第八話 「月から降る星」とのコラボ編ふと、真夜中に目が覚めて・・・見上げると月はとても綺麗で、 コトリの目から涙が一粒、こぼれ落ちました。 いろいろな思いが、ふいに心を駆けめぐりました。 普段気づかないように意識してきた思いまでが、 こんな夜は鮮明に、心を揺さぶる・・・ 幾つも幾つも、こぼれ落ちそうになる涙の粒を振り切るように、 夜空に翼を羽ばたかせました。 無数の星が降る夜・・・ キラキラ光る若葉の丘を見つけました。 その柔らかな緑色は、月の光に照らされ、 朝日のもととはまた違う、神秘的ともいえるような眩さをたずさえていました。 ふと、羽を休め、 その丘に降り立つと、 コトリの目から、ポロポロ涙がこぼれ落ちました。 「どうしたの?」 気づくと、真っ白なウサギが心配そうにこちらを向いていました。 「もしかして・・・ ルルちゃん?」 コトリは、以前ここからずいぶん離れた遠い森で出逢ったビーバーのことを思い出し、ふと声をかけました。 「うん。あれ、どこかで会ってた、かな?」 「あ、ううん。ごめんね、急に、ホントにルルちゃんだったんだ・・・ 前に、ルルちゃんのこと話してくれたビーバーさんがいて、もしかしたらって、ふと思ったの。 あの、トムさんのこと・・・」 「トム? トムのこと知ってるの?」 「うん。前にね、住んでた森で、お話したことがあって・・・」 「・・・元気そうだった?」 「うん。ルルちゃんに、もしこれから先出逢うことがあったら、伝えて欲しいって、伝言を頼まれていたの・・・。」 ルルは震えるような眼差しで、コトリを見つめていました。 コトリは、静かに話し始めました。 「トムさんね、元気で頑張ってて・・・ でも、もう帰ることはないからって・・・ だから・・・」 まっすぐに見つめるルルの瞳から、涙の粒が落ちました。 言葉にならない時間が、二人の間に過ぎました。 ルルは、トムのことで聞きたいことはあふれるほどありましたが、 これ以上のことを聞いて、 これ以上涙がこぼれ落ちて、 これ以上、コトリを困らせることは出来ませんでした。 「そう・・・なんだね・・・。 そうかもしれないって、思ってた・・・。 コトリさん、ありがとう・・・。」 一生懸命笑おうとするルルを見ているうちに、コトリは泣き出してしまいました。 ルルが泣かずに我慢してるのに、自分が泣いてしまうなんて・・・ でも、もう・・・。 「ルルちゃん、ホントはね、トムさんはこう言ってた。 ポロポロ涙をこぼしながら・・・ こんな中途半端な自分では帰れないから、 ルルちゃんと約束したのに、何も果たせない自分のままでは・・・ 今でも変わらずルルちゃんのことは大好きで、 忘れたことはなくて、 誰かと一緒にいても、 笑っていても、泣いていても、 いつも思い出してしまうって。 でも、ルルちゃんには、自分のことは忘れて欲しいって。 自分は、ルルちゃんの寂しい気持ちを、ルルちゃんごと置いて旅に出てしまったからって。 トムさんね、ルルちゃんの手紙を読んでいくうちに、気づいたみたい。 ルルちゃんのことを、どんなに大事だったか。 でもね、もう遅いんだって・・・。 自分は、ルルちゃんが一番寂しい時、気づいてあげることができなかったからって・・・ そばにいて抱きしめてあげることができなかったからって・・・ それはきっと、これからもし自分がそばに行って取り戻そうとしても、もう戻らない時間だからって。 ルルちゃんは、自分で気づいていないだろうけど・・・ トムさんといると、ルルちゃんはこれからも無理をして一生懸命笑おうとしたり、強がったり、頑張りすぎてしまったり・・・ それを、ちゃんと気づいて、抱きしめてあげられる余裕が、今の自分にはないからって。 『いつか』じゃ、駄目だって。 ルルちゃんのことを、待たせることも、これ以上悲しませることもしたくないからって・・・。 ルルちゃんには、今幸せになって欲しいんだって言ってたよ・・・。」 「トム・・・。 元気そうだった?」 「うん。 その森で、トムさんの木彫りは、とても人気があったの。 頑張ってたよ。」 「そう・・・。 それならよかった。」 ルルは、微笑みました。 瞳は濡れていて、大きな涙の粒が今にもこぼれ落ちそうでしたが、なんとなく落ち着いているようにも見えました。 「トムらしい。 それが、トムらしさだからね。 私は、きっと忘れられる・・・ それが、トムの残してくれた、トムらしい思いだものね。」 コトリは、ルルの気持ちがとてもよくわかりました。 大好きだった、子猫のもとを離れた自分のことを思いながら・・・ ルルのいう気持ちを、深く深く感じていました。 愛しさは、瞬間瞬間の積み重ね。 二人の時が止まった瞬間、 その気持ちは過去のものになっていく・・・。 決して、嘘ではなく、 紛れもなく尊い真実であったことに間違いはなく、 でも、それは『今』ではなくなってしまう。 瞬間の積み重ねを生きるからこそ、生きているといえるのだから。 過去は、今ではない。 いつか、ルルにも大事な誰かが現れるはず。 その時、ルルの中で、トムは完全な過去になる。 それがいつなのかは、神様しか知らないこと。 でも、自分の気持ちから逃げずに、泣きながら頑張るルルは、きっと出会えるはず。 過去を思い出の小箱にしまって、一緒に今を生きていける誰かに・・・。 コトリは、空を見上げました。 「今ある気持ちは、どんな不安も悲しい気持ちも、全部伝えなきゃね・・・」 クマさんは、今頃寝てるかな。 明日の朝には、伝えなきゃ。 今の気持ちを、何一つしまい込まずに。 『今』を何一つ『過去』にしてしまわないうちに。 ジャンル別一覧
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