可愛いに間に合わない(ファッションと猫と通販な日々)

↓前回♪
第百五十二段～養父～

★☆★☆

第百五十三段

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ポールは話しの終わり際

『あれから陛下と直接話したか』と訊いた。

最高に憂鬱な記憶がよみがえって、ジョンは顔をしかめ

いいえ、と答えた。


そうだ。

彼と話さなければならなかった。

ホワイトから、

話すことになるだろう、と言われていたのだ。

シアンからも期待されているような気がする。

どのタイミングで。。？

と考えないこともなかったが

今か。。


『話すつもりか？』ポールは言った。

父の意図は分からなかった。

話すなら、彼が取りつごうということなのか

話すべきではないと言いたいのか。。

ジョンは話すべきだとは思ったが

当然、気は進まない。

『陛下は私とお話しなさりたくはないでしょう』

と言った。

『確かに

陛下のご気性なら

多分、今だれとも話したいとは思われないだろう。

特にお前とはな。

だが連絡だけは取れ。

礼儀だ。

彼の息子と結婚すると決めたからには

挨拶は必要だ。

心使いをしてみせろ。

その証拠を残せ。

いずれきちんと会う時のために。』


それからポールは目の前で宮廷に連絡を入れ

自分の名前とジョンの名前を言って陛下に取り次ぐよう

アンドロイドに指示をした。

親子の間にきらびやかな機械人間のホログラムが入り込み

黙劇のように優雅に踊り

透明スクリーン上のコンソールを操作した。

少しののち、アンドロイドは『陛下はお出になられません』

と歌うように言って、

そっけなく接続が切れると同時に、姿が掻き消えた。

父と息子は顔を見合うこともなく

そろって首をすくめた。

機械は、予め誰かの指示を受けていた、そんな気がした。

『シアンを大事にするのだ。』

ポールはもう一度首をすくめるとそう言った。

『お前の命綱は彼だけだ。』

『彼と結婚したくはありませんでした』

ジョンは思わず

言うべきではない泣き言を言った。

本当は皇帝に言いたかった。アレクに。


この結果を招いたのは、俺じゃない。

シアンだ。


『そうか？』

父は意地悪く笑った。

『だが、王子は分化プロセスに入ったのだろう？

責任を果たすことだな。

それがこの世界の流儀だ。

それに

正式な手続きを経た婚姻関係を

陛下はないがしろにはできない。

特に見届け人が存在する結婚だから。

私とロバートとホワイト、そして陛下との

四者の結婚でもあるのだ。

陛下こそが範を垂れなければならん。

それでこそ、世界の秩序を保てるというものだ。』


空々しい。


ジョンはポールが本気で

そんなことを信じて話しているわけではないと

分かっていた。


挙式の後、後宮に入って

何かの手違いか、事故を装って、俺が死ぬことがあっても、

誰も驚きはしないだろう。

王が目障りな羽虫を一匹、叩き潰しただけだから。

気にする人間がひとりでも居るだろうか？

シアンがいないなら、俺がふと居なくなったとしても

誰ひとり気付きもしないのだ。

そのシアンですら、いつまで生きているか分からない。


俺が先か、シアンが先か。

そして俺も彼も居ない世界。。


そうなれば

ポールは残るふたりの息子の内のどちらかを選んで

皇帝に差し出すのかもしれない。


アレクがもう二度と結婚しないなら

アンナの息子以外には

明日をも知れぬ命のシアンの他に

皇位を継ぐことのできる者は

居ないのだ。

あるいはもう一度、もう一度、もう一度と、

シアンを生産させるだろうか。

二人目、三人目、四人目のアズール。

ただ一人、皇帝から許される者。

存在を。。。


彼女の細胞は限りなく増殖し

傷だらけの遺伝子を持つ命短い王子が生まれ続ける、

果てることなく。


そして彼らは全員、あの夢を見るのだろう。

水色の凍れる湖に深く沈むふたり。

誰とも知れぬ男たちを。



つづく






↓次回です♪
第百五十四段　～マザー～

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第百五十一段～別れ～★第百五十二段～養父～

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