俳ジャッ句　　　　　

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• 髪解けば胸ほぐれゆく秋ざくら　　古賀まり子

    　　　　　　　髪解けば胸ほぐれゆく秋ざくら　　古賀まり子 　秋ざくらとはコスモスのことです。　なにか面白くないことがあって、いらいらしたときは、　結っている髪をほどくと、すっきりしたという女ならではの　感概なのですね。　これは男の方にはわかってもらえない微妙な感覚なのです。　それにしても、コスモスの花がすこし頼りなげに風に揺れて　いるのは、しみじみと秋の風情を感じますね。

  2006年09月19日

• 風花楼より　　７

    　藤丸姐さんは、殺された矢野さんのお座敷に出ていたから、　とりわけしつこく事情聴取されたんだよ。　まるで犯人扱いだわさ。　警察で２泊３日も足止めをくって、さんざんしぼりあげられたのさ、　まったく気の毒さね。　なぜなら、矢野さんが藤丸姐さんを落籍せたいって、　言い出したんだけども、本人は好きな人があって、　いやがっていたんだよ。　その好きな人っていうのが、姐さんの幼馴染ですし職人の　留三っていってね、いずれは所帯を持つって言い交わした仲　だったのさ。　決定的な証拠がないっていうんで、いったんは帰されはしたんだ　けどね。　そこは口さがない花街のことさね。　犯人は藤丸姐さんだっていう噂がぱーっと広がってしまってね。　おかげで姐さんは、すっかりしょげかえってしまったわさ。　当たり前だわね。　２月２７日の明け方から出た戒厳令のおかげで、まともに外出さえ　できない状態なんだ。　言ってみれば、監禁されたも同然なんだよ。　赤坂の花街はすっかり灯が消えたみたいになっちまってね。　芸者衆はあがったりだよ。　暇をもてあまして、もっぱら噂話に熱中したってわけさ。　だから、ますます藤丸姐さんは、いたたまれなくなっちまった。　　　　(続く)　　　

  2006年09月18日

• 淋しさや野分やむとき海の音

    　　　　　　　　淋しさや野分やむとき海の音　　松根東洋城 　野分とは、台風のことなのですが、不安がいつしか淋しさに　かわってしまい、やりきれないこともありますね。　台風が行ってしまってからも、吹き返す風の音がすさまじく、　海鳴りが轟音のようにとどろくのも、身のおきどころがないくらいに　淋しく、むなしいものです。 　

  2006年09月17日

• ちいさなつぶやき

    　台風が日本海に抜けたというのに、今なお強い雨風が　やみそうにありません。　時折ごーっという突風が巻き上がるように吹いて、不安に　なります。　子供のころ嵐のなかを父が出かけたのを、祈るような思いで　夜通し眠らないで待っていたことがありました。　大人になってからも、よくそのころの自分の不安な気持ちを　思い出したものでした。　被害にあわれた方々には、本当にお気の毒です。　こころからお見舞い申し上げます。

  2006年09月17日

• ちいさなつぶやき

    　自分を変えることなんて　できないのでしょうか？　変身願望ってあるものですね。　私は、自分の子供くらいの世代に生まれ変わって　みたいと思うことがあります。　そして過去の自分ができなかった生き方を　もう一度やり直してみたいと思うのです。　もしも、変身することが出来たならば　あの人と人生をやり直してみたいのです。　そんなことは、出来ない相談なのに　むなしいけれども　性懲りもなく　生き直してみたいとせつに思うのです。 

  2006年09月17日

• 秋風や殺すにたらぬ人ひとり

    　　　　　　秋風や殺すにたらぬ人ひとり　　　西島麦南 　２０代の頃にこの句に出会った時は、頭をがーんと　なぐられたような衝撃を受けたものでした。　｢ひと｣を｢女｣と置き換えると、もっとわかりやすいと　思います。　｢私にそむいていった、あの女を恋しいとも、また　憎いとも思うわけではないが・・・｣　と、麦南は書いてはいますが、それにしても　鮮烈な句ではありませんか？　一篇の物語が書けそうなドラマチックな句ですね。　明日は、この句をもとにしてショートショートに　挑戦してみましょうかしら・・・　

  2006年09月16日

• 千夏の誰かおしえて！

    　近頃、楽天に異変がおこっているとは思いませんか？　たぶん偶然なんでしょうが、大潮のようにゲストさんが　どっと押し寄せて来ていたんですが、最近あまりなくなり　ました。　その波のようなゲストさんは、ある決まった時間帯に　押し寄せてくるのです。　私のブログの場合、早朝が多かったのです。　fc2とかdionとかのゲストさんなんですが・・・　それが近頃ぱったりなくなりました。　これは、私のところが面白くないからかしら、とも　考えてみたのですが・・・　それとも、楽天になにかの事情でゲストが大量に　入りにくくなったせいなのでしょうか？　どなたか教えていただけませんか？！ 

  2006年09月16日

• わが恋や秋風渡る中にあり

    　　　　　　　わが恋や秋風渡る中にあり　　　鈴木真砂女 　秋風が心地よく吹いております。　｢この恋もずいぶん古くなったものだが、秋風の渡る中で　今もって健在｣　と真砂女は書いております。　ちなみに、この相手とは、いくつか年下の元将校。　妻子があるために、彼の死に目にも会えなかった真砂女　でしたが・・・　それでも、家を捨て、夫を捨ててまで貫いた恋でした。　

  2006年09月16日

• ひとり臥てちちろと闇をおなじうす

    　　　　　　　ひとり臥てちちろと闇をおなじうす　　桂　信子 　ちちろとはコオロギのことです。　桂　信子は若い頃に夫に先立たれました。　再婚はせずじまいでしたが、恋をしなかった、と　言えば、うそになるでしょう。　コオロギの鳴く闇のなかで目を見張っている　ひとり身の女の姿は、哀れさを通り越して　おかしみさえ感じるのは、私だけでしょうか？

  2006年09月14日

• 千夏のモノローグ　　６１

    　久々のモノローグです。　１ヶ月ちかくのご無沙汰でした。　小説を書くことに追いまくられて、ついつい遠ざかって　おりました。　たまには、しみじみと感慨をのべるのも、悪くは　ありませんね。　ネットにおける人間関係ですが、顔の見えない、どこの誰かも　わからない相手ではあっても、やはり好き嫌いがでてくるもので、　どうにも好きにはなれない相手もいるものです。　私はもともと好き嫌いがはげしいたちでして、いやなものはいやと　きめてかかる癖があるのです。　いい年をしてお恥ずかしいのですが、いまだにその癖が　なおらないのです。　せっかくコメントをいただいても、どうにも好きにはなれない、　ということが、間々あるもので、そういうときは、無視して　いるしか手がないのでして。　相手も私が好印象を持っていないということが、以心伝心で　わかるらしく、そのうち離れていくものなのですね。　そういう点では、リアルな人間関係よりも、かえってはっきりして　いるのかもしれません。　ネットにおいても、些細なことで行き違いが生じて、険悪な関係に　なることもあるのですね。　なんとか、修復しようとつとめても、うまくいかないで、疎遠に　なってしまうのは、やはり淋しいものですね。　なるべく、よい関係を保つように心がけてはいるのですが。　ネットにおける人間関係をスムーズにするための秘策を　どなたか教えてはくださいませんかしら？　では今日はこの辺で　　　Ｇood luck！　

  2006年09月14日

• 泣きし過去鈴虫飼ひて泣かぬ今

    　　　　　　　　泣きし過去鈴虫飼ひて泣かぬ今　　鈴木真砂女 　｢過去はよく泣いた。浜に出て波を見ながら人知れず　涙を流した。　今はおのれの思うままに生きて涙を忘れた。　人からもらった鈴虫のよく鳴くこと｣　と真砂女は書いています。　ちなみに真砂女が俳人としてみとめられたのは、　７０歳をすぎてからです。　老境になって、ますます華やいだ真砂女に　私は感嘆いたしております。

  2006年09月14日

• 風花楼より　　６

    　なんでも殺された矢野さんは、胸をめった刺しにされて　八百菊の二階の奥座敷で血まみれになって息たえていたんだそうだよ。　数箇所の傷があって、失血死だったそうだ。　見つけたのは、八百菊の古参の仲居だったんだって。　それにしても、物騒な話じゃあないかえ。　明け方に発見されて、すぐさま警察に通報されたらしいが、　なにぶんにも、２・２６事件が起きたその日のことだから、　警察もそれどころの騒ぎじゃない。　後手後手にまわって、３時間もたってから、ようやくご出動って　寸法だ。　２５日から翌日までの間に八百菊に出入りした者は全員　事情聴取ってことになったんだよ。　もちろん私も事情を聞かれたさね。　私のいた置屋は花村っていうんだけど、そこの抱え妓は　皆で６人いた。　その６人ともが八百菊に出入りしていたのさ。　なかでも藤丸姐さんは、当の矢野さんのお座敷に出ていた　ので、しつこく聴取されたよ。　　　　　　　（続く）　　

  2006年09月13日

• 誰がために生くる月日ぞ鉦たたき

    　　　　　誰がために生くる月日ぞ鉦たたき　　桂　信子　　一体自分は誰のために生きているのでしょうか？　夫と呼べる人とてなく、父もなく、子もない。　一人生き残った私はどうしたらいいのでしょうか？　生きていることがたまらなく、むなしく、わびしくって、　居たたまれなくなってしまいます。　鉦たたきの鳴く音だけが、澄きっているのです。

  2006年09月12日

• 手をのせし胸の薄さや今朝の秋

    　　　　　　　手をのせし胸の薄さや今朝の秋　　鈴木真砂女 　｢その頃は４０キロに満たない体重だった。　軽い結核をやった胸は小さくて薄っぺらだったが　胸のなかに燃えるものは、人一倍はげしかった｣　と真砂女は書いています。　夏ぶとんでは、肌寒くなった朝、秋の気配がいちだんと　色濃く感じられるようになりました。 

  2006年09月11日

• 千夏のちょっとひと言

    　ブログ仲間がまた一人やめて行きました。　一生懸命引止めはしたのですが、無駄でした。　仲間が減っていくのは、寂しいことですね。　顔の見えない相手であっても、コメントやメールのやり取りを　繰り返しているうちに、いつのまにか信頼関係ができて、心丈夫に　思えるようになるものです。　その仲間がやめて行くのですから、ねえ。　ブログを書いていて、一番張り合いがあると感じるのは、　コメントでがんばれと、力づけられるときなんですね。　そのおかげで、ブログを続けることができたようなもので、　もしも、コメントがなければ、とおの昔にブログを放り出して　しまっていますからね。　訪問者の皆さん、どうぞ、なんなりとお声をかけてくださいね！　それが私の血となり肉となるのですから。 　

  2006年09月10日

• 風花楼より　　５

    　２．２６事件の翌日、２７日は明け方から戒厳令がしかれちまってね。　事実上外出禁止のところへもって、音曲は一切ご遠慮するってえ　んで、お座敷も休業になっちまってねえ。　私たち芸者衆は商売があがったりさね。　もっとも、私はまだ１８歳だったから、たまに休みになったんで　かえってうれしかったよ。　同朋の小鈴と二人でこっそり裏通りを歩いたりして、おしゃべりするのが　楽しかったものだった。　ところで、２．２６の前夜から未明にかけて、殺人事件が起きちぃまったのさ。　八百菊っていう赤坂じゃあ一番の料亭で、事件があったんだ。　２５日の夕方にゃ私もお座敷があって、八百菊には出向いていたんだよ。　なんでも２６日の明け方になって、事件が発覚したらしい。　殺されたのは、矢野さんていってね、宇都宮の株成金だったのさ。　羽振りがよくって、大盤振る舞いをする割には、きらわれていたよ。　栃木弁まるだしで、しゃべるものだから、野暮天の見本みたいな　客だった。　私たちは、陰で｢栃木げじげじ｣って呼んでいたんだよ。　そのげじげじが、胸をめった刺しにされて死んでいたんだから　おどろくじゃあないか。　　　　　　(続く)　 

  2006年09月10日

• 白桃に人刺すごとく刃を入れて

    　　　　　　　　白桃に人刺すごとく刃を入れて　　鈴木真砂女 　｢人を刺すことなど考えたこともないといったら嘘になるかも　知れない。白桃に刃をいれた。血潮ならぬ甘い果汁が滴る｣　と真砂女は書いています。　実に大胆な句ですね。　人は一生のうちで殺したいほど憎むことだってあるのでは　ないでしょうか？　ただ実行するか、しないか、だけの違いかもしれません。 　

  2006年09月10日

• みづうみの水のつめたき花野かな

    　　　　　　みづうみの水のつめたき花野かな　　日野草城 　秋の気配が色濃くなりました。　湖の水を手ですくってみると、ひやりと冷たいのです。　そんな湖畔の野原には、コスモスをはじめ、名も知れぬ花々が　ひっそりと咲いています。　春の野原とはちがって、秋の花野には、どことなく　寂しさが感じられて、やがて来る冬を予感させる　翳りが見受けられるのです。　

  2006年09月08日

• 萩の風何か急(せ)かるる何ならむ

    　　　　　　萩の風何か急(せ)かるる何ならむ　　水原秋桜子 　萩がひっそりと咲いています。　秋風が立って、萩の花がゆれているのを見て、なぜかしら　じっとしてはいられないような気分になってしまいました。　一体この焦燥感は何なんでしょうか？　秋といえば、人生の秋。　やがて来る老いの哀しみを思わずにはいられないのです。  　

  2006年09月08日

• 風花楼より　　４

    　２．２６事件の当日は、私たち庶民には一体なにがおこったのか、　よくはわからないんだけども、わからないながらも、途方もない　大事件が起きたっていうんで、上を下への大騒ぎでね。　皇道派の将校さんたちが、世直しのために決起したっていう　噂が飛び交ってねえ。　なにしろ赤坂は陸軍さまご用達の土地柄だからね、将校さんたちに　実に好意的でね、昭和のご一新だとかいうものに期待する風潮が　あったことは、たしかだよ。　長橋中尉たちが、日頃寄るとさわると、｢昭和維新｣だのと声高に　話していたのを、この私だってお座敷でなんども耳にしていたものね。　２６日の朝９時頃、まず第一報の号外が出て、霞が関、三宅坂一帯が　皇道派の青年将校がひきいる兵に占拠されたってことだったがね。　小勇姐さんは、　｢やっぱりねえ｣　って、私の顔を見て、ひと言ぽつりとつぶやいた。　｢悪いことがおこらなきゃいいんだけどもねえ｣　って、ため息まじりに、そう言ったんだよね。　姐さんだって、日頃の中尉の様子から予感するものがあった　んだろうね。　中尉の身を案じて姐さんは食事ものどを通らないふうだったよ。　赤坂から霞ヶ関や三宅坂はさして遠くはないのに、それでも、　何がおこっているのやら、わかりゃあしないんだからねえ。　物騒だったら、ありゃしないのさ。　ただ息をひそめて何か、決定的なことが起きることを待っている　といった具合だったよ。　　　　　　　　　　　（続く） 　

  2006年09月08日

• 風花楼より　　３

    　小勇姐さんは、赤坂でも指折りの売れっ子芸者だったんだよ。　そりゃ、きっぷのいい、江戸前の鑑みたいな人だった。　見返り美人って感じの、すっきりとした、実にいい女でねえ。　女から見たって惚れ惚れするほどだったよ。　長橋中尉とは４年越しの仲だったのさ。　もちろん、中尉には、れっきとした奥さんがいたよ。　まだ新婚３ヶ月の新妻がね。　だけど、姐さんは、心底惚れ抜いていたんだ。　中尉が上官命令で結婚したというのを聞いて　私という女がありながら、ってかき口説いちゃあ　いたがね。　将校さんともなれば、ましてや近衛連隊の将校ともなれば、　結婚するにも相手の身元まで調べられるし、軍の許可がいる、　くらいは、姐さんだって百も承知ではいたんだけどね。　そこは、女心っていうもので、当座は私にも、よく愚痴っては　いたがね、長橋の仕打ちはあんまりだ、ってね。　中尉の奥さんは福井の老舗の呉服屋の娘で、上官の親戚の　人だったとかで。　中尉としても断りきれなかったんだろうね。　２．２６事件の当日は、朝から号外がでるは、大変な騒ぎだった。　なんでも岡田啓介首相が叛乱軍将校たちに襲撃されて、殺されたって　いうんで、ね。　もっとも、首相は危機一髪で難をのがれて、首相の義弟松岡大佐が　人違いで射殺されたってえのが真相だったんだけども。　あの日は前夜から灰のような、細かい雪がしんしんと降ってね、　３５年ぶりの大雪だった。　長橋中尉が事件にかかわっているらしい、ってんで、　姐さんは、雪のなかを素足で駆け出したんだよ。　　私もあとを追おうとしたんだけども、なにしろ膝まである大雪だ。　ふつうの下駄じゃあまともに歩けやしない。　とても、ついては行けやしないのさ。　あとで聞くところによると、姐さんは、六本木の大通りまで　行くには行ったけど、それから先は兵隊さんたちにさえぎられて　通せんぼをくらったそうだよ。　　　　　　(続く) 　　 　　 　　　　　　

  2006年09月07日

• 千夏のちょっとひと言！

       　　　　　　　 ｢ 風花楼より｣について 　蛇足ながら、２・２６事件について付け加えさせて　いただくと、昭和１１年のことです。　その当時の日本は、未曾有の不景気で、失業者が　あふれておりました。　生活苦から東北地方などでは娘を芸妓や娼妓に売るといった　現在では信じられない人身売買がまかり通っておりました。　また軍部が幅をきかせていて、やがて太平洋戦争への道を　突き進んで行った暗いご時世だったのです。　どうぞ、そのあたりをご理解いただき、お読みいただければ、　幸いです。 

  2006年09月06日

• 風花楼より　　２

    　私の惚れた人は長橋中尉といってね、２・２６事件の首謀者の　一人として銃殺されたんですよ。　苦みばしっていて、そりゃあ、いい男でしてねえ、そこにいるって　いうだけで絵になる人でしたよ。　で、なれそめはだって？　旦那、野暮は言わないでおくれでないか。　なれそめなんてものじゃないのさ。　まったくの片思いにすぎないのさ、私のね。　だけど、それでも私は真剣に好きだった。　色恋沙汰じゃないんだよ。　そりゃあ、きれいなものさね。　一度だけ長橋中尉が酔っ払って私の耳もとで　ささやいことがあった。　｢小波ちゃん、そのうち恋をしようね｣　ってさ。　やさしく、とろけるようにささやくじゃあないか。　私はまだ１８歳でお酌から芸者になったばかりの頃だったから　純情だった。　｢そんな、小勇姐さんに叱られます｣　って、まともに答えちまったもんだ。　小勇姐さんてえのは。私の姉芸者でね、鉄火肌でならした、　売れっ子だったのさ。　その姐さんが、長橋中尉のいい人だったってわけ。　　　　　　　(続く）  　

  2006年09月05日

• 風花楼より

    　よおく聞いておくんなさいましたね、旦那。　私はこれでも東京うまれの東京育ちでしてね。　葛飾の出でござんすよ。　自慢じゃあないが、高等小学校は出ているんですよ。　おかげで読み書きの一通りくらいはできますのさ。　女郎、女郎って馬鹿にしないでおくんなさいな。　今じゃあ、こんな北陸のさびれた港町に流れ、ながれて、　よりにもよって、こんなしけた女郎屋に落ちては来ましたがね。　風花楼(かざはなろう)だって、名ばかりは情緒があるものの、　ごらんのように、わびしい店でしてねえ、抱え妓が私をいれたって　たった４人じゃあないかえ。　さびしいの、なんのって、話にはなりゃしませんさ。　まあ、それはおいといて、お前のはじめて惚れた男はどんなかって？　ここだけの話ですがね、私の生まれてはじめて惚れた人ってえのが、　ほら、２．２６事件の青年将校で銃殺になったなかの一人だったんですよ。　うそだろって？　いえいえ、これは本当のことなんでしてね。　　　　(続く) 　筆者よりひと言！　　　残花抄の小勇の妹芸者だった女から見た長橋中尉の物語を　　　書いてみようと思います。　　　小勇とはちがった観点から、もう一度２．２６事件を描いて　　　みたかったのです。よろしくおつきあい願います！

  2006年09月05日

• 海荒れのまま暮れわたる秋思かな

    　　　　　　　海荒れのまま暮れわたる秋思かな　　　村田　脩 　事に寄せてしみじみ秋を感じ、物を見てしみじみ秋を　思うことを、｢秋思｣といいます。　人生の寂寥、生存の哀しみから発するところの物思いを　いうのです。　海が荒れているのを見ても、つい物思いにふけってしまうのです。 

  2006年09月05日

• 秋風や書かねば言葉消えやすし

    　　　　　　　秋風や書かねば言葉消えやすし　　野見山朱鳥 　すっかり朝夕涼しくなって、ややもすると肌寒さを感じるほどに　なりました。　秋風が身にしみるようになりました。　とりとめもなくものおもいにふけっていて、ふとした瞬間に考えて　いたことが、まるで煙のように消えてしまうことがあります。　やはり言葉にして、書きとめておかなければ、いけませんね。　

  2006年09月03日

• 海沿の道に灯が点き秋まつり

    　　　　　　　海沿の道に灯が点き秋まつり　　大串　章　　また、あっというまに１年が過ぎて、秋祭りがやって来ました。　朝夕がおどろくほど涼しくなって、夏が行ってしまったんだなあ、　と、ため息がでます。　毎年、祭りの時分になると、もの悲しくなるのは、なぜで　しょうか？　今日は宵山です。　朝から山車の飾りつけがあり、町内の女どもはその飾りつけを　するのが恒例で、私も借り出されます。　北陸一の長祭といわれた当地の祭りも過疎化のために３日だけで　切りあげられて、すっかり淋しくなりました。　 

  2006年09月02日

• 女の秋髪染め上げてうら悲し

    　　　　　　　女の秋髪染め上げてうら悲し　　鈴木真砂女 　髪を染めるのも、はじめは３ヶ月に一度だったのが、今では月に　一度になってしまいました。　昔は、人もうらやむほどの黒髪だったのです。　日本髪に結ったら、さぞかし見事な髷になるだろうに、　とさえ言われたものなんですけれども。　

  2006年09月01日

• 虫しげし四十とならば結城着む

    　　　　　　虫しげし四十とならば結城着む　　桂　信子 　さーっとひと雨ふったら、涼しくなりました。　暑い、暑いと言っているうちに早くも夏は終わりつつ　あるのですね。　どこからともなく虫の音がきこえてきます。　四十になったら結城を着よう、また結城を着こなせる　いい女になりたいと、若い頃は私も思いましたが、　この分では還暦になっても、結城の似合う女には、なれそうも　ありませんねえ。  

  2006年08月30日

• 八つ当たり　体当たり

    　近頃特に面白くないんですよ！　何がって、あーた、わが母君は認知症、わが愛犬は老衰で要介護、　これじゃあ、体がひとつしかないんだから、私、お手上げですよ、まったく！　例をあげれば、床を歩くときは、愛犬殿のうんちをふんづけないように　抜き足、差し足で行かねばならないのです。　犬も年をとると呆けて、どこにでもうんちをたれるんですからね。　そんな犬は保健所へやってしまえ、というご仁もいるんですが、ねえ。　私は、虫も殺さぬ、主義でしてねえ。　そんな殺生はできないんですよ。　だから、朝起きたら、戦場です。　犬のうんちどころか、母君の下の世話に大奮闘しなけれがならない。　まったく、なんの因果でこんな目にあうのやら、よほど、前世で悪い　ことをしたんですかねえ！　もう、ブログを書いているどころではありませんよ！  　　

  2006年08月27日

• むらがりていよいよ寂しひがんばな

    　　　　　むらがりていよいよ寂しひがんばな　　日野草城　　花はヒガンバナが好きです。　墓地などに咲くので、死人花とも呼ばれています。　不吉な花だといやがる方もいることでしょう。　ですが、私はこの花の凄惨な感じに惹かれます。　燃えるような赤い色がまたなんともいえず好きなのです。 

  2006年08月27日

• 桔梗や男も汚れてはならず

    　　　　　　　桔梗や男も汚れてはならず　　石田波郷 　女が世間ずれし、特に異性関係を重ねると、汚れるという　表現をします。　けれども、汚れるのは女ばかりではないと、私はつねづね思って　きましたが、この句はすぱっと私の思いを言いえていて妙です。　たしかに世間ずればかりして狡猾になるのは、けっして見よいもの　ではありません。　いくつになっても、純粋な心を失わないでいたいものですね。 

  2006年08月26日

• 人殺す我かも知らず飛ぶ蛍

    　　　　　　　人殺す我かも知らず飛ぶ蛍　　前田普羅 　この句に出会ったとき、少なからずショックをうけました。　考えようによっては、あまりにも大胆不敵で、なにか怖い気が　しますね。　いろいろな場面が想像できますが、なんで人を殺すかもしれないと　思ったのかが、ポイントになりますね。　人間、ひとつ間違えれば、殺人犯にもなりうるんですからね。　そこのところを思い合わせて、鑑賞してみてください。 

  2006年08月24日

• 混血児エナ

    　私が小学校の低学年だったころ、近所の薬局にエナという混血児が　いました。　５．６歳だったのでしょう、透き通るような白い肌のキューピーみたいに　可愛い女の子でした。　薬局の奥さんの妹が進駐軍の将校と結婚して生まれたのが、エナだった　のです。　彼女がまだ物心のつかないうちに両親は離婚して、母親に引き取られて　その実家の薬局に戻って来たのでした。　私はエナがあまりにも可愛いので、ひと目みたさにその薬局へ遊びに　行ったものです。　当時エナはまだ日本語がうまく話せないで、英語まじりのかたことの　日本語をしゃべっていました。　なにか気に入ったものがあると　｢エナちゃん、これ好き！｣　と、指をさして言うのが、またまた可愛くって私は子供心にも　この世にこんなににもうつくしい子がいるということにいたく感激したもの　でした。　私が高校にはいってから、エナが父親の母国のアメリカへ単身帰ったと　いう噂を耳にしました。　聞くところによると、それはエナ自身がみずからの意思によって決断した　ことだったそうです。　それほど日本にいることはエナにとって苦痛だったのかと、私は胸が　痛む思いがしたのでした。　エナは心根のやさしい、利発な子で学業成績も優秀だったとか。　やがて歳月が流れ、いつしか私もエナのことを忘れきっておりました。　私自身が生きてゆくのが精一杯だったからです。　数年前に町でばったりエナとその母親に出くわしました。　なんとあれだけうつくしかった少女がビヤ樽のように太って、白人の　典型的な中年女の体型になっていたのです。　しかし、彼女はいかにも人のいいアメリカのおばさんといった感じで　あけっぴろげで快活でした。　「なつかしいわねえ」　「４０年ぶりかしらね」　と歓声をあげ、思わず駆け寄って抱き合いました。　現在彼女はアメリカ人の夫との間に３児をもうけてカリフォルニア州在住　とのことです。　夫はパイロットだとのことで、中流家庭の主婦として見るからに幸福そう　でした。　年に一度はかならず母親をたずねて来日するのだそうです。　日本では混血児としていわれのない差別を受けただろうに、　それにもめげずにアメリカで幸せを掴んだのでした。　私はエナの幸せにこころから拍手を送り、かたい握手をかわして　Ｓee you again  と言って別れました。　　　　（完） 　　　　　　　　 

  2006年08月24日

• 男運なき秋袷着たりけり

    　　　　　　　　男運なき秋袷着たりけり　　鈴木真砂女 　｢二度結婚して二度離婚した。　最初の結婚は夫の蒸発、　二度目はみずから家をすてた｣　と真砂女は書いています。　事情はどうであれ、女にとって男運が悪いということは、　一生の不作だと私は思います。　一足はやくコスモスを載せてみました。　秋を感じてみてください。  

  2006年08月23日

• 同じ空の下に住む雪つもるかな

    　　　　　　　同じ空の下に住む雪つもるかな　　鈴木真砂女 　見上げている空から雪がふってきました。　この空と同じ空の下にあの人も住んでいるのです。　そう思うと恋しさがつのってきます。　いつしか雪はつもりはじめました。　あの人の住んでいる町にも雪はつもっているのでしょうか。　真砂女の恋の句です。 　

  2006年08月22日

• 千夏のモノローグ　　６０

    　しばらくご無沙汰いたしましたが、久々に物申したい気分になりましたので　書かせていただきます。　ここ数日エリザベス・サンダースホームの澤田美喜に関する資料に目を通して　おりまして、私、義憤にかられております。　進駐軍の兵士と日本女性との間に生まれた混血児たちは、ただでさえ親に　捨てられたということと、肌の色が違うということで世間から不当な差別を　受けてきたのですが、施設のある大磯では海水浴もできなかったのだそう　です。　これは、混血児が海に入ると、水がけがれるという地元の人たちからの　いわれのない苦情が殺到したせいだったのでした。　そのため澤田美喜は子供たちに海水浴をさせてやりたいと奔走して、　夫君の澤田廉三の故郷の鳥取県岩美町の海岸でようやく受け入れられた　というのです。　その当時、いかに混血児に対する世間の目がきびしかったかという　証左ではないのでしょうか。　ちなみに、澤田美喜の夫君の廉三は、日本で初の国連大使をつとめた　人で、この夫君の後ろ盾と協力があったればこそ、美喜の偉業がなしとげ　られたのだと思います。　やはり持つべきものは、頼りがいのある夫、ですね。　では　今日はこの辺で　　Ｇood luck！  

  2006年08月21日

• 熱帯夜の告白　終章

    　あの夜は夕方から雪になりました。　天気予報では夜から明け方にかけてかなりの大雪になる　とのことでした。　私はまたとないチャンスだと思いました。　私は幸子さんとの打ち合わせどおりに決行する腹をきめました。　夫は、｢花吹雪｣にはほとんど毎晩飲みに行く癖がついていましたから　その夜もまちがいなく出かけるはずでした。　幸子さんとは、夫を波止場に誘い出す寸前に電話連絡をくれる　手はずになっておりました。　予定通り電話が入ったときは、さすがに身震いがとまりませんでした。　ちょうど午後１１時になっていました。　夕暮れからふりだした雪がいったんやんでいたので、足元が悪いほど　ではありませんでした。　レンガ造りの倉庫の脇を通って波止場に出ると、すでに夫が幸子さんと　来ておりました。　二人は別れ話をしていたらしく、夫は私を見て、お前は何で来た、という顔を　しました。かなり酔っ払っていて体が頼りなく揺れておりました。　まさか私と幸子さんが示し合わせているとは、思ってもみない様子　でした。　｢奥さんが迎えに来てくださったんだから、今日のところはおとなしく　帰ってくださいな。　もうそれ以上は飲んじゃあダメよ」　幸子さんがそう言うのを合図に私は無言で夫の背後にまわり、力まかせに　海に突き落としました。　暗い海面に夫の体が浮いては沈むのを私と幸子さんは肩を寄せ合って　見ておりました。　夫の助けを求めるさけび声がいつまでも私の耳に残っておりました。　そうです、今でも聞こえてきます。　１５分ほどで夫は絶命したのでした。　幸子さんとはもう二度とは会わない約束をしました。 　もう私には残された時間がないのです。　３ヶ月前にすい臓がんの宣告をうけたのです。　もう末期になっており、手術はできないとのことでした。　そろそろ私は自分の始末をつけなければなりません。　これまでかかりつけの医者に小出しに出してもらっていた睡眠薬を　致死量ためてありますので、それを飲みさえすれば、楽になれるのですから。　　　　　　（完）　　　 　　　　　

  2006年08月21日

• 悔いなき生ありや

    　　　　　　　悔いなき生ありやビールの泡こぼし　　鈴木真砂女 　｢悔いなどないと胸を張っても、心の底には悔いが澱んでいる。　生きて悔いを残さぬ者があるだろうか｣　これは真砂女がかつて書いたものを抜粋しました。　私自身、悔いだらけである自分の過去に胸を突かれることが多くて　時にはやりきれない思いにとらわれるのですが、皆さんはいかがで　しょうか？ 　

  2006年08月21日

• 澤田美喜の生涯　ダイジェスト

    　澤田美喜(１９０１～１９８０)　　混血孤児を２０００人以上育てあげたエリザベス・サンダースホームの　創設者、澤田美喜は、三菱財閥の岩崎弥太郎の直系の孫として、また　男爵令嬢として東京の本郷に生まれた。　２２歳で外交官の澤田廉三と結婚し、イギリスやフランスなどで外交官夫人と　しての海外での生活を長年経験する。　終戦後の昭和２３年２月、神奈川県大磯にてエリザベス・サンダースホームを　設立した。　これは進駐軍の兵士と日本女性との間に生まれ、捨てられた　孤児たちを引き取り、育てるための施設であった。　そこは、美喜の実家である岩崎家の別荘であったところなのだが　いったんは国に物納されてしまったものを買い戻すという紆余曲折を経て　施設となったのだった。　なぜなら、戦後の財閥解体と華族制度の廃止により、岩崎家といえども本宅を　のぞいては、ほとんどの不動産を手放す羽目になってしまったからだった。　美喜は、｢女弥太郎｣と言われた、持ち前のねばりと負けん気を発揮して　ＧＨＱにかけあって、大磯の別荘を買い戻したのである。　また美喜は私財はすべて施設運営につぎ込み、多額の借金を背負い　寄付をつのるために国内外を奔走した。　文字通り｢ライオンのように困難に立ち向かい、羊のように孤児たちに接した｣　のであった。　　

  2006年08月20日

• 月光にいのち死にゆくひとと寝る

    　　　　　　　　月光にいのち死にゆくひとと寝る　　橋本多佳子 　月の光のさやけさ、清らかさに照らし出された部屋のなかで　余命いくばくもない夫と添い寝する女性を想像してみてください。　なぜか凄惨さが感じられないのは、月光のうつくしさのせいでしょうか。　悲しみさえも超越した句だと思いますが、いかがでしょうか？　　

  2006年08月20日

• ちいさなつぶやき

    　ＴＶでエリザベス・サンダースホームの澤田美喜の生涯を描いた　ドラマをみて以来、自分はほんとうにこれでいいのか、と立ち止まる　ことが多くなった。　たしかに２０００人以上もの混血児をひきとって育てあげた澤田美喜の　偉業はなみたいていの人間には真似のできないことである。　旧三菱財閥の岩崎弥太郎の直孫として生まれた美喜だからこそ　できたと思えるふしはあるものの、市井の私ごときおばさんでも　人のためになることを何ひとつもしないで一生を終えるのは　道端に転がっている石ころなみの存在にすぎないといえるのでは　なかろうか。　そう思うと、たまらなく苛立たしく、またむなしいのである。　どなたか、よいお知恵拝借できませんか？　

  2006年08月19日

• 熱帯夜の告白　　時効になった殺人　９

    　｢時効になったからといって、罪は罪だ｣　という平田の言葉が私の胸に突き刺さりました。　その痛みにたえかねて、すべてをお話ししようという気に　なりました。　そうなんです、夫を海に突き落としたのは、まぎれもなく、この　私なんです。　当時娘の冴子はまだ小学５年生だったんです。　それなのに、こともあろうに義父である夫が手を出したのです。　それがわかった時、私は逆上しました。　もうそれ以上娘には何があっても同じことを繰り返させてはいけない、　と私は煮えくり返る思いのなかで決意しました。　私は妻であり、女であるよりも、母であることを第一に　考えたのです。　娘を夫から守るためには手段を選ばないつもりでした。　その時私には殺意が芽生えたのです。　夫の行きつけの小料理屋｢花吹雪｣の女将の幸子さんに会いに　行きました。　幸子さんが結婚したがっている相手との仲を夫に邪魔をされて　困っているときいたからです。　そして二人でじっくり話合っているうちに、夫をなんとかしなければ、と　いう結論に達したのです。　まず夫が｢花吹雪｣に飲みに行ったときに幸子さんが夫を波止場まで　誘い出すのです。　そこには私が夫を待ち伏せしていて、夫が来たら海に突き落とすという　筋書きなのです。　あの夜は夕方から雪になりました。　天気予報では夜から明け方にかけてかなりの大雪になると　いうことでした。　これはまたとないチャンスだと思いました。　　　　　（続く） 　　　 　　　　　　　

  2006年08月19日

• 海にふる雪

    　　　　　　海にふる雪たちまちに海の色　　作者不詳 　お盆がすぎたというのに、あいかわらずの猛暑です。　また暑気払いに雪の句をとりあげました。　上句は実にわかりやすい句ですね。　ふる雪が海の色に染まるという、その瞬間をとらえて　おりますが、この海の色は一体なに色なのでしょうか？　ロマンチックな句ですよねえ。 

  2006年08月19日

• 人形供養　その２

  　 　霊能者のご託宣どおりに明日は女雛を供養に持ってゆくという　前夜のことです。　真夜中に誰かがすすり泣くような声がします。　はじめは空耳かとも思ったのですが、かすかにではあっても、たしかに　泣き声がするのです。　それは座敷のほうからきこえます。　私は母を起こして一緒に座敷へ行ってみました。　床の間に飾っておいた女雛が目から涙を流しているでは　ありませんか。　まぎれもなく顔がぬれていたのです。　私はあまりの出来事に背筋が凍りつきました。　思わず母と顔を見合わせてしまいました。　「内裏さまと別れ別れになるからやろうか?」　私にはそうとしか思えませんでした。　「あんたの身代わりになって泣いてくれたんやろ」　母は私をなぐさめるようにそう言ってくれました。　そして女雛をいたわるかのように、そっと元の木箱に納めました。　翌日私は母にともなわれて光華院へ人形供養に出かけました。　本堂の仏前に数十体もの雛人形が山積みされておりました。　我が家の女雛ももちろんそのなかに安置されておりました。　庵主さんの読経の涼やかな声が時空を超えて流れてゆく感じ　でした。　一体、一体の人形にこめられた念の深さが解き放たれて無に　帰すように思えました。　そうして私自身の業の深さも人形が身代わりとなって背負って　いてくれたのかもしれないと私には思えました。　それから半年後に私は今の主人と結婚しました。　それもこれも皆人形供養のおかげだと私は信じております。　　　　　　完　 　　 

  2006年08月18日

• 人形供養

    　人形寺といいますと、京都の宝鏡寺が有名ですが、この土地にも　あるんですよ。　正式には光華院(こうげいん)というんですけれども。　若狭湾に面した高台にある格式の高い尼寺なんです。　江戸時代の元禄年間に藩主の息女が出家して開山したお寺で　代々藩主の血筋をひく女性が住職になってきたんです。　今の庵主さんも元藩主の家柄とは遠縁の方だときいております。　その光華院では、毎年４月３日に人形供養がおこなわれていましてね。　古くなった雛人形を盛大に供養する慣わしになっているんです。　近頃では、町起こしのイベントにもなっていますから、けっこう観光客が　あつまってくるんですよ。　これは、３０年もむかしの話ですので、恐縮なんですがね。　当時私の縁談がまとまりかけるとこわれたんです。　それにはすっかり頭を抱え込んでしまいました。　祖母が心配しましてね、ある霊能者にみてもらいに行ったんです。　すると　｢あんたんとこは、むかしお女郎屋やったでしょうが｣　と言われました。　これは事実だったので、祖母はもうびっくりしましてね。　遊郭で桜木楼という店をやっていたんですね。　その霊能者が言うには、その店で抱えていたお女郎さんのなかには　ひどい折檻をされて命をおとしたものもいたはずだ、その霊がたたって　孫娘である私の縁談を次から次へとこわしているんだと。　ではどうすればいいかと、祖母がたずねますと、　｢あんたの家に代々つたわる雛人形があるはずや。　なかでも女雛だけを光華院に持っていって供養してもらうこっちゃ｣　というご託宣でした。　　　　　　　　（続く）　　　　　　　　　　　　　　

  2006年08月17日

• ふたたび　流燈　

    　　　　　　　　流燈の父の灯母を追い越せり　　作者不詳 　当地では１６日に灯篭流しとともに花火大会があるのですが、　私はほとんど毎年見にはゆきません。　なぜなら、あまのじゃくと言われるでしょうが、好きではないのです。　灯篭流しを見るのは、たまらなくもの悲しくて、ああ、また今年の夏も　行ってしまうんだなあ、と身にしみて思うからなのです。　また花火大会は押すな押すなの人出のうえに交通渋滞もひどくって　私のようなひ弱な人間は人ごみを掻き分けてゆくほどタフには　なりきれないのです。　と、いうわけで今年の灯篭流しも終わってしまい、ただわびしさだけが　残ってしまいました。 　　　

  2006年08月17日

• 復讐寺縁起　　２

    　ご祈祷はどんなふうだったか、ですって？　密教の護摩をたいてご祈祷をするんですが、まずその前に復讐したい　相手の名前を紙に書くように言われるんです。　その紙を庵主さまが護摩の火のなかにくべるんです。　呪文を唱えながら、ね。　庵主さまは聞きしにまさる美人でしてね。　なんか体じゅうから、オーラのようなものが出ていて、けおされる、　っていいますかしらね。　なんともおごそかな雰囲気がありましてね。　ご祈祷は３０分ほどでしたが、その間からだは金縛りにあった　ようになってしまって、頭のなかは真空状態って感じでした。　こういう状態になったのは、生まれて初めてです。　ご祈祷が終わって、庵主さまが静かにおっしゃいました。　｢これで、あなたの念はすべて空になってしまいましたからね｣　そうなんですよ、不思議なことに、からだがすっかり軽くなった気が　しましたから。　憑き物が落ちたっていうんでしょうかね、そんな心境になったんですよ。　ご祈祷の効き目はあったか、ですって？　もちろん、ありましたよ。　妙蓮寺から帰って半月ほどしましてね、相手の男が心筋梗塞で　あっけなく死にました。　あんまりあっけなかったもので信じられませんでしたよ。　一時はストーカーまがいの嫌がらせをしたほどの男でしたのに。　人はそんなに簡単に死ぬものなんですねえ。　半信半疑でお香典を送りましたら、奥さんから香典返しが　届きましたよ。　これでなにもかもきれいに帳尻があったわけでして。　　　　　完 　　　

  2006年08月16日

• 猛暑の妄言

    　あまりの猛暑に脳みそまでが腐ってしまったらしく、思いつくままに　妄想を書きちらかしますが、妄想菌がうつらないようご注意ください。　昨日、ブログを閉鎖することを宣言したものの一夜あけて、もう前言を　ひるがえして書いておりますから、われながら節操がないとあきれはてて　おります。　まあ、これも妄想菌にやられてしまったせいだとお笑いください。　風の吹くまま気の向くままに小説を書いては、まだ完結しないうちに　また別のものに手をつける、というだらしないことを繰り返しているうちに　自分でも収集がつかなくなって、なにをどうしたらよいのか途方にくれて　おります。　この悪癖は、小説だけではなく、一事が万事なのです。　たとえば、掃除はするにはするのですが、四角いところを丸く掃く　といった具合なのでして。　整理整頓がまったくできないたちなんですね。　これは、もう病気といっていいくらいでして。　こういう女は主婦には不向きですよねえ。　洗濯しもって料理し、そのうえＰＣに向かって書く、という三刀流ですので　ますます混乱してくるのですが、これがまたやめられません。　ナスのいため煮をしながら、書いておりますけれど、鍋をこがしては　いけませんから、今日はこの辺で失礼します。　　(暑気払いに雪景色を選びましょう！) 　　 　 

  2006年08月16日

• 復讐寺縁起　　

   　縁切り寺ってきいたことはあっても、復讐寺ってきいたことは　ないでしょう？　ところが、復讐のための祈祷をしてくれるお寺があるんですよ。　いえ、冗談なんかじゃありません、ほんとうの話なんで。　そのうえ、またその祈祷がよくきくって評判なんですよ。　だから、若狭の片田舎にあるっていうのに、全国津々浦々から　祈祷をしてもらうために人がわんさと集まってくるんですよ。　ただし、祈祷料は目の玉が飛び出るほど高いっていう話ですよ。　そこの庵主さんは、なんでも公家の血筋に生まれた方で、５０歳は　とうに出た年だそうですが、ぞくってくるほど凄みのある美人だそうで。　なんでも昔は映画女優だったとか。　ほら、水尾みゆきって女優がいたでしょうが。　やくざ映画の女博徒役でならしたスターが。　その人なんですよ。　えっ？　　知っているって？　水尾みゆきなら、裏切った男をナイフで刺して殺人未遂で刑務所入り　した、そうそう、その女優ですよ。　たしか、３年ほどくらっていたはずですよ。　その女優が出家して、いまの妙蓮寺の庵主さんになっているんですよ。　実は私もそのご祈祷をしてもらいに、わざわざ千葉くんだりからやってきた　クチなんでしてね。　　　　　　(続く) 

  2006年08月15日

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