可愛いに間に合わない(ファッションと猫と通販な日々)

↓前回♪
第百三十段～遺棄船～

★☆★☆
第百三十一段

スティール家の当主であるロバートの父親ゲイルや

彼を取り巻くロバートの腹ちがいの弟たちは、

嫡男ロバートひとりを人身御供に

この窮地をなんとか切り抜けたいと考えているのは歴然としていた。

原因は戦時中に起きた水星の核による大量殺戮だ。

その責任問題が未だに燻っているのだった。

特にポール・キューザック。

彼は水星で三人の息子を失っている。

彼が特別に表立った動きをしている訳ではないが

当時の関係者の誰かが不慮の事故や急な病で死ぬたびに

ポールの復讐説が囁かれるのだった。

誰でも大抵は一度に全ての子供を失えば

復讐を誓うものだろう。

無理もない。

相手が神や運命といった、正体の定かではない者であろうと

きっと何らかの報復を考えるはず。

当然だ。

ましてや

公には追及はされていないが

スティール家がこの件に関わっているとの噂は

未だに根強く残っていて

当時は保安課の極秘調査もなされたのだ。

しかし結局は確たる証拠はなく、不問に付された。

ポール・キューザックの無念は推して知るべし、だ。


スティール一族は、地球時代から

コーネリアス家を支える有力財閥のひとつだった。

その動かし難い実績のためか、

水星で起きた惨事は、

大混乱のさなかで突発的に起きたことで

どこの誰にも責任はない、ということになった。

制御不能状態に陥った戦地ではよくある不慮の事故だ。

もちろん自軍を送ってはいたが政府軍の管理下にあった。

原因を作ったのは反政府軍だとの説も取りざたされ

おかしな話だが結局は水星を奪還した功績で、

スティール家は表彰もされた。

ところが今になってこの仕打ちだ。

突然、元帥の地位をはく奪されロバートは火星に左遷。

説明はなし。

スティール家の威光は地に落とされた。

ただ、ゲイルたちは不服を申し立てなかった。

誰が何を言ったところで

アレクの下した決定を変えることはできない。

それに後ろめたさもあったからに違いない。

彼等が水星の地下資源を廻って当時

各方面で暗躍していたことは

いくらなんでもスティール家の後継ぎである自分が

知らない話しではない。

そして、

アレクかキューザック一族の誰かが同じように嗅ぎつけていた

としてもなんら不思議はないのだ。

遅ればせながらのお仕置きだ。


ゲイルは少々やり過ぎた。

露骨とまでは言わないが、かなりそれに近い。

今は亡き水星の長官はゲイルの従兄であった。

ゲイルはロバートが可愛がっていた一番下の弟を

こともあろうにこの老人の後添えに

する話しを進めていた。


ゲイルは他家に養子として出された謂わばスティール家にあっては

穀つぶしとされていた従兄アンソニーが大出世して

水星の長官の側室になったところまでは陰では嘲笑いながらも

平然としていた。

ところが運よく子供もないまま正室が他界し

他の側室たちは全員男で子供なし。

さらに運の良いことには長官は死の直前に

色ぼけだったのか血迷ったのか

寵愛していたアンソニーを

後継者候補のトップに正式に指名していたのだ。

男妾が水星の長官にまで上り詰めた。

ついにゲイルは激しい嫉妬を隠そうともしなくなった。

なにしろ太陽に近い星を領土に持つことはスティール家の

大昔からの夢だったのだ。

それなのに穀つぶしの薄のろが顔の良さだけで

水星を手に入れた。

大人気ない話しだがそのせいで長い間不仲となり絶縁していた。


だがそれにもかかわらず

水星で希少金属が出たとの情報を得た途端に

掌を返したのである。

そして脳なしアンソニーはその宝の山を水星ごと

みすみす反政府軍に掠め取られそうになっていた。

その時どんな力が働いたのか知らない。

神のみぞ知る、だ。

水星は惑星防衛システムが暴走して

敵味方関係なく核攻撃をした。

反政府軍も政府軍も逃げ遅れた住民たちも巻き込んで

核の連鎖的暴発で壊滅した。



いや、神以外にもその経緯を知る者たちはいたのに違いない。

なぜなら、大惨事の起きた丁度その日

海王星では祝宴が催されていた。

名目はゲイルの誕生パーティ。

水星では憎きアンソニーと、

最大のライバルのキューザック家の三人の息子たちが放射能で

焼かれている最中だったのだ。


犯人は神でも悪魔でもないさ。


海王星で息をしている者なら誰もが分かっている。

危険過ぎて、口にできないだけだ。


防衛システムの中枢にウィルスが仕掛けられたに違いない。

嫁いだ弟ミカエルは軍にいたころは諜報課にいて

マルウェア使いだった。

惑星外にバックアップを持つ星があるわけがない。

セキュリティ上の事情だ。

証拠は水星で全て溶けただろう。

そこまでのつもりはなかったミカエルとともに。

何て奴らだ。。



つづく





↓次回です♪
第百三十二段～煉獄の山脈～


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