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カテゴリ:Gentleman(シリーズ2)
03話 (犬) 【一年目】―イチネンメ― それは僕、不破犬君が2ヶ月に及ぶ新人研修を終え、岐阜店に配属されたばかりの2日目、昼休憩中の出来事だった。 本来ならば、同じ部署同士の従業員は時間をずらして休憩を取ることになっている。 しかし、まだ右も左も分からない新入社員をひとりにするなど無謀というもの。 仕事に慣れるまでは、昼休憩や休日などに関しては、直属の上司と同じサイクルで動くことが決まった。 その日も当然、上司である青柳(あおやぎ)さんと一緒に、13時に食堂へ向かった。 「お前もドライ売場の社員なんだから、ゆくゆくはチーフ、果ては食品部門全てを担う食品副店長を目指すことになる。よほどのことがない限りな。 今はドライ売場だけ担当しているが、パンもデイリーも精肉も鮮魚も食品部に含まれるからには、全てに目を光らせなければならない。 今の内から視野を広げておくことが大切だ」 少し気の早い青柳さんのレクチャーを受けながら、僕たちは食券を食堂のお姉さんに渡す。 「あらぁ青柳くん、今日も良い男っぷりねぇ。目の保養になるわぁ。ほらこれ、にしん。1尾サービスしちゃう!」 「有り難う御座います、平内さん。いいか、不破。上は『売り上げを作れ』と言うが、本当に大事なのは粗利だ。粗利あっての黒字だからな」 「ですね。経営学で習いました」 「あらあら、前途有望な子を連れているのね。キミには、つみれを2個サービスしちゃう」 「え? あ、ありがとうございます」 勝手に増えていくトレーの中身を携え、僕と青柳さんは適当に空いている席に座った。 「……って、カレーににしん? ラーメンにつみれ?」 「よくあることだ。気にするな」 よくあることだって? これが日常茶飯事なのだろうか。どこかずれている青柳さんと食堂のお姉さんである。 青柳さんは、にしんを福神漬と一緒に食べながら、尚も講義を開いてくれる。昼休憩だというのに、わざわざ熱心に。 恐らく早く僕に巣立って欲しい一心に違いない。その期待に応えなければと、僕はラーメン丼の横にメモ帳とペンを置いた。 青柳さんは既にドライのチーフ職に就いており、有能な社員だと周りは言っていた。彼から得るものはきっと多いだろう。 「……辛さが足りないな」 ルーを舐めた青柳さんが、しかめ面で呟く。徐にテーブルに置かれた七味を満遍なく振りかける。明らかにかけ過ぎだ。 「……よし」 メモ帳には書かなかった。だがインパクトが強過ぎて、勉強より真っ先に頭に入ってしまった。“青柳さん、味覚音痴、或いは辛党”。 青柳さんからレクチャーを受けながらラーメンを食べ終わった頃、食堂の中央から騒がしい声が聞こえて来た。 どうやら複数の男が言い合っているらしい。その喧しさに、ふと顔をあげた。 「おい、不破。ちゃんと聞いてるのか?」 青柳さんはそんな僕をたしなめた。この騒ぎに気付いていないのだろうか。 「すみません。ちょっと騒がしくて、青柳さんの声が聞き取りにくいんです」 僕の言葉でやっと青柳さんは気付いたようだ。食堂の騒がしさに。 僕たちは同じ場所を見ていた。即ち、威勢のいい啖呵を切る、江戸っ子みたいな男性社員がいる方向を。 「ふざけんな! 俺が許すわけねーだろ!?」 「別にお前の彼女じゃないだろ! 何でいちいちお前の許可がいる!?」 白昼堂々、痴話喧嘩でもしているのだろうか。だとしても、こんな所で泥沼劇を繰り広げるなんて、どういう神経をしているんだ。 「誰かと思えば、またあいつか……」 青柳さんは、やれやれと眉間に皺を寄せると、問題のテーブルへと近付いて行った。 「杣庄! またお前か。今度は何をやってるんだ」 熱が入っているのか、杣庄と呼ばれた男は片足を椅子の上に置いていた。青柳さんはその足をぺし、と叩く。 「青柳さん……。いや、こいつがさー……」 杣庄と呼ばれた男は、言い争っていた相手に親指を向けて文句を垂れた。 「透子を合コンの頭数にしたいなんて言うから」 「合コンぐらい許してやれよ」 呆れた口調で青柳さんは言った。 「しかも頭数なんだろ? 頭数という言い方もどうかと思うが」 今度は『合コンに誘いたい』と言っていた男の方に、青柳さんは呆れた視線を向ける。 「なんにせよ、合コンなんて言語道断だ。俺が許さねぇ。つーかそんなに合コンの人数が足りないなら、俺の妹連れてきてやるよ!」 「お前の妹になんざ来て貰わなくてもいいっつーの! どうせお前に似て、がさつで口が悪いんだろ!?」 「んだとこのやろー、言わせておけば……」 「やめておけ、杣庄。……それよりお前、まだあんな約束を守ってるのか?」 「守りますよ! 当然でしょ!? ちっ、これじゃあ埒があかねーや」 杣庄なにがしとやらは、やにわに靴を脱ぐと椅子の上に立ち上がる。両手を口元に宛がい、メガホンよろしく大声で宣言した。 「いいか! 潮透子に手ェ出すなよ!? 特に今年の新入社員! まだ言ってなかったから、今言っておくぜ!」 入社2年目以上の社員はハイハイと空返事をし、中には失笑を漏らす者さえいた。 潮透子? そもそも誰なんだ、そのひとは。 青柳さんに尋ねると、「この店にいる女性社員だ」と教えてくれた。 「どこの部署の人なんですか?」 「POSオペレータだ」 それなら知っている。昨日挨拶回りをして会ったばかりだ。 心の中で、あんな女性のどこがいいんだか、と杣庄さんの趣味の悪さを笑った。 印象としては、つっけんどんな女性だった。そんな彼女が恋愛対象だって? 論外だ。 「あの杣庄さんというひとは、よほどその潮さんという方が好きなんですね」 「……あぁ、凄く凄く大切にしているようだ。さ、行くぞ」 青柳さんは興味がないのか席に戻ると、空になったトレーを持って返却場に向かった。 ただ、その途中で一度だけ振り返り、「不破」と言う。 「何ですか?」 「杣庄の肩を持つわけではないが、俺からも上司命令だ。潮透子、彼女だけは好きになるなよ。……あぁ、あと、八女芙蓉もな」 「……え?」 そんな上司命令があっていいのか? そもそも、どうしてそんな牽制を? それも、僕に? けれどもここで釘を刺すからには、ユナイソン岐阜店のなかに『暗黙の了解』というやつが存在しているのだろう。 (潮透子の彼氏が杣庄さんで、八女芙蓉なる女性の彼氏が青柳さんってことなのかな) そう考えるのが一番スマートだろう。だとしても引っ掛かるものがあった。 (待てよ? 確か杣庄さん、『別にお前の彼女じゃないだろ』って突っ込まれてなかったっけ? 一方的な片想いなのか?) 何にせよ、どちらの女性にもなびかない自信があったので、「了解です」とだけ答えておいた。 入社早々、面倒ごとにだけは巻き込まれたくない。絶対に。 *** 午後の業務が始まった。僕と青柳さんは、従業員入口に近い≪検収≫と書かれた部屋にいた。これから伝票に関して学ぶのだ。 「伝票は、」 と発し始めた青柳さんのスマホが鳴り出す。僕に断りを入れると、青柳さんは相手と短いやり取りをし、再び謝罪を口にした。 「悪いな、不破。名古屋からのヘルプで、明日のチラシに掲載するマフィンの発注を落としたんだそうだ。 幸いウチに在庫があるから、今から名古屋店まで持って行く」 「発注を落としておいて、取りに来ない、ですって? それ、おかしくないですか?」 「今日は人手が足りないんだそうだ。困った時はお互い様。だろ?」 僕が押し黙っていると、青柳さんは真剣な顔でゆっくりと、言い聞かせるようにこう言った。 「不破、いいか? 人は多かれ少なかれ、誰だってミスをする。本当だ。ミスをしない人間なんて、絶対にいない。絶、対、だ。 人間は過ちを犯す。その間違いを指摘し、叱る人間も必要だが、軌道修正する人間もまた必要なんだ。つまり仲間だ。分かるな? 俺たちはユナイソンという大きなチームであり、仲間だ。だから助ける。俺は助ける力を持っているから、困った人を助けることが出来る」 「……助ける力? つまり、この場合は……『マフィンと言う名の在庫』?」 「そうだ」 「……青柳さんの説明は、すっごく分かりにくいです」 「2日目で上司否定とは、お前は器がでかいな。俺なんて1週間かかったぞ」 「普通、上司は否定しちゃいけないものだと思うんですが」 「どの世界にも、無能な先人はいるものだ」 2日目にして部下から指導に難アリのレッテルを貼られたと思い込んでいる青柳さんはしかし、大して気分を害した様子もなく伝票の作成に取り掛かる。 椅子にも座らず中腰のまま作業する青柳さんの背中に、僕は声をかけた。 「でも、青柳さんの心って、めちゃくちゃ温かいから、すっごく尊敬します」 「ん? 上司認定? 俺もまだまだ捨てたもんじゃないな」 満更でもないようで、青柳さんはにやりと笑う。 「言ってて下さい。ところでその間、僕はどうすればいいですか? 一緒に名古屋行きですか?」 「いや、俺ひとりで十分だ。残っててくれ。だがバイト経験者とはいえ新米社員だからなぁ。 売り場に出て面倒を起こされても困るし……。そうだな、POSルームに行って、売価変更作業を教えてもらってこい」 「それは僕に必要なスキルですか? 何のために専門のオペレータがいるんです?」 「何でも一通り出来ないと、後々困るのはお前だぞ。せめて必要最小限だけでも押さえておけ。 いつ、どんな店に飛ばされるか分からん。POSオペレータがいない店だってあるんだからな」 「そうなんですね。分かりました。POSルームに向かいます」 「……あぁ、不破。行くのはいいが、俺がさっき言ったこと。あれだけは忘れるなよ」 青柳さんは至極真面目な顔で、厳かに念を押すのだった。 *** 1階の従業員通路をひたすら歩き続けると、やがて左手に≪POS ROOM≫なる部屋が見えてきた。 この部屋に入るにはドアに付随しているテンキーパネルにパスワードを入力しなければならないとのことだった。 青柳チーフに教えてもらった数字、0806を入力するとドアが開き、同時に中から騒がしい声が耳に入ってきた。 「香椎! 根も葉もない噂ばっかり立てないでったら! 名誉棄損で訴えるわよ?」 「あらん。芙蓉ってば何を怒ってるの? 香椎の言うことに間違いなんてないわ」 「いいこと? 私が小学生低学年男子相手に色目を使ったなんてデマ、これ以上吹聴しないでちょうだい。 迷子が無事に母親と合流できたから、よかったわねという意味でウインクしただけじゃない」 「じゃああんなにも色っぽいウインクしないでくれる? 芙蓉」 「ぷっ」 「そこ! 黛! 笑うな!」 「ごめんあそばせ」 空気を読む。取り敢えず、ここは退散すべきシーンだった。 踵を返した瞬間、「あらぁ?」という調子外れの声さえなければ、僕の人生は以後も安泰だったに違いない。 だが、出会ってしまった。と言うより、見付かってしまった。 「新入社員の不破犬君クンね? どこ行くの?」 「うそ。もう新入社員の名前覚えたの? さすが、歩く辞書の香椎ね」 「いぬき? 変わった名前ねぇ。わんちゃんか。おいで~、わんちゃん」 帰りたい。 一体何なんだ、ここは。女性だけで井戸端会議でもしているのか。 「……不破犬君です。青柳さんからPOSの指導を請うよう言われました」 「1時間でPOSの何を教えろって言うのかしら。青柳の無茶振りはいまだに健在なのね。 ま、しょうがない。青柳に免じて仕事しますか。ほら、香椎、黛、馬渕も。さっさと出て行って。昼休憩は終わりよ」 どこの売り場担当なのだろうか? 呼ばれた3人は部屋を出て行くと、右に左にと散って行った。 「そして私は今から事務所で作業、っと。そんなわけで潮! わんちゃんはアンタに任せるわ」 「ちょ……八女チーフ!?」 それまでどんなに騒がしくても机に向かってPC作業をしていた潮さんが、慌てて八女さんを振り返る。 「ゲラ刷りからチラシのアイテムを書き出してくる作業と、新人クンへのレクチャー。どっちが良い?」 そう問われた潮さんの顔はどちちも嫌だと語っていた。それでも後者を選んだようで、八女さんの机から椅子を引き出すと、僕に座るよう促す。 「じゃあ、後はよろしくねー」 香椎という人が指摘した八女さんの悩殺ウインクは、確かに魅力的ではあった。 *** 「人に教えるのは初めてなので、分かりにくいかも知れませんが」 潮さんはそう前置きすると、椅子を若干左に寄せた。もっと近くに(つまり、右だ)寄れと言うことらしい。 1つの画面を2人で見ながら、勉強会は始まった。 「これはパソコンです」 「……」 「あっ、じゃなくて、値段を変更する為のソフトを搭載したパソコン、です」 これまた、えらい端折りようだ。僕は前途多難を予感した。 「岐阜店には今、このパソコンが3台あります。八女チーフのが親機。子機はこれと、あっちの1台。 この機械で、1階から3階全ての直営フロアの売価を変更する事が出来ます。というか、それが仕事です」 「……まぁ、そうでしょうね」 「例えば、この万歩計。先ほどスポーツ売り場の方から、この商品の登録を頼まれました。 商品の新規登録の場合、トップ画面からまず≪売価変更≫をクリックします。次に≪単品登録≫をクリック。 バーコードをこのハンドスキャナで読み取って、次に商品の名前を入力。ここはレシートに明記される箇所なので気を付けて下さい。 次に群番。スポーツ売り場は223群。品種は24。値段は2,280円」 とにかく無愛想な女性だった。ただひたすら淡々と話し、相手の理解度を無視して自分のペースで先に進む。やりにくい事この上ない。 僕が開始15分でリタイアしたことを知らない潮さんは、尚も説明し続ける。僕は潮さんの横顔を観察することにした。要は、暇だったのだ。 「このM&Mは厄介で」 潮さんの髪は栗色で、緩やかに波打っていて(毎日コテであてているのだろうか?)、それを片結びにして纏めている。 左手首にはシルバーの時計と、同じくシルバーの細いブレスレット。 水色の半袖カッターシャツの上には指定の黒ベストを羽織り、胸は……C? いや、これは……。 「……不破さん?」 「Bかな……」 「Bではなく、Eです」 「E? そんな馬鹿な!」 話が噛み合わないと思ったのだろう。潮さんは僕を見て(正確には、僕の視線の先を見て)、怒りに震える。 「不破……っ、さんっ……!」 「あ……」 「あ、じゃない! どこを見ているのかと思えば……!」 「ほんっとーにごめんなさい」 潮さんの鋭利な視線は、暫く僕を突き刺していた。が、1つ大きな溜息を吐くと、再びレクチャーに戻った。 「……つまり、ここはEです! 忘れずに終了日も入力するように」 今から聞けと言われても、何が何だかさっぱり分からない。 残り時間を確かめる為に、自分の腕時計に視線を這わす。後20分。 すると、その視界に潮さんの足が入って来た。足を組んでいるのでスカートから太股が露わになっている。素敵にエロい。素晴らしい眺めだ。 「一律の場合、2つの入力箇所があるので先に日付を打ちます。その次に値段の方を」 「潮さんって、お幾つですか?」 「入れてから、――仕事に関係ない質問はしないで下さい」 24~26ぐらいだろうか。 潮さんは無意識に足を組み換えた。ワザと? ……いや、絶対無意識だ。というか、シチュエーション的にそう信じたい。 「あっ」 「出力方法は……今度は何ですか?」 「いえ、その部分をもっと詳しく……」 と上手く話をはぐらかしたが、僕が見付けたのは潮さんの脹脛部分のストッキングの伝線である。 小さな切れ込みから、徐々に徐々に上へと綻んでゆく。 (ちょ……ヤバイな、これは……。僕の理性的に) 思わず目を逸らし……「伝線してますよ」と伝えるべきか逡巡し……その言葉を飲み込む為に口元を手で覆い……でも顔が赤らむのは抑えられなくて……。 はぁー、と思わず溜息をついていた。 「……何?」 「何でもありません。POSって難しいなと思いまして」 迷わず即答。この場は取り敢えず、エロスを拝ませて頂くことにする。 潮さんには申し訳ないが、こうして60分のレッスンは終わったのだった。 *** POSルームの電話が鳴り、その電話を取った潮さんは、受話器に戻しながら僕に告げた。 「青柳さんが帰ってみえたそうよ。キリがついたら、ドライのバックヤードまで来るようにって」 「1時間、ありがとうございました。でも実は、開始15分以降は全く聞いていなかったので、近い内にまた教えて下さい」 その言葉を聞いた潮さんが、烈火の如く怒り出したのは言うまでもない。 「4分の1しか聞いてないじゃない! あとの45分間、何を聞いてたの!?」 「潮さんを見てました」 「は!?」 怪訝な顔で、気持ち悪そうに僕を見る潮さんである。 「伝線したストッキングがやらしかったから、ずっと魅入ってました」 「でん……?」 潮さんの目は、僕の視線の先を辿る。 「あっ……あぁーーーーーッ???」 左足の脹脛を見る為に「く」の字に曲げた、 「その格好もエロい」 「エロい、じゃないわよ馬鹿ーっ! な、何!? ずっと知ってたの? ちょ……やっ……嘘でしょー!?」 「御馳走様でした」 「サイッテー! 二度と顔見せないで!」 「それは仕事上ムリですよ」 「どっ、どうしよう、私、ストッキングの替えなんて持ってないわ」 「僕が買って来ますよ。何色です? サンドベージュ? ライトベージュ? チョコレートモカ?」 「あああああんたはストッキングフェチか!? おね……お願いだから、余計なことしないで!」 からかい過ぎたかもしれない。既に潮さんは半べそ状態だった。 その時、ガチャリとドアが開いた。入って来た男に見覚えがあった。昼に大演説をかました男である。 「そ……そましょぉおーーーーー!」 潮さんがその場に蹲り、涙声で男の名を呼ぶ。 杣庄。そうだ、そんな名前だった。あ、でも確かこの男って――。 「……透子を泣かせたのはお前か、糞餓鬼1年。あァ?」 黙っていれば、正統派アイドルとして通用するであろう杣庄さんの端整な顔が、迫力を伴ったお陰で般若に早変わりだ。 あぁ、2日目にして早くも面倒臭いことになった……。まぁ、自業自得だが。 「イエローカード1枚だぞ。3枚目にはどうなるか……分かってンな?」 「あなたが潮さんの彼氏?」 その質問に、相手は絶句した。……何だ? 変なことでも聞いたか? 「恋人? ですよね? だから怒ってるんでしょう?」 杣庄さんと潮さんを交互に見ると、2人とも困った顔をしていた。が、 「~~~あぁ、そうだ。だから、透子には手を出すな!」 まるで、『そう答えるのが一番手っ取り早いから』とばかりに杣庄さんは言い切る。 腑に落ちないものを感じたものの、ここは引いた方がいいという直感に従うことにした。 情報はその内、勝手に集まってくるだろう。それに、いま敵を作るのは利口とは言えない。 「分かりました。あと潮さん、すみませんでした。改めてまた、お詫びに来ますので」 「詫びなんざいい。それより二度と来ンな」 杣庄さんのアッカンベーを無視し、僕は憂い顔の潮さんを見納めると、青柳さんが待つバックヤードへと歩を歩めた。 この岐阜店、……色々とおかしいぞ? 改2018.11.07 改2023.02.16 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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2023.02.16 17:32:29
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