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ヒロガルセカイ。

ヒロガルセカイ。

教えて欲しいんです。1

1.

街を歩けば聞えてくるクリスマスソング。
ああ、楽しみだね~なんて肩を寄せ合う恋人同士。
恋人同士も、そうでないひとも笑顔になる幸せいっぱいの12月。
イルミネーションきらめくクリスマスのディスプレーで人々が沸き立つ中、
進学塾はそうでもないご様子です。

さすが師走。
その名のとおり、ここ瀧本塾では年末年始は休みたい教師が授業を駆け足します。
生徒も年末年始は休みたい。のんびりしたい。
おとしだまを貰って、食べて寝て。夢の寝正月なんてしてみたい。
それぞれの思惑が交差して、いつも以上に教室はヒートアップしていますよ。

「やけに元気だな」
受付嬢ならぬ・・受付男子のアヤがつまらなそうに呟きます。
「こんなに寒いのに、子供はいいなあ。平気で」
「俺たちも子供だろう?アヤ~」
自分は受付男子ではないのに、やけにアヤの傍から離れないのは瀧本ノブ。
アヤの同級生で、どうやらアヤにほれているのですが。
残念、その想いは届きません。
「そうだけどさ。あいつらとは違うでしょ」
あいつらとは生徒です・・。
アヤは可愛い顔して、言葉使いがよろしくないのです。
なのに受付男子?
しかも今日のいでたちは漆黒のベロアのスーツに細かいドットのネクタイ。
頬づえをついた指に鈍く光るガボールのスカルのリング。
受付にしては派手すぎるチョイスですが、誰からもお咎めなし。

それどころか・・注目を集めているようです。さすが受付男子。

「新垣さん。うちの親から」
授業の終った生徒がいそいそと四角い包みを渡します。
「なにこれ」
「昨日まで、俺休んでいたでしょう?USJに行ってきたんですよ。
うちの親がお土産を渡せって・・」
やけにもじもじ。テレまくり。

「で、誰あて?」
鈍すぎるアヤ。

「新垣さんです!」
飛びつかんばかりに生徒が身を乗り出します。
それを横でノブが、しっしっと遠ざけます。
「はい、用が済んだらとっとと帰れ!親が迎えにきているぞ!」
しかし子供も負けません。
「なんだよノブ!おまえの家が経営している塾だからって偉そうだ!」
「そーだそーだ!ノブのやつ生意気だ」
「なんだとコラ」
年下の中学生相手に本気を出すノブをほおって、アヤがべりべり包みを開けました。

「・・クッキー?」アヤが呆然としています。
サンタ姿のスヌーピーのイラストが目に眩しい。
あまりのファンシーさに、毒されている様子です。
「新垣さん、食べてくださいね。で、カードあったでしょ?それそれ」
アヤが添えられた小さなカードを見てみると・・なにか数字が書いてあ・・

「早く帰りなさい。親御さんが待っているぞ」
ぴっ、とカードを取り上げながら低い声がしました。
「あ、はい!失礼します!」
いきなり生徒が背筋を正してお辞儀をすると、一目散に駆け出しました。
なんとノブまで逃げ出しましたよ。
目元涼しげな長身。
アヤだけが怯まないその香り。
見上げなくてもわかります。瀧本志信さん、アヤのお相手です。

「怖いんじゃないの」
アヤが呆れています。
「教師っていうのは怖がられてなんぼだろう」
大人気ない教師がカードを見ています。
兄といい、弟といい。子供相手にムキになるのは血筋ですか。
「・・たいした子供だな。あなどれん」
ムカっときたみたい。
「俺宛でしょう」
「見なかったことにしなさい」
自分のポケットに入れて立ち去ろうとします。

「なにそれ」
アヤが負けずと袖を引張ります。
「アヤ?」
「見なかったことにしますから、これ。食べてくださいね?」
「・・なんだこれ」
志信さんも眉間に皺を寄せています。
「俺、顔の書いてあるものは食べれないんです。怖くて」

「アヤにも怖いものがあるのか」
志信さんが噴出しました。
「向うところ敵なしなのにな。いつも」
その志信さんをじっと見て、

「そうでもないですよ」

意味ありげにアヤが呟きます。

それは昨日、偶然見かけた光景のせいでした。


→→2話に続きます。


「凍結オレンジ。」続編です。

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