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カテゴリ:映画
「ヒューゴの不思議な発明」(原題: Hugo)は、2011年のアメリカのファンタジー&アドヴェンチャー映画です。ブライアン・セルズニックの小説「ユゴーの不思議な発明」を原作に、マーティン・スコセッシ監督、ベン・キングズレー、エイサ・バターフィールド、クロエ・グレース・モレッツら出演で、1930年代のパリを舞台に、駅の時計台に隠れ住む少年が父の遺した機械人形の謎を追って繰り広げる不思議な大冒険を、ジョルジュ・メリエスはじめ映画創成期へのオマージュとともに、美しく幻想的な3D映像で描き出しています。第84回アカデミー賞では同年最多の11部門にノミネートされ、5部門で受賞を果たした作品です。
「ヒューゴの不思議な発明」のDVD(楽天市場) 【スタッフ・キャスト】 監督:マーティン・スコセッシ 脚本:ジョン・ローガン 原作:ブライアン・ セルズニック「ユゴーの不思議な発明」 出演:ベン・キングズレー(ジョルジュ・メリエス(パパ・ジョルジュ)) エイサ・バターフィールド(ヒューゴ・カブレ) クロエ・グレース・モレッツ(イザベル) サシャ・バロン・コーエン(鉄道公安官) レイ・ウィンストン(クロードおじさん) エミリー・モーティマー(リゼット) ヘレン・マックロリー(ママ・ジャンヌ) クリストファー・リー(ムッシュ・ラビス) マイケル・スタールバーグ(ルネ・タバール) フランシス・デ・ラ・トゥーア(エミーユ夫人) リチャード・グリフィス (ムッシュ・フリック) ジュード・ロウ(ヒューゴの父) ほか 【あらすじ】 ・1930年代、雪のパリ。モンパルナス駅の時計台に隠れて暮らす孤児ヒューゴ・カブレ(エイサ・バターフィールド)は、亡き父が遺した機械人形とその修理の手がかりとなる手帳が心の支えでした。彼は駅の構内を縦横無尽に行き来して、大時計のねじを巻き、カフェからパンや牛乳をくすねては、駅を行き来する人々の人間模様を観察する毎日を過ごしていました。 ・ある日、ヒューゴは駅構内の玩具屋から機械人形を修理する為の部品をくすねようとして、店の主人ジョルジュ(ベン・キングズレー)に捕まってしまい、修理の為の手帳も取り上げられてしまいます。ジョルジュは、手帳に描かれた機械人形のスケッチを見て言葉を失い、鉄道公安官につきだして施設送りにすると脅して追い返します。奪われた手帳が諦めきれないヒューゴは、ジョルジュの後を尾行し、彼の家へとたどり着きます。そこで出会ったジョルジュ夫妻の養女、イザベル(クロエ・グレース・モレッツ)は、ヒューゴの話に興味を持ち、手帳を取り戻す協力をしてくれると言います。 ・翌日、再び玩具屋でジョルジュと会ったヒューゴは、壊れた玩具を修理する課題を与えられます。ヒューゴは学芸員だった父仕込みの修理の腕前を発揮し、ジョルジュは玩具屋の手伝いをしたら手帳を返してやると言います。仕事の手伝いを続けるながら、彼はイザベルと親しくなり、本の虫で映画も見たことが無いという彼女を連れて、映画館に忍び込んだりします。 ・機械人形の修理がほとんど済んでいましたが、人形のぜんまいを巻くためのハート型の鍵がありませんでした。ところがヒューゴはある日、イザベルが身に着けていたペンダントにまさしくハート形の鍵がついているのを発見します。早速、機械人形に鍵を差し込みぜんまいを回してみると人形はペンを片手にすらすらと絵を描きだします。出来上がった絵には、月にロケットが突っ込んでいる様子が描かれており、それはかつてヒューゴの父が語ってくれたある映画のシーンそのままでした。そして最後に機械人形は、絵の隅に「ジョルジュ・メリエス」とサインします・・・。 【レビュー・解説】 孤児の冒険という古典的なテーマを、1930年代のパリを舞台に時計や機械人形のメカとVFXを駆使しながら豪奢に美しく描くとともに、初期の映画史を通して映画への愛をうたった、巨匠マーティン・スコセッシ監督のこれまでのイメージを覆す名作です。 1930年代のパリ、時計や機械人形のメカ、孤児の冒険、映画の歴史などなど、2時間に収まりきれないほどの夢がてんこ盛りに詰まった映画です。バイオレントな題材を扱うことが多いスコセッシ監督が、60歳を過ぎてから初めて取り組んだ子供が見れる映画であり、また3DV-VFXを用いた映画でもありますが、新たな挑戦をしてもなお、美しい作品に見事にまとめ上げる力は、巨匠の巨匠たる所以を感じさせます。 マーティン・スコセッシ監督は、 「タクシードライバー」(1976年) 「レイジング・ブル」(1980年) 「キング・オブ・コメディ」(1983年) 「グッドフェローズ」(1990年) 「カジノ」(1995年) 「アビエイター」(2004年) 「ディパーテッド」(2006年) 「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013年) など、数々の名作を生み出してきましたが、矛盾した現実の中で善良に生きることの難しさを描いた作品が多く、生々しくリアルな暴力が描かれることが少なくありません。また彼自身も怒りっぽく、怒りに任せて機材を壊してしまうこともあるなど、シチリア系イタリア移民の家に生まれ、マフィアの支配するイタリア移民社会で育ったことが、彼の人格形成と作品に双方に影響しているとも言われています。 そんなスコセッシ監督ですが、女優イザベラ・ロッセリーニなどとの4度の離婚を経験した後、1999年に結婚した現在の妻ヘレン・モリスとの間に生まれた娘、フランチェスカを目に入れても痛くないほど可愛がっており、彼女の為に映画を選んでは毎週末に自宅で上映するほどです。「何故、娘が見れるような映画を撮らないの?」と、妻ヘレンに言われたスコセッシ監督は、大人と子供が一緒に見れる映画を撮ることを考えました。 マーティン・スコセッシ監督(左)とフランチェスカ(右) 原作の著者、ブライアン・セルズニックはアメリカの絵本作家で、機械人形のコレクターでもあるジョルジュ・メリエスの死後、美術館に寄贈されたコレクションが、最終的に廃棄されてしまったことを知り、「ユゴーの不思議な発明」の着想を得ました。話自体は創作ですが、メリエスの生涯についてはほぼ史実に基づいており、ページを繰るごとに冒険が進む無声映画のようなスタイルで書き上げ、2007年にこれを発表しました。フランチェスカが8歳、スコセッシ監督が64歳の時でした。 原作の絵本「ユゴーの不思議な発明」 娘と一緒にこの本を読んだスコセッシ監督は、映画にしたいと思うほど惹きつけられました。 「フランチェスカが見れるような映画、彼女と一緒に我々も見れるような映画を作れるといいと思ったんだ。彼女が「ユゴーの不思議な発明」のページをめくるのをみて(284枚の絵がある)、反応が得られるだろうと思ったんだ。子供向けの映画じゃない、子供が大人と一緒に見る映画だ。それで映画化に動いたんだ。」(マーティン・スコセッシ監督) スコセッシ監督が惹きつけられたのは、主人公のヒューゴが駅に隠れてそこから密かに世の中の人々を眺めるような暮らしをしている点でした。子供の頃、喘息持ちだったスコセッシは、他の子供達と一緒に遊ぶことが出来まず、自宅の三階の窓から見える風景を人生のパノラマのように見ていたといいます。さらに彼は、当時の最新技術に挑戦し続けた手品師、ジョルジュ・メリエスも気に入り、彼自身にとっての新技術である3Dに初めて挑戦する気になりました。 「ヒューゴが時計の裏側から世界を眺める様を見て、この映画を作ろうと思ったんだ。」 「メリエスは実は手品師だが、映画カメラの可能性を理解していたんだ。彼は基本的にすべてを発明した。彼が構成したフレームや動きを見ていると、映画の原稿に光が与えれ、動き出したかのようだよ。」 「語りの要素のひとつとして3Dを使いたいと思ったんだ。我々はこうして3Dの世界にいる。と同じように。メリエスが色や音や動きをうまく使ったように、3Dをうまく使えるんだ。カメラが奥行きの要素を与えてくれるんだ。」(マーティン・スコセッシ監督) 時計の裏から世の中を見る毎日 映画の舞台はパリのモンパルナス駅。メリエスは晩年、実際にこの駅で玩具屋を営んでいました。1960年代に再開発され、当時の駅舎は残っていない為、撮影はロンドンのスタジオに制作されたセットで行われています。時計の歯車に凱旋門から放射状に伸びる街路の夜景がオーバーラップし、エッフェル塔からモンパルナス駅にパン、再度エッフェル塔を臨む遠景にカットバックし、駅舎の反対側から駅舎の内部にズームインしていき、大時計の文字盤から駅舎を覗き込むヒューゴのアップで終わる、VFXを駆使したオープニングシークェンスは圧巻です。1000台のコンピューターを使ってレンダリング、一年かけて制作されたと言われるシーンです。なお、ヒューゴが悪夢で見る列車が車止めを越え、駅舎の中を暴走、約10m下の通りに落下する事故は、1895年に実際に起きたものです。 モンパルナス駅の列車事故(1895年) 父がヒューゴに残した機械人形の仕掛けは、スイスの時計職人、ジャケ・ドローの機械人形の影響を強く受けています。彼は本業である時計やシンギングバードの販売促進のため、ジャン・フレデリック・レショー、息子とともに1768年から1774年にかけて機械人形を製作しました。彼らが製作した機械人形は、3体が実際に動作する状態でヌーシャテルの歴史博物館に展示されています。これらは ・ドロワー(1773年製): 約2,000個のパーツからなり、実際に絵を描くことができる ・音楽家 :(1774年製):約2,500個のパーツからなり、人形の指が鍵盤を押して演奏する ・ライター(1772年製):40個のカム、約6,000個のパーツからなり、文章を書くことができる 映画の機械人形は実際に絵を書いたり、文字を書いたりしますが、これは空想の産物ではなく、既に18世紀にはこれほど複雑な複雑な動きをする人形が作られていたことは驚きに値します。映画ではゼンマイ動力の機械人形をコンピューター制御で動かしていますが、期待通りに動かす為に8体の試行錯誤を経て製作されたそうです。なお、ジャケ・ドローの時計工場は19世紀半ばに閉鎖されましたが、後に復興、現在はスウォッチ・グループの傘下で貴重な時計ブランドとして残っています。 ジャケ・ドローの機械人形、ライターのメカ ジャケ・ドローの時計 セラミック グランドセコンド パワーリザーブノアールリミテッド 時計(楽天市場) 映画では機械人形が、顔のある月にロケットが突き刺さった絵を描きますが、これはメリエスが監督した世界初のSF映画「月世界旅行」(1902年)のワンシーンで、その他にも、映画史の出発点となったフランス人のリュミエール兄弟による「ラ・シオタ駅への列車の到着」(1896年)や、バスター・キートン、チャップリンらのサイレント映画、さらにはフィルムをひとコマずつ着色した古いカラー映画のワンシーンなどが紹介されており、ちょっとした映画史も楽しむことができます。 機械人形が描く「月世界旅行」の絵 ベン・キングズレー(ジョルジュ・メリエス(パパ・ジョルジュ)) エイサ・バターフィールド(ヒューゴ・カブレ) クロエ・グレース・モレッツ(イザベル) サシャ・バロン・コーエン(鉄道公安官) エミリー・モーティマー(リゼット) ヘレン・マックロリー(ママ・ジャンヌ) クリストファー・リー(ムッシュ・ラビス) マイケル・スタールバーグ(ルネ・タバール) ジュード・ロウ(ヒューゴの父) フランチェスカもちょっとだけ出演 【動画クリップ(YouTube)】 オープニング・シークェンス〜「ヒューゴの不思議な発明」 ジャケ・ドローの機械人形(ライター) ジョルジュ・メリエス「月世界旅行」 リュミエール兄弟「ラ・シオタ駅への列車の到着」 【撮影地(グーグルマップ)】 1930年代にモンパルナス駅があった場所 ヒューゴの夢の中の列車事故のシーン ヒューゴの父が働いていた博物館 設定ではパリだが、撮影にはロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館が使用されている。 ヒューゴとイサベルが映画の歴史を調べる図書館 パリのサント・ジュヌヴィエーヴ図書館で撮影されている。 エンディングの劇場 パリのソルボンヌ大学の大講堂で撮影されている。 「ヒューゴの不思議な発明」のDVD(楽天市場) 【関連作品】 マーティン・スコセッシ監督作品のDVD(楽天市場) 「ミーン・ストリート」(1973年) 「タクシードライバー」(1976年) 「ラスト・ワルツ」(1978年) 「レイジング・ブル」(1980年) 「キング・オブ・コメディ」(1983年) 「アフター・アワーズ」(1985年) 「最後の誘惑」(1988年) 「グッドフェローズ」(1990年) 「エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事」(1993年) 「カジノ」(1995年) 「アビエイター」(2004年) 「ディパーテッド」(2006年) 「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」(2008年) 「ヒューゴの不思議な発明」(2011年) 「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013年) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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2016年11月10日 21時26分15秒
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