2008/09/12(金)03:22
映画『歩いても 歩いても』
この映画を知ったのは、TVのニュースだっただろうか。
それとも新聞の記事だったか。
何れにせよ両方から映画のことを知った。
大きく話題になるものではないけれど、心に残る作品だった。
観たいと思いつつも、ロードショーされる作品ではなかったから、
観る機会があったなら、是非にも!と――
昨日、たまたま他の映画を見ようかとシネコンの時間を調べていたら、
特別上映と言うのか、上映されていることを知り、それでは!と行ってきた。
特別に何が起きるというわけでもない、"平凡な家族"の物語。
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『歩いても 歩いても』
恭平(原田芳雄)と妻・とし子(樹木希林)の家に、長女・ちなみ(YOU)一家と次男・良多(阿部寛)一家が訪れてくる。良多は子連れのゆかり(夏川結衣)と結婚したばかりなのに、いまは失業中の身。ちなみは営業マンの夫と2人の子供に恵まれた専業主婦。家族一同が久しぶりに集まったのは、事故で亡くなった横山家の長男・純平の命日のためである。ごくありふれた夏休みの光景、それはいつものように過ぎていくはずだったが…。
キャスト:阿部寛、夏川結衣、YOU、高橋和也、田中祥平、寺島進、樹木希林、原田芳雄
オフィシャル http://www.aruitemo.com/index.html
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あらすじは映画紹介から拾ってきたものです。
会話の中にやたらと「普通」と言う言葉が飛び交っている。
それぞれが思う「普通」からは少しだけ違う事を誤魔化す符丁のように。
それぞれの思いを抱えた家族が夏の1日に集う。
取り立てて何が起こると言う訳でなく、何処にでもよくある家族の光景が繰り広げられて行く。
生きてきたからこその少しの毒を抱えているごく普通の善良な人々。
子連れの嫁に、それなりの不満を持つ母親。
長女と言う立場に親の面倒を看る!と意識をしながらも現実的なことも考える姉。
何時までも家長である事に拘り続ける父。
無職である事と、妻の連れ後に『パパ』と呼ばれない事に引け目を感じる次男。
強かなのかも知れない、それぞれとの間を測る気のいい長女の婿。
無邪気でいて子どもの毒をシッカリ持っている子ども達。
子どもながらに回りの事を気遣う次男の義理の息子。
そして、誰もが心に持つ邪気の無い毒。
とてもありふれた人々。
それこそ本当に何処にでも有る家庭のひとコマで、あ~、そうだね~あるね~そんな事!
ほぼ全てにそう思いながら見てしまった映画でした。
夏の日の1日を、人々が何気なく生きている、その切り取られた時間。
とても感動した!と言う映画ではないけれど、じわじわと感じるさりげなさが心に残る映画でした。
大袈裟でなく、とてもなにげなく過ぎていく日常――
……そんな映画だったのよね。
で、ここからかなり本音(苦笑)
小津の映画って意識してみた事が無かったけど、こんな感じの映画だったのかなぁ……。
ふとそんな事を思った。
とても自然な家族の話。その1日。
普通ってどういう事なのかな、と思う。
普通でない事なんてそうは無い。
何を取ってもそれは普通の事。
ありふれている事ばかりではないのかも知れないけれど、特別な事でも、それは普通な事。
良くも悪くも。
父親(原田芳雄)は歳を取って身体の不調で医者を廃業して、それでもまだ医者であった頃の自分にすがっている所がある。
だからこそ、医者で無くなった自分が苦しいんだろうな。
孫に医者を継がせたいと思ってしまう。
家庭に置いてはワンマンで寡黙な父。
設定は72歳だったか。……72歳って、こんなに年寄りなのか!?
母親(樹木希林)は専業主婦でひたすら家庭を守り、子どもを育ててきた人。
善良だけど感情豊かに毒を持つ。それが生きてきた人の心としてとても奥深い。
特に母親は死んだ子の歳を数えると言うけれど、死んでしまった長男には思いいれがあったんだろうなと思える母心。
主人公は次男の筈なんだけど、この映画はこの母親を描いたものなんだろうな、と思える細やかさを感じた。
長女(YOU)は、幾つになっても母と娘ってこんな関係なんだろうな。
さりげなく家族の中を繋ごうとしたり、それでいて家の中での立場とか、損得勘定をちゃっかり考えている。
自身を振り返って、立場としては自分はこの位置に一番近いのかな、と思いながらも、見方によっては色んな立場にもあるのだろうな。
次男(阿部寛)がこの映画の主人公。
語り部と言うべきか、この次男の目を通して描かれている家族の1日。
親の跡を継がず、リストラになったことも親には言えず見栄を張り。
子連れのいる奥さんとの結婚を親に如何見られているのかを気にしていたり、義理の息子との間はまだギクシャクとしていたり。
15年前に溺れた子どもを助けて死んでしまった出来の良い兄に未だにコンプレックスを持つ。
何かにつけて兄を持ち出す親には反発を感じながらも、親子の絆をちゃんと感じている人。
母親や父親に反感を持ちながらも、仲が悪いように言いながらも、結構仲良いじゃん、って思ったのよね~。
だって、親子でちゃんと会話をするんだもの。
次男の嫁(夏川結衣)は――あ~、、、色々解るなぁ……。
嫁としても、夫と舅姑との間に立って気をもんだり気を使ったり。
たった1日の夫の実家で過ごす時間の割には詰め込んであるきがした、嫁の心情。
嫁として言われた言葉の数々に、あったなぁそんな事……あったあった。
次男の義理の息子(田中祥平)は……見ていて結構辛い。
回りに気を使い、言葉を選び、……感情を殺している事もあるのだろう。
義祖父に何でピアノの調律師になりたいのかと問われて、本当のことが言えなかったのが、
最後に、死んだ父親がピアノの調律師だったから、自分もなりたいんだ、と言うくだりは、切ない。