7. 2/19UP7.「随分と信用されているんだね、ノブって人は」 屋上に上がる階段は、陽の光が届きません。 ふたり並んで歩くのがやっとの狭い階段をアヤが先に上がっていました。 「新垣の親友なんだ?」 男子の呼びかけは、ことごとくスルー。 ドアの手前で 「おまえの言うことは信じていないよ」 急にアヤが振り返るので、男子は驚いて一段降りました。 「あ、新垣?」 腰に手を当てて見下ろしてくるアヤに、男子は言葉を飲み込みます。 「何のために、屋上に連れて行こうとした?」 「へえ?ただのお人形だと思ったら、噛み付きそうだな」 男子は薄ら笑いを浮かべて「兄貴にいい手土産ができた」 顎の真下から拳が迫ります。 のけぞってよけると「馬鹿じゃないの」 アヤがど~ん、と男子を突き飛ばしました。 バランスを崩した体が、ゴツゴツと階段にぶつかりながら落ちていきます。 「・・痛っ」 15段の階段を見事に体全体で下りていった男子が、顔を上げました。 「新垣!マジ許さねえ」 ポケットからサバイバルナイフを取り出しています。 「まず、鼻を拭け。気色が悪い」 アヤが壁にもたれながら様子を見ています。 「もしかして、おまえ・・チンピラ?」 ただの不良にしては、性質が悪いのです。 「何だ、こいつ。・・マジで極西会のものかよ?」 男子がよろけながら階段を上がろうとします。 極西会の名前が出たので、アヤの表情が一変します。 ヤクザです。 それも、学生ならば末端のものでしょう。 先ほどの先生の話を思い出します、暴走族・・まさか。 「新垣を拉致れば・・」 先ほどの階段落ちで頭も打ったのでしょう、ぐらぐらと揺れています。 手で押さえて、荒い息を吐くと なんと自分の腕にナイフを突き立てて、痛みで思考を明確にしようとしていますよ。 尋常ではありません。 「新垣を拉致れば、誠信会にいい土産になる」 「竹中!」 アヤが名前を思い出しました。 瀧本の家に現れたあの男と同じ苗字、これは危険です。 しかし逃げ場の無い階段、ドアを開ければ屋上。 <飛び道具も持たないで> あの男の声が蘇りそうです、 「あらが・・」 竹中が急に倒れました。 「アヤ~!」 なんと、ノブが竹中のうなじのあたりをパンチして、意識を失わせていました。 「アヤ、アヤ、大丈夫か?」 そして竹中を踏みつけてまで、アヤの元に駆け上がるノブ・・。 「ノブ、どうして」 アヤが驚いていると携帯を取り出します。 「兄貴から連絡があったんだ。アヤを見張ってろって。 なのに、いきなり見失ってまいった~~」 ノブは大騒ぎです。 「すごく探したんだよ、俺。アヤにもしものことがあったら、って思うと、もう」 ノブは携帯をぎゅっと握りました。 「・・アヤが兄貴のものでも、俺はアヤが好きだから!アヤを護るから」 ノブの目から、大きな粒がぽとんと落ちました。 「俺はアヤが、ずっとアヤのことが・・」 胸に抱えていた想いが、涙とともにあふれ出しました。 ああ、ご両親がノブにすべてを話したのでしょう・・。 アヤはどうしていいのか、わからなくて・・。 ハンカチを出して、ノブの瞳を擦りました。 「いたい!」 目に入ったようです。ますます涙をためてしまいました。 「あ、悪い」 アヤに悪気は無いのですが。 「・・アヤが姐さんか。これから、ずっと一緒にいられるんだよな? はは、それなら、今までよりも近いのになあ・・。 アヤ?俺たちが絶対にアヤを死なせないからな? あんな我侭な兄貴で、アヤには不似合いだけど、頼むな?」 ノブはぽろぽろと涙をこぼしてしまいました。 「ノブ、あのさ、」 アヤがつられて泣きそうです。しかし・・ 「・・アヤの手料理が食えたりするんだよね?姐さんだもんね?!」 「は?」 「姐さんは、組のものの面倒をみるんだよ。俺の好物を教えておくから、作ってね、アヤ~!」 さっきまで泣いていたくせに、ノブがはしゃいだ声です。 アヤは両手でがっちり抱きつかれて、ふらつきます。 「俺は料理なんてしないよ!」 ぶつぶつ言いながら、アヤにも笑顔が戻りました。 「・・新垣アヤさん。ノブさん。迎えに来ましたよ」 むすっと腕組みしている華奢な少年がいます。 「ほら、早くこいつも車に積んで!」 「要さんに命令されたくないな~」「アヤさんがいいな~」 舎弟たちが竹中を運び出します。 「要?」 アヤが驚くのも無理はありません。 年末の挨拶以来ですが、学校と言う明るい場所には似つかわしくない妙な色気のある子です・・。 年が変わっても、要の淫乱な性格は変わっていないのかもしれません。 「どうしてここにいる?」 「・・アヤさんが僕のスーツを返してくれないからですよ」 相変わらず、飴でも舐めているような巻き舌の話し方です。 「どうして、僕があなたの舎弟になるのかなあ・・」 「舎弟?」 「人選ミス」 ノブも呆れる人選のようです・・。 ヤクザの香りがしつつ8話へ~。 今回は長くてすみません・・8話です。 「末端の人間が、組長を動かそうなんて大それたことだ」 ジャンル別一覧
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