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可愛いに間に合わない(ファッションと猫と通販な日々)

2017.02.14
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前回です♪

第百二十八段 ~父~

★☆★☆
第百二十九段

『父上。ジョンがどのような者であれ、僕の決心は堅いのです』

シアンは言った。

『あの男は人殺しだぞ。それも病的な殺戮者だ。分かっているのか?』

アレクは絹のハンカチーフで涙を拭った。レースの縁飾り。

そしてコーネリアス家の紋章であるヒッタイトの聖獣キマエラの刺繍。

それで鼻をかむ痩せて来た父親をぼんやり眺めた。


殺戮者?

そうだな。シアンは、否定出来なかった。

だが彼だけの責任ではない。

彼は、そのように造り変えられたのだ。

今からは僕が彼とともに生きて、

彼を本来の今生での目的の姿に戻すのだ。

『父上たちがジョンを洗脳し、

暗殺者に仕立て上げたことは分かっています』

シアンは言った。

『ジョンは無力な孤児で、人を殺すことが生き残る術だった。

その能力を

父上たちは利用しようとさらに強化したのです。』

『それは違うぞ、シアン。逆なのだ。』

アレクは驚いたように早口になった。

『朕たちは、あの子供の狂気をなんとか抑えようとしたのだ。

何度も何度も繰り返し試みた。だが無駄だった。』


信じない。

父上は嘘を言っている。

いやたとえ本当のことを言っているとしても、

あの洗脳の目的が善であるとは思えない。

あの回数。

よるべの無い子供はじっと耐えたのだ。

『父上が何をおっしゃられようと、僕はジョンと結婚します。

分化過程に入って間も無いので今は起きていられますが

じきに動けなくなる。そうなる前に早く式を済ませたい。

願わくば僕は父上の祝福を受けこの結婚を正式なものにしたい。

ですがたとえ父上のお許しを頂けなくともジョンと結婚します。

そしてその時、僕は彼と永遠にこの世界から消えます』

『ああ、なんてことだ。』

アレクはまた顔を両手で覆った。

父親を悲しませるのは本意ではない。ずっと今までだって

心を痛めて来たのだ。

シアンは言葉もなく

身も世も無くさめざめと泣く憐れな王者の姿を見つめていた。


『初めの内は一人だ。』

やがてアレクは再び口を開き泣き疲れた声を出した。。

『毎夜毎夜一人。

その内に一人がふたりになり、

やがて三人になる。

いつか山のように生贄がお前の褥に捧げられる。

血の海の中で、お前は奴に抱かれることになる。

想像できるか?

あの男は、怪物だ。

呼吸なくしては人が死ぬように

殺しなしではあの男は生きていけないのだ。

どうかシアン、お願いだ。

考え直しておくれ。』

シアンはアレクが思う以上に充分に想像できていた。

実際に数多くの彼の殺戮現場を見て来たし、

被害者たちの血で川のようになった道に倒れ伏して泣いたこともある。

あの頃は頑なで短気で、彼を理解し導く力はなかった。

今は違う。もうあの轍は踏まないのだ。

それに一緒に地獄に落ちることも厭わない。

今のシアンは戒律に縛られた僧侶ではなかった。

恋するセクサロイドに過ぎない。

『父上』

シアンは言った。

『あなたも同じです。ジョンと同じ残酷な殺戮者だ。

それでも僕は父上を心から愛している。

血の匂うあなたに抱かれ

子守唄を聴いて眠りに着いた。

その僕が、

ジョンを愛する事を躊躇いましょうか?』



愛する人の死の衝撃で一夜にして白髪になったアレクは

それを彼女の形見と称して伸ばし

黒髪に戻ってからも雪色に染め続けている。

シアンは映像の父親のそのきらきら銀粉を撒いたように

輝く長髪に触れた。

染めたばかりの髪はまだ濡れているようだったが、

ホログラムではその水気は伝わることは無い。

シアンはひとすくいの父親の美しい銀髪にキスした。

小さい頃に肩車されると必ずそうしたように。

染めたての父の髪は、よい匂いがしたものだ。

アレクはその手を捕えて息子を引き寄せ

頼りない映像の頭部にまた頬を擦り寄せて言った。

『分かった。』

喉を絞るようにして言葉を吐いた。

『その件、考慮しよう。

詳しく話しを聞こう。』

そして続けた。

『ホワイトと話したい。ホワイトにかわるのだ。

見届け人のひとりはどうせホワイトであろう。

あやつの胸糞悪い算段を聞く。

朕の息子を返してくれるなら

誰との結婚であろうと許す準備はある。

あやつがまことお前を返す気があるのか

真意を見たい。』

さらに続けた。

『お前は主導権を握っているつもりであろうが

ホワイトはお前を上手に踊らせているだけだ。

あの男の狙いが実は何であるのか

お前は気がついておるのか?』

父は訊ねた。

『世界の平和ですよ。父上。』

シアンは応えた。本心だった。

『ふん。息子よ。違うぞ。』

父親は我が子の身体を離し忌々しげにハンカチを投げ捨てた。

涙は流れ続けていた。

『百年戦争の真の勝利者の座だ』

と彼は言い捨てた。

『あやつはいずれ本性を現わすであろう』

その言葉にシアンは父親の顔を見つめ直した。

百年戦争の勝者。

確かにそうだ。

ただ、父と自分たちとの解釈に

大きな違いはあるけれど。

『それでも、それが分かっていても

ジョンよりはホワイトの方がまだましだ、王子よ。

お前がホワイトと契ってくれたのなら

どんなによかったであろう。

世界など奴にくれてやったものを。

だがしかたあるまい。

お前はジョン以外の男では駄目なのであろう。

いずれお前のこの選択は、

ジョンとホワイト、

近い将来ふたりを争わせる。

両家にとって互いは仇敵となる。

朕のこの忠告を忘れるな。

さあ、ホワイトとかわれ。』

シアンは父親の思いがけない言葉に二の句がつけないでいた。

これは現実だろうか?

いつものヴィジョンではないのか?

そしてまた思った。

彼はおそらく聴いたのだ。

今朝のあの"音"。

父は捨て鉢に見えた。

そして

アレクの顔は今や老人のようで、打ちひしがれていた。

『長官からあらためて父上に連絡が入るようにします。』

シアンは自分に鞭うち、慎重さをおこたらず、

そう応えて通信を切った。

まだ父親に自分とホワイトが同じ場所にいることを

知られたくなかった。

まだだ。。

アレクには自分が船で常に移動していると思わせていた。

ホワイトや火星、冥王星自治区に何かあった場合、

その船は爆破される、という手はず、と。


そもそもドールは自殺することができない。

その思考回路は閉ざされている。

ところがシアンに限っては、そうではなかった。

彼は自分が自殺できることを

過去に証明してみせていた。

彼がネクストとして軍務に着きたいと願った時だ。

アレクは頑として受け入れようとせず

ある日、シアンは絶望のあまり、庭の人工池に身を投げたのだった。

幸いにも父親はシアンを喜ばそうとして数日前から

内緒で池に大亀を放っていた。

その亀が偶然折り良く王子を背中に乗せて浮かび上がって来た。

その時、シアンは仮死状態で、脳死寸前だった。

パレスの優秀な医師団と、

冥王星から派遣された科学者との連携プレーが

寸でのところで彼を蘇生させた。

ただシアンは、

-これは牧場の科学者の見解ではあるが-

彼自身の意思で

彼等の救いの手を逃れ続け

何週間にも渡って死地を彷徨い植物状態であった。

アレクは大方の予想通り気が触れかけ、

叫びながら自分ひとりの力でしかも素手で岩をいくつも動かし

池を埋めようとした。

臣下が命がけで、その彼を押しとどめた時

彼の爪は剥げかけて手も足も血まみれだった。

科学者たちは強制的にシアンの脳に、アレクの惨状の映像を

送り込んだ。

それによってなのか、偶然なのかシアンはようやく意識を取り戻し

最初のひとことが『お父さま』だった。

それを聞いて『許す』とアレクは泣き叫んだ。

『そなたを戦場へ送ろう』





それからというものアレクはシアンのストレスに敏感になり

それでなくともほぼドールの言いなりであったのに

さらに甘くなっていた。

唯一つの事を除いては、息子の願いをかなえようとしてきた。


シアンは父親に対する自分の非情に胸が痛んだ。

元来ドールは主人に従順であるように条件づけられている。

それはドールの必須条件と言える。

だが彼に限ってはその特性があまり機能していないようだった。


それが分かっていても、胸の痛みは軽くはならない。

シアンは通信が途絶え暗くなった室内の角っこに目をやり、

あーるつう、と呼んだ。

大昔のデバイスで組み立てられたそれは

両眼を赤くぴかぴかさせながら嬉しそうに

小さな四輪でころころとシアンに近づいて来た。

シアンは彼の金属の頭を撫でた。すると彼は言った。

『しあん、あいらぶゆー。

ぼくじょーんすき、しあんすきとおなじくらい。

ぼくあれくすき、じょーんすきとおなじくらい。』

あーるつう。

このロボットを作って、アレクに披露した時の彼の驚き。

彼はお腹をかかえて大笑いし、

小さなシアンの頭に何度もキスをした。

『王子よ。アズールの子よ。お前は大したものだ。』


あなたが僕にも鬼のようであったならば、と思う。

ひょっとすると僕は何処にでも在る理想的なドールで

いられたかもしれない。

こんな気絶しそうなほどの痛みを抱えて苦しむなんてこと、

絶対になかった。

きっと。


ああでも、そんな夢想は無意味だ。

僕がゲンジョウ・サンゾウである限り。



つづく


↓次回です♪
第百三十段~遺棄船~


最初からお読みになりたいごキトクな方は
下記の
『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表

からどうぞ♪






ウィリアム・フォン、馮紹峰、フォン・シャオフォン、ペン・シャオペン William Feng 以上全部同じ人(笑)

『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表ってことでヨロシク♪

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Last updated  2019.05.28 06:44:05
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