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「エリックを探して」(原題: Looking for Eric)は、2009年公開のイギリス・フランス合作のコメディ&ドラマ映画です。元サッカー選手のエリック・カントナが企画を持ち込み、ケン・ローチ監督、ポール・ラヴァーティ脚本、エリック・カントナ製作総指揮、スティーヴ・エヴェッツ、エリック・カントナら出演で、人生のどん底に落ちている中年郵便配達員の前に、憧れていたエリック・カントナが突如現れ、彼のアドバイスによって立ち直ってゆく姿を描いています。
「エリックを探して」のDVD(楽天市場) 監督:ケン・ローチ 脚本:ポール・ラヴァーティ 原案:エリック・カントナ 出演:スティーヴ・エヴェッツ(エリック・ビショップ) エリック・カントナ(エリック・カントナ) ステファニー・ビショップ(リリー) ジェラルド・カーンズ(ライアン) ジョン・ヘンショウ(ミートボール) ルーシー=ジョー・ハドソン(サム) ほか 【あらすじ】 マンチェスターの郵便配達員、エリック・ビショップ(スティーヴ・エヴェッツ)は7年前に出て行った2度目の妻の連れ子、10代のライアン(ジェラード・キーンズ)、ジェス(ステファン・ガンブ)との3人で暮らしています。人生失敗続きで、このところ元気をなくしていた彼は、ある日、交通事故を起こしてしまいます。翌日、病院から帰宅しますが、家では子供たちがやりたい放題、郵便局の仲間たちは落ち込むエリックを励ましますが、効果がありません。その夜、彼は自室でサッカーのスーパースター、エリック・カントナのポスターに向かって、「俺の憂鬱の理由がわかるか?一生後悔するような失敗をしたことは?」と、話しかけます。すると背後から、「君はどうだ?」と尋ねる声がし、振り向いてみると、そこにはカントナ(エリック・カントナ)本人が立っています。 エリックの憂鬱の理由は、30年前に恋に落ち、娘のサム(ルーシー・ジョー・ハドソン)が生まれたが、すぐに別れて以来、会わずにいる最初の妻リリー(ステファニー・ビショップ)です。子育てしながら大学に通うサムのために孫娘デイジー(コール&ディラン・ウィリアムズ)を預かることになり、リリーと再会しますが、以前と変わらぬ美しい姿を目にしたエリックは、気後れしてしまい、彼女に会うことができないまま、動揺して事故を起こしたのでした。自信喪失のエリックにカントナは「髭を剃って会いに行け」とアドバイスし、エリックはようやくリリーに話しかけることができます。カントナの励ましと助言に従い、エリックは少しずつリリーとの距離を縮めていきます。 一方、ギャングとの関わりを断ち切れないライアン(ジェラルド・カーンズ)は預かった拳銃を家の中に隠し持っており、エリックはギャングに銃を返しに行きますが、逆に脅され持ち帰ってきます。リリーとの間に温かい気持ちが通うようになったエリックは、リリー、サム、デイジーを食事に招待しますが、その平和なひと時に、武装警察の急襲を受け、全員、拘束されてしまいます・・・。 【レビュー・解説】 労働者とサッカーの街、マンチェスターを舞台に、人生のどん底にいた中年の郵便配達員が、熱狂的に憧れる元マンチェスター・ユナイテッドのスーパースター、エリック・カントナに導かれ、仲間ともに人生の危機を脱する姿を描くコメディは、カントナ本人の出演と、一貫して労働者階級を描いてきたケン・ローチ監督の他の追随を許さない人物描写が際立つ秀作です。 エリック・カントナ(1966年〜)は、サッカーの元フランス代表選手で、1992年〜1997年、マンチェスター・ユナイテッドに所属し、プロのサッカー選手としてのキャリアを終えました。カントナは低迷していたマンチェスター・ユナイテッドの復活に貢献した中心選手であり、2001年には、マンチェスター・ユナイテッドの「20世紀最高のサッカー選手」に選ばれています。また、1998年にはフットボールリーグの「歴代の名選手100人」に選出され、2002年にはイングランドのサッカーの殿堂入りを果たしています。引退後は俳優として主に映画に出演しており、1998年にはケイト・ブランシェット主演の映画「エリザベス」に出演、本作もカントナがケン・ローチ監督に企画を持ち込む形で実現しました。 エリック・カントナのポスター(楽天市場) ケン・ローチ (1936年6月17日 〜 ) は、一貫して労働者階級に焦点を当てた作品を製作し続けるイギリスの映画監督・脚本家です。長編映画監督2作目の「ケス」(1969年)が英国アカデミー賞作品賞と監督賞にノミネートされますが、1970年代から1980年代にかけて長い不遇時代を過ごします。1990年代に入り、労働者階級や移民を描いた作品を立て続けに発表、カンヌ国際映画祭やヴェネツィア国際映画祭などで、国際的に評価されるようになります。2006年、「麦の穂をゆらす風」が第59回カンヌ国際映画祭に出品され、69歳、13回目の出品で初のパルム・ドールを受賞します。2014年に引退の意向を発表するものの、その後復帰し、2016年に「わたしは、ダニエル・ブレイク」で第69回カンヌ国際映画祭で二度目のパルムドールを受賞しています。 舞台となるマンチェスターは、産業革命において中心的役割を果たした街です。1842年から二年間、この街に住んだエンゲルスは、都市の広範囲に拡がった貧困に衝撃を受け、「イギリスにおける労働者階級の状態」を執筆、カール・マルクスによって労働者階級に関する歴史的な文献として極めて高い評価を与えられます。20世紀になって綿工業などが衰退しますが、グレーター・マンチェスターに再編され、現在ではイギリス第二の都市とされています。世界有数のサッカー・チームであるマンチェスター・ユナイテッドや、世界有数のサッカー場であるオールド・トラッフォード・スタジアムがマンチェスターにあるのは、ロンドンの上流階級を中心に発展したラグビーやテニスと異なり、サッカーは労働者階級を中心に発展した歴史的な背景によるものです。 そんな労働者とサッカーの街、マンチェスターで、人生のどん底にいた中年の郵便配達員が、熱狂的に憧れるスーパースターのカントナに導かれ、仲間と共に人生の危機を脱するというストーリーは、非常に説得力があり、コミカルなエンディングには思わず大笑いしてしまいます。ヒーローやヒロインが不在の時代と言われる昨今ですが、ヒーローやヒロインは少年少女のみならず大人にも影響を与えうるものであり、少年少女の心を持ち続けていれば、どんな人生も良くなっていくのではないかと感じさせる作品です。 また、一貫して労働者階級を描いてきたケン・ローチ監督の人物描写には、右に出る人がいません。エリックを演じるスティーヴ・エヴェッツは、イギリス人でさえ理解し難いのではないかと思われるほどのディープなマンチェスター訛を話し、気弱な失意の主人公をリアルに演じています。ジョン・ヘンショウが演じる仲間のミートボールは、その友達思いと、孫の名をデイジーと教えられてもドリーと呼び続けるようなオヤジぶりが最高です。女性の訛は意外に聞く機会がないのですが、リリーを演じるステファニー・ビショップや、サムを演じるルーシー=ジョー・ハドソンのマンチェスター訛もなかなか味わいがあります(ケン・ローチ監督は、キャストをマンチェスター及び北イングランド出身者で固めている)。いわば労働者の味方である本作は、サッカーファンでなくても十分に楽しめる作品です。 スティーヴ・エヴェッツ(エリック・ビショップ) エリック・カントナ(左、本人) ステファニー・ビショップ(リリー) ジェラルド・カーンズ(右、ライアン) ジョン・ヘンショウ(ミートボール) ルーシー=ジョー・ハドソン(左、サム) エリック・カントナのフィギュア(楽天市場) 【撮影地(グーグルマップ)】
「エリックを探して」のDVD(楽天市場) 【関連作品】 ケン・ローチ監督作品のDVD(楽天市場) 「ケス」(1969年) 「リフ・ラフ」(1991年) 「カルラの歌」(1996年) 「マイ・ネーム・イズ・ジョー」(1998年) 「ナビゲーター ある鉄道員の物語」(2001年) 「SWEET SIXTEEN」(2002年) 「やさしくキスをして」(2004年) 「麦の穂をゆらす風 」(2006年) 「この自由な世界で 」(2007年) 「エリックを探して」(2009年) 「天使の分け前」(2012年) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017年03月28日 05時00分08秒
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