22。何回するんだ・この女。 いつもとは違う時間に部屋に帰ると、ろくなことにならないな。 ・・凄く喉が渇いてる。何か飲もう。 どきどきする。 さっきよりも明確に聞こえてくる、ひくつく声。 網戸を開けたまま、キッチンへ歩いていくけど、声が気になって仕方ない。 冷蔵庫に入れてあったペリエを飲む。 これが・・アルコールだったなら。 あの声を聞きながら簡単に抜けるのに。そう、酔いのせいにして。 盗み聞きしているみたいで嫌になる。 でも感じてきてしまって困る。 「・・・ア」 どきんとする。 なんて細い声なんだ。 駄々漏れに早く気がつけよ、相手の男も気がつかないのか、それとも聞かせたいのか・・? 「ミカ。」 はっきりと野太い声が聞こえた。 ミカ。そうですか、ミカさんなんだ。 でも、駄々漏れですよ、何とかして。 本気で自慰したくなる。 堪えたくても無理。ざらざらした想いがこみ上げて吐きそう。 網戸を静かに閉めてみた。 それでも衣服をたくし上げるような音が聞こえそう。 もっと耳をすませば聞こえてしまいそう。 ああ。期待しかけいる、これではいけないな。 俺は風呂場で抜いてみた。 熱気で充満するこの匂い。 わびしいもので。 お隣さんは外に喘ぎ声が駄々漏れで。 俺は精液をお湯と一緒に排水溝に流し込む。 どんな女のひとだろう。 一度、顔が見れたら。 風呂から上がると、22時。 隣は静かになっていた。 そう、いつもこのくらいの時間に帰ると隣はいつも静かだった。 テレビを消してベッドに座ると、静けさがより伝わってくる。 寝るか。 そう思った時だ。 「うっ・。」 壁の向こうから声が聞こえた。まさか。まだセックスしてるの? 何時間しているんだよ。一体どんな女だよ。 「キョウ、痛かった?ごめん。」 は? ミカじゃないの? それにこの声はさっきの男の声とは違うぞ! ・・どうなってるんだ? 悶々としながら迎えた朝。 珍しく8時には部屋を出ないと講義に間に合わない時間割だったので、眠い目を擦りながらドアを開ける。 鍵・・鍵。ポケットをまさぐっていたら隣のドアが勢いよく開いた。 「え!」 思わず声が出た。 住人の顔が見れる。 鍵を持つ手が震えた。 どんなひとだろう。あの声が耳に蘇る。どきどきする。 後姿が見えた。 毛先のはねた、ゆるいパーマの茶色い髪が目に飛び込んできた。 黒いTシャツ。そのプリントはナンバーナインのレア物か? え?まさか・・ナンバーナインはメンズしか作ってないし・・。 やけにタイトなジーンズ。 細い腰。 小さなお尻。 細すぎるけど、いけるからだかもしれない。 背がやけに高いな。俺が187CMだけど・・その俺より10CM低いくらいで。 女の人にしては背が高い・・。 どんな顔なんだろう。 見続けてしまう。 隣の住人はドアを閉めて鍵をかけると。見ていた俺に気がついた。 「おはようさん。」 長い前髪が隠してるけど、大きな二重の瞳に釘付けになった。 アヒルのように曲げた口元、何よりも小さな顔だち。 すごく可愛いのに・・・・・喉仏がある。えっ!! 「鍵、落ちてるで。」 指された足元に、鍵を見つけた。 いつの間に落としたんだろう。 「あ、ありがとう。」 「朝やで。しゃきっとせえや。お隣さん。」 前髪を上げたときに見えた、長い睫。透けそうなくらい色素の薄い茶色い瞳。 このひとが・・ミカさん?え・キョウさん?? いや・・男だし。 「あんた・・同じ大学なん。知らんかったわ。お隣さんなんや?」 え、同じ大学?そうなの?? また指してる。 あ、学生証も落としていた。 「ほな。急ぐんで。」 ぺこっと頭を下げて、すたすた歩き出してしまった。 彼の残り香がかすかに漂う。 エンヴィに混じった煙草の匂い。 確かに・・ベランダで煙草を吸っていたのは彼だ。 え。じゃあ。あの声も?あんな声が男でも出るものなのか? 子猫が鳴くような。 かすかに甘い声。 でもそんなことは本人に聞けないし。 途惑いながら俺は、今日のバイトを休むことに決めた。 → 3話へ。 画像提供/optimisuto様 ぽちっと押してくださると励みになりまする♪ ここ。 |