真夜中のお茶会

2008/09/20(土)02:09

映画『おくりびと』

映画の話(27)

『おくりびと』見てきました。 前評判がいたって良い映画です。 それを自分が如何感じるか、かなり…… 完全なネタバレです。内容を知りたくない方は読まないで下さい。 ………………………………………………………………………… オフィシャル → 『おくりびと』 年齢問わず、高給保証!実質労働時間わずか。 旅のお手伝い。NKエージェント!! 「あぁこの広告、誤植だな。"旅のお手伝い"ではなくて、安らかな"旅立ちのお手伝い"。」――求人広告を手にNKエージェントを訪れた主人公・大悟(本木雅弘)は、社長の佐々木(山崎努)から思いもよらない業務内容を告げられる。それは【納棺(のうかん)】、遺体を棺に納める仕事だった。戸惑いながらも、妻の美香(広末涼子)には冠婚葬祭関係=結婚式場の仕事と偽り、納棺師(のうかんし)の見習いとして働き出す大悟。美人だと思ったらニューハーフだった青年、幼い娘を残して亡くなった母親、沢山のキスマークで送り出される大往生のおじいちゃん・・・そこには、さまざまな境遇のお別れが待っていた! 本木雅弘、山崎努、広末涼子、吉行和子、余貴美子、笹野高史、他 ………………………………………………………………………… 最初は吹雪の中を行く車のシーンだったが――― 遺体を清める納棺のシーンから始まる。 そこから主人公・大悟がこの仕事に至るまでの経緯が始まるのだけど……。 ストーリーは所属する楽団の不本意な解散から一転無職になったチェリストの大悟が自分の才能に見切りを付け、高額なチェロを売り、妻とともに田舎に帰る事になった。 誤解から付いた仕事が納棺師。 妻には本当の事を言えず、仕事には戸惑う事ばかり、なのに社長に引き摺られて気が付けば仕事を全うしている。 妻に仕事がバレ、まともな仕事に付いてくれ、汚らわしいとまで拒絶され実家に帰られてしまう。 如何しても止めるとは言えなかった。 が―― 自分はこの仕事に誇りを持っているのか。 迷いながらも『旅立ちのお手伝い』を続ける日々。 様々な最後の時に立会い、悲喜こもごもの人生を送る場に自分の役目を見出していくような…… 春。 妊娠を期に戻ってきた妻に、子どもに胸を張って言える職業か!?と問い詰められつつも、舞込んだ知人の死の知らせに妻を同伴し自分のするべき事の一部始終を見せる。 その優しさ、いたわり思いやる心、死者に向ける真摯な思い。 職業として受け入れ理解してくれようと周りが変わる。 そんな時にもたらされた自分達母子を捨てて出て行った父の死。 憎む父を迎えに行くべきか葛藤し、迷いながらも行き、父親の納棺をする事に。 その作業の過程で、忘れていた父の顔を思い出し、自分との思い出を大事にしていてくれた父の心を知り、わだかまりが解けていく――。 全編に亘って久石さんの曲が延々と流れそれが素晴らしい。 映画の為に作られたチェロとピアノのアンサンブルなのか。 山形の自然を背景に伸びやかに少しの哀惜を持って温かく包むように流れる。 何度か本木雅弘がチェロを弾くシーンが出て来るのだけれど、その指使いには感嘆してしまった。 途中で、納棺師としての仕事を淡々とこなしていくシーンに合わせ、 春の畦道でチェロを弾くシーンが続くのだけど、それがまたシーン的に穏やかな心を表しているようで良かった。 前評判では納棺をする際の本木の手の美しさが強調されていたけど、 足しかに本木の手は美しかった。 その流れるような動きと、手そのものの温もりとを感じさせる。 が、確かに手は美しく感嘆してしまったのだけれども、それよりも身体全体の所作の美しさの方に目を惹かれてしまった。 本当にその儀式にのっとった決められた所作の美しさ。 目が釘付けになり、溜息の出てしまうほどの静謐さ。 儀式的な動きの端正さには見事としかいえない。 そこに込められた死者への尊厳と優しさと。 話の関係で幾人と無く死者が出て来るのだけれど、死体役の人が凄いなぁ……って思っていたら、一部人形やCG処理だったらしい。 だろうな~、と、それは納得(苦笑) だけど、本物の役者さんが演じているのです、その動きには唸りました。 リアルに言うと、納棺の時って既に死後硬直しているから、身体が硬いんです。 手は凝り固まって居るし、身体の構造の関係で顎が中々閉まらない。 他にも色々。 またその死体を扱う本木の所作がね~、死者への尊厳と労わる気持ちが溢れていて。 その所作の美しさはエンド・タイトルで納棺技術が1カット長廻しで捉えられており、エンドロールを見るよりも、その技を見る事に夢中になってしまった。 映画の話自体は淡々と流れていきます。 楽団の解散や妻の家出はあるけれど、ことさら強調的に描かれている訳じゃない。 映画の流れに合わせた重さ。 この映画の主眼は何処に有るのか!?と言うことなんだろうけれど。 それはタイトル通りに『おくりびと』なんだろうな。 そのタイトルを被せてのラストで、憎んでいた父親の存在を受け入れる過程。 布石を文字通り一つずつ拾い集めて行く。 それこそ拒絶していた父を何故許せたのかを感情に訴えて、解り易く。 そして父の死を送る―― 物語はそこで終わる。 終わり方に唐突な感じもあったけど、映画としては美しいものだったと思う。

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