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テーマ:ショートショート。(573)
カテゴリ:ショートショート
「もしも、もう一度結婚するなら、どんな人がいい?」 高校の同級生のY子がコーヒーカップを撫でるようにして きいた。 「そうねえ、なにはともあれ、出世する人がいいわ。 うちのみたいに小市民的でふがいのないのは、 もう結構だわね。 定年前だっていうのに、万年課長じゃあねえ」 地方公務員の夫を持ったH美が、退屈そうに言う。 「あんたんとこは、喰いっぱぐれがないからいいじゃないのよ。 うちなんか、50歳でリストラだもんね、民間企業はきびしいのよ。 新聞記者なんて、若いうちはいいけど、中年になったら 使い捨てだもんね」 Y子の夫は大手新聞社をリストラになって、現在は父親のやっていた 赤新聞のあとを継いで、まがりなりにも経営している。 「私もやっぱり出世する人がいいわ、リストラ組は願い下げだわ。 M子の旦那はO省の事務次官だから、公用車で送り迎えだって。 それに天皇・皇后主催の園遊会にまで招待されるんだってよ」 そこで、二人はため息まじりにうなずき合った。 「いいわねえ、園遊会に招待されるなんて、ねえ。 女房は、やっぱり色留袖を着て行くのかしら?」 「でしょう、ね。 私だって園遊会に一度くらい招待されたいわ」 女も中高年ともなれば、その程度の夢しかなくなるだ。 喫茶店の外は秋雨が涙のようにほろほろと降り続いて、 一向にやみそうもなかった。 (完)
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Last updated
2006年10月07日 15時22分00秒
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