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勉強って楽しいね

勉強って楽しいね

はじめに

 自分自身が経営コンサルタントとして中小企業の経営改善を支援している立場であり、中小企業のターンアラウンドに対してはたいへん興味がある。
国は2003年に「中小企業再生協議会 」を立ち上げ、経営に行き詰まり今後再生の可能性のある中小企業に対し再生計画策定や金融機関との調整を支援している。2005年7月末までに再生計画策定が終了した中小企業は584件にまで上っているが、これらの企業はターンアラウンドに取り組んでいる最中であり、その結果はこれから明らかにされる。
 新聞紙面を賑わすカネボウやダイエー、マツヤデンキやミサワホームといった大企業の再生に関しては、「企業・産業再生に関する基本的な指針」に基づき「株式会社産業再生機構」の設立や産業活力再生特別措置法の抜本改正等を通じて過剰債務問題と過剰供給構造の解消を目指してきた。産業再生機構による再生計画の策定はすでに2005年10月までに41社にのぼり、計画のおおまかな内容は産業再生機構のホームページで公開されている。大企業の事業再生計画の概要を見ると、不採算事業からの撤退や遊休資産の売却により資産圧縮を行うとともに、債権放棄や減資・増資、スポンサー企業による支援にてスリムな体質をつくり集中投資を行うことで事業の再構築を図るものである。産業再生機構による再生は、あくまで国の機関からの支援により再生を果たすものであり、自主再建が困難となり、倒産による社会的影響が大きい場合に取り組む場合が多い。
 一方、自助努力によりターンアラウンドを成功させる企業もある。その中で特に注目を浴びたのは日産自動車で1999年から2001年の間に起きたことである。日産自動車では、世界マーケットシェアが1991年6.6%から1999年4.9%と低下する中、1991年以降8年間で7回の赤字決算を行った。債務残高は1998年度末には2兆1000億にも上るまさにターンアラウンド状況に陥っていた。自社だけの努力ではどうにも解決できないと考えた塙社長をはじめとする当時の経営陣は外部からの支援を仰ぐことにする。戦略的提携をフランスのルノーと行い、カルロス・ゴーン氏を社長に迎えターンアラウンドに取り組んだ。いわゆる日産リバイバルプラン(以下NRP)の策定とその実行である。この再建計画はコスト削減やノンコア資産の売却といった事業の選択と集中で過去を清算し、商品ライン再編、研究開発投資や新型モデル投入といった未来のための準備を行い、ライバルと戦えるだけの競争力をつけることが狙いであった。3カ年計画であったが、2001年度末には当期純利益が3,700億円、営業利益率7.9%、有利子負債が4,317億円にまで削減しV字回復を果たした。NRPで目標としていた数値を1年前倒しで達成することができ、自動車業界において持続的な競争優位を獲得する下地ができたのである。
このように大企業においては、負債額や人員数、事業数、ステークホルダー数などすべての面で規模が大きいため、ターンアラウンドを行う場合、ニュースになり関係者をはじめ人々は注目する。しかし、あまり注目されてはいないが中小企業においても、倒産の危機であるターンアラウンド状況にある企業は多く、そこから見事にターンアラウンドを成功させ、持続的な競争優位を発揮できるようにまで回復した企業も存在する。
本研究ではターンアラウンドを成功させた中小企業について、ターンアラウンドの危機的状況、その時の経営環境や保有する経営資源を明らかにし、そのような状況でどのような戦略を立て取り組んだか、すなわち、ターンアラウンド状況を乗り切るための戦略として何を実施したかを明らかにする。前述の中小企業再生協議会にて取り組んだ再生事例の成果で戦略内容の妥当性を判断したいところであるが、再生計画の要旨は見ることができても、それが競争的優位を発揮できるまでターンアラウンドしたかどうかは不明である。従って、ここでは実際ターンアラウンドを果たした中小企業を選び出しその戦略を研究する。
戦略がないと指摘される  日本企業であるが、ターンアラウンド状況においては出血を止める短期的取り組みの「縮小戦略」と、持続的競争優位をつける長期的取り組みの「復帰戦略」が必要である 。特に後者の場合、特定市場に特定製品を集中させ競合他社との差別化及びそれによる競争優位を確立するためには戦略的視点が重要となる。これら戦略に加え、ターンアラウンドを成功させるためには、リーダーシップの発揮やステークホルダーの支援などをとりつける必要がある。この研究では、「縮小戦略」と「復帰戦略」を時間軸の視点として捉え、さらに、その時間軸上においてSlatter&Roveltの「ターンアラウンドに必要とされる7つの要素」 がどのように展開されるかを、大企業と中小企業とにおいて同じフレームワークにて分析を試みる。そして、中小企業のターンアラウンド戦略の特色を提示することが本研究の課題である。
 この論文は3節に分かれ中小企業におけるターンアラウンド戦略を論じる。すなわち、第1節においてはターンアラウンド戦略に関する先行研究のレビューを行う。先行研究者としてHofer[1980]、Choudhury&Lang[1996]、Robbins&Pearce2[1992]、大柳[2004]、Slatter&Rovelt[1999]を取り上げ、ターンアラウンド戦略の類型と内容を確認する。特に、Robbins&Pearce2の 『ターンアラウンド:縮小と復帰』 では、ターンアラウンド状況から脱出するための「縮小戦略」と持続的競争優位を確保するための「復帰戦略」のあり方が示されている。そして、「縮小戦略」が取られた後、「復帰戦略」へと移行すること、すなわち優先順位があり時間軸があることを確認する。また、Slatter&Roveltの「ターンアラウンドに必要な7つの要素」がターンアラウンド戦略の目標となっていることを確認する。そして、それらをRobbins&Pearce2の時間軸上に整理しフレームワークを提示する。このターンアラウンド戦略のフレームワークにて、日産自動車を事例に大企業のターンアラウンドが実際どのように行われたかを確認する。
第2節においては、中小企業のターンアラウンドを事例分析する。まず復帰戦略の方向性をアンゾフの成長ベクトルを基に「市場浸透戦略」「市場開拓戦略」「新製品開発戦略」「事業転換戦略」に分類する。そして、岡山県下の企業でターンアラウンドを成功させた企業2社を取り上げる。1社は家具業界において下請加工をしていたが自社ブランドを構築しデザインから販売まで一貫した生産販売体制を作った事例である。この会社は事業の再定義を行い、既存事業の仕組みを変え新市場を開拓した「市場開拓戦略」の方向性である。もう1社は家電販売店が大型店進出により競争が激化する中、家電販売業を廃止し、新規事業であるシステム開発へと事業を転換させた。既存事業をやめ、新しい分野の製品で新しい市場を開拓しターンアラウンドを成功させた「事業転換戦略」の事例である。この2事例を資料及びインタビューをもとにターンアラウンド戦略の分析枠組みを持ち分析する。
第3節では、中小企業2社のターンアラウンド戦略の特色を整理し、大企業のターンアラウンド戦略として取り上げた日産自動車との相違点を分析し、中小企業におけるターンアラウンド戦略の特徴をまとめる。
 そして最後に、今回対象としていない「新製品開発戦略」「市場浸透戦略」について今後の研究課題を述べる。


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