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ね、君が行きたいところへ行こうよ

ね、君が行きたいところへ行こうよ

水面の月

湖に写る月は、ゆらゆらと揺れていました。


穏やかな水面を、それでも静かに揺らしているのは小さな魚たち?

それとも、あの向かいの岸辺にいる誰かが、目を覚まして水を飲んでいるのかな?














「ルルちゃんは、他の誰かを大事にして、

いつのまにか、その誰かまで自分の一部のように大事になって、


だから、失うことをとても怖がるんだよ。」







前に、誰かが話してくれました。

「でも、それじゃあ、どうすればいいの?」








ふと声に出してしまい、

驚いて、ルルはふと微笑みました。










空の月を見上げると、

それは水面に揺れる月より小さく、
それでもまばゆい光で、闇を明るく照らしていました。




「ルルちゃんは、誰かを大事に思う時、

いつの間にか自分を見失ってしまうんじゃない?」





声がする方を見ると、やまねずみがいました。





「ごめんね、

なんとなく、すぐに声をかけられなくて。


びっくりさせちゃったかな?」





「あ、ううん。

大丈夫。




でも、

そうかな。


自分を見失って・・・。」








「そう。

誰かにとって、一番居心地のいい自分を、いつでも考えて、感じて、

すぐに行動したり、言葉にしたり・・・。」







「うん。

そういうのって、だいたい当たってるから。


だから、みんな私を大事に思ってくれて、

大事だって言ってくれて、





でもね、もしかしたら、

本当はみんなね、

自分を一番に大事にしてくれる存在としての私を失いたくないだけなんじゃないかなって思えてきて・・・」










「気をつかいすぎてしまうんだよね。」










「うん。

でも、気を遣いすぎるというのは、

結局自分が怖がりなだけで、嫌われたくなくて、一人になりたくなくて、



それが心にあるからだとすると、

なんだかすごく純粋じゃないものに感じてしまうの。






そんなことが、頭をくるくる回りだすと、

何かとても一人ぼっちのように感じてしまって。」









「一人ぼっちか・・・。




ね、フランス語でね、

孤独は、Solitaire 
連帯は、Solidaire 
というんだよ。

tとdのたった一文字の違いなんだ。








ホントの孤独を知るものだけが、

お互いに堅く結ばれるんだって、


僕はずっと信じてる。










今までも、

今も、




そしてこれからも、




ずっとずっとね。」






やまねずみは、月を見上げました。





その横顔を見ながら、ルルは感じていました。








やまねずみは、

言葉にしないだけで、たくさんの孤独を知ってる・・・。


寂しいなんて言わないだけで、









でも、今の自分のように寂しい寂しいって立ち止まってはいない。








自分のホントの気持ちを、

理解してくれる誰かに出逢うためには、


ここで考え込んだり、

立ち止まってる時間はない。





同じ気持ちを理解しあえる誰かには、

感情に翻弄されて、

涙を流してばかりでは出会えない。







ルルは、水面の月を見ました。

ゆらゆら揺れる月を見て、そして空高くに輝く月を見上げました。








もう、水面の月は見ない。








小さくても、

闇を明るく照らし出せる、



本物の月になりたい。








ふと、横を見ると、

もうやまねずみの姿はそこにはありませんでした。





「ありがとう・・・」








月は、たくさんの星に囲まれながら、

ひときわ輝きを増したように、光りました。



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