角田＠運営委員

2022.05.02

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個体数密度推定のRパッケージ

運営委員の角田です。今年最初の更新です。もう2月も半分以上過ぎましたが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。なるべく月1更新を目指して、文献紹介など中心にぼちぼちやっていきます。最近も面白い論文をちらほら見かけますが、時間が十分に取れなくてTDL&Sしかできていません。（とりあえず[T]ダウンロード[DL]しておいて後で確認[See]、決して某有名テーマパークではありません）今回もカメトラ関係の論文の紹介を。最近発表されたもので、個体数密度推定に特化したRパッケージに関する論文がありました↓。Li et al. (2022) cameratrapR: An R package for estimating animal density using camera trapping data. Ecological Informatics 69: 101597, https://doi.org/10.1016/j.ecoinf.2022.101597.国内でもイノシシやシカなどの個体数推定への応用研究がちらほらあります。私はもっぱら観察時間の解析とか行動観察などの目的でカメトラを使うことが多いので、この手の方面はあまり詳しくはありませんが、ちょっと気になります。ただ、残念なことにオープンアクセス（OA）ではないです。こういった技術系の論文は普及面を考えるとOAが好ましいと思いますが、費用面（ウン千米ドル）を考えるとなかなか難しいのが現状ですかね。角田

2022.02.18

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自動撮影カメラの機種比較論文

ここのところは色々立て込んでいて、気が付けば今年も残すところ後半月となりました。年内に片付けたい仕事がちらほらと・・・（汗）さて、今回もカメトラ関係の文献紹介を。最近はあまり聞いたことがないメーカーの機種がネットでかなり廉価で販売されていますが、学術研究目的で使うとなるとそこそこ実績のあるメーカーの機種にせざるを得ません。しかし、そういった有名メーカー機種はやはり値段もそこそこしますから、今まで使ったことがない機種が気になっても、よほど研究費に余裕がないとお試しもしにくいですね。先日公開された以下の文献では主要メーカー5社の機種を使って、性能比較をしています。P. Palencia,J. Vicente,R. C. Soriguer,P. Acevedo (2021) Towards a best-practices guide for camera trapping: assessing differences among camera trap models and settings under field conditions. Journl of Zoology: in press.同じような研究は、以前にこちらのブログで紹介した文献でもありましたが、その多くは飼い犬とかヒトを使った実験が多くて、野生動物を対象にした例は意外と少ないです。この論文は鳥類からイノシシまで様々な分類群を対象に、機種の性能（トリガースピードや検知速度等々）を比較していますのでより実践向けのデータということでしょうか。ちなみに、私はこの文献内で対象になっている2社の機種を使っていますが、なるほど、と思う結果も示されています。同じメーカーの同一モデル内でも機械の個体差？もあったりするので、一概に言えるものではないでしょうが、今後研究プロジェクト等で大量購入する際には参考になると思いました。角田＠運営委員

2021.12.15

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再野生化方針

運営委員の角田です。年初に月1更新を掲げていながら、色々立て込んだせいもあり、気づいたら前回から2カ月以上経ってしまいました。今回も文献紹介です。最近、私個人としても、研究会でも話題の中心の一つが再野生化に関する議論ですが、少し前に以下のような論文が出ています。Carver et al. (2021) Guiding principles for rewilding. Conservation Biology. https://doi.org/10.1111/cobi.13730再野生化をどのように進めるか、をレビュー整理して提言しています。数十人の著者が共著で執筆した、海外ではよくあるタイプの論文です。著名な研究者のお名前もちらほらありますね。再野生化に関してはIUCNでもタスクフォースができ、本格的な議論と実践に向けたアクションが進められています。今回の論文もそのアクションの一つでしょうか。また、国連の自然再生の10年（UN Decade on Restoration）との位置づけもあり、非常に盛り上がっていまして、論文もどんどん増えてとても追いきれません。このトピックは保全生物学分野で今後も間違いなく中心的・重要な課題となってくるでしょうね。一方、日本での議論は極めて低調で、学会でも取り上げられることが少なく、世界から取り残されている感があります。海外の流行りだから良いということでありませんが、人口減少が進む中で管理したくてもできない土地がますます増えていく日本にこそ重要な議論だと思うんですけどねー。非常に残念な気がします。まあ、嘆いても仕方がないので、自分で何とかするしかありません。同じような問題意識を持った若手もちらほらおりまして、今年初頭にオンラインの非公開ながら勉強会を行いました。（詳細は書いていませんが・・・コチラなど）レビュー等を通じて情報発信の必要性をひしひしと感じております。何とか年内に時間を捻出して着手したいところです。

2021.08.25

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オオカミ復活による交通事故減少の生態系サービス

角田＠運営委員です。先月に引き続きとなりますが、オオカミ関連で非常に興味深い論文を見つけたのでご紹介します。再導入されたオオカミ効果でウィスコンシン州のシカの自動車事故件数が減少した可能性を検証した論文です。 J. L. Raynor, C. A. Grainger, D. P. Parker (2021) Wolves make roadways safer, generating large economic returns to predator conservation. Proceedings of the National Academy of Sciences 118 (22) e2023251118; DOI: 10.1073/pnas.2023251118雑誌のリンクはこちらオオカミによる生態系影響（植生回復やメソプレデターへの影響など）に関わる論文は、イエローストーン国立公園だけでなく、ウィスコンシン州を含む五大湖周辺地域でも検証されていますが、今回の論文では、オオカミ復活の生態系サービスをシカの自動車事故の増減との関係から検証しています。単純に相関関係にあるかといったことではなくて、オオカミによる捕食効果とリスク効果のそれぞれの影響度を、郡ベースの自動車事故の過去30年間の統計に基づいて検証したそうです。結果としては、オオカミ復活地域ではシカとの衝突事故を2割以上減少させ、年間1100万ドル（約12億円）程度の効果があるとしています。また、オオカミの効果はその7割以上がリスク効果によるもので、直接の捕食によってシカそのものを減らす効果より大きいと結論づけています。人間によるシカ捕獲の効果を直接検証したわけではないのですが、猟期など季節限定で行われるシカ捕獲に比べて通年の効果があることから、生態系サービスとして大きな恩恵があるとしています。さらに、この効果は（ある意味当然ですが）シカやオオカミが生息する農村部で多いのですが、一般的に農村部の住民は都市住民に比べてオオカミへの許容性が低いため、ヒューマンディジョンの側面としてもこの経済効果は大きいとしています。一方、もちろんオオカミによる家畜・ペット被害もあるようですが、年間17万ドルほどということで、コスト比較としてもオオカミ再導入の恩恵は大きいと述べています。オオカミを含む大型食肉目の生態系サービスについて色々言われることはあるのですが、実証的に示した例はあまりないと思うので非常に興味深い事例だと感じました。同じように、農作物や林業被害、米国で問題の大きいライム病等の人獣共通感染症の抑制効果についても、同様の試算がでてくることを期待したいですね。私自身も、日本のシカ捕獲に関するオオカミ再導入の効果を生態系サービス（ようは予算ベース）について比較するといったアプローチをやったら面白いと思っていたところなので、この論文のアイデアは色々と参考になりそうです。なお論文はオープンアクセスではないようですが、著者個人のサイトに行くとポストプリント（掲載後の完成原稿と全く同じ内容で、論文用のレイアウトをしていないバージョン）が公開されています。角田（※6月3日に雑誌へのリンクとDOIリンクを追加しました）

2021.06.02

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オオカミ人身傷害事故レポートの更新版

運営委員の角田です。とある筋の情報（といっても別に怪しい情報源ではありません）で知ったのですが、世界中のオオカミによる人身傷害事故の事例をまとめたレポートの更新版が出版されたそうなのでご紹介します。Linnell, J. D. C., Kovtun, E. & Rouart, I. 2021. Wolf attacks on humans: an update for 2002–2020. NINA Report 1944. Norwegian Institute for Nature Research.（タイトルからレポートのダウンロードサイトにリンクしています）著者は、大型食肉目研究の第一人者でもあるLinnell博士らのグループです。Linnell博士は、2002年にも中世から近代までのオオカミの人身傷害事故をレビューした素晴らしいレポートを書かれています（私もよく引用させてもらっています）。今回はそのアップデート版で、2000年代以降、2020年までの最新の事故の事例が紹介されています。北米、ヨーロッパ、アジアの近年の事例について、事故のタイプや信ぴょう性、関連情報などが分かりやすくまとめられています。2002年のレポートと合わせて読むことをお勧めします（どちらも無料でPDFをダウンロードできます）。オオカミに限らず野生動物による事故はしばしばセンセーショナルに報道されることが多いですから、科学的・客観的な視点でまとめられている資料は非常に貴重な情報源と言えますね。オオカミによる事故の実態を知ることができるとともに、いかにそれを防ぐかという視点でも重要な提言が含まれていると感じました。ご興味のある方は是非リンク先からご覧ください。

2021.05.06

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シカの警戒行動に関する論文が受理されました。

角田＠埼玉です。個人HPで紹介していますが、先日、自身初のシカそのものを対象にした論文が受理されました（シカの植生影響を扱ったことはありましたが）。この論文で注目したのはシカの警戒行動（vigilance）で、海外のシカ類では非常にメジャーなテーマなのですが、なぜかニホンジカに関する研究は（私の知る限り）ほとんど見当たりません。私自身がこのテーマに興味を持ったきっかけはシカそのものへの興味ではなくて、イエローストーン国立公園のオオカミによる行動介在型栄養カスケードの研究であり、海外の研究では捕食者との関係に着目する例が多いです。オオカミが絶滅した日本では、こういった事象はなかなか注目されにくかったいということかもしれませんね。私の恩師の言葉を借りると、「オオカミ不在のエコロジー」のために見落とされてきたといったところでしょうか。さて、このシカ類の警戒行動は人間活動によっても誘起され、特に狩猟や捕獲活動は警戒行動の増加をもたらすことが知られています。また、警戒行動は採食行動とのトレードオフとなり、捕食（捕獲）リスクが高い場所では採食（によって得られるエネルギー）を犠牲にするため、個体の適応度や個体群動態にまで影響が波及すると考えられています。私自身は、「捕食」として見た場合の人間による捕獲（特に銃猟）とオオカミなどの天敵との生態機能的な違いに興味があったので、上記現象がニホンジカで見られるかどうか、に取り組んでみることにしました。ただ、海外の先行研究では個体を直接観察する例が多く、下草が多い日本の山林で同じようなことをするのは現実的ではありません（いくらシカの影響で下層植生がなくなっていても）。そこで調査では、カメラトラップ法を応用した観察技術を確立することも兼ねることにしました。所属先の内部研究費をいただき、調査地（東大秩父演習林）の関係者のご協力もいただいて、いろいろ手探り状態で進めました。ただ、ちょっと欲張って警戒行動以外のテーマも盛り込んだため、観察に適した場所がうまく見つからず、調査地点は一般人（狩猟者含む）が立ち入り可能で人の往来が比較的多い場所と、限られた人しかアクセスできない場所の2地点のみしか確保できませんでした。その分、なるべく多くのデータを得ようと調査期間を長くとり、4年以上の観察を続けました。結果としては、当初の予想通り（そして海外事例と同様に）人の往来が多い場所において警戒行動の増加と、そのトレードオフとして採食行動の減少が見られ、それは特に冬季のメスで顕著に見られました。興味深いことに、冬季は登山者や釣り人、演習林利用者の利用頻度はその他の季節に比べて少ないにも関わらず、冬でのみ警戒行動が増加したことです。このことは、単に人の往来が多いかどうかではなく、人間活動の質、すなわちシカにとって脅威となる捕食（捕獲）リスクが実際にあるかどうかが重要ということを示唆しています。今回の知見を生かし、シカの警戒行動を踏まえた新たな管理方法に発展できればと思っています（このあたりはまた別の機会に書きたいと思います）。ただ、先に述べたように今回はあくまで限られた地点での観察に過ぎないので、今はより広域で検証するための調査を継続しているところです。裏話として、今回の調査を始めた初年（2016年）は祟られているのか、と思うくらい毎回天気が悪くて、一度も晴れた日がありませんでした。1週間のうち、なぜか私の調査日だけ狙ったように（割と場所的にもピンポイントで）雨や雪に見舞われました。幸い、翌年からは天気には恵まれましたが・・・。そのほかにも、狙ったように調査前日に高熱が出たり、台風で林道が通行不可になったりと、体力的にはそう大変な調査はないのですが、精神的にキツかったですね（苦笑）。論文も某行動系雑誌で一度リジェクトされてしまい、なんとかロシアの雑誌に拾っていただきましたが、受理まで少々時間がかかりました（掲載はもう少し先になるようです）。ただ、エディターがとても親切で、査読者も親身に対応してくださって、シカの行動や統計に造詣のある方のようでずいぶんとブラッシュアップしていただきました！初めて埼玉で行った研究成果を出せたという面でも、とりあえずはほっとしています。幸い、この継続研究に関連するテーマで今年から科研費を採択いただきましたので、今回の論文で踏み込めなかった部分も含めてじっくり取り組んでいきたいと思います。最後にこの場を借りて、調査に便宜を図っていただいた東大秩父演習林の皆様と、初期に現場作業をお手伝いいただいた所属先メンバーに感謝いたします。角田（研究会運営委員）

2021.04.05

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野生動物の航空機事故

野生動物の交通事故（鉄道事故も含む）、いわゆるロードキルは国内でも問題になっており、ニュースでも取り上げられることが珍しくありません。私自身も、国内外の調査で何度かニアミスを経験しています（汗）先日偶然見つけた論文ですが、野生動物との航空機事故に関するレビューがあり、珍しいと思ったので紹介します↓。Ball et al. 2021. Runway roadkill: a global review of mammal strikes with aircraft. Mammal Review, in press.https://doi.org/10.1111/mam.12241（論文はフリーアクセスでどなたでも読めます）野生動物の航空機事故というといわゆるバードストライクは有名で、大きな航空事故に発展した例もありますが、哺乳類でも起こっているというのは知りませんでした（哺乳類学の雑誌に掲載）。コウモリのような飛翔動物だけではなく、中大型の陸生種でも発着陸や港内移動時に事故があるようです。イヌ科を含む食肉目や有蹄類など私自身が研究上扱っている動物もそれなりの割合で発生しているようで。国内の事例を聞いたことがないのですが、私が知らないだけ？羽田や関空ならばともかく、地方の空港では実は起こっていたりするのでしょうかね？専門分野ではありませんが、個人的に興味を持ちました。角田（運営委員）

2021.02.19

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カメトラ文献・その２

ちょっと遅くなりましたが、本年もどうぞよろしくお願いします。今年は月１更新を努力します。さて、以前カメラトラップに関するオススメの文献をいくつか紹介しました。コチラその後も参考になる論文がどんどん出されていて、本当にこの分野は技術進歩が速いですねー。フォローするのもなかなか大変です。最近の論文紹介は別の機会に譲りますが、今回もカメトラについて。私自身の研究対象の関係で、前回は中・大型獣を対象としたものでしたが、今回は小型哺乳類＝ネズミ類を対象にしたカメトラ論文です。特に、食肉目をやられている方は、餌種の指標として小型哺乳類の資源量・利用可能性等々は気になるところではないでしょうか（私ももちろんそうです）。でも、昔ながらの罠捕獲（パンチューやシャーマン）は、労力が多くて本調査（食肉目）のフィールドワークと並行するのはなかなか困難です。ここ数年に発表された小型哺乳類を対象にした割と使えそうな以下の論文を見つけました。 McCleery et al. (2014) A Novel Method for Camera-Trapping Small Mammals. Wildlife Society Bulletin DOI: 10.1002/wsb.447Littlewood et al. (2021) Use of a novel camera trapping approach to measure small mammal responses to peatland restoration. Euopean Journal of Wildlife Research DOI: 10.1007/s10344-020-01449-zどちらも、既存のカメトラ（それほど上位機種ではない←ココ割と重要）と、トラップなどとの組み合わせで使う仕様になっていますが、ホームセンターで売っているもので十分自作できそうなので、試す価値はありそうです。導入前には、ライブトラップ（シャーマン）による標識採捕法などと併用して情報の精確度をある程度評価しておく必要はありそうですが、もし使えるとなれば、食肉目の研究では重要な資源量の情報を得ることができそうです。また、匂いルアーなども組み合わせた場合の効果も気になるところ。国内の研究者で、どなたか技術検証をしてくれる方いないですかね（笑）？運営委員・角田

2021.01.18

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神の鳥ライチョウの生態と保全　日本の宝を未来へつなぐ（緑書房）

自身のウェブサイトにも書いたのですが、来月刊行予定の書籍の宣伝です。執筆に関わった下記の書籍が出版されます。「神の鳥ライチョウの生態と保全　日本の宝を未来へつなぐ」楠田哲士（編著）　緑書房出版社サイトにはまだ掲載がないようなので、ECサイトのリンクをいくつか貼っておきます。→1、 2、 3 執筆と言っても、共著でコラムを一つ担当しただけですが・・・（笑）この書籍は、日本固有種であるライチョウに関連する内容を幅広く扱っています。圧巻は70名にも及ぶ著者が参加していることと、オールカラーで非常にきれいな写真や図表が惜しみなく使われている点でしょうか。オールカラーでのページ数を考えると、とてもお得な価格（約5k JPY）だと思います（あくまで個人的な感覚ですが）。内容ですが、私は前職時に関わった岐阜県内のシカによる植生影響調査の結果と乗鞍岳などの高山地域の状況を、（私の後に着任された）Iさんとの共著で紹介しています。任期途中で（急に）異動してしまったこともあり、前職時の仕事を一般（県民）向けに紹介する機会がなかったことが、自分の中では長年気がかりでした。前職時のご縁で今回執筆の機会をいただいたK先生には本当に感謝しています。岐阜大学で先日開催されたシンポジウムではこの書籍の先行販売が行われたそうですが、一般向けの販売は12月になるということです。現在、主要なECサイト等で予約を受け付けや詳細情報が掲載されています。興味をお持ちの方は、是非手に取っていただければと思います。角田＠運営委員

2020.11.11

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Conservation Biology特集論文が公開されました

久しぶりの更新です。研究会活動とも多少関係する個人的な話題を。人口減少下の日本の野生動物管理のあり方を議論した論文を、研究会の運営メンバーである山形大の江成さんと私の共著としてConservation Biology誌にて発表しました。Tsunoda, H. & H. Enari (2020) A strategy for wildlife management in depopulating rural areas of Japan. Conservation Biology 34: 819-828.農山村景観における野生動物管理を扱った特集論文の一つとして収録されています。内容としては、これまで研究発表などでも議論してきましたが、国内の野生動物管理を巡る現状と課題を整理したうえで、土地利用の再配置や管理のあり方を見直すことから野生動物と人間との軋轢解消と共存を提案しています。また、野生動物が増えていく状況をネガティブに捉え過ぎずに、生態系管理の視点から生態的再野生化（ecological rewilding）を含む新たな管理方針への転換を図ることも議論しています。海外の共同研究者からのお誘いがあって投稿の機会を得たものでしたが、最初の投稿から発表までは随分と時間がかかりました（特集論文ということで雑誌側の都合もありましたが・・・）。初稿は一度リジェクトされてしまったものの、編集長から好意的に評価いただき大幅改定しての再投稿となったのですが、その後の査読のやり取りでも結構苦戦しました・・・（詳細は明かせませんが）その苦労の甲斐もありましたが、何よりConservation Biology誌は長年目標としてきたジャーナルだったので、受理された瞬間は感無量でした！そして、大変光栄なことに今回の論文内容はカバーキャプションにも採用していただきました（雑誌の表紙を飾る写真の関連論文として取り上げられること）。国内誌や和文誌も含め、カバーキャプションに採用されたのは自身初だったので、目標としてきたジャーナルで表紙を飾れたことは本当に光栄なことです。今回の論文発表に関わっていただいたすべての皆様にこの場を借りて感謝いたします。お財布事情が厳しく（泣）、残念ながらオープンアクセスにはできませんでしたので、論文別刷り（PDF）のご要望の際は個別にご連絡ください。なお、今回の原稿はオリジナルデータを用いた原著論文ではなく、既往の公開データや文献レビューに基づく総説や意見に近いものです。今回の議論・提案内容の社会実装に向けて実証的な研究に邁進したいと思います。角田

2020.08.13

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フランスにおけるオオカミとノロジカの関係

最近発表されたフランスで復活したオオカミとノロジカに関する論文です。Randon et al. (2020) Population responses of roe deer to the recolonization of the French Vercors by wolves. Population Ecology 62:244-257.doi:10.1002/1438-390X.12043オオカミ移入後のノロジカの個体群動態の反応を調べた論文です。オオカミ再導入地において、捕食ー被食関係に関わる個体群動態を追った論文は決して多くないので貴重です。オオカミがノロジカを主に捕食した時期には、捕食影響がかなり強く出て個体群成長率と個体数の減少が報告されています。なお、オオカミを含む捕食者とノロジカの密度の関係では、以下のような有名な論文があります。Melis et al. (2009) Predation has a greater impact in less productive environments: Variation in roe deer, Capreolus capreolus, population density across Europe. Global Ecology and Biogeography 18(6):724-734.doi:10.1111/j.1466-8238.2009.00480.xMelisらの論文では低緯度の温帯域では捕食の相対的なインパクトは小さいとされていますが、比較的低緯度の今回のフランスの事例では捕食影響が顕著に出ています。しかし論文内でも議論されているように、長期間の捕食者が不在の影響も考慮する必要があるわけなので、単純な比較はできませんが。また、ノロジカの個体数減少後にオオカミの食性シフト（ノロジカ⇒アカシカ）が起こったようで、ノロジカの個体数が以前のレベルに戻ったことも示されています。個体群動態にはやはり長期観測が欠かせないということでしょうか。アカシカから再びノロジカへとオオカミの食性シフトが起こった場合に個体群動態にレスポンスがあるのか、栄養カスケードは起こっているのかなど、興味が尽きません。今後関連する研究成果が出されるのを期待したいところです。角田

2020.04.09

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カメラトラップ法論文の私的オススメ文献

運営委員の角田です。近年の野生動物研究や関連業務では、カメラトラップ法（自動撮影装置を用いた調査法）を使うことが当たり前になりました。私も野外調査の大きな割合をカメラトラップに頼っているのが現状です。私が野生動物研究を始めた修士のころは、糞分析か痕跡法、お金があればラジオテレメトリーという感じですが、最近の学生では初めての研究がカメラトラップ法というのが現状ではないでしょうか。カメラトラップ法は少ない労力で非常に多くのデータを得ることができます（ただし、得られる情報の解釈や取り扱いは注意が必要だと思いますが、これは別の機会に）。卒論・修論を含む学術研究の目的でカメラトラップ法を応用する際には、カメラの設置台数、配置方法、運用期間、各設置地点（stationなどと一般的には呼ばれますが）での置き方、細かな設定など綿密に計画する必要があります。これらを紹介した書籍は日本語、英語共にそれなりに充実していますが、書籍の欠点は情報更新がなかなかできないこと。カメラトラップに使う機器そのものに加えて、設置方法から解析方法まで、まさに日進月歩の現状ですのですぐに情報は古くなってしまいます。そのため、学術論文でカメラトラップのハウツーや技術的な内容を扱った比較的新しいものは、書籍の内容を補う（更新する）という意味で非常に役立つと思います。最近、カメラトラップによる論文を書いている過程で非常に参考になった論文をいくつかここで紹介しておきます。（私が読んだ限りのものなので、抜けや漏れがあるのはご容赦ください）まず、総説としてカメラトラップ技術全般を扱ったものを三つ。研究計画だけではなく、論文執筆時の用語の使い方も含めて参考になります。Meek et al. (2014) Recommended guiding principles for reporting on camera trapping research. Biodiversity and Conservation 23:2321–2343.https://doi.org/10.1007/s10531-014-0712-8Burton et al. (2015) Wildlife camera trapping: a review and recommendations for linking surveys to ecological processes. Journal of Applied Ecology 52:675-685.https://doi.org/10.1111/1365-2664.12432 Caravaggi et al. (2017) A review of camera trapping for conservation behaviour research. Remote Sensing in Ecology and Conservation 3:109-122.https://doi.org/10.1002/rse2.48意外と少ないのが日本語の総説ですが、以下は霊長類研究を主眼としながらも非常に参考となる内容が多いと思いました。本郷峻（2018）霊長類学におけるカメラトラップ研究．霊長類研究 34：53-64.https://doi.org/10.2354/psj.34.014いくつか個別の手法に関するものも紹介しておきます。まずは、カメラの配置方法について、調査区のグリッドのランダム配置と獣道沿いの設置を比較したもの。海外の研究ではランダム配置が多い印象を受けますが、急峻な山地で使うことが多い日本の場合は獣道沿いが中心となることが多いので、この手の論文が意外に重要です。Cusack et al. (2015) Random versus Game Trail-Based Camera Trap Placement Strategy for Monitoring Terrestrial Mammal Communities. Plos ONE10(5):e0126373.https://doi.org/10.1371/journal.pone.0126373日本ではあまり使われることが少ないのですが、海外のカメラトラップ研究では非常にメジャーな占有モデル（occupancy model）を複数種に応用する場合の手法。ギルド内の種間相互作用などでは非常に有用です（占有モデルは私も勉強中で未実装ですが・・・）。Rota et al. (2016) A multispecies occupancy model for two or more interacting species. Methods in ecology and Evolution 7:1164-1173.https://doi.org/10.1111/2041-210X.12587 意外と盲点ですが、カメラの設置方法（角度、高さ、台数）などについて非常に詳細に検討した例を二つ。Apps and McNutt (2018) How camera traps work and how to work them. African Journal of Ecology 56:702-709.https://doi.org/10.1111/aje.12563 Apps and McNutt (2018) Are camera traps fit for purpose? A rigorous, reproducible and realistic test of camera trap performance. African Journal of Ecology 56:710-720.https://doi.org/10.1111/aje.12573ほとんどの論文はオープンアクセスなどで無料公開されたものなので、大学等以外の方でもご覧いただけます。繰り返しですが、あくまで私が自身の論文を書く際に参考になったものだけを紹介しています。他にもたくさんありますし、いくつかの論文は特集号に掲載されているので目的に合わせて他の論文もご覧になると良いと思います。また良い論文を見つけたらこちらで紹介したいと思います。角田

2020.02.17

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ドイツのオオカミを巡る保護管理指針変更

運営委員の角田です。先週、とある国際会議に参加する機会がありました。その際に、以前から親交のあるドイツの研究者から、Science誌！に掲載されたドイツのオオカミの保護管理方針に関する共著の意見論文を紹介してもらいました。論文はこちら↓Germany's wolves in the crosschairs論文によると、オオカミの個体数が増え家畜被害の増加や人間との遭遇を懸念して、ドイツ政府は捕殺を許可する方針へと転換するそうです。これに対して、捕殺では家畜被害を減らす効果は乏しく、人身害のリスクも明確ではない状況において捕殺を許可することは効果的とはいえず、むしろオオカミの行動が変わって予期せぬ家畜被害を生むといったデメリットの方が大きいとの見解が示されています。近年、大型食肉目の管理では、捕殺を行っても十分な被害対策にはつながらず、地域個体群の衰退や栄養カスケードなどの生態系機能へのデメリットが大きいことを指摘する論文が出されています（例えば、こちら）。前出のドイツの研究者によると、東部のブランデンブルク州を中心にオオカミの生息数はかなり増加しているそうなので、牧畜化や狩猟者団体などからのクレーム（政治的圧力）なども方針転換の背景にあるのかもしれません（よくある話ですが）。その一方で、オオカミと野外で遭遇するのはすごくレアケースで、彼自身もいまだ生のオオカミを見てはいないそうです。オオカミはEU法でも保護動物に指定されているので、今回の方針転換はドイツ国内のみならずEUにおいても大きな議論になりそうです。

2019.11.01

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人口減少特集論文の一般公開

先日、当ブログでもお伝えしました人口減少関連の論文ついての続報です。当会が企画・運営に関わり「野生生物と社会」学会で実施した人口減少に関する研究集会の講演内容に基づく特集論文がJ-STAGEで一般公開されました。以下のURL：https://www.jstage.jst.go.jp/browse/awhswhs/5/1/_contents/-char/ja論文は全てオープンアクセスでどなたでも無料でご覧いただけます。今後も当会では継続して人口減少に関する集会を企画し、こうした特集論文としての公開を続けていきたいと思います。運営委員角田

2017.12.08

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特集　人口減少時代における野生生物問題

運営委員の角田です。「野生生物と社会」学会の学会誌最新号（5巻1号）にタイトルの特集記事が掲載されました。当ブログでもご紹介しましたが、過去2回の同学会大会（2015年沖縄、2016年東京）で当研究会メンバーが開催した研究集会の発表内容を基にした論文を集めた特集です。（集会の内容はこちら）以下のように、特集の導入部となる序論以外に計4報が掲載されています。特集：人口減少時代における野生生物問題―序論―　江成広斗・角田裕志ため池の管理放棄と改廃による水域生態系への影響：人口減少で何が起きるか？　角田裕志人口減少時代における近未来の農地利用を考える―食糧生産と生物多様性，生態系サービスの持続的な両立を目指して―　大澤剛士人口減少の問題から考えるトキとの共生をめぐる合意形成の設計　豊田光世人口減少社会に向けたシナリオアプローチ：ニホンジカの分布拡大問題を事例として　大橋春香・深澤圭太・有賀敏典・松井哲哉・肱岡靖明なお、近日中に特集を含む内容はJ-STAGEでも公開されます。J-STAGEではオープンアクセスでどなたでも上記の論文を読むことができます。引き続き当研究会では、「人口減少」をテーマにした研究集会を開催し、そのテーマを上記のような形で公開していきたいと思います。角田

2017.11.02

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ドイツのオオカミの生息地モデル

つい先日ですが、Plosoneにラウジッツのオオカミの生息地モデルの論文が掲載されたようです。詳細は→　http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0101798まだ要旨しか読んでいませんが、以前に紹介したドイツの自然保護省などが公開した報告書のデータを基に解析し、ドイツ全域での生息可能域とパック数を推定しています。モデルの結果ではドイツ全域では150～1700くらいのパック数が生息可能となっています。10倍もの開きがあるので、モデルの推定精度としてはまだ改善の余地があるのかもしれません（まあ、内容を読んでいないので何ともいえませんが）。私も同様の研究を考えていたところだったのですが、残念ながら先を越されてしまいました・・・。最近はオオカミの生息地モデルの論文のレビューなどもしていたところだったのですが、この論文は再導入問題を考える上で参考になりそうなのでしっかりと勉強をしたいと思います。角田＠岐阜大

2014.07.24

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中央ヨーロッパオオカミ個体群に関する報告・提言書

ドイツの自然保護省よりドイツ―ポーランド西部のオオカミ個体群に関する報告書兼提言書が公開されました。（Google Scholarの被引用履歴から偶然発見しました）ドイツの自然保護省（英語ページ）：　http://www.bfn.de/index+M52087573ab0.html報告書はこちらからページ数が結構あるので、まだ摘要（Summary）しか読めていませんが、逐次読み進めていきたいと思います。内容はこちらでも紹介できればと思います。ちなみに、報告書では個体群を「中央ヨーロッパ個体群」と改称することを提案していますね。また、現在のドイツ国内の分布をみると、ドイツの中西部にまで分布が広がりつつあるようです（定着したかどうかは不明ですが）。関連する情報として以下もあります。LCIEのページ中央ヨーロッパ個体群は人間による土地利用の影響を受けた地域に生息しているので、YNP以上に興味深い事例とも言えます。角田＠岐阜

2014.02.06

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YNPの栄養カスケードについての近年の研究

運営委員の角田＠岐阜です。本年もどうぞよろしくお願いいたします。昨年からオオカミの再導入に関する勉強（文献収集）を少しずつ再開しています。来年でオオカミ再導入から20年を迎える米国・イエローストーン国立公園ですが、相変わらず様々な研究が進行していてその膨大さには圧倒されます。また、生態系の変化については様々な評価がされており、特に、再導入後の植生回復については、その駆動要因について熱い議論が交わされています。再導入から10年後の2000年代中ごろまではオレゴン州立大のW. J. Ripple博士とR. L. Beschta博士らのグループの研究成果が主に発表されてきました。その成果は、ご存じの通り、オオカミの捕食リスクによってもたらされたエルクの行動や生息地選択の変化が、ヤナギ類、ハハコヤナギ、コットンウッドなどの河畔林植生をエルクの採食圧から解放し、植生回復が起こったというものです（文献は多数ありますが、Beschta and Ripple, 2009, 2010; Ripple and Beschta 2004, 2012などのレビューが参考になります）。いわゆる行動を介した栄養カスケードの効果（Behavioral Mediated Trophic Cascade: BMTC）として、オオカミのような高次捕食者の再導入の保全的意義の根拠として評価されてきました。しかし、近年になって、YNPにおけるオオカミによるBMTCの効果について疑問を呈する研究が発表されています。BMTCよりも実際の捕食によるエルク個体数の減少が河畔植生の回復をもたらしたとする個体数減少を介した栄養カスケード効果（Numerical Mediated Trophic Cascade：NMTC）（Creel and Christianson 2009; Kauffman et al. 2010*）や河畔植生の回復において重要となる土壌水分や土質の影響が主要因であるというボトムアップ効果を支持する研究です（Wolf et al. 2007; Bilyeu et al. 2008; Tercek et al. 2010）**。いずれの研究も調査地域はYNP北部にあるエルクの生息域（Northern Range：NR）で実施されたものです。研究アプローチの違いや対象とするスケールの違いが微妙にあるために、河畔植生の回復の主要因が何かを結論づける（決定する）ことはなかなか難しいようですが、河畔植生の回復はNR全域で普遍的に起こっているのではなく、地域性や局所性が見られる（つまり、河畔植生の回復が一様に起こっていない）ということは事実のようです。これはあくまで私個人の根拠のない推測ですが、実際にはBMTC、NMTC、ボトムアップ効果のそれぞれが相互に影響して、しかも微妙な場所差によって要因の強さが変わる可能性があるように思うので、結論を導くのは簡単ではないのでしょうね。20年にわたる一連の研究は、人間の感覚からすれば「長期」の観察ということになるわけですが、生態系変化の時間軸としては必ずしも長いとは言えないのかもしれません。そのため、YNPの変化について結論を急ぐことは適切ではないように思います***。YNPや広域イエローストーン生態系を対象とした研究は今後も続いていくでしょうから、その進展には常に注目していきたいと思います。*Kauffman et al. (2010)については、反論記事（Beschta and Riiple 2013)とそれに対する回答記事（Kauffman et al. 2013）もあるので合わせて読む必要があります。**これらの研究はYNPにおけるオオカミ再導入そのものを否定するものではなく、あくまでBMTCやそれがYNPやGYE全体に及ぶとする見方を疑問視しています。***この辺りについてはMech (2012)の指摘が非常に参考になります。この文献の紹介はまた別の機会に。

2014.01.14

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2012年豪雪がサルにもたらしたもの

今年もあと数日のタイミングで、国際誌に投稿していた論文のアクセプト通知を頂きました。久々のサルの社会生態に関する論文です。Influence of heavy snow on the feeding behavior of Japanese macaques (Macaca fuscata) in northern JapanAmerican Journal of Primatology 2012年1月から3月に日本海側では例年まれにみる豪雪が観察されたことは記憶に新しいと思いますが、この豪雪がサルの採食生態にどのような影響をもたらしたのかを評価した論文になります。これは、もともと毎年冬季の恒例行事として白神で行っている、サルの採食木のカウントをベースにしたものです。もちろん2012年が豪雪が降るなんでことは当初予想していませんでしたので、単調ですが、こうしたルーティンワークが功を奏したという感じですかね。豪雪地に暮らすサルの採食様式は降雪量に影響されていること、そして2012年に観察された長期的な豪雪に対しては、採食植物を大幅に変え、採食地もより低標高地へと移動させるることで対応していることをはじめて明らかにしました。この詳細については、後日ホームページに紹介しようと思います。今年も豪雪年の予感がしますね（少なからずこの12月は相当な降雪量がありましたし）。しっかりデータを取っておきたいところですね。えなり＠ひろさき

2012.12.29

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野生動物管理マニュアル

昨年度のThe Wildlife Societyのハワイ大会で広告は見ていたのですが、ようやく先日第7版が出たということで早速注文。The Wildlife Techniques Manual: Research / Management昨日届きました。（1万円の出費は痛かったですが・・・。ただ科研費を使って大学経由で買うと、洋書はなかなか届かないので。）1冊がresearch編、もう一冊がmanagement編の2冊で構成されています。大分変りましたねー。ちらちらと見ましたが、いろいろと新しい情報が付け加えられています。面白そうなところは、こちらでも随時紹介します。えなり＠うつのみや

2012.05.15

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久々のアクセプト

久々に論文アクセプト通知を頂きました。空間モデルを使った解析を入れたのですが、統計的な処理をわかりやく提示するために四苦八苦しましたねー。こんな論文ですLandscape-scale evaluation of habitat uses by sympatric mammals foraging for bark and buds in a heavy snowfall area of northern JapanEnari H & Sakamaki HActa Theriologica簡単に言うと、冷温帯林において、「生物地理学的なスケール（≒マクロなスケール）」からいうとカモシカ、ウサギ、サルは同所的な種としてみることができます。これら3種が冬場に結構類似した樹皮や冬芽を採食するのですが、これらの採食が植物にどのような「影響」があるかについて、興味を持ちました。（そもそも、あまり採餌された植物が枯れているの見たことがなかったので、不思議だったんですよね）そこで、この論文では、「影響」の評価の手始めとして、3種の生息地利用を評価することを考えました。ここでは「生態ニッチモデル」と「判別分析を用いたニッチ比較」なるものを用いた評価をGISを使って行っています。その結果、実はこの3種、ものの見事に生息地利用様式が異なることが明らかにされました。実は同じようなものを食べているのですが、この3種は景観スケール(生物種から認識される空間スケール)から見ると、実は同所的に生息する種とは言えないことが明らかにされたわけです。裏話的なところでは、実は以前に出した下記の論文があるのですが、Abundance and morphology of Japanese mulberry trees in response to the distribution of Japanese macaques in snowy areasInternational Journal of Primatology ここで、サルの採食を通じた「サルとクワとの絶妙な相互関係」について紹介したのですが、とある方から「サル以外にもクワを食べる哺乳類種がいるんじゃないの。だとするとこの『相互関係』はどこまで通用するのか？」というご指摘（ご批判？）を頂いたところから、スタートしています。今となっては、「ご批判」感謝です。えなり＠うつのみや

2011.10.25

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イノシシ対策本

先日、下記の本を頂きました。イノシシを獲る―ワナのかけ方から肉の販売まで小寺祐二　編著農文協「獲る」がタイトルですが、イノシシ対策で第一に必要とされる侵入防止柵についても解説されています。最近のジビエブームのもとで、「獣肉利用＝獣対策」という図式が安易に考えられ、獣肉処理施設を安易に設置しようとする行政も多くみられます。まずは冷静になって、獣対策の進めるべき方向性と、資源化の可能性(その限界)をしっかり見極めることが必要です。本書は、こうしたイノシシ対策の基礎知識を非常に分かりやすく解説している導入書としてお勧めですね。サルでもこういった本を書かねばなりませんねー。えなり＠うつのみや

2011.04.25

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＜新刊案内＞「野生動物と社会」文永堂出版

研究会運営委員の角田＠農工大です。私が係わった書籍が近々発刊されますので、ご案内いたします。米国を中心とした野生動物管理の係わる人間社会の側面（人間事象・Human Dimensions＝HD）を扱った翻訳書です。HDを本格的に扱った書籍としては、日本では恐らく初となります。訳本のために少々値段が張りますが、内容は非常に興味深いものばかりです。当該分野に興味をお持ちの方は是非。ちなみに私の担当は12章～14章で、公益信託による保全、行政組織作り、研究活動資金に関する内容です。以下、書籍の概要です。---野生動物と社会－人間事象からの科学－監訳：伊吾田宏正，上田剛平，鈴木正嗣，山本俊昭，吉田剛司翻訳：秋庭はるみ，伊吾田宏正，石崎明日香，上田剛平，桜井　良，鈴木正嗣，竹田直人，角田裕志，羽山伸一，矢部恒晶，山本俊昭，八代田千鶴，吉田剛司定価8,190円（本体7,800円＋税）　送料400円2011年3月発売，A5判，366頁ISBN 978-4-8300-3231-8　本書は野生動物にかかわる人間事象をまとめた先駆的な書である『Wildlife and Society The Science of Human Dimensions』（Michael J. Manfredo, Jerry J. Vaske, Perry J. Brown, Daniel J Decker, and Esther A Duke eds, 2009, Island Press）を翻訳したものです。　わが国でも野生動物に関わる人間事象的な報告が増え，特に人と野生動物との軋轢が顕在化した近年では，その重要性や注目度が急増していますが，これらの仕事は生物学ベースの野生動物学では“副業”とみなされることが少なくなく，また発展が著しい社会科学ベースの野生動物研究も，残念ながら現時点では“市民権”を獲得しているとは言い難い状況です。　本書は，海外における最新の人間事象研究やその動向を紹介しており，わが国における同様な研究分野の発展に重要な役割を果たし得るでしょう。野生動物と人社会のあり方についての道筋をつけてくれる1冊で，野生動物に関わるあらゆる分野の方にとって必読の書です。目次　第1章　序論：魚類と野生動物の人間事象の過去と未来第1部　魚類と野生動物の保全に変化をもたらす社会的要因　第2章　魚類と野生動物管理に影響を与える社会的，人口学的動向　第3章　野生動物に対する世界的価値の理解　第4章　市民参加を促す自然保護NGOの出現　第5章　未来の描出：人類，野生動物，気候変動第2部　野生動物管理の哲学における社会的構成要素の構築　第6章　変化する野生動物管理の文化　第7章　野生動物管理における統合的な人間事象のためのフレームワークに向けて　第8章　アマゾンにおける野生動物の共同管理とペルー国立パカヤ-サミリア保護区の支援活動　第9章　保全の目標達成にむけたコミュニティとの協働　第10章　包括的評価における生態系要素としての人と野生動物第3部　魚類と野生動物の管理における法律と制度　第11章　魚類と野生動物の政策における法的な動向　第12章　北米における野生動物管理基盤としての公益信託主義の復活　第13章　“タチの悪い”問題：制度構造および野生動物管理の成功　第14章　保全エンジンへの燃料補給：魚類および野生動物管理を行うための資金はどこから捻出するか第4部　現代の魚類と野生動物管理問題に対する社会的展望　第15章　社会生態学からみた都市圏における野生動物管理　第16章　保護地域周辺の野生動物との軋轢における人間事象　第17章　遊漁にとっての新しいマーケット　第18章　次なる疾病への準備：人と野生動物との接点　第19章　21世紀の野生動物の観察市場と管理の接点における挑戦と機会　第20章　アクセスと野生動物の民有化の傾向　第21章　熱帯林の狩猟管理における社会的事象　第22章　多様化する社会における効果的な保護管理戦略としてのコミュニケーション　第23章　まとめ：野生動物管理とは何か？文永堂出版〒113-0033　東京都文京区本郷2-27-18URL http://www.buneido-syuppan.comE-mail buneido@buneido-syuppan.comTEL 03-3814-3321FAX 03-3814-9407---角田＠農工大

2011.02.16

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書籍紹介

私も参加させていただいている共同研究会である「撤退の農村計画」では、下記の書籍を発刊しました(発売は8月末のようですが)。こちら私も一つ原稿を書かせていただきました。ここで何度も書いてきましたが、自然再生を考えるうえでも、農山村の現況とその展望に関する視点は不可欠です。本書は、これまで誰もが見て見ぬふりをしてきた厳しい農山村の現況と将来を真正面から直視し、今日の様々な農山村の問題に対する実現可能な選択肢を多角的な視野から模索する最初の試みといえるかと思います。非常にお勧めです！本書の詳細は学芸出版のホームページも掲載されているようですこちら以下、目次です----------------------撤退の農村計画過疎地域からはじまる戦略的再編目次第1章　過疎集落の現状……林　直樹1・1　過疎集落の家・田畑・山林1・2　過疎集落の生活交通1・3　過疎集落に残っている高齢者の生活第2章　予想される国の将来2・1　田畑の消滅……齋藤　晋2・2　地域固有の文化の消滅―山村における生業を中心に……永松　敦2・3　地域固有の二次的自然の消滅……東　淳樹2・4　誰も望まない「消極的な撤退」……林　直樹第3章　すべてを守りきることができるか3・1　若い世帯の農村移住は簡単ではない……西村俊昭3・2　定年帰農とその限界……林　直樹3・3　二地域居住の限界……林　直樹第4章　積極的な撤退と集落移転4・1　積極的な撤退の基礎……林　直樹4・2　仮設住宅の入居方法に学ぶ集落移転……山崎　亮4・3　歴史に学ぶ集落移転の評価と課題……前川英城4・4　平成の集落移転から学ぶ……齋藤　晋第5章　積極的な撤退のラフスケッチ─生活編5・1　高齢者が安心して楽しく生活できる……林　直樹5・2　救急医療から考える移転先……江原　朗5・3　いつどこへ引っ越すのか……林　直樹5・4　あえて引っ越ししない「種火集落」で山あいの文化を守る……林　直樹・前川英城第6章　積極的な撤退のラフスケッチ─土地編6・1　土地などの所有権・利用権を整理……村上徹也6・2　田畑管理の粗放化……大西　郁6・3　選択と集中で中山間地域の二次的自然を保全する……一ノ瀬友博6・4　森林の管理を変える……福澤加里部・大平　裕6・5　森林の野生動物の管理を変える……江成広斗6・6　道路などの撤収・管理の簡素化とその効果……林　直樹第7章　積極的な撤退と地域の持続性7・1　何を頼りによしあしを判断するのか……林　直樹・山崎　亮7・2　流域とは何か……前田滋哉7・3　撤退は敗北ではない……林　直樹-------------えなり＠うつのみや

2010.08.23

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Restoring Wildlife

Restoring Wildlife: Ecological Concepts and Practical Applicationsという本が出ています。昨年５月に発刊されているようで、乗り遅れてしまいました。本の紹介に"Restoring Wildlife" builds on the foundation of material presented in "Wildlife Restoration", published by Island Press in 2002, offering the basic information from that book along with much updated material in a reorganized and expanded format. とありますから、前回私たちで朝倉書店から邦訳して出版した「生息地復元のための野生動物学」の第２版に当たるようですね。だいぶアップグレードされているようですけど。早速注文してみました。書評はまた後ほど江成＠うつのみや

2010.03.28

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野生動物保護の事典

野生動物保護の事典上記の本が朝倉書店から先日刊行されましたいい値段のする本ですが、野生動物問題を扱う著名な先生方が多数ご執筆されており、読み応えのある本かと思います。まだ私もほとんど読んではいないので、詳細はまた後日。ちなみに２つほど私も原稿を執筆しました。●エコロジカル・フットプリントと野生動物保護●絶滅種の再導入ご興味のある方は是非江成＠宇都宮大

2010.02.03

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書評　害虫の誕生

害虫の誕生―虫から見た日本史瀬戸口明久ちくま新書タイトルに惹かれて、先日買って読んでみました。瀬戸口さんが書かれた論文はこれまでもちょこちょこ拝読させていただいていたので、今回も期待して読みました。本書は筆者の博士論文がベースになっているとのこと。本書はそのタイトルの通り、なぜ日本に「害虫(という概念・動物観)」が誕生したのかを、近代日本の社会形成の歴史的変遷を追いかけながら議論していく内容になっています。書評もいろいろ書かれているようですので(例えばアマゾンではこんな感じ)全体的なところは特には触れませんが、特に私が面白いなと感じたところをいくつかあげておきます。p37「(江戸時代までの日本において)害虫の発生とは『たたり』であり、一種の『天災』に他ならなかった」⇒獣害もこの辺は同じことが言えるように思います。また、自分が被害を受けることに対する責任の所在を、今日では他者(例えば行政)に求めようとする傾向があるように感じますが、当時は自分自身にあると考えていたのかもしれませんね(つまり自分の日ごろの行いが悪いから、『たたり』として被害にあってしまったという感じで)。p58「虫害を記録し、被害を集約して全国に知らしめるメディアが誕生したことによって初めて、『虫害』が毎年のように農作物に損害を与えていることが『発見』されたのである」⇒今日のクマ問題(クマ問題の報道の在り方)を考える上でも非常に重要な意味がありそうです。また、本書の後半で論じられているように、「望ましい虫(益虫/害虫)、望ましい自然の姿とは、社会変化とともに大きく変動するものである」という主張は全く同感です。この観点は、研究会の理念方針においても似たようなことを以前に書きました。自然再生を考える上でも非常に重要な観点です。他にもいろいろ注目すべきところはあるのですが、また別の機会に。本書は、「虫」そのものに興味がない方でも、科学と社会のかかわりや、これからの人と野生生物とのかかわりについて考える上で、非常にお勧めの本かと思います江成＠霊長研

2009.09.07

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The wild mammals of Japan

The wild mammals of Japan思わず衝動買いしました。日本の哺乳類を網羅的に紹介する図鑑です。写真もきれいで、論文書きの合間に眺めるとなごみます。読み物としても、かなり読み応えがあります（本書は全て英語です）。絶滅したオオカミやカワウソ（後者はまだ「絶滅種」としては指定されていないですが）について出ているのもなかなか面白いですね。江成＠霊長研

2009.07.27

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持続可能な福祉社会

持続可能な福祉社会(広井良典著、ちくま新書)著者の以前の新書(定常型社会　岩波新書)も非常に勉強になりましたが、今回の著作も人口減少社会における今後の地域社会の在り方を問う上で非常に有益な本であると思います。今日の地域社会に存在する様々な問題(雇用・福祉・環境問題など)の背景には、著者も指摘する従来の「拡大＝善・幸福」としてきた社会システムの限界があるのだと思います。ただ、それを理解しても、強力な資本主義的な社会経済体制のもとでは、その方向転換を図っていくのも容易でないのは事実だと思います。そんな中で本書は、定常型社会にふさわしい資源配分の最適化について、いろいろな角度から具体的な案を出しています。以前にも書いたように、定常型社会に関する議論は、人間と自然とのかかわり、そしてこれからの自然再生の在り方を問う上でも、極めて重要なものであると私は考えています。詳細な書評はまた時間のある時にでも書きたいと思いますが、ご一読いただいて損はない本だと思いました。霊長研　江成広斗

2009.01.26

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[書評]　日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか

ながながと書き込みがあいてしまいましたが(すいません)、書評を一つ。今回紹介しますのは、下記の本になります。日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか内山節　講談社現代新書内山さんには以前私たちの研究会でも御講演いただき、私自身も非常に刺激を受けている哲学者のひとりです。本書では、いわゆる「歴史哲学」を紹介するために、「キツネにだまされる」という事象を取り上げています。もちろんここで議論しているのは、本当にキツネが人をだますのかを検証するのではなく、キツネに騙される能力がなくなった現代の日本人について、内山さんが暮らしていらっしゃる上野村の生活からのエピソードを通じて論じられています。私達がキツネに騙される能力を失ったのは、日本人の精神史の転換点である1965年ではないかと論じられています。欧米からの資本主義や貨幣経済が日本に大きな影響力をもたらしはじめたこの時代に、拡大なくして私たちは豊かになることはできないというある固定した価値観が植え付けられたと考えられています。これは、過去は現在よりも劣るもので、絶対的な量的成長や効率化の追求の中にのみ、これからの私たちの幸せを見出せるという幻想ともいえるのかもしれません。その唯一絶対の客観的事実(と信じてきた)をもとに、私たちは定常的な社会(昔と同じものを繰り返す社会)に回帰することを嫌い、過去を捨てながら生きてきたのかもしれません。その失われたもの中に、ここでいう「キツネに騙される」という能力があるのでしょう。貨幣経済の限界を訴え、量的な成長から質的な成長への転換の必要性を問うスタンスは、こうした哲学的な論考だけでなく、昨今では、たとえば生態経済学(ecological economics)の中にも見ることができます(「ハーマン・Ｅ・デイリー　持続可能な発展の経済学　みすず書房」などが非常に参考になります)。しかし、こうした視点を、どう今の社会の中に取り入れればよいのか、それを実現するための強力なツールを見出すことは容易ではありません。それほどまでに、資本主義が強大化し、私たちの多くが従来の固定した価値観から抜け出せなくなっているのだとも言えます(こうした一つの価値観に浸っていることにも気づいていない、ともいえるのかもしれません)。私たちがすべての過去を捨てる前に、歴史哲学から学びとれる新たな視点に少しでも目を向けていることを願わずにはいられません。こうした視点は、過去に失われた自然を今に復元する自然再生においても非常に大きな意味を持つものだと私は思います。江成＠霊長研

2008.01.09

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【文献紹介】外来種問題に関する文献紹介

今回は自然再生に関するトピックの中でも特に「外来種問題」に関する文献を紹介する。１．日本生態学会(編)、村上興正・鷲谷いづみ(監修)(2002)　　外来種ハンドブック、390p、地人書館、東京.外来種問題の用語の定義、概論、事例、法規、外来種リスト、学名と外来種に関する全てを詳細に記述しており、外来種問題に興味を持つ方は必ず一度は目を通すべき書籍である。情報量が膨大であり、資料としての価値は非常に高い。但し、本書の出版は4年前であるため、やや情報が古く、昨年制定された外来生物法にも対応していない。２．佐久間功・宮本拓海(2005)　　外来水生生物事典、206p、柏書房、東京.水生生物に的絞って書かれた外来生物事典。一般的に外来種とされる国外外来種だけでなく、国内外来種についても詳細に記述されているため、非常に貴重な資料である。外来生物法についても記述がある。残念なのは、図説が全て絵(しかもCG)であり、情報のソース＝参考文献の記述がない点である。３．池田清彦(監修)、DECO(編)(2006)　　外来生物事典、463p、東京書籍、東京.外来生物に関する事典の最新刊。外来生物法に関係する第一次指定種、第二次指定種、要注意外来生物に関して詳細に記述されている。生物に関する解説だけでなく、生物移入史や論争史(ブラックバス問題について)が掲載されている点は上記2冊にない特徴である。3000円以下という値段にしては情報量が多く、参考文献も掲載されているため、学生だけでなく研究者にとっても有用な書である。

2006.10.31

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【文献紹介】自然再生の文献紹介

河川等の環境保全に関する研究や技術開発を行う「財団法人リバーフロント整備センター」が発行する「リバーフロント研究所報告」の最新刊第17号(2006年9月)では「自然をいかした川作りに関する研究報告」と題し、日本各地の自然再生事業の研究報告が紹介されている。今回はその中に掲載される以下の論文を紹介する。都築隆禎・渡辺秀之・竹内亀代司・眞間修一(2006)自然再生事業と緊急治水対策事業を踏まえたコウノトリが生育できる川づくりリバーフロント研究所報告　17：17-24.本報告ではコウノトリの野生復帰事業が進んでいる、兵庫県の豊岡盆地を流れる円山川における自然再生事業を紹介している。本事業の目的は治水・水利機能を考慮した自然再生事業であり、特にその目標として掲げられているのがフラグシップ種であるコウノトリの餌場となるような環境の維持・再生である。本報告では計画策定の過程が詳細に述べられており、河川における自然再生事業の準備段階の様子が良く分かる。野生動物の生息地復元を目的とした自然再生事業は国内ではそれほど多くないため、興味深い内容である。

2006.10.24

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【文献紹介】自然再生に関する文献紹介

P. S. Lake(2001)On the matureing of restoration: Linking ecological research and restorationEcological Management and Restoration 2(2):110-115.　日本では日が浅い自然再生事業であるが，欧米では既に数十年の歴史を持つ。その自然再生事業について、特に生態学的な研究をいかに実践の現場で活かし、事業を円滑に進めていくかという点について整理したのがこの論文である。自然再生における基本的な考え方が示されており、必読の文献といえる。中村太士・中村隆俊・渡辺修・山田浩之・仲川泰則・金子正美・吉村暢彦・渡辺綱男(2003)釧路湿原の現状と自然再生事業の概要保全生態学研究　8:129-143.　国内における自然再生事業のうち、国主導で行われている事業は数例しかない。いくつかの事業では報告書を作成するなど情報公開をより積極的に行っているものの、まだまだ情報が少ないのが現状である。この論文は国内の自然再生事業のうち、釧路の再生事業を概説したものであるが、事業にいたる経緯と現状、事業における目標設定などの情報が分かりやすく紹介されている。

2006.09.19

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