可愛いに間に合わない(ファッションと猫と通販な日々)

↓前回です♪
第百三十八段　～秘め事～

★☆★☆
第百三十九段

スクリーンに現れたのは見知らぬ女だった。

相手はヒューズと名乗った。

名前だけは知っている。

最近の組閣で閣僚になったひとりだ。

その大臣様が大統領府からではなく、宮廷から

というのがこの世界の摩訶不思議なところだ。

それについては言及してもせんない。

とにもかくにも

アレクはある種類の気を遣ってくれた？らしい。

放置されてもホワイトはそのことに文句の言える立場ではない。

それにこの粛清のきっかけを作った者を

公にすることはできないし、されたくもない。

情報源を秘匿する。

それが礼儀というものだろう。

にもかかわらず、きわめてスピーディに連絡が来た。

少しの配慮も感じられない。

ヒューズはきっとものすごくスキャンダル好きの女で

間違いなくアレクはホワイトの評判を落とそうとしているに違いない。

第一いずれ大本営発表はどこの惑星にも自動的にもたらされる。

それを待てば良いし、それ以上の情報をアレクが火星に与えるとも

思えない。

なにしろこれは悪名高き保安課の仕事なのだ。

一般への報告は法的にも義務化されていない。

ただ確かにこの度の仕事はバカデカすぎる。

しかるべき相手にはしかるべき説明が必要だろう。

気を遣う相手に火星を加えてくれて有難うさんよ。


ふん、そうか。火星にではなく、王子に知らせたいのだ。

俺にではなく。

そういうことだ。

王子からの連絡が欲しいのだ。

王子から頭を撫でられたいのだ。

可愛いやつめ。

ちっ。



ヒューズ。

彼女はホワイトを見た途端、

いっとき言葉もなくぱちぱちと瞬きをした。

ほとんどの人間はホワイトとの初対面で同じ反応を示すので

ホワイトは慣れていて気にもしない。

ヒューズの人間らしい反応はそれだけだった。

それからは挨拶をはじめとして

彼女は書面を読み上げるように話し

-実際そうだったのかもしれない-

一切の感情は見せなかった。

この女も実はアンドロイドなのかもな。

ホワイトは苦々しく考えた。

さきほどのオペレーターの方が余程人間らしい。

質問したいことが山のようにあったが、

多分、こいつに答えられることは何もないのだろう。

ただの伝言ロボットなのだ。

彼女がもたらす情報は、その内容以前に

王子が事前にホワイトに描いて見せたヴィジョンと

ほぼ違わないということの方が、

それは慣れてはいても、どうしてもホワイトに驚異を抱かせた。

ネクスト。恐るべし。

ふとホワイトは彼女の機械的な冷たい声を聴きながら

首筋の産毛がそよぐような感覚を覚えた。

それは尻までぞぞっと伝わり、背中のすべての皮膚細胞が

突っ立って震えた。

この圧倒的な圧力。

陛下だ。

俺を見ている。

直観がそう告げていた。

ホワイトは見えるはずはないのに

ヒューズの背後に目を凝らした。

あるいはスクリーンの周囲に。

彼女の近くにいるとは限らない。

自分の部屋でモニターしているだけなのかも知れない。

重要な報告を受けているにもかかわらず

無理だ、不可能だと思いながらも巨人の影を探して

心が触覚を伸ばし空(くう)にさまよい出て泳いだ。

録音をしているという安心感もあったかもしれない。

そして深い疲労も。

ヒューズの淡々とした語り口に

催眠術をかけられているかのようだ。

内容は非常に重く衝撃的なものだというのに。

とにかく身体だけでなく、脳もしびれて幽体離脱しそうだった。

彼は頭をそっと振った。

肩の凝りをほぐすようにかすかに動いた。

気づかれないように嘆息すると

胸には例の妙な痛みがあった。

脳裏で巨人の唇が指先を舐める。

いくつもの宝玉に飾られた長い指たち。

血を滴らせた顎。

そしてあの鬱々とした目の光。

サイコパス。

魔王め。

俺をどうやって切り刻んでやろうかと

禍々しい想像を巡らせているに違いない。


そうさ。

俺の身命は奴のものだ。


すると『長官』女は言った。

ホワイトはしゃんとなった。

報告は終わったのだ。

後で録音を聴き直さなければ。。。

かろうじて魂は身体に留まっているようだった。

ヒューズは続けた。

『ロバート・スティール大使は息災か？』

それは彼女自身の言葉であったようで

目に、こちらの反応をうかがうような色が差した。

『ええ、大臣。』

ホワイトはそう答えたものの、

まだ本人に会って確かめてはいない。

だがそのことについては言わないでおく。

この女がいったいどこまでを知っているのかわからない。

この女は王子の誘拐を知っているのだろうか？

王子の婚約は？

ホワイトは彼女がどの程度アレクと近しい間柄なのだろうか

と思った。

この俺に対するメッセンジャーとして使うからには、

ある程度、皇室の内情に精通しているのかもしれない。

寵臣か。

アレクはアズール亡き後、女っけがないと聞いていたが

ひょっとするとひょっとする？

アレクより幾分歳が上かもしれないが色っぽいと言えなくもない。

いやいや、アレクが臣下に手を出したという話しは

聞いたことがない。

臣下以外にもだ。

後にも先にもアズールだけだ。

そのはず、だ。

『大使に伝えて欲しい。』

驚いたことにヒューズは人間のように言葉を話した。

『これからはお人よしもたいがいにしろ、と』

『はあ？』

ホワイトが意味も意図もつかみかねていると、作りものに戻って

『以上だ。』といって通信は切れた。

へえ？

なんだかしらないけれど、妙な電波が伝わってきたぞ。

ホワイトは肩をすくめた。

そしてひとつわかった。

その程度の自由はアレクに与えられている女なのだ。

つまりは、やはり寵臣だ。



つづく





↓次回です♪
第百四十段　～ケイレブ～

最初からお読みになりたいごキトクな方は
下記の

『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表
↑
からどうぞ♪



[◆映画・テレビ・華流・韓流] カテゴリの記事
↑『ウィリアム・フォン、馮紹峰、フォン・シャオフォン、
ペン・シャオペン　William Feng 以上全部同じ人』的な(笑)
ほとんどしゃおちゃんのことばかり♪
『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表
↑ってことでヨロシク♪
[堀込/キリンジ/小田和正/オフコース/フジファブ他] カテゴリの記事
↑大好きなアーティストのライブ情報やレビュー等
2017.05.24からは娘がこのカテ担当☆
[♥どんま娘のフジファブ普及活動の日々] カテゴリの記事
↑やっと娘が重い腰を上げてくれました(笑)
『可愛いに間に合わない』新着記事一覧
↑ここから目的の記事を探して頂く方が早いかもしれない？