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ぬるま湯雑記帳

巻之八

女子寮騒動顛末 をんなのそのさわぎのあれこれ  
ふくすけ 巻之八 何処雨乞仇成 どこやらのあまごいあだをなし

 この大学では、学生は大きく二つに分かれる。通生(自宅通学)と寮生。この差は大きい。この埼玉のド田舎に通ってくるのは大変なことで、二時間以上かけてくる場合も多いというのに、頭の先から足の先までびしっとキメてくるのが通生で、それに比べてイマイチというのが寮生。勿論寮生でもびしっとしている人は多い。ただ、私のように化粧は年に数回だとか、ギリギリまで寝ているスリルを味わうのが好き(?)だとか、そんなのもいるため、寮全体の雰囲気が垢抜けないのである。
 Sさんは寝てたままのTシャツ短パン姿で学校に行ったことがあるし、友人はパジャマの上にセーターを着ていって皆にバレたし、私もそれと同じような…どころではなく、ハッと気づいたらノーブラでひやひやしたこともあったし、過去にはハンテンで登校した強者もいたそうで、いつの世にも似たタイプがいるのだなと変に安心したものだった。

 ある日突如起こった悲劇は、寮生の、びしっとしている人達を襲った。私は在寮中、一限に授業のある日なんかに洗濯やら布団干しやらをすることはなかった。もう、一秒でも長く寝ていることに一所懸命だった。その対極には朝少し早起きをし、洗濯をすませ身支度を整えて登校する【健気な乙女達】もいたわけだ。この日は朝から申し分のない青空、何のためらいもなく屋上に布団や洗濯物を干して、彼女らは一限目の授業に向かったのである。

 授業も半分にさしかかった頃、なんとはなしに陽がかげりだし、なんとなーく雷らしき音が耳に届きはじめた。風も強くなってきたようで、トトロの森を揺らしはじめる。午前中の夕立ち(午前中なのに「夕立ち」でいいのか?)の気配。私達が単に天気の変化に気をとられ授業を聴かなくなったのに対し、明らかに青ざめる集団が寮生のなかにあった。【健気な乙女達】である。
 「布団が…」「洗濯物が…」言葉には出さなくても、顔が、目がそう言っている。とうとうボツボツと大粒の雨が落ちてきた。そしてザーザーの雨。授業一時中断。「おお、降ってきたねえ」との先生のお言葉。それにつられるように寮生から悲痛な叫びが。「先生、寮で布団を干しているんですけど…行ってきていいですか」

 先生にはことの重大性が分かっていない。これには寮生の睡眠がかかっているのだ。替えの布団もないのだ。さらに屋上は砂でザラザラなものだから、雨が降ると泥となって、干した物にはねかえるのだ。このテの非常時には在寮生が取り込みにいくのだが、取り込んだ後が問題で、誰が干したものだかさっぱり分からないので部屋に届けることも出来ず、空き部屋や踊り場に置かれてしまう。そこがまた汚い。とにかく早めに本人が行ってどうにかしないと、ひどいことになってしまうのだ。

「布団?もう遅いんじゃないかあ?」授業の大幅な中断は先生も面白くないのだろう。ましてや理由が理由だからだろうか、煮え切らない返答。「でも…でも…」さすがの先生も干し物をしてきた学生の多さ、真剣さに気おされた。【健気な乙女達】はすでに腰が椅子から浮いている。
 「い、行ってきなさい…」
それは凄い勢いだった。体育の授業でも見ることができない、見事なダッシュがそこかしこで起こった。通生も目をみはっている。授業完全にブチ切れる。

 土砂降りはしばらくして止み、もとの真っ青な空に戻った。で、彼女達はどうしたか。干し直しである。どうやらシーツなどへの泥はね汚れを免れなかったようで、その日午後の洗濯機は順番待ちのフル稼働だった。午後の授業も休んで二度目の洗濯。南無。
 もっと切ないこととなると、某の干した布団が、強風で寮中庭のテニスコートに墜落していたことがあった。しかもこの件は寮内放送で寮中に知れ渡ったばかりか、前日は雨でテニスコートは濡れていた。「テニスコートに布団が落ちています。心当たりの方は取りにきてください」 南無南無。(続く)


1998年2月1日発行 佐々木ジャーナル第19号より(一部変更) 千曲川薫


ワタシはヒトの洗濯物を取り込んだことはありますが、取り込まれた記憶がありません…てことは、夕方洗濯して部屋に干してたクチですな。ちなみに梅雨時などで、部屋が干した洗濯ものであふれかえっている部屋を「ジャングル部屋」と呼んでいました。



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