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ヒロガルセカイ。

ヒロガルセカイ。

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朝田の店で働くホストの出勤時間は16時頃。
経営者の朝田と、店で1番人気のホストの直生はお店の開店19時ぎりぎりに出勤します。

ところが今日は、まだ15時だというのに、お店に向かう直生の姿がありました。
黒い髪は前下がりのボブ。白い肌に切れ長の瞳。
ピアスやネックレスはつけません。ホストにしては地味ですが。
白いコートを翻して、足早に地下歩道を抜けていきます。

この界隈は1番街・2番街・・とそれぞれにゲートがあり、その街へ行くには
決められた時間しか通行が許可されません。
ゲートの開いていない街を抜けるには、わざわざ地下に降りて地下歩道と呼ばれるトンネルを歩いていくしかありません。
ただし・特例があります。その街のお店の経営者はゲート管理人に連絡さえすればいつでも通行可能です。


3番街のあたりを地下で抜けた頃に、直生は朝田の携帯でゲート管理人に連絡をとります。
「5番ゲートを開放してください。」
ぴ。と直生が携帯を閉じたら。

地鳴りのように ごごごご と鉄の重い扉がゆっくりと開いていきます。


「あら。珍しい。5番街がもう開くよ。」
「まだ15時過ぎだろう?朝田さんかね?」
地上では他の街で退屈を紛らわせていた人々が5番街のゲートの開く音に注目しています。
「朝田さん?いや、直生だろうよ。」
地下歩道の出口から出てきた直生の姿に、こころときめく者、手を振る者、さまざまですが。
皆がお店の開店を今か今か・と待ち焦がれているのはよくわかります。
直生はその人達に笑顔で会釈して、朝田の鍵を使ってお店に入りました。

まだ真っ暗な店内で直生は再び携帯をかけます。
「今、店に着きました。荷物はどこに置いたんですか?」
あわただしく鞄の中から納品伝票を取り出します。
「・・え?朝田さんが直接受け取った?」


「その髪型では直生とかぶるのよね。」
朝田は美容師にNO.02の髪を切らせていました。
「そうね。トップを短めにして。前髪は長めに残してね。毛先をはねさせるとどう?」
NO.02の髪を触りながらたずねます。
「この髪は少し くせがありますから。自然にきまりますよ。」
「あら。いいじゃない。」
朝田はご満悦です。
「うちは髪の長いホストしかいなかったから。新鮮よ。」
「もともと・器量のいい子ですから。きっと何でも似合いますよ。」
美容師が笑顔で しゃくしゃくと髪を切っていきます。
子・・?気がついていないようですね。
「あら。その子、機械よ?」
朝田が告げると、本気で驚いて手を止めました。
「えっ!!・・・・よく出来ていますね、最新型ですか!」
「旧タイプだけどね。お値打ちだわ、この容姿は。」

「美容師の兄さん。髪が目に入った。」
機械が目をこすります。
「あ・ああ。ごめんね。」
「あなたが目を開けているからよ。この口の利き方だけは治さないとね。」
「この機械に名前はついていますか、朝田さん。」
美容師が興味をしめしたようです。
「あら、なんで?」
「このままでいいんじゃないかな?と思って。生意気な口の利き方が面白いから。
 他のお客さんに宣伝してあげますよ。だから名前をきいておきたいんです。」
「うーん?なにか書いてあったかしら?あの説明書に、」
何も無かった気がします。
説明にもならない紙でしたから。

「俺は咲楽って言うんですよ。」
機械がしゃべりだしました。
「は・名前が さくら?」
美容師もびっくりして聞き返します。
「さくら なの?あなた。あの花の桜?」
「やっぱり面白いですね、この子は。覚えやすいな。」

「前の持ち主が俺につけた名前です。咲楽って、よんでください。」
見上げた瞳の力は、普通の人間が強い決意をしたときの様子となにひとつ変わりませんでした。

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