3016817 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

可愛いに間に合わない(ファッションと猫と通販な日々)

2018.03.19
XML


↓前回♪
第百五十三段 ~あの二人~

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

第百五十四段

いよいよ接続を切ろうとした瞬間に滑り込むように

アンナが現れて

ホログラムが安定しないうちに

ジョンを強引に抱きしめた。

気付かないふりでスイッチを切り

逃げることもできたかもしれない。

だができなかった。

アンナがひどく悲しむことは分かっている。

ジョンは仕方なく黙って静かに

まだきらめく霧状の彼女に抱かれた。

母上。。


アンナの秘めた苦悩を知っている。

人目を忍んで流す涙を幾度か目撃していた。

養子たちを心から愛し

成長をサポートすることで

ようやく保って来た平静を

ジョンは理解していた。

彼女の今の家族に

それを分からない人間はひとりもいない。

全員が経験者だ。

全員が大切な人々を失った。

全員が

その悲しみを忘れられないでいる。


その彼女の息が歓びではずんでいた。

参内の準備に大忙し。

ジョンからの連絡を誰かから聞きつけて

飛ぶように自分の部屋から駆け付けた、きっと。

彼女は清らかな外界の風だ。

そんなはずないのに、薔薇が香った。

庭だ。彼女の庭。

彼女と飲むお茶。

浮かべた花びらを吸い込まないように苦心しながら

飲んだ。

熱いわよ。火傷しないで。

そう言って、落ちる前髪をかきあげてくれた白い手。

優しいかすれ声。


十三になったばかりのころ、突然生きる世界が変わった。。

今思えば、あのお茶の時間、それとなくアンナは

この世界の作法を教えてくれていたのだ。

食事だけでなく、様々な上位カーストのしきたりを。

気づまりに感じていた"二人きり"も

彼女にしてみれば

子ども相手にでもプライドを考慮してのことだったろう。

時には、心ならずも夢見心地に過ぎた。

一緒に音楽を聴いたり、映画を観たり、

読んでくれる本の世界に浸りきる時間。

この上ない退屈。

腹のくちい、幸福な退屈。


『母親に、おめでとうも言わせてくれないの?』

彼女はジョンの頬にキスをしながら

そう言ってまた強く彼を抱きしめた。

もしホログラムでなければ

ジョンは身を縮めてハグから抜け出し

アンナを失望させただろう。

『大丈夫よ。

兄はあなたを好きになるわ。

私が保証する。

シアンを幸せにしてあげて、ジョン。

あなたたちお似合いよ。』

保証?

お似合い?

何に効力のある呪文だろう?

ジョンはアンナの長い抱擁に当惑を深めながら

本当にホログラムでよかったとしみじみと思う。

そうでなければ、不覚にも泣き出したに違いないから。

ようやく彼らとの接続が切れると、

居心地の悪さからの疲労をどっと感じ

急に温度の下がった風が身体を

吹き抜けるような詫びしさがわきあがった。


もう帰れないのだろう、

あの家。


ジョンは実際には触れてもいないのに、

彼らの痕跡を拭い去るように

両手で身体を撫でさすって

深く息を吐いた。


アンナを囲む優しい息子たちの笑い声。

それを見守る大きな背中の男。

その団欒の部屋の片隅で

いつも黙って、彼らを眺めるでもなく眺めていた自分。


確かに彼らに馴染めず孤独ではあったが

だからといって、他のどんな場所、

どんな人々と一緒であろうと、

気分は一緒か、

もしくはもっと悪かったであったろうから

ポールには感謝している。

彼に拾い上げられなかったなら

決して手に入れることのできなかった人間らしい生活だ。

義理とはいえ、父母と呼ぶことのできる相手。

出自の差を感じさせず弟と呼んでくれた義兄たち。

彼らを避け続けたのは怖かったから。

いつかまた失うことを恐れていたからだ。

顔も覚えていないかつての家族たちのように

ある日突然消え去る。

愛するということは、

地獄の先取り。



ジョンはにわかに胸が締め付けられ息苦しくなり

何かを求めて広い部屋を眺めまわした。

壁際のあちこちに鎮座ます妙な形の機械類。

作りかけの、

何ものなのか判然としない装置類が並べられた陳列棚。

これがシアンの精神世界なのだろうか、

珍妙ではあるが

やたらあたたかい。

一見、合理性も整合性も感じられない滅茶苦茶な形状。

だが、楽しそうじゃないか?

ジョンは一番隅に目をやった。

暗がりに目立たないようひっそりと"あーるつう"が居た。

自分の判断でオフを決め込んでいる。

ただの金属でできた機械に過ぎないが

どこの誰より、ジョンは親しみをおぼえた。

胸苦しさが薄れていく。


俺が一番似ているのはお前さ。

ほんの一部だけどな。

ポンコツ。


そして、自分がそんな気分になっていることに驚き

ポールと話せたことが

その内容がお互い秘密だらけだったとしても

自分を安堵させ、肩の荷を幾分か軽くさせたことを知った。

そしてアンナの魔法の言葉。

『大丈夫よ』


彼をそっと呼ぶと

ぷるるっと返事して、同時に目と思しき部分に

赤い光が灯った。

『はい、じょーん。あいらぶゆー』

『あーるつう。王子は今どこだ?』

ジョンは訊ねた。

『いりょうせくしょんに、いま、はいった。

じょーん、あいらぶゆー。

しあん、だいじょうぶ?』

訊きたいことを逆に尋ねられて、とまどう。

お前の知能はどうなってる?

『俺が知りたいよ。あーるつう。ウォーカーの空きはあるか?』

『いまない。

でも、このへやにむかっている"うぉーかー"ある、じょーん。』

『誰が乗ってる?』

『けいびへい、じょーん。にんしきばんごう10-890-361』

『そうか』

ジョンはため息をつく。

何の用だ?

ろくな想像は浮かばない。

来訪を告げるブザーが鳴り、

スクリーンを見るとケイレブだった。

男名を持つ少女兵士。

『入って』

ジョンはドアを開いた。

居間に移動すると、小さな青ざめた顔が待っていた。

『教えてください』

ジョンを認めるや彼女はいきなり言った。

『何をだ?』

ジョンはいぶかしみながら訊いた。

『王子はひどい病気なのですか?』

こいつもか。

ジョンは眉をひそめた。

だから、それを訊きたいのは俺のほうだ。

『知らない』

彼はそっけなく応えた。

その返答に納得しようとしない頑固そうな相手に

多少いらいらしながら

彼はつづけて言った。

『それに知っていたとしても、俺は何もしゃべれない。

君らの組織はどうなっているか知らないが、

俺たちは今まで、そんな風にやってきた。

おいそれとは、

皇族の体調について話すわけにはいかないんだ。

たとえ噂話であろうともな。』

ジョンの冷淡な返事に

ケイレブの顔がますます白っぽくなった。

彼女は唇を噛み締めた。

『それに君は質問する相手を間違えているぞ。

俺が何者か承知しているのか?』

その質問にケイレブは肩をすくめて見せた。

『存じ上げています、サー。

ブラッディ・ジョン、サー。

私が知る限り、ここに居る人間で

ジョン・キューザック大尉を知らない者は居ませんよ、サー。

出回っている人相書きとはずいぶん違いますが。』

人相書き?

なんだ、それ?

彼女の答えに今度はジョンが肩をすくめた。

『知っているなら、

何故、俺に訊く?

戦争は終わったが、

今でも俺は軍人だ、政府側のな。

内容が何であれ

質問はホワイト長官にするべきだ。

あるいは君の直属の上司か、

ドクター・ラクロアに。』

『長官は何もおっしゃらない。

上司もドクターも同じです。

王子に関する質問は禁止されている。

その点はあなた方と変わりありません。

それでも私は王子の体調について

知っていなければなりません。

私は頻繁に王子のお世話をおおせつかる。

あの方の体調を知らないでお世話するのは

とても危険です。

それは未来の夫君にとっても重大事ではないでしょうか?』

それを聞いてジョンは大きくため息を吐いた。

口の達者な女だ。

『今の話し、そのままを、ホワイト長官にしろよ。

さっきも言ったが俺は話せないぜ。

そんな風に教育されているんだ。

規則を破るつもりはない。』

ジョンは彼女を払い除けるように手を振り

部屋を出ていくよう促した。

御託はもう沢山だ。

ウォーカーを置いて、持ち場に戻れ。

ケイレブは慌てて、言った。

『サー。

生意気をお許しください。

あなた以外に私は質問できないのです。

あなたはここの人間ではないから、

ここの規則は適用されない。

その、つまり、

王子の今の不調は私のせいかも知れません。』

この女のせい?

違うだろ。

俺のせいだ。

『どういうことだ?』

彼は訊いた。

『あのドレスを選んだのが間違いでした。

私が選んだのです。

あの方が私が一番嫌いなドレスを。。

と、おっしゃったので。』

必死のようだった。

一番嫌いなドレスか、、

シアンなら言いそうだ。

ばかばかしい。

そんなことが原因なわけない。

ただ、

彼女の必死さがジョンの心を動かした。

全く、俺は甘くなっている。

話しの内容はとるにたらないが、

彼女はよほどシアンを心配しているのだろう。



ケイレブは

ミックに似ている。


心が揺れた。

小柄な兵士。

長い睫毛。

彼女はこの体格でも、きっと優秀なのだろう、

ミックほどではないだろうが。

ホワイトが見込んだからこそ、シアンの近くに置いているのだ。

『いいか、ケイレブ。

これだけは言っておく。

君に何も責任はない。

王子の命令に従っただけならな。

確かに時々、王子は幼児のようで、

保護者のような気持ちになるのは理解できるが

彼の知能は我々以上だ。

それに

彼の命令が正しいかどうかなんて関係ないんだ。

彼は皇族なのだから。』

さっきのポールの言葉をそのまま引用してから

ジョンはさらに言った。

『とにかく

ここで君と時間を潰している暇はない。

俺は今から医療セクションに行く。

ウォーカーを貸せ。そして、操縦しろ。

ついて来るんだ。

俺が訊いてみる。

君が彼を見舞っていいかどうか。

王子が了解するなら、彼に会って

彼自身から話しを聞くんだ。

それなら、ホワイト長官は何も文句は言わない。

王子が嫌がるなら、諦めろ。

いいな?』

ケイレブの顔が感謝で輝いた。

責任感でだけ、こんなに気を揉むはずがないな。

それにしても

王子はかつては彼女たちの敵だったのだ。

よほど、シアンはこの二年、

彼女たちの生活に寄り添ってきたのに違いなかった。

ただシアンが今、誰かと話せる状態かは疑問だ。

それは彼女もきっとわかっているに違いない。

それでも彼女はシアンのことを知りたいのだ。

少しでも会いたいのだ。

情報が欲しい。

心配でたまらないのだ。

そんなふうに考える自分の感傷に

ジョンは腹が立っていた。

気恥ずかしくもあった。

油断は禁物だ。

何にせよ、ここの全員が

ケイレブと同じような気持ちでいると思うな。

多分少数派だ。

復讐心を隠している連中が大勢居るに違いない。

いやいや、このケイレブにしたところで

芝居が上手いだけかもしれない。

彼女が不満分子かどうか

分かるなら、今のうちに分かっていたほうがいい。

ホワイトが火星にいる間に。

いずれにせよ、シアンに彼女のことを話そう。

意識があるなら。

そして彼の判断にまかせよう。

『ケイレブ。もし君が俺の部下なら

君は即刻不名誉除隊だ。

上官の許しもなく俺と口をきくなんて。

おしゃべり女め。

それから、王子に何かしようとするなら

俺は即座に君を殺すぞ。

王子と二人きりにはしない。』

『了解です、サー。

私も閣下が王子に何かしようとなさったら

即刻対処しますよ。

これについては、長官から命令を受けています。

あとひとつ、私はおしゃべり女ではありません。』

そう答えたのち、ケイレブは全く口をきかなくなった。



つづく





↓次回です♪
第百五十五段~赤い幻~

最初からお読みになりたいごキトクな方は
下記の


『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表


からどうぞ♪

















[◆映画・テレビ・華流・韓流] カテゴリの記事
↑『ウィリアム・フォン、馮紹峰、フォン・シャオフォン、
ペン・シャオペン William Feng 以上全部同じ人』的な(笑)
ほとんどしゃおちゃんのことばかり♪
『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表
↑ってことでヨロシク♪
第百三十九段~寵臣~第百四十段~ケイレブ~
第百四十一段~コーマ~第百四十二段~エスコート~
第百四十三段~理想郷~第百四十四段~謀反~
第百四十五段~大天使~第百四十六段~孤独~
第百四十七段~運~第百四十八段~勅~
第百四十九段~誅滅~第百五十段~巡り合い~
第百五十一段~別れ~第百五十二段~養父~
第百五十三段~あの二人~

⇩以下の5カテゴリは娘が担当☆
[堀込/キリンジ/小田和正/オフコース/フジファブ他] カテゴリの記事
↑大好きなアーティストのライブ情報やレビュー等
2017.05.24から娘がこのカテ担当☆
[娘・いろいろ] カテゴリの記事
[書き起こし早見表サウンドクリエイターズ・ファイル] カテゴリ
[コーネリアス/Cornelius/小山田圭吾] カテゴリの記事
[♥どんま娘のフジファブ普及活動の日々] カテゴリの記事











★★







You can buy Rakuten products without handling charge!

Looking for items from Japan? Rakuten International Shipping Services

楽天国際配送サービス開始!

楽天国際配送-ご購入商品を海外にお届け!-

海外からでも楽天市場でショッピングできます!

★★























Last updated  2018.07.15 07:57:57
[◆映画・テレビ・華流・韓流] カテゴリの最新記事

PR

Profile


すみれゆきの

Keyword Search

▼キーワード検索

Calendar

Archives

Category

↓↓★印は娘 ◆印は母担当↓↓

(2132)

★★娘の『どんま日記』★★

(11)

★どんま娘トンデモ闘病記↑早見表♪

(103)

★どんま娘のフジファブ普及活動の日々

(1272)

★堀込/キリンジ/小田和正/dipヤマジ/コーネリアス/エレカシ

(707)

★書き起こし早見表サウンドクリエイターズファイル

(4)

★コーネリアス/Cornelius/小山田圭吾

(203)

★娘・いろいろ

(1008)

◆◎健康・ダイエット・美容◎

(22)

◆😹ペット用サプリ・猫慢性腎不全等

(8)

◆😹我が家の猫さま腎不全サプリ

(1)

◆😹ママおっぱいヘンよ!乳腺腫瘍にゃん日記

(33)

◆😹🐶🐰ペット関係お勧めグッズ

(71)

◆アジアの音楽

(176)

◆アジア以外の音楽

(97)

◆映画・テレビ・華流・韓流

(8301)

◆『三〇〇〇・・・』シリーズ早見表

(1)

◆高昌王と玄奘三蔵のシリーズ

(1)

◆スランドゥイル王リー・ペイス/ボードゥアン王エドワード・ノートン他

(1964)

◆リー様ノートン氏馮紹峰先生キリンジ小田和正他記事まとめ

(20)

◆母・いろいろ

(314)

◆母の京都祇園祭'18/下関上臈参拝'18/下吉田行'18/玄奘三蔵を訪ねて他

(14)

◆『美』Gustave Moreauギュスターヴ・モロー他

(194)

セルゲイ&マチュー他(舞踏関係)

(129)

◆モデル

(21)

◆太極拳 気功 関連

(44)

◆スポーツ

(20)

◆ファッション レディス

(6829)

◆ファッション メンズ

(799)

◆ファッション キッズ

(265)

◆パーティ・フォーマル/結婚/卒業/入学/入園

(1686)

◆バッグ/ウォレット/財布/パース /手帳/時計/アクセサリー

(658)

◆シューズ

(444)

◆ハット/キャップ/帽子/メガネフレーム/サングラス/傘etc

(97)

◆七五三/ランドセル/学習机/結婚/孫/贈答

(1287)

◆話題商品/剣武器/お雛様/五月人形/鯉のぼり/ハロウィン/コスプレ

(1067)

◆グルメ/福袋/敬老/クリスマス/お節/お年玉/バレンタイン

(682)

◆楽天トラベル

(56)

◆インテリア・食器・雑貨

(166)

◆◎家電◎

(19)

◆L

(45)

Copyright (c) 1997-2019 Rakuten, Inc. All Rights Reserved.