金子みすゞ「星とたんぽぽ」 青いお空の底ふかく、 海の小石のそのやうに、 夜がくるまで沈んでる、 畫(ヒル)のお星は目にみえぬ。 見えぬけれどもあるんだよ、 見えぬものでもあるんだよ。 散つてすがれたたんぽぽの、 瓦のすきに、だァまつて、 春のくるまでかくれてる、 つよいその根は眼に見えぬ。 見えぬけれどもあるんだよ、 見えぬものでもあるんだよ。 (金子みすゞ 『星とたんぽぽ』より) ----------------------------------------------------------------- 蜂はお花のなかに、 お花はお庭のなかに、 お庭は土塀のなかに、 土塀は町の中に、 町は日本の中に 日本は世界の中に 世界は神さまの中に。 さうして、さうして、神さまは、 小ちやな蜂の中に。 (金子みすゞ 『蜂と神さま』) ----------------------------------------------------------------- 母さん知らぬ 草の子を、 なん千萬の 草の子を、 土はひとりで 育てます。 草があをあを 茂つたら、 土はかくれて しまふのに。 (『土と草』 金子みすゞ) ----------------------------------------------------------------- こッつん こッつん 打たれる土は よい畠になつて よい麦生むよ。 朝から晩まで 踏まれる土は よい路になつて 車を通すよ。 打たれぬ土は 踏まれぬ土は 要らない土か。 いえいえそれは 名のない草の お宿をするよ。 (金子みすゞ 『土』) ----------------------------------------------------------------- 『わたしと小鳥とすずと』 わたしが両手をひろげても お空はちっともとべないが、 とべる小鳥はわたしのように、 地べたをはやくは走れない。 わたしがからだをゆすっても、 きれいな音はでないけど、 あの鳴るすずはわたしのように たくさんなうたは知らないよ。 すずと、小鳥と、それからわたし、 みんなちがって、みんないい。 (金子みすゞ) ----------------------------------------------------------------- 『草の名』 人の知つてる草の名は、 私はちつとも知らないの。 人の知らない草の名を、 私はいくつも知つてるの。 それは私がつけたのよ、 好きな草には好きな名を。 人の知つてる草の名も、 どうせ誰かがつけたのよ。 ほんとの名まへを知つてるは、 空のお日さまばかりなの。 だから私はよんでるの、 私ばかりでよんでるの。 (金子みすゞ) ----------------------------------------------------------------- 『雀のかあさん』 子供が 子雀 つかまえた。 その子の かあさん 笑ってた。 雀の かあさん それみてた。 お屋根で 鳴かずに それ見てた。 (金子みすゞ 「金子みすゞ名詩集」より 彩図社) --------------------------------- 久しぶりに、本当に何十年かぶりに、 詩を読んで、私は泣きました。 過去に、つぶされてぺしゃんこに死んだ雀を見たことがある。 昨年、公園の鳩を殺して笑っていた酔っ払いを見た。 鳴かない雀のかあさんに、 人間のような感情があったとしたら・・・ ----------------------------------------------------------------- 『こだまでしょうか』 [ ことば・本 ] 「遊ぼう」っていうと 「遊ぼう」っていう。 「馬鹿」っていうと 「馬鹿」っていう。 「もう遊ばない」っていうと 「遊ばない」っていう。 そうして、あとで さみしくなって、 「ごめんね」っていいうと 「ごめんね」っていう。 こだまでしょうか。 いいえ、誰でも。 (金子みすゞ 「金子みすゞ名詩集」より 彩図社) ------------------------------------ この詩のCM, 昨年の震災時を思い出しますね。 ----------------------------------------------------------------- |