000000 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

ぬるま湯雑記帳

巻之二

女子寮騒動顛末 をんなのそのさわぎのあれこれ  


ふくすけ 巻之二 牛笑風呂下敷 うしもわらうふろのしたじき

 入試を受けたのは一部ガラス張りの、ナ●キンすらトイレに流せてしまうという夢のような校舎だった。床には絨毯が敷いてあるし、エレベーターまでついていた。なんだか会社みたいな学校だったと、家に戻って報告した気がする。様々な地下鉄がひしめきあって数多くの「最寄駅」をつくりだし、帰りに寄り道した神保町の古本屋街はあまりに大きくて、何も買えずに早々と引きあげてきた。

 …ここは、どこだ?目的を同じくする人達、つまり入寮者以外にヒトケはなく、駅の周りといえばちんまりとした古本屋が一軒あるだけだ。同じ名前の大学がここにあるとは思えない。詐欺だと思った。ちなみにここは八高線という超ローカル線の駅、「箱根ヶ崎」である。
 狭山台校の「最寄駅」はここと西武池袋線入間駅の二ヶ所であるが、どちらもスクールバスで二十分程ゆられなくてはならない。大きな荷物を抱えバスに乗り込むと、ほどなく出発した。このバス以外走っている車もない。信号は一つ、牛小屋の前にあった。赤信号で停まっている間、私達は歓声とも嘆息ともつかない声をあげ、牛と見つめあっていた。追い打ちをかけたのが、山を抜けていこうとする目の前にある産業廃棄物処理場の看板。最早声も無い。

 山を抜けると…茶畑だ。見渡す限りの茶畑だ。ところどころに人家が見られたが「隣近所」はなかった。緑一色の世界である。その中に大学があり、同じ敷地に寮があった。大学の校舎は三棟、寮への道が一本、寮。あとは一面の芝生で、ここもある意味緑一色の世界だった。
 入寮日は二日間あり、この時だけ外部のものが寮内に入ることができる。そんなわけで大半が親子で寮にやってくる。私も母親と共に寮に入る。こやつは先程の牛小屋を見てあははと笑い、「いいとこね~、安心した」などとヌかしている。まるで他人事だ。

 舎監(ここでは寮母とか寮監とは言わない)の部屋に行き、部屋番号を教えてもらって案内係の二年生に引き継がれる。寮も三棟あり、四階建てではあるけれど、使われているのは三階と四階だけだ。私は一棟三階六室で、その二年生に言わせるとかなりラッキーだという(事実とてもラッキーなことだったと後々知ることになる)。
 早速部屋に案内されたのだが、内部(なか)を見るなり脳の血管が切れそうになった。狭い。とにかく狭い。洋服箪笥四つ、二段ベッド二つ、机四つでキューキューの部屋だ。絨毯は暗い鼠色だし、カーテンはしょっぱい色に変色している。よくよくみるとベッドにカーテンがついている。ここベッドだけが唯一プライバシーを守れるところらしい。四人部屋とはこういう事なのかとしみじみ思った。

 部屋をさっとみた後、寮での必需品を買いに行く。食堂が臨時の購買になっていた。まずはポリバケツを買えとのこと、何事かと思えば洗濯物を入れるためだと言う。これを下げて洗濯室に行くのだ。すごい。続いて、プールで使うビート板をペラペラにした感じのものを売っている場所へと連れていかれた。生まれて初めて見るものだ。是は何ぞ?…お風呂マットだった。一人用のマットである。床がタイルのため、そのまま座ると痛いし冷たい。これだけはここで勝手おかないと、後々つらい事になるようだ。だいたいそんなに流通していないものなのだろう。これを下げてお風呂にいくのだ。ますますすごい。

 買い物をすませ、再び部屋に戻って荷物の整理があらかた終わって、母親は帰っていった。さすがに心許ない。母親は地方に帰っていき、私は関東の田舎に残された。
 私の二年間が、始まる。(続く)


1996年7月1日発行 佐々木ジャーナル第十号より(一部変更) 千曲川薫


いよいよ入寮です。とりあえずは、まあ、途方にくれましたよ。そしてトンチンカンな日々が始まってゆくわけです。 



巻之三へ

TOP




© Rakuten Group, Inc.