15. アヤの卒業式。 4/2UP15.在校生の拍手に迎えられて、晴れがましく壇上を見ると。 ひときわ目立つ白の紋付袴。そしてその後ろに並んだ舎弟たち。 「・・・あそこは校長とPTAの会長しか座れないんじゃないの・・?」 気づいたアヤに、じろっと睨まれていますが、大叔父はひるむことなく盛大な拍手を送っています。 勿論、舎弟たちも拍手喝采。 皆がアヤを笑顔で見ています。 それぞれが、アヤの親のような気分なのでしょう。 早くもハンカチを握るものもいます。 「あ、大叔父」 ノブが勘違いして手を振っています。 この子は空気を読めません・・。 ああ、もうだめだ。高校生活の締めくくりなのに、ヤクザが絡んできた。 椅子に腰掛けたアヤが脱力して、足を組んでいます。 アヤは出席番号が2番なので、通路に近い席です。 担任の先生がアヤの足に気がついて、おろせ~と手で合図しますが、アヤはしらんぷり。 しかし、アヤをさらに脱力させる声が聞えてきました。 「こんなに生徒さんがいる中でも。アヤさん、ダントツに可愛いですね!」 「オヤジサン!なんだかこっちがドキドキしてきましたよ~」 舎弟たちが喜んでいる会話がマイクに拾われています・・。 恥かしいこと、この上なし。 さすがに、アヤもムカッときましたが怒鳴るわけにもいかず。 「・・新垣。あのひとたち、知り合い?」 隣の男子に肘でつつかれてしまいました。 「アヤって、おまえだろう・・?」 「呼ぶなって言っているのに」 呟きながらアヤが壇上を睨みます。 通じません。舎弟たちが笑顔で頷いています。 「あいつら・・」 思わず握った拳が震えます。 終ったら一列に並べて叱ってやる、アヤは怒りを心にしまいこむと顔を上げました。 この式を無事に終えるのを待っている人がいるのです。 アヤの人生は、もうアヤだけのものではなくなりました。 式を終えたら、あのひとは大人扱いしてくれるのでしょうか? 在校生の答辞を受けて、卒業生代表が答辞を読み上げています。 静寂な雰囲気の中で淡々と語られる言葉は、式の重さを感じさせます。 この学校に通いながら、出会えた友人や先生、いろいろなことが走馬灯のように駆け巡ります。 そして拍手の渦の中、全員が万感の思いで学校を去るときがきました。 壇上で熱烈な拍手を送る大叔父と、舎弟たちに混じって、保護者席からも拍手が鳴り止みません。 ふと見れば・・・・志信さんのご両親。 ノブも卒業ですからね、ノブのためかと思いきや。 感極まって卒業生の席に駆け込んできましたよ! 「アヤちゃん!今日から頑張りなさいよ? 志信さんがあなたをいじめたら、いつでも言いなさい。私が仕返しして差し上げます」 「アヤくん、まあ・・なんだ? いつでも遊びに来なさいよ!志信はいいから。あいつは、組にどっぷり浸かればいいのさ」 それが長男に対して言う言葉でしょうか、ご両親。 「母さん?俺はここだよ?」 ノブが手を振っても、見向きもしません。 「これからよろしくね、アヤちゃん」 涙を流しながら、お母様はとうとうアヤを抱き締めてしまいました。 「あら?・・いい匂いがしますね、アヤちゃん? 志信さんと同じ香水なの?これは、どういうことかしら」 女性ならではの追求にアヤがひるみそうです。 そこにノブが助け舟です、「いいじゃないか!アヤは・・アヤは兄貴の・・」 しかし号泣。使えない子です。 アヤにしがみついています。 瀧本の家のものに翻弄されかけていますよ。 わいわいと騒がしくなった会場のドアが開け放たれました。 「ご卒業おめでとうございます」 野太い声が響き渡りました。怪しすぎる黒いスーツの男たちがお辞儀をしています。一気に会場の空気がクールダウン。 「行くぞ、アヤちゃん」 大叔父がアヤを連れ出します。 「待ちきれなくてイライラしている奴がいるからな。その笑顔を独り占めしようとする大ばか者だ」 大叔父が苦々しい顔をしていますが、 「独り占めされたいのは俺のほうです」 アヤが駆け出しました。 在校生が拍手を送る中、黒いスーツの舎弟たちがお辞儀をしたまま動かない花道を駆け抜けて。 桜の花びらの舞う校庭に出ると見慣れたセンチュリーが校門をふさいでいます。 「なんてひとだ」 アヤが噴出しました。 携帯を取り出して「今行きますから」 「そこにいなさい。迎えに行くよ」 エンジン音がします。 たしかに校門の幅は広いです、しかし・・・・・・・センチュリーが猛進してくる図はさすがのアヤも予想できませんでした。 学びの校舎に、ヤクザの愛車が侵入です。これは暴走族より性質が悪い。 教師たちも圧巻のセンチュリーから志信さんが降りてきました。 どん、と車にもたれかかってアヤをまっすぐ見つめてきます。 「何をしているのですか、あなたは」 アヤが腕を組んで睨んでいますよ。 「待ちきれなくてね、さらいに来た」 「いつも一緒にいるのに?」 「独り占めしたいと思ってはいけないかな?」 言いながら志信さんが運転席に乗り込みました。 「両思いです。俺もあなたを独り占めしたいから」 アヤがセンチュリーに乗り込みます。 砂埃を上げながら、センチュリーが再び校門を目指します。 その後を追うように舎弟たちがベンツに乗り込みます。 「志信さん!この後は宴会ですからね!アヤさんと逃げないでくださいよ!!」 紀章がベンツを発進させます、「逃げるに決まっているだろう、追うぞ!」 「私は子育てに自信を取り戻しました」 志信さんのお母さんが誇らしげです。 「あんなキザでとんでもないことをする息子だけれど、芯の強そうな相手を捕まえましたよ。 どこで見つけたんだか、やんちゃな子ですね」 大叔父が目元を押さえながら、 「やんちゃすぎて、言うことを聞かないが。そこが可愛くてたまらないよ」 「孫を愛でる爺ですわね」 「失礼なひとだなあ、相変わらず」 皮肉の飛ばしあいが始まるのを防いだのは舎弟たち。 「オヤジサン!アヤさんが逃げましたよ!早く追いかけませんと」 「よし。まずはあいつらを宴会の席に座らせないとな!」 極西会、春の抗争はアヤの奪還です。 「どこに行くんですか?」 「さあな」 「戻ったら大叔父に怒られますよ?」 「今日くらい、本当に独り占めさせてくれ」 ハンドルを握る志信さんを見ながら足を組み替えました。 「好きにしてください」 その笑顔も独り占めしてやってください。 おわり。 アヤにお付き合いくださってありがとうございました!! この子を幸せにしたい親心が、こんなに長く続けてしまいました。 すみません。 そして、感謝の気持でいっぱいです。 続きは・・・・・予定があります。まだ書くのか!って感じかな。 こそこそ書きます。 本編開始までの番外編「生意気で好み。」 ジャンル別一覧
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