1377056 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

ヒロガルセカイ。

ヒロガルセカイ。

15. アヤの卒業式。 4/2UP

15.

在校生の拍手に迎えられて、晴れがましく壇上を見ると。
ひときわ目立つ白の紋付袴。そしてその後ろに並んだ舎弟たち。
「・・・あそこは校長とPTAの会長しか座れないんじゃないの・・?」
気づいたアヤに、じろっと睨まれていますが、大叔父はひるむことなく盛大な拍手を送っています。
勿論、舎弟たちも拍手喝采。
皆がアヤを笑顔で見ています。
それぞれが、アヤの親のような気分なのでしょう。
早くもハンカチを握るものもいます。

「あ、大叔父」
ノブが勘違いして手を振っています。
この子は空気を読めません・・。


ああ、もうだめだ。高校生活の締めくくりなのに、ヤクザが絡んできた。
椅子に腰掛けたアヤが脱力して、足を組んでいます。
アヤは出席番号が2番なので、通路に近い席です。
担任の先生がアヤの足に気がついて、おろせ~と手で合図しますが、アヤはしらんぷり。

しかし、アヤをさらに脱力させる声が聞えてきました。

「こんなに生徒さんがいる中でも。アヤさん、ダントツに可愛いですね!」
「オヤジサン!なんだかこっちがドキドキしてきましたよ~」

舎弟たちが喜んでいる会話がマイクに拾われています・・。
恥かしいこと、この上なし。
さすがに、アヤもムカッときましたが怒鳴るわけにもいかず。
「・・新垣。あのひとたち、知り合い?」
隣の男子に肘でつつかれてしまいました。
「アヤって、おまえだろう・・?」
「呼ぶなって言っているのに」
呟きながらアヤが壇上を睨みます。

通じません。舎弟たちが笑顔で頷いています。
「あいつら・・」
思わず握った拳が震えます。
終ったら一列に並べて叱ってやる、アヤは怒りを心にしまいこむと顔を上げました。
この式を無事に終えるのを待っている人がいるのです。
アヤの人生は、もうアヤだけのものではなくなりました。
式を終えたら、あのひとは大人扱いしてくれるのでしょうか?

在校生の答辞を受けて、卒業生代表が答辞を読み上げています。
静寂な雰囲気の中で淡々と語られる言葉は、式の重さを感じさせます。
この学校に通いながら、出会えた友人や先生、いろいろなことが走馬灯のように駆け巡ります。
そして拍手の渦の中、全員が万感の思いで学校を去るときがきました。

壇上で熱烈な拍手を送る大叔父と、舎弟たちに混じって、保護者席からも拍手が鳴り止みません。
ふと見れば・・・・志信さんのご両親。
ノブも卒業ですからね、ノブのためかと思いきや。
感極まって卒業生の席に駆け込んできましたよ!
「アヤちゃん!今日から頑張りなさいよ? 
志信さんがあなたをいじめたら、いつでも言いなさい。私が仕返しして差し上げます」
「アヤくん、まあ・・なんだ?
いつでも遊びに来なさいよ!志信はいいから。あいつは、組にどっぷり浸かればいいのさ」
それが長男に対して言う言葉でしょうか、ご両親。
「母さん?俺はここだよ?」
ノブが手を振っても、見向きもしません。
「これからよろしくね、アヤちゃん」
涙を流しながら、お母様はとうとうアヤを抱き締めてしまいました。
「あら?・・いい匂いがしますね、アヤちゃん?
志信さんと同じ香水なの?これは、どういうことかしら」

女性ならではの追求にアヤがひるみそうです。
そこにノブが助け舟です、「いいじゃないか!アヤは・・アヤは兄貴の・・」
しかし号泣。使えない子です。
アヤにしがみついています。
瀧本の家のものに翻弄されかけていますよ。

わいわいと騒がしくなった会場のドアが開け放たれました。
「ご卒業おめでとうございます」
野太い声が響き渡りました。怪しすぎる黒いスーツの男たちがお辞儀をしています。一気に会場の空気がクールダウン。

「行くぞ、アヤちゃん」
大叔父がアヤを連れ出します。
「待ちきれなくてイライラしている奴がいるからな。その笑顔を独り占めしようとする大ばか者だ」
大叔父が苦々しい顔をしていますが、

「独り占めされたいのは俺のほうです」
アヤが駆け出しました。
在校生が拍手を送る中、黒いスーツの舎弟たちがお辞儀をしたまま動かない花道を駆け抜けて。
桜の花びらの舞う校庭に出ると見慣れたセンチュリーが校門をふさいでいます。

「なんてひとだ」
アヤが噴出しました。
携帯を取り出して「今行きますから」
「そこにいなさい。迎えに行くよ」
エンジン音がします。
たしかに校門の幅は広いです、しかし・・・・・・・センチュリーが猛進してくる図はさすがのアヤも予想できませんでした。
学びの校舎に、ヤクザの愛車が侵入です。これは暴走族より性質が悪い。
教師たちも圧巻のセンチュリーから志信さんが降りてきました。
どん、と車にもたれかかってアヤをまっすぐ見つめてきます。

「何をしているのですか、あなたは」
アヤが腕を組んで睨んでいますよ。
「待ちきれなくてね、さらいに来た」

「いつも一緒にいるのに?」
「独り占めしたいと思ってはいけないかな?」
言いながら志信さんが運転席に乗り込みました。

「両思いです。俺もあなたを独り占めしたいから」
アヤがセンチュリーに乗り込みます。
砂埃を上げながら、センチュリーが再び校門を目指します。

その後を追うように舎弟たちがベンツに乗り込みます。
「志信さん!この後は宴会ですからね!アヤさんと逃げないでくださいよ!!」
紀章がベンツを発進させます、「逃げるに決まっているだろう、追うぞ!」

「私は子育てに自信を取り戻しました」
志信さんのお母さんが誇らしげです。
「あんなキザでとんでもないことをする息子だけれど、芯の強そうな相手を捕まえましたよ。
どこで見つけたんだか、やんちゃな子ですね」
大叔父が目元を押さえながら、
「やんちゃすぎて、言うことを聞かないが。そこが可愛くてたまらないよ」
「孫を愛でる爺ですわね」
「失礼なひとだなあ、相変わらず」

皮肉の飛ばしあいが始まるのを防いだのは舎弟たち。
「オヤジサン!アヤさんが逃げましたよ!早く追いかけませんと」
「よし。まずはあいつらを宴会の席に座らせないとな!」
極西会、春の抗争はアヤの奪還です。


「どこに行くんですか?」
「さあな」
「戻ったら大叔父に怒られますよ?」
「今日くらい、本当に独り占めさせてくれ」
ハンドルを握る志信さんを見ながら足を組み替えました。

「好きにしてください」

その笑顔も独り占めしてやってください。


おわり。


拍手


アヤにお付き合いくださってありがとうございました!!
この子を幸せにしたい親心が、こんなに長く続けてしまいました。
すみません。
そして、感謝の気持でいっぱいです。


続きは・・・・・予定があります。まだ書くのか!って感じかな。
こそこそ書きます。

本編開始までの番外編「生意気で好み。」

















© Rakuten Group, Inc.