244【日本の雑器五十章】料治熊太
暮らしの中に美を求める。そんな人生をぼくら大半の日本人は目指しているところがあるが、さまざまな理由でくずおれ、挫折して、ついには嘆き悲しみ、暮らしの中から美を排除したりする。ああ。でも、古き佳き日本には、この料治のような人生を確かに送った粋人も確かに多々いた。そんな粋人の身の回りには、思わず知れず惚れ惚れとため息をつかずにはおれないすぐれた雑器があるもので、豊かな日本人がいてくれて、なんともありがたい気持ちになる。ところで、この本では雑器という言葉を使っているが、なんのことはない、料治お気に入りの品々について、その親しみの距離感を綴っている雑記五十章が本書。小林清親の花火の版画や文部省の教育絵、セノウ楽譜時代当時の夢二など、雑器という範疇には入らない絵はがきなども取り上げられていて、すこし気分がそれるが、はじめから料治という第一等の編集者の身の回りを飾った品々についての思いが書かれていると諒解して読めば、これほど素敵な文章はない。料治の経歴をご存じない方のために、簡単な経歴を復習しておく。1899年、岡山県生まれ。関西中学卒業後上京。国学院大学に一時籍をおく。研究社、博文館にて編集に携わる。会津八一に師事すること34年間。以来古美術研究に専念する。1930年に版画同人誌「白と黒」、翌年には「版芸術」を創刊し、創作版画の良き愛護者。この本のブックカバーは段ボール製で、一時期、カバーを段ボールで仕立てた本に夢中になったときに求めたもので、ボクにとってはひと際懐かしい本。