花夜

2020/11/09(月)17:48

21話 【運命の女】

Gentleman(シリーズ1)(30)

←20話┃ ● ┃22話→ 21話 (―) 【運命の女】―ウンメイノヒト― ___柾直近side 例えば何気ない会話の、他愛ないやり取りの中にも、物事のヒントになったり、きっかけに気付くことが出来る。 時が経過してようやく、「あぁ、あの人はこのことを言っていたのか」「あれはこれだったのか」と納得に至るケースは少なくはない。 ピースをはめていくように、点と点を繋げばやがて線になる。それが「ナルホド、腑に落ちた」の正体。 あちこちに散らばったサインは、拾い集めてみれば意外と大局観を展開することができるものだ。 思い返せば、それにまつわる伏線は1つだけ存在していた。2日前、検収担当の女性社員と会話をしていたときのことだ。 彼女は北出入り口で仕事をしているので寒さが身に堪えると、恨めしくこぼしていた。 「マンションの管理人さながら業者が出入りするたびに窓を開けなきゃいけないし、荷物が届くたびに中廊下で検品しなくちゃいけない。 これって結構激務なの。夏は風の出入りが悪くて蒸し暑いし、冬なんて寒すぎる。地獄の場所だわ」 書類を片付けていた最中だった僕は、相槌を打つので精一杯だった。 「仕方ないよ」だとか、「せめて南なら少しはマシだったろうにね」なんて、頭を一切使わない生返事になってしまう。 彼女としてはただ愚痴がこぼせればよかったのか、構わず先を続けた。 「ただ、最近は人の出入りが激しい割に、荷物が多いわけじゃないから助かってるけどね」 僕には無縁の話だと思っていた。しかし、厄介なできごとは既に起きていたのだ。僕は数日後に思い知ることになる。 ___麻生環side 今日のスケジュール確認をしよう。 09:00、出社。売り場を整え、客を迎え入れる準備が出来たら、家電部門内で軽いミーティング 10:00、開店。ユナイソン名物、従業員によるお客様の一斉お出迎え 10:30、無限電機と商談 11:00、(株)ニードランと商談 12:45、昼食 13:30、午後の業務 16:00、公外からの直帰 まぁこんな感じで、ごくごく普通の就業内容だった。 ところで俺はいま、ひとを待っている。 焦っているのは、次の商談に影響しそうだったからだ。 つい、机の上に肘を付きながらもう片方の手でペンを挟み、足を組んだその上で忙しなくペンを弄ぶクセが出てしまう。 メーカーの営業職なのだから、時間が押せば後続に迷惑が掛かることぐらい熟知しているだろうに、連絡すら寄越さないのはなぜなのか。 いつもなら5分前には必ず姿を現すはずなのに、10時40分になっても来ない。 すっかりくたびれてしまった革の手帳を広げる。今日の欄には確かにアポ2件の予約が入っていた。時間も間違っていない。 それとも、俺がスケジュール帳に誤った時間を記入してしまったのだろうか? 「……やっぱり今日……だよな?」 顎に手を当て眉根を寄せながら、一体どういうことかと考える。念のため、業者の出入りを管理している受付に内線を入れてみた。 「麻生ですが、確認をお願いします。無限電機の羽生さんは入店してますか?」 「無限電機の方は10時20分に通過してますよ」 「え、ログあり? もう見えてるんですか?」 「えぇ」 「そう。ありがとう」 狐につままれたとは、俺の整理し切れない今の状況を指すのだろうか。 既にこの店に来ているだって? では何故会えていない? 「おかしいな、どこへ行ったんだ?」 いっそ探しに行くか? だがこの場合、ミイラ取りがミイラに……という悲惨な結末もあり得る。 出て行った直後にひょっこりここへ現れる、というコントが頭に浮かび、やはり俺は動くべきではないのだろう。 (あ、そうか。置き手紙をすればいいんだ) 『羽生さんへ。俺が戻るまでここを動かないように。麻生』 これで良い。俺は部屋を後にした。 ___千早歴side 着席早々、私は青果の売価変更表を前に、途方に暮れてしまった。 そろそろ市場にはメロンが競りに賭けられ始める頃で、この店でも扱う時期がやってきた。 タカミ、アンデス、クインシー、イエロー、ホームラン、ハネーデュ、プリンス、アムス、マスク。 これらにはバーコードが貼られていないので、店独自で番号を設定する必要がある。 その前にまず、黄色メロン、赤果肉メロン、青果肉メロン、その他メロンの4種類に分けなければならないのだが……。 (どれがどれなのか、さっぱり分からない) どの種類も『メロン』で片付けていた無知の頃が懐かしい。切ってからでは遅いのだ。外見で見分けなければ。 パソコン画面と売価変更表、群番と品種の一覧表、青果への内線を忙しなく処理しながら片付ける。 苦戦しながらも何とか終わらせると、既に開店時間を回っていた。急いで青果売り場のチーフに値段の確認をしてもらう。 「千早ァ、冬のメロンまで入力しなくていいんだぞ」 「す、すみません!」 「ハネーデュぐらい季節外れだってことにすぐ気付け」 叱られながらもOKは貰えたので、一安堵してPOSルームに戻る。部屋の前に差し掛かると、ドアの前に人が立っていた。 駆け足で近付くと、その人物と目が合った。見覚えがある。麻生さんと一緒にいるところを見かけたことがあったからだ。 「おはようございます。無限電機の羽生さん、でしたよね?」 「千早さん! お、おはようございますっ」 「ごめんなさい、席を外していて。何かご用でしたか?」 「は、はい……! 新製品の値段の確認に来たんです!」 「そうだったんですね。お待たせしてしまってごめんなさい。中にどうぞ」 セキュリティ対象であるこの部屋に入るには鍵が必要だった。私はスカートのポケットから鍵を取り出すと羽生さんを招き入れた。 ___柾直近side 僕はというと、実はまだ検収場にいた。荷物が到着するのを、今か今かと待ち侘びている。 運送業者からの連絡によれば、交通事故による渋滞に巻き込まれたそうだ。 こればかりはしょうがない。だが、積荷が降りないことには作業が始まらないのもまた事実で。 手持ち無沙汰な僕は、連日の遅番勤務によって疲れの抜け切らない身体を、椅子の奥深くまで預けていた。 部屋の温度が快適で、やたら眠気を誘う。睡魔と闘いながら、腕時計を幾度となく見直していた。 もしかしたら眠っていたのかもしれない。電話が鳴る音でハッと覚醒したからだ。隣りで誰かが電話のやり取りをしている。 記憶がない数分間に運送業者は来なかったかと、業者の出入り表を見るが徒労に終わった。どうやらまだのようだ。 「無限電機の方は10時20分に通過してますよ」 無限電機といえば大手家電メーカー。 (電話は麻生あたりかもしれないな。何にせよ、仕事があるというのはいまの僕にとっては羨ましい限りだ) 電話を切る音と、僕の欠伸の音が重なった。一体僕は、いつまでここに居続けることになるんだろう? ___千早歴side 羽生さんは、無限電機のロゴが描かれた紙袋からヘアドライヤーを取り出した。 私が憧れている女優がCMをしていて、どうやらシリーズ最新版のようだ。つい食い入るように見つめてしまった。 「このドライヤー、前のと比べて随分可愛らしいデザインになりましたね」 感嘆雑じりに商品を受け取りパッケージを眺めていると、羽生さんは「でしょう!?」と興奮気味に語った。 「従来のデザインを一新して、ターゲットを10代後半まで広げようと女性チームが頑張った傑作品です。 これでライバル社を抜いてみせます。もちろんデザインだけでなく、使い勝手も改良しました」 「実は私、このシリーズの2世代目を持ってるんです。使いやすいので愛用してます」 「そうなんですか! 有り難うございます」 「でも少し重くて、腕が痺れてきてしまうんですよね。改良版に替えてみようかな。ナノイオンだから髪にも優しそう」 「ナノイオンが搭載されたのは3世代目からですもんね。ぜひこの4世代目を使ってみて下さい。もっと綺麗になると思います」 「恥ずかしい話ですけど、心なしか、切れ毛が多いような気がして……」 苦笑する私。その左手は商品を、右手にはハンドスキャナを持っていた。バーコードリーダーが商品コードを読み取る。 (少し高いけど、社員割引を使えば1割安く買えるし……) そんなことを考えていたから、全く気付かなかった。 羽生さんは私の髪をすくい上げていた。そして……。 ___麻生環side 一口に探すと言っても、バックヤードぐらいしか思い当たらない。もしくはトイレか。 取り敢えず、バックヤードを見て回ることにした。手始めに入り口から――つまり、検収だ。 業者の出入り表を見せて貰うと、確かに入店時間と個人のサインが記されていた。 礼を言い、帰ろうとすると、窓ガラスを隔てた向こう側に柾がいた。どうやら伝票と格闘しているようだ。 俺とは違い、順調に仕事をこなしているようだった。羨ましい限りだ。 次は事務所。だだっ広い面積を誇るそこにも、件の人物はいなかった。事務員だけが、忙しなく動き回る。 その隣りは資材置き場だ。不要なダンボールや梱包材、プラゴミ、不燃ごみは全てここに集う。 当然、一般メーカー営業職がいるはずもなく、さらに進んでPOSルームへ。 ガラス張りの部屋なので通り過ぎるだけで中の様子が確認出来る。 そこにはいないものだとばかり思っていたが、何かが視界に入った。 心臓が脈打つ。見てはいけないものを見たような気がした。 中にいるのは千早歴だった。当然だ、彼女は常時ここに詰めているのだから。 異様な光景は、彼女の背後から彼女を抱き締めている者の存在だった。 そいつこそ、俺が探している羽生本人だった。 ___千早歴side 始め、何が起こったのか分からなかった。 髪に埋もれる気配がしてからようやく、自分の身に何が起きているかを知った。 なんと声を掛けるべきか。私はどうしたら良いのか。 判断できず途方に暮れる私を、もう1人の自分が物凄い剣幕で叱咤している。 (歴! 何をぼんやりしているの!? 早く離れなさい!) 当然従うべきなのだが、金縛りに遭ったかのように動けない。声を出そうにも、絶句したままだった。 ドン、という衝撃音で、私は視線を音のした方に向けた。 ガラス窓の向こうには、麻生さんが立っていた。彼は叫んでいる。「離れろ」と。 麻生さんは、怒り心頭、憤怒の形相で、部屋に入って来た。 「何してんだ?」 ハラハラしながら成り行きを見守るしか能のない私は、麻生さんが羽生さんの襟首を引き寄せても何も言えやしない。 (殴ったらどうしよう!? ううん、麻生さんはそんなことしないわ。本当に? ……いまいち自信が持てない) 「ちぃに何した!? つかよ、お前さん、いつになったら俺の商談に付き合ってくれるんだ?」 「す、すみませんでした! ごめんなさい! つい!」 「ついじゃねぇ。お前さん、彼女が反抗しない性格だと知っててやったな!?」 「や、あの……千早さんが、髪が痛んでるって仰るから、確認したくて寄ってみたんです。 でも、近付いたら今度はあまりにもいい匂いだったので、触ってみたくて……」 (……!!) 「で、背後から抱き締めたのか?」 「抱き……!? そんな、滅相もない! でも、あああすみません、大変申し訳ありませんでした!」 「俺じゃなくて! 彼女に謝れ」 「は、はい……千早さん、大変申し訳御座いません! あの、俺……貴女が気になっていて……どうかしてました……」 最後の方は聞き取れないほどか細くて。謝罪を受けながら、『あぁ、私はこの人のことを嫌いになれないな』と思った。 麻生さんに怒鳴られたからとは言え、低姿勢で震えながら必死に謝るのだ。少なくとも誠意は伝わってきた。 羽生さんは膝を折り、とうとう床に膝をついてしまった。土下座だ。 (あぁ、そんな) 慌てて私もしゃがみ込み、彼の肩に手を置く。覗く込むように目を見ると、怯えているのがはっきり分かった。 (大丈夫、私は許している。そもそも、怒ってなどいないから。だからそんなに怯えないで……) 「急なことだったから……ビックリしてしまってごめんなさい」 「何を……仰るんですか。千早さんが謝るなんて、筋違いってもんでしょう……」 「それに、私を気に掛けてくれて、ありがとうございます」 「や、やめて下さい。俺はそんな言葉を掛けて貰える価値のない男です」 「価値がないなんて言わないで下さい。そんな悲しい言葉、絶対使わないで下さい」 「もう二度と……姿を見せませんから……」 「そんな……どうしてそんなことを仰るんです?」 「どうしてって……。自分で言うのもなんですけど、変態じみた行為をしでかしてしまった。それも、職務中に……」 「私なら大丈夫です。もう二度としないと誓ってくだされば、それで」 ぐっと言葉に詰まってしまった羽生さんは、その姿勢のまま、深々とお辞儀をした。 ___麻生環side 何だこれは。 ちぃの博愛主義も、ここまで来ると「いい加減にしろ」と怒鳴りつけたくなる。 仲良きことは美しき哉なんて、本当に思っているのか? どこまでアマちゃんなんだ、ちぃは……! 「おい、そこにいるヤツ、今すぐ出て来い!」 俺の怒鳴り声に、羽生とちぃは目を丸くして俺を見る。 「そこに隠れてるのは知ってる。誰だ」 ずっと背後に気配を感じていたのだ。誰何すると、おずおずとこちらの部屋の様子を窺っている江藤が現れた。 「麻生……。悪いな、アポの時間に遅れちまって……」 次の商談相手である(株)ニードランの江藤だった。 「江藤さんが、どうしてここにいる?」 「ちょっとPOSルームに用があってな。でも、立て込んでるみたいだから……」 そう言い訳しつつ、江藤氏が未練がましく視線を向けている相手は、間違いなくちぃだった。 (なんてこった。こいつら2人とも、ちぃ目当てかよ?) はぁ、と溜息が出て、脱力してしまった。 彼女も羽生の件は水に流す考えでいるらしいし、事を大きくしたくない気持ちは俺だって同じだ。だが――。 「……羽生さんも江藤さんも。一段落したら、俺のところへ来てくれ」 邪魔はしねぇよ。『人の恋路を邪魔する奴は窓の月さえ憎らしい』って言葉が日本にはあるからな。 「ただ、これだけは言っておく。2人とも、それぞれ会社の代表で来てるんだよな? だったら、すべきことはなんだ? アポイントメントの時間を無視してまでしなきゃいけないのか? けじめはつけてくれ」 2人の表情が、どこか引き締まったかのように見えたのは気の所為だろうか。俺の言葉が伝わってくれたら何よりだ。 ___柾直近side 12時、いまだ荷物は来ず。しかしすぐ近くまで来ているとの連絡があったので、どうせならとこのまま待たせて貰う。 退屈そうに見えたのか、26歳業務部「ねね嬢」が伝票の束を突き付けて来た。 「柾さん、すこぶる暇そうなのでこれを。私からのプレゼントです」 プレゼントです、という割には目が笑っていない。 苦々しく他部門の伝票を切りながら、今か今かと待つ。早く来い、荷物。 「きゃ~ん、柾さんだぁっ! 何してるのぉ? 私の分もお・ね・が~いっ♪」 伝票の上に、更に伝票を置く、29歳青果担当「多恵子嬢」。 (一体、僕の半日は何だったんだ?) 伝票すら終え、すっかりやる事がなくなってしまって携帯を操作していると『今日の星占い★』が目についた。 自分は山羊座だったはずだ。1位らしいが、どうも嘘臭い。すぐにサイトを閉じ、携帯を胸ポケットにしまう。 「……?」 ふと手元にあった『業者の出入り表』が目に入ったのだが、何かが引っ掛かった。何だろう? この違和感は。 (業者の出入り先……やけにPOSルームが多いな) 例えば昨日のページのPOSルームへの出入り。11時台だけでも2件ある。 「11時15分:(株)日の出まほろば飲料、世良。11時28分:日本いろは本舗、仙道」 ふいに朝の何気ない会話を思い出した。 『ただ、最近は人の出入りが激しい割に、荷物が多いわけじゃないから助かってるわ』 (POSルームに用? それにしたってこの数は多くないか? それとも、そういうものなのだろうか) 考えあぐねていたその時、遠くから名前を呼ばれた。どうやら積荷を載せたトラックが到着したらしい。 (助かった。これでやっと仕事ができる) 宙に漂っていた疑問の塊は、トラックが到着した瞬間、一気に霧散された。 ___麻生環side 何とか2つの商談をまとめ、予定通りの時間に昼食にありつけた。 食券を選んで順番待ちをしていると、隣りに柾が並んだ。 「おぅ。珍しいな。今からか?」 「別に珍しくなどない。単に今までお前とかちあわなかっただけだ」 憮然とした調子で柾は言う。「やっぱり占いなんてアテにならない」と、意味不明なことを呟いて。 そうこうしている間に順番は回ってきて、俺のトレイに紫蘇きのこスパゲティが置かれる。オリーブオイルの香ばしい匂い。 ふと隣りを見やると、柾が豪華な日替り惣菜を貰っていた。隣りの芝生は青く見えるなぁ。あっちも美味そうだ。 「柾」 「何だ」 とても迷惑そうな顔で、柾は向かいに座る俺を一睨みしてくるが、そんなのは知ったこっちゃない。 「ちぃのことなんだが」 「ちぃって誰だ」 「千早さんだ」 「……」 眉根こそひそめたものの、それ以上柾は何も言わなかった。俺は午前中にあった出来事を話した。 柾は話の腰を折らず、ただ黙って俺の話を聞いていた。話し終えてもしばらくノーコメントだったほどだ。 やがてぽつりと「ファム・ファタル」、とだけ呟いた。 「何だって?」 「ファム・ファタル。『運命の女』という意味だ。男を破滅させる魔性の女のことらしい」 「ちぃがそれだって言うのか?」 「どうやら僕は、彼女の運命の一部に組み込まれてしまったみたいだからな。彼女は僕を惑わす」 「こんな人の多い場所で、よくそんな恥ずかしいことを平気で言えるな? それに、そんな言い方はちぃに失礼だろ」 「そうでもないさ。彼女に懸想している男の影がいくつかあるような気がする」 「あぁ、まぁ今回のことでよぉく分かったよ。ちぃってめっちゃモテるんだな。あの分じゃ、他にもいそうだよなぁ」 「そもそも自分が好かれてることに気付いてない可能性が高い。それもまた罪深い話だ」 嫌いなのか、人参の煮付けを皿の淵によけて柾は言う。俺はその人参を箸で摘むと、口の中に放り込んだ。 「魔性の女ねぇ……。不思議だな、あんなにも真っ白な子なのに」 「そうだな」と柾は頷いた。 「しかし、破滅という表現は大袈裟じゃないか? さすがにそれは言い過ぎだろ」 俺が言うと、柾はふっと微笑んだ。 「彼女に振られたら、僕は破滅したも同然だ」 「……驚いた。そこまで入れ込んでたのか」 俺の言葉に、柾は眉根を寄せた。明らかに何か言いたそうだ。 案の定、じっと見つめながら言葉を紡ぎ出してきた。 「お前は違うのか?」 「……は?」 「いや、何でもない」 柾はスープを飲むことで『この話題はここまで』と線引きをしたようだ。だから俺も口を閉ざすことにした。 柾が何を言いたかったのか、本当は分かってた。 でも俺は何も気付いていないフリをした。自分の気持ちも含めて。 可能ならば、波風を立てない生活を続けたい。 柾と争うのはご免だ。俺は平和に過ごしたかった。 2007.07.14 2020.11.09 ←20話┃ ● ┃22話→

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