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ヒロガルセカイ。

ヒロガルセカイ。

あなたがいるから。(アヤ高校卒業編)

あなたがいるから。1 (アヤ 高校卒業編)

夕方を過ぎると国道をブイブイ走り回る暴走族がいます。
ご近所の迷惑はそっちのけで、我が物顔にゆらゆら運転。
パトカーが注意を呼びかけてもパラリラパラリラ~~。
「警察があんな調子でどうするんだ」
市民が今日も眠れぬ夜を迎えそうな、そのとき。

真っ黒いベンツが猛スピードで走ってきました。
暴走族を一気に追い抜くと、急に向きを変えてベンツを横付けにして進行を妨害しました。
「なんだあ!?」
少年がいきり立っても相手はベンツ。
大声は出せても、手にした鉄パイプが震えています。

「調子こいとるなあ、坊主ども」
ベンツから降りてきたのは黒いスーツの男たち。
「どこかのヤクザに、こずかいでももらっているか?」
煙草を銜えた男が聞いてきました。
こうして国道を占拠して、平気な顔をしているこのひとたち。
このひとたちこそヤクザでしょう?
「こずかいなんて、ヤクザからもらうわけが無いだろう!」
特攻服をきているものの足がガクガクしています。

「なら、話は早いな」
煙草を銜えていた男が、少年に近寄ります。
警戒して鉄パイプを振り上げますが「俺は極西会のものだ」
「ひっ!」あわてて数歩、さがりました。
遠巻きに見ていた少年たちが固まります。
極西会といえば、このあたりもシマにしているヤクザです。

「おまえら、来週このあたりで何が行われるか知っているか」
「ら・・来週・・?」
「とある高校で卒業式が執り行われる。
その際に無駄な走行をして式の妨害をした場合、人生を棒に振ることになる。
わかったか?わかったら、さっさと家に帰れ」
男は煙草をもみ消します。
「これは脅しではないからな。忠告だ」
ヤクザの一言で街の静寂が戻りました。
そして国道の渋滞も、じきに解消されました。

高校の卒業式にヤクザがからんでいる??
そんな噂が流れ始めました。


「オヤジサン!花輪はいくつ用意しましょうか」
幹部が膝をついています。
「派手に行こう。六つくらいでどうだ。校門を飾るには丁度よかろう。
送り主は瀧本にでもしておけ。間違っても組の名を出すんじゃないぞ」
「はい、わかりました!」
急いで幹部が携帯をかけています。

「花束はいかがしましょう!」
別の幹部がやってきました。
「そうだな・・大きなものを準備しよう」
大叔父がにこにこしながら、デジカメを見ています。
保存されているのは・・・制服姿のアヤです。
アヤの視線は遠くを見ています、まさにこれは隠し撮りです。
こんなものが本人に知れたら、口も聞いてもらえないでしょう。

これでは、本当に孫を愛でる爺ですよ。

「カサブランカを入れろ。薔薇もいいな。真っ赤なやつだ。
派手にしたいところだが肝心のアヤちゃんが花に隠れてはいけない。
そのあたりは考えろ」
「オヤジサン、アヤさんならそこらの花に負けませんよ」
「いいことを言う!」
こんなのほほんな雰囲気ですが、日本の西側を牛耳る極西会の親分です。
もとより、最前線には組長は出向かないものなので表面的には穏やか。

それでも幹部には、この組長の鋭い目線が怖いのです。
極西会の頂点に君臨する組長。
他の組と闘争を繰り返して、今のシマを取ったのは組長。
今の自分たちの生活があるのは、こうして仕事にありつけるのは組長のおかげ。
組長のために精根尽くして働く。これが仁義です。



大叔父の準備を知らず、アヤは今日も塾の受付のバイトです。
志望校に合格を決めた生徒たちが出て行くので、塾としては次の生徒を確保したいところです。

勧誘に積極的ではない、受付男子。
誰もいないと思って、伸びをしていました。

「新垣さん。俺の後輩にこの塾を紹介しておくよ」
不意に声をかけられました。
「ありがとう」
「あの・・また遊びに来てもいいかな?」
「いいんじゃない?俺はいないけど」
「え」
「このバイト、もうすぐ辞めるんだ」
やれやれ、とため息をつくと。この生徒はアヤの手を握り締めます。
「もう会えなくなるの?」
「は?」
「俺、新垣さんが」

「新垣さんが、なんだ?」
志信さんが呆れた顔で立っていました。
「手を握るな。うちの受付は安くないぞ」
恥かしくなったのか、生徒がアヤの手を離しました。
「新垣も簡単に手を握らせるな。おまえは次期生徒の確保に勤しめばいい」
「はい」
ちらりと志信さんの顔を見ました。
<生徒の前でマトモに顔を見るな>と言われているので、最近は唇ばかりに視線が走ります。
しかし、これは・・志信さんからしてみるとアヤの瞳が潤んだように見えてしまって・・。
ヤバイと感じたのか、生徒を追っ払うと
「新垣アヤ」
「は?」
「卒業式はいつだった」
「来週です」
パンフをがさがさとまとめながら、事務的に答えます。
「誰かに教えていないだろうな」
「聞かれてはいませんが。最近、俺の学校の周りをベンツがうろうろしていますよ」
「・・学校側が話したか」
塾の前にも、気づけばベンツが数台。
次期組長と姐さんを、万が一の事態から守ろうと苦労性の舎弟たちが努力しているのでしょうか。
しかし、威圧感のあるベンツです。
これでは生徒が寄り付きませんよ。
「営業妨害だ」
志信さんが携帯を取り出して、大叔父に話をつけています。

「え。うちのものじゃない?」
アヤがその声に反応して、外に飛び出します。
するとベンツが急発進して立ち去りました。
「どこの組だ?」
志信さんが忌々しげです。

組同士の、シマをめぐる戦いが始まっていました。
アヤの卒業式が近いのに・・!



戦いの予感の卒業式編です。
でもシリアスにはなれない「凍結オレンジ。」です。また遊んでいただけると嬉しいです。

2話へ~。  
2話です。


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