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おぼろ二次元日記

暴れん坊さんより一周年小説♪







   梅の香、夜に流る(朽木白哉)





・・・時はその歩みを止めることは無く、季節は静かに
・・・しかし確実に廻る。


耐え難い悲しみも時を経ることで、耐えうる悲しみへと
変わるものだ。

冬の寒さに耐えた木々が、まだ寒さの残る中にもその花を
咲かせるが如く。




如月(二月)の頃。
夜、湯殿に向かう私は不意に歩みを止めた。


「・・如何なさいましたか?白哉さま。」
後ろから尋ねたのは、新しく入った傍仕えだ。
私の身の回りの世話を爺に代わってするようになった。

「・・いや。梅の花が咲いたようだな。」
「はい。本日今年初めての花を咲かせました。
・・よくお分かりになられましたね。まだほんの数輪しか咲いて
おりませぬのに・・・。」
「・・・行くぞ。」



・・・梅の香りに敏感なのは訳がある。


梅が最初の花を咲かせる頃、私は緋真を亡くしたからだ。


今年は例年よりも寒く、梅の開花は遅かった。
今年の緋真の命日は亡くなって50年を過ぎた為、
盛大な供養はしなかったものの、ルキアと供に墓前に参った。
ルキアは緋真のことを姉だと知って今年初めて墓参りしたことになる。
墓前に手を合わせ、長い間目を閉じていた。
・・何を緋真に語りかけたのかは知らぬ。


ただ・・・生きている間に会わせたかった。



湯殿に着き、人払いをかける。
一人になりたい時、私はこの所このようにすることが増えた。


湯殿は寒くないよう、温められている。
湯船に身を沈めた頃、傍仕えの女が扉ごしに控えめに聞く。
「・・白哉さま。湯加減は如何でございましょうか。」
「よい。」
「それではお出になられました頃、またお声をおかけくださいませ。」
人の気配が去る。


・・・『一人』。
朽木家の跡取りとして生まれた私にとって、一人きりになる時間など
殆ど無い。
いつも誰かが傍に仕えている。
それが極当然の日常だ。
『一人』になりたいと思わなかったかと問われれば、
私は否めぬであろう。
その私を『孤独』だと表した者がいた。


・・・それが緋真だった。



妹を護るようにとの緋真の遺言を果たすことを迷わせたのは、掟だ。
そしてその掟を私の剣ごと砕いたのは一護だ。


あの時確かに私は掟という鎖から解き放たれた。



・・・しかし私は未だに掟を護るべき立場にいる。
何故か。
私が朽木家の当主だからだ。


・・四大貴族の当主が護るのは瀞霊廷の歴史そのものだ。
一護ならばそのような物に何の価値があるのか、と斬って捨てるであろう。


だが、歴史なくして現在は無い。
そして現在を理解するには歴史を見るしかないのだ。


新しきものに美があることは認めよう。
だが、持続することにのみ生じる美もあると考えている。
そして歴史とは持続するものだ。
いつ破壊され、無くなるかも知れぬかもしれぬからこそ、
そこに美が生じる。
四大貴族はその『持続の美』の守人なのだ。


その四大貴族も、志波家は貴族の座を奪われ、四楓院家は
先の当主であった夜一の不祥事にて、今はかっての勢力は失われた。
残るは2つのみと言ってよかろう。
四大貴族といえども、その歴史を護ることは厳しいのだ。


そして・・・歴史には掟がある。
・・・それは切り離せぬものだ。



私はこれからも掟を護ることになるだろう・・。
私が朽木白哉でいる限りは・・。




湯船から出て、簡単に身支度を整える。
「戻るぞ。」
「失礼致します。・・少しお待ちくださりませ。御髪にまだ水滴が。」

見れば、髪からはまだ水が滴っていた。

素早く髪についた水をふき取ると、「失礼致しました。」と
いって下がる。
そして渡り廊下を自室へとまた戻っていく。


自室の所で、傍仕えの者は去る。
「それでは白哉様。お休みなさいませ。」
「うむ。今日もご苦労だった。」
「失礼致します。」


部屋の引き戸を開けると、梅の香りがした。
見れば、1輪だけ花を咲かせた梅の枝が花瓶にさしてある。
・・・あの者か。
傍仕えの者が私が湯殿にいる間に、切って花瓶にさしたのであろう。


・・・粋なことを。


・・・緋真は梅が好きだった。
理由を聞くと、厳しい冬を乗り越えて最初に花を咲かせるからだと答えた。


緋真を亡くして、数年間は梅の花を見るのも嫌っていた。
緋真のことを思い出すからだ。
生涯梅の花は好かぬであろうと思われたが・・・・。


・・・時はその歩みを止めることは無く、季節は静かに・・
しかし確実に廻る。


緋真を失うという耐え難い悲しみも時を経ることで、穏やかな悲しみへと
変わりつつある。


また緋真の愛した梅の花を私が愛でる時が来るのだ。



私が護るべき歴史は、もうひとつある。
・・・・緋真。
お前と過ごした歴史だ。


静かに花咲く年初めの梅。
それこそがお前との歴史の証なのだ。


夜に流るる梅の香は・・・・お前を偲ぶにふさわしい。



・・・緋真。


眠れ・・。安らかに・・・・。








なんちゃって。







おまけ





・・・早春の朝。
緋真が咲き初めた梅の花を眺めている。
その横顔に病の影は無い。
「白哉様・・。また今年も梅が咲きましたね・・。」


・・・ああ。これは夢だ。
・・緋真の夢など久しく見てはおらぬな・・。


「・・そうだな。・・・寒くはないのか?緋真。」
夢だと知りつつ答える。
緋真は私の妻になって2年目には体を悪くしていた。


・・・だからこれは私の過去の記憶でもない。


「ええ。こんなにも清清しい朝ですもの。」
答える緋真の息は白くなっている。
しかし、緋真は純粋に早春の朝を楽しんでいるようだった。
「・・・そうか。」


「・・緋真は幸せでございます。」
「何故だ?」
「白哉様と供に季節の移ろい行く様を見られて・・・
緋真は幸せでございます。」
「・・・・そうか。」


緋真がこちらを見て、微笑んだ。



・・・・そして私は夢から覚めた。


文机の上に置かれた花器には梅の枝。
床に着く前にはたしか1輪しか花を咲かせてはいなかったはずだが・・・。


・・・2つの花が寄り添うように咲いていた。





梅







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日記開設一周年のお祝いにいただいた兄様小説です。

兄様が緋真を偲ぶ気持ちが梅の花とともに年月を
重ねて心の歴史になっていく。

朽木家の歴史とともに兄様が守らなければならない
「歴史」。
新しいものを創り出すことは斬新ですが、古いものを守っていく
ことも貴重な時間の一部。

新たに咲いた梅の花とともに兄様の新しい歴史がここから
始まりますように。


暴れん坊さん、ありがとうございました!







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