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GINZA BE☆SEE

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取材 萩野達雄

5.七海人ViewHotels なみんちゅによるHeiz会員インタビュー

無線通信システムズ 萩野達雄(はぎのたつお)


「萩野さんは何をしゃべっているのかさっぱりわからない。」これが僕の最初の印象だった。
自分のことを「言葉」で説明するのに不得意な人は多いが、それに加えてしゃべり方も速い(汗)。
さらに困ったことに「どんな仕事をされていたのですか?」と聞けば「通信インフラの構築です。」と
意味不明の専門用語が飛び出す。

しかし今回初めて正式にインタビューさせて頂いたことで、彼が考えていることが実によくわかった。
先月、萩野さんの記事が初めて通信専門誌「RF ワールド」の創刊号に掲載されたとき、HeizML
(Heiz 会員向けのメーリングリスト)でかなりの数のメンバーから祝辞があったことに少々驚いていた。
私がHeiz のメンバーになる以前にHeiz 交流会のプレゼンテーションで萩野さんが語った想いを受け取り、
それをずっと覚えていた人たちからの祝辞だったのだな・・ということ
がインタビューを終えて理解できた。


経歴


萩野さんは約20年間、通信業界で主に「通信インフラのシステムプラニング」という仕事に携わってきた。
日本中に基地局と呼ばれるアンテナを建て、それらを統括するセンター集中局なるものを造り、全てを回線で結ぶ・・・
という100億円規模の電波網を使って、国民が電波を日常生活で利用できる基礎設備(インフラ)のようなものを作る
「設計図を描くような仕事」なのだそうだ。イメージが湧いただろうか?(笑)

でも今私が述べたように違う言葉にわかりやすく置き換えたい、と言うと「正確なニュアンスが伝わらない」と萩野さんに叱られる。
直接エンドユーザーに関わることはなく、エンドユーザーのために見えないところでの仕事、専門用語に精通した
専門家同士の間でやりとりをしていく仕事なのだ。あと通信業界で顕著なことは、とにかく開発に時間がかかるということ。
例えば昨年あたりからよく耳にする「ワンセグ」は約20年前に開発がスタートしてやっと今に至るという。
では現在開発がスタートされたものが実用化されるのは2028年になるってこと? 気の遠くなるような話だ。


フラッシュバルブは少年時代


萩野さんは小学校6年生のとき、「アマチュア無線」に出会い、魂バルブがフラッシュしてしまったという。
家族で旅行をすることが多くて長距離移動の辛さを知っていたので「無線を繋げるだけで“南米”の人とも
話しができるんだ・・(南米は地球の裏側で遠いという意味で使用)」ということに衝撃を受けたそうだ。
無線のルールは唯一つ。「CQ」=「誰か答えて」という言葉で始める、ということだけだ。小学校時代に病弱で友達が少なかった
という萩野さん。「初めて(無線で)出会った人でもすぐ友達になれる。」というところが萩野少年の心を掴んだのかもしれない。

中学2年の時、免許を取得し4万円の国内用無線機を親に買ってもらった。
使っていくうちに「こんなに簡単な技術で凄いことができるんだな。」と益々通信の世界に魅せられていった。
中学高校とアマチュア無線部に所属、秋葉原電気街に出没し、パーツを買ってきては自分で無線機を組み立て、
その頃から「無線の仕事ができたら楽しいだろうな。」という夢を持ち始めた。大学も然るべくして「通信工学」の道に
進んだ萩野さんはここでひとつの壁にぶつかる。「通信の世界ってこんなに数字だらけなんだ~」。元々、モノが造れればよい・・
というハード面の楽しさがモティベーションになっていただけに理論中心の授業はとても苦しかったらしい。


業界の現状


会社員を辞めるにはやはり原因というものがある。萩野さんの話を聞いて「どの業界も同じだ・・」と絶句せずにはいられなかった。
数年前から大手企業が開発時に考えるのは「コストダウン」と「商品短寿命化」になってきたと言う。
金をかけずにすぐに壊れるようなものを作っては高く売る。壊れたら「直すより新しいのを買ったほうが安いですよ」
とまたすぐ壊れる(予定の)ものを売る・・いうことを繰り返すということだ。その目的は?もちろん「営利」である。

例えば、携帯電話の新しい1機種を作ろうとする時に、そのソフト開発に従事するプログラマーが100人から200人
必要とされるらしい。そして現在、そのプログラマーは主に「派遣社員」でまかなうのが業界の常識になっているという。
なぜか? 正社員よりコストが安く済むから、というのが表向きな理由だろうけれども、
モデルチェンジをする度にユーザーが食いつく携帯電話業界の現状ゆえに効率を最大限に上げ、
納期を短く設定しプログラマーが徹夜に徹夜を重ねなければならない状況に追い込む。
その結果、鬱病、過労、などで倒れて辞めていく者が続出するから「取替え」が効く派遣社員を使っている・・・というのが
現場の肌感覚のようだ。

栄養のあるものを三食きちっと食べて、睡眠もしっかり取って、余暇も少しは楽しみながら
人間は人間らしく生きなくてはいけないと萩野さんは言う。
しかしそれらを全てを平気で奪い、ノルマだけに追われる生活をプログラマーに強いる企業。
これではまるで最初から鬱・過労で倒れることを計算に入れて使えるまで使って「倒れたらポイ、ハイ取替え」ができる
派遣社員を、人間としてではなく「駒扱い」した企業戦略のように見えてもおかしくないと思うのは私だけだろうか?


技術者魂



こういう考え方に世の中全体が傾いてきたおかげで「技術者」が「技術者のプライド」を保てなくなってきたと萩野さんは分析している。
「技術者は世の中をよくするもの、そして長く大切に使ってもらえるものを作るためならどんなことでもやりますよ。」と
萩野さんは強く語る。現状ではよい技術者は育たないと嘆く気持ちが痛いほどわかる。
そんな中、会社員生活に別れを告げた萩野さんは今、こんなことを考えている。

○ 本来の意味で技術者を生かす施設(ラボ・学校)を作れないか?
○ エンドユーザーのニーズに直接アクセスできないか?

「萩野学校」で育った技術者が「萩野ラボ」でエンドユーザーのニーズに対応する商品を開発する。
これは丈夫で長持ちで本当に使ってもらえる人の役に立つ「通信商品」を作っ
ていけるシステムを作ることであり、
技術者が技術者をじっくり育て、技術者が技術者として生まれてきてよかった、と思えるような「場」作りに他ならない。

これが萩野さんの魂からの願いである。そしてこれはまた次の闘いの序章に過ぎない。
「萩野ラボ」から「ヒト・モノ大量消費社会」への逆襲を目論むその戦略は次回のインタビューで。


インタビューの数日後、実はネジの変換コネクターを探すため、私は秋葉原のごちゃっとしたエリアを周った。
ある店に入ってそういうのがあるか尋ねると店長がとても嬉しそうな顔をして「これだよ」と出してくれた。
「マイクスタンドの先に撮影用照明機材を取りつけたいんだけどこれで大丈夫かな?」と聞くと、

「マイクスタンドネジは3/8, 5/8,5/12 の3種類あるから計った方がいいね。持って帰って合わせてみて。合わなかったら交換するよ。」

とサラリと言うではないか。無駄な話しは一切なく、必要なことを的確に教えてくれる。
古き良き時代の秋葉原はこういう感じの技術者が多かったのだろう・・なんて思いながら、
僕はその店長の姿に萩野さんの言う「技術者魂」を垣間見たような気がした。

掲載記事「モバイルWiMAX が目指すもの」 RF ワールド( CQ 出版)

■萩野達雄(はぎの・たつお)
無線通信システムズ代表取締役社長


取材/文 七條正(しちじょう・ただし)
Heiz銀座広報グループBE☆SEE/七海人(なみんちゅ)代表
七海人HPはコチラ

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