首 輪
今朝、いつもどおり散歩に行こうと、玄関から出たら瑠璃が物凄いスピードで走ってきておすわりをしてシッポを振った。…シッポを振るのはよろしい。おすわりするのもよろしい。けれども鎖につながれて裏手の庭にいるはずの瑠璃がここにいるのはおかしいのだ。鎖は玄関まで届くほど長くないからだ。 犬小屋の方にいくとシッポを振ってついてくる。いつも鎖を引綱につけかえる三つ並べた椅子に飛び乗って早く散歩に行こうという風情だ。薄暗い中鎖の先をみると、主のいなくなった首輪だけがついていた。金具をとめている革が切れていた。 したがって瑠璃は自由である。本当は既に散歩も済ましているのかも知れないが、主人の早起きに敬意を表してか、いかにも散歩にいきたいんだといわんばかりに、椅子の上でシッポを振っている。まぁ、こちらも朝も暗いうちから犬と追っかけっこするのも嫌だから、よしよしと言いながら、素早く以前使っていてまだ捨てずいた首輪を探してきて急場しのぎに瑠璃の首に巻いた。 瑠璃と散歩をしながら考えた。彼女はなぜ好きな方向に走り出さなかったのか、習性といえばそれまでかもしれないが、首輪が壊れ自由の沃野が広がっているのを見えない首輪に捕われていて、知らず舞い戻るのか、知っていて舞い戻るのか、それともいつしか首輪そのものが見えなくなっているのか、…知らず首輪につながれていると思った彼女の行動は我々に比すると思うこと、多々ある。