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GINZA BE☆SEE

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宮崎さん

【スピードイエローのRSR】

第1話 出会い
・・・磨きのハードボイルド 首都高バトル編

text= TAKAO MIYAZAKI
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今日俺は、久しぶりにS氏に会った。9ヶ月ぶりのこと。
忙しく世界中を駆け巡る彼。
そんな彼と彼の奥様、そして俺と俺の恋人の4人で銀座のとあるレストランで食事をした。
彼の愛車は、ポルシェ911GT2。
公道を走ることを許された、最強のレーシング・ポルシェ。
水平対向6気筒エンジンをツインターボで武装、軽く500馬力をひねり出す、まさにモンスター。
彼が海外滞在の際には、我が手元で我が愛車とともにガレージに収まる。
すでに良く知り尽くしたスーパーマシン。
S氏は、俺より4歳年上の元レーシングドライバー。
ルマン24時間レースやFIA・GT選手権、カレラカップなどで栄光を欲しいままにしてきた男。
彼との出会いは、10数年前にさかのぼる。



時はバブル真っ只中。
当時26歳の俺は、首都高最速の男として君臨していた。
俺の愛車は、白のDR30スカイラインRS-X。
通称“鉄仮面”と呼ばれ、クールなフェイスとスクエアなフォルムのクルマ。
2世代前のスカイラインで、最新鋭のクルマたちに比べ、いささか時代遅れの感は否めなかった。 
元来パワフルだが、重く、曲がらず、止まらないクルマ。
だがそいつをフルチューンし、FJ20型直列4気筒2リッターDOHC+シングルターボから
約300馬力をしぼり出すマシンに仕立て上げた。
そして、並居る最新鋭のマシンたちを尻目に毎週土曜日の深夜にバトルを繰り広げ、王座をキープし続けていた。
それが、この俺のプライド。

とある土曜のこと。
深夜1時頃から首都高環状線を走り始めた。
あいにくその夜は、腕利きのライバルたちが不在で、小粒なヤツばかり。
ヤツらと一緒に走ってやったり、単独でタイムアタックしたりしてそれなりに楽しんでいた。
“今夜はバトルはなさそうだな”

3時頃、池袋の自宅に向け、首都高環状線外回りを谷町から霞ヶ関方面に向かって走行していたその時、
背後から突然、パッシングしながら1台のクルマが迫ってきた。そして疾風のごとくこの俺を左側からパスし、
あっという間にいなくなった!
「何だ、今のヤツ」
“いくらクルージングしているとはいえ、こちらも100キロほどで走ってるんだ。
いったいヤツは、このコンクリートに囲まれたデンジャラスな首都高を何キロで突っ走ってやがるのか?”
あっけにとられるのも束の間、俺のからだと神経は瞬時にそいつの追撃体制に入った。
まるで獲物を見つけた猛獣のように。

フル加速で約3分ほど、竹橋あたりですぐにヤツのテールに追いついた。
まるで俺を待っていたかのよう。
「ポルシェだ」
すぐに何者かわかった。しかもリアに誇らしげに輝くエンブレムとビッグウイング。
「RSRか!」
そいつは、ポルシェが誇る最新鋭にして最強のレーシングマシン。
ポルシェ911カレラRSRだった。
横浜ナンバーの、スピードイエローのRSR。
「ちょっとまてよ、あれはレーシングマシンのはず。なんでナンバーがついてストリートのこの首都高を走ってるのか?
 そう簡単に手に入るものではないはず。まあ、でもそんなの関係ねえや。相手にとって不足はない。
とんだおもしろいハプニングだ。なんだか今夜は楽しくなりそうだ!」

この先は銀座・汐留エリア。俺が最も得意とする場所。
幾多のライバルをここで、必ず仕留めてきた。
アップダウンあり、高速S字あり、陸橋の橋脚を両側からはさみ込むようなコーナーあり。危険極まりない場所。
仕留めるポイントは銀座出口を過ぎた先の、高速S字。
左側からの合流もあり、腕もさることながら、度胸が必要となるところ。
「さあいくぞ、相棒よ。今夜も頼むぜ!」
アクセルを踏む足に力を込める。
ヤツもすぐに気付き、加速を始めた。
“まずはお手並み拝見といこう。じっくりテールに張り付いてウデを見てやろうじゃないか”
俺にとって、ここはホーム。王者としてのプライドを持って必ず仕留めてみせる。
「さあ、行くぞ!」
ぴったりRSRのテールに張り付いたまま、江戸橋JCTの右コーナーをクリアし、
いよいよ銀座・汐留エリアに差し掛かった。
下りストレートをフルスピードでテール・トゥ・ノーズのまま駆け降り、
フルブレーキングしながらアップダウンのある左コーナーに飛び込む。
“上手い、乱れない”
並みのヤツなら俺のプレッシャーに負け、ここで大きく姿勢を乱すか、怖じ気づくはず。
その先の、陸橋の橋脚を過ぎて、例の、難易度の高い撃墜ポイント、高速S字が迫る。
両車フルブレーキング。上がるタイヤスモーク。 
もつれながら突っ込む2台。
しかし、そこも見事なブレーキングと美しいラインでクリアしていくRSR。
“うーん、ほんとに上手い!”
見とれてしまうほど。
そしてトンネルを過ぎて、浜崎橋JCTへの高速区間。
ここで一気に左から並びかけ、まくってやろうとしたその時、信じられないことが起こった。
RSRが突如、最加速を始めた。
「え、うそ。今までのは全開じゃなかったのか!」
信じられないほどの疾さ。地を蹴飛ばすような猛烈な加速。
まるでロケットエンジンに火が入ったかのよう。
どんどん小さくなっていくポルシェのテール。
左手にレインボーブリッジの見える浜崎橋あたりまでは何とかテールが見えていたが、そのあたりですっかり見失ってしまった。

“俺の鉄仮面でも300馬力は出てるはず。なのにいとも簡単にこの俺を置いていくとは、
いったいあのRSRとは、どれほどのマシンなのか? 何馬力あるのか? どうなってんだ?”


結局、その夜は二度とあのスピードイエローのRSRに会うことはなかった。

つづく



  文・宮崎考雄(みやざき・たかお)

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■宮崎考雄プロフィール
20代はプロギタリストとしてロック・シーンの第一線で活躍する傍ら、峠や首都高などで「バトル」をしまくっていた・・という超ハードボイルド系職人。現在は車のことを知り尽くしたキャリアを生かし、トータルに車のサポートをする「車の磨き屋」美ワークスの代表を務める。

■LINK
美ワークス
・美ワークスのホームページ。かっちょいいクルマがいっぱい!

■Heiz度100(内訳:キ度80・TQ度100・BQ度100・銀座度100・EDGE度120)

相変わらずぶっとんでますなー。でも宮崎さんの車にはもう乗れないかも~(怖くて・・汗)(編集部)

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Heiz銀座広報誌【新価値通信BE☆SEE】 第6号


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