涙雨


            涙雨

       
        雨の降る五月の朝に
        ひとりのホームレスの男が死んだ

        橋の下に住むその男は
        一匹の犬を飼っていて
        二人はいつも寄り添うように生きていたが、、

        誰にも愛される事の無かった者同士
        それでも二人は
        何時も一緒で幸せだっただろう

        明日からあの犬は
        誰を頼りに生きていくのだろうか

        五月にしては、強い雨が降る今日の午後だ
        あれは、
        残された犬が、主人を想って流す涙雨、、
        五月の雨に犬が、泣く  

                  
               五月雨ふる山王b      

              東京12題 五月雨ふる山王 大正八年 川瀬巴水
(拡大図は川瀬巴水の項をクリックして)



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