「野生のオーケストラが聴こえる」
手つかずのまま地上に残る生息環境に固有のオーケストラを聴くことがこれだけ困難になっていることを考えると、わたしたちの音楽の起源や同じ生物種内の複雑な関係の成り立ちを解明することは、これまで以上に困難になっていることがわかる。特に驚くべきは、地質学的に見れば十億分の一秒程度のわたしの人生のほんの半分程度の間に、音響面で劇的な変化が起きたことである。------バーニー・クラウス(伊達淳訳)『野生のオーケストラが聴こえる』(みすず書房)p.131☆原著はBernie Krause, The Great Animal Orchestra, Profile Books(左にあるのはペーパーバック版で2012年刊)、翻訳につけられた副題は「サウンドスケープ生態学と音楽の起源」。こんな本は翻訳がでない、とばかり勝手におもっていたので原著を持っていたのだったが、あっという間にでて、ろくにオリジナルを目をとおさないまま、という次第。ま、英語は苦手だからいいのだけれど。翻訳には、原著にはない言及されている音源へのアクセスなども記されている。☆19世紀の終わりから20世紀はじめに生まれた「ポピュラー音楽」において、ずっと気になっている点は、これがやはりテクノロジーや産業に依拠しており、都市化というものと不可分であること、そしてどんどんと自然からはなれていっているし、自然の音から学ぶものがけっして多くはない、ということだ。いや、そうした音楽もなくはない。でも多くはない。ヴァカンスに都会をはなれて作曲にいそしんだ19世紀の作曲家とはスタンスが違うのだ。☆植物の生きていることと音・音楽を考える藤枝守《植物文様》や「プラントロン」があり、坂本龍一《Forest Symphony》があり、動物の音に耳をかたむけるこうした本がいま登場してくることを同時的に考えること。