テーマ:最近観た映画。(38813)
カテゴリ:映画
「ジャンゴ 繋がれざる者」(原題:Django Unchained)は、2012年公開のアメリカの西部劇映画です。クエンティン・タランティーノ監督・脚本、ジェイミー・フォックス、レオナルド・ディカプリオ、クリストフ・ヴァルツら出演で、ドイツ人の賞金稼ぎに助けられたアフリカ系アメリカ人の奴隷ジャンゴが、過酷な戦いの末に生き別れた妻を取り戻すという、西部劇は白人のものという歴史を書き換えるような映画です。タランティーノ作品で最も稼いだ「イングロリアス・バスターズ」を超える興行成績を記録、第85回アカデミー賞では、作品、脚本、助演男優、撮影、音響編集の5部門にノミネートされ、脚本賞(クエンティン・タランティーノ)と助演男優賞(クリストフ・ヴァルツ)を受賞した作品です。
「ジャンゴ 繋がれざる者」のDVD(楽天市場) 【スタッフ・キャスト】 監督:クエンティン・タランティーノ 脚本:クエンティン・タランティーノ 出演:ジェイミー・フォックス(ジャンゴ・フリーマン、主役のアフリカ系アメリカ人) クリストフ・ヴァルツ(ドクター・キング・シュルツ、ジャンゴを救うドイツ人) レオナルド・ディカプリオ(カルビン・J・キャンディ、悪辣な白人農園主) ケリー・ワシントン(ブルームヒルダ・ヴォン・シャフト、ジャンゴの妻) サミュエル・L・ジャクソン(スティーヴン、キャンディ一族の執事) ローラ・カユーテ(ララ・リー・キャンディ=フィッツウィリー、カルビンの姉) ブルース・ダーン(カーティス、ジャンゴと妻を別々に売り払った農園主) フランコ・ネロ(アメリゴ・バセッピィ、カメオ出演、元祖ジャンゴ) ジョナ・ヒル(ランディ、白人至上主義の秘密結社K.K.K.団の前身の一員) クエンティン・タランティーノ(フランキー、レクィント・ディッキー鉱業社員) ほか 【あらすじ】
【レビュー・解説】 アフリカ系アメリカ人の賞金稼ぎという大胆な設定と巧みなストーリー・テリングでアメリカ映画のタブーに風穴を空け、衰退したマカロニ・ウェスタンをスタイリッシュに蘇らせた、クエンティン・タランティーノ監督の社会派娯楽大作です。 犯罪を題材にする事が多いタランティーノ監督ですが、アフリカ系アメリカ人の賞金稼ぎの白人への復讐を描く本作は、ユダヤ人によるナチスへの復讐を描いた「イングロリアス・バスターズ」(2009年)に続き、テーマに社会性を帯びた作品です。子供の頃からマカロニ・ウェスタンのファンだったタランティーノ監督は、2009年に来日した際、買い集めたマカロニ・ウエスタンのサウンドトラックをホテルで聞きながら、「続・荒野の用心棒」(1966年)などで知られ、残酷な描写やダーティな映像、リアリティを度外視した演出でマカロニ・ウエスタンのスタイルを方向づけたセルジオ・コルブッチ監督について思いを巡らしていました。この時、突如、彼は自分でもマカロニ・ウェスタンを作れると思い立ちます。元々あったアフリカ系アメリカ人の賞金稼ぎというアイディアが、本作の冒頭シーンの具体的なイメージとなって湧き上がり、ホテルの便箋に脚本を書き始めたといいます。 本作の翌年に公開され、第86回アカデミー賞作品賞を受賞したアメリカ・イギリス合作の「それでも夜は明ける」や、悪評の高い「マンディンゴ」(1975年)など、数少ない例はありますが、アメリカ映画で奴隷制度の実態を描くことは基本的にタブーであり、タランティーノ監督もこのアイディアの具現化を、長年、躊躇していました。しかし、奴隷制度を描くことにより、イタリア人のコルブッチ監督にはない、アメリカ人独自の視点でマカロニ・ウェスタンに新たな生命を与えることができるいう想いが、タランティーノ監督に沸き起こったものと思われます。彼はコルブッチ監督を否定している訳ではなく、むしろ、残酷でスタイリッシュなマカロニ・ウェスタンには、タランティーノ監督の作風と共通する部分があります。第二次世界大戦中のナチス占領下のフランスを舞台にした前作の「イングロリアス・バスターズ」では、マカロニ・ウェスタンのような戦争映画を目指したとまで語っています。また、本作は、
本作のユニークな点は、アフリカ系アメリカ人の賞金稼ぎという設定ですが、劇中にも描かれているように、これはかなり奇異なものです。西部劇は、1860年代から1890年のフロンティア消滅までの西部開拓時代を舞台にしたものですので、南北戦争(1861年〜1865年)以降に、奴隷から開放されたアフリカ系アメリカ人が賞金稼ぎとなって悪辣な白人と戦う西部劇があっても、不思議はありません。しかしながら、奴隷解放の後も、アメリカにはジム・クロウ法という悪名高い法律が1964年まで存在しました。これは「農作業労働者の黒人が白人と平等になっては困る」という南部経済を支える有力な白人農園主たちの本音を反映したものです。州によって異なる部分もありますが、
奴隷解放されたとしても、依然として法律のお墨付きで様々な偏見や社会的圧力にさらされるアフリカ系アメリカ人が、一転、農園や仲間の守りのない賞金稼ぎとなって単独で悪辣な白人を退治するなどということは、例えあったとしても極めて稀でしょう。しかし、時にリアリティを度外視して演出されるマカロニ・ウェスタンならば、そうした設定を可能にすることができます。さらに、巧みに脚本が巻き起こすカタストロフは、アフリカ系アメリカ人のみならず、長い間差別されてきた有色人種にさえ、快哉の声をもたらすものであります。本作が、タランティーノ作品の中で最大のヒット作となった背景には、そうした側面もありそうです。
かつて一世を風靡した西部劇ですが、近年、特に2000年以降は、「トゥルー・グリット」(2010年)のように西部劇の名作といえるものは極めて少なく、まさに絶滅に瀕しています。第二次大戦以降、1960年頃までは西部劇の黄金時代で、多数の名作とともに、ゲイリー・クーパー、ジョン・ウェイン、ヘンリー・フォンダ、グレゴリー・ペック、ジェームズ・スチュアートらの大スターを輩出しました。しかし、主人公は基本的に白人で、刃向う先住民が悪役というワンパターンの勧善懲悪は、白人に都合のいい内容として反発を招き、1960年代に入って公民権運動が盛んになると、西部劇の衰退を招く大きな原因になりました。製作費の高騰もあって、イタリアなどでマカロニ・ウェスタンと呼ばれる西部劇が作られるようになり、詩情を排した過激なアクションや暴力シーンに活路を見出そうとしましたが、粗製乱造がたたり、さらに西部劇の衰退が加速しました。そんなマカロニ・ウェスタンに、バイオレント、スタイリッシュという美学を見出したタランティーノ監督は、本作に
奴隷制のみならず、差別はアメリカの歴史の大きな汚点ですが、ハリウッドはこれらを映画にしたがりません。例え歴史として知ってはいても、ことさら映画にして目の当たりにしたくないという心理が働くのでしょう。事実、奴隷の実態を描いた「マンディンゴ」も「ヤコペッティの残酷大陸」も、決して評判が良い作品ではありません。そういう意味では、奴隷制度を描きながら、見事な娯楽作品に仕立て上げたタランティーノ監督の力量が際立ちます。また、ストーリー展開上、悪辣な白人役が必要でも、アメリカ人俳優は尻込みしてしまい、イギリス人俳優を起用することが多いそうですが、悪辣な白人農園主を演じたブルース・ダーンやレオナルド・ディカプリオも称賛に値します。ディカプリオは、あまりにも差別的なセリフの連続に、撮影中に何度も絶句してしまい、共演のサミュエル・L・ジャクソンらに「大したことはない、毎度のことよ」となだめられながら、撮影を続けたといいます。 ジェイミー・フォックス(ジャンゴ・フリーマン、奴隷から解放され賞金稼ぎになる) ジェイミー・フォックス(1967年〜)は、テキサス出身のアメリカの俳優、ミュージシャン。高校時代はアメフトのクォーターバックとして活躍。大学では音楽を専攻、ジュリアード音楽院でピアノも学んだが、卒業後はコメディアンの道を歩むなど、多才な人物。1996年から2001年までテレビのシチュエーション・コメディ「ザ・ジェイミー・フォックス・ショー」に出演、人気を得る。レイ・チャールズの伝記映画「Ray/レイ」(2004年)で主役を演じ、アフリカ系アメリカ人俳優としては史上3人目のアカデミー主演男優賞を受賞した。同年公開の「コラテラル」でも助演男優賞にもノミネートされている。 クリストフ・ヴァルツ(ドクター・キング・シュルツ、ジャンゴを開放し賞金稼ぎにするドイツ人) クリストフ・ヴァルツ(1956年〜 )は、オーストリア出身の国際的俳優。父はドイツ人、母はオーストリア人で、ドイツ語、英語、フランス語に堪能。クエンティン・タランティーノ監督の「イングロリアス・バスターズ」(2009年)で、一見紳士的ながら冷徹なナチス親衛隊の将校を演じ、アカデミー賞助演男優賞を受賞。タランティーノ作品でアカデミー賞を受賞した俳優は彼だけで、タランティーノ監督にミューズと言わしめている。本作で二度目のアカデミー賞助演男優賞を受賞している。 レオナルド・ディカプリオ(カルビン・J・キャンディ、悪辣な白人農園主、ジャンゴの妻を所有) レオナルド・ディカプリオ(1974年〜 )は、ロスアンゼルス出身のアメリカの俳優、映画プロデューサー、脚本家。父の再婚相手の息子がテレビコマーシャルで多くの収入を得ていたことに感化され、俳優になることを志す。14歳で初めてテレビコマーシャルに出演、テレビドラマにも出演するようになり、映画「ギルバート・グレイプ」(1993年)で19歳にしてアカデミー助演男優賞にノミネートされる。数多くの興行収入記録を塗り替えた「タイタニック」(1997年)で、一躍スターになる。その後、「アビエイター」(2004年)、「ブラッド・ダイアモンド」(2006年)、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013年)とアカデミー俳優賞にノミネートされたが、受賞できず、「レヴェナント: 蘇えりし者」(2015年)でついに主演男優賞を受賞している。本作では、悪辣な白人農園主役で鬼気迫る演技を見せている。上の写真の左手をよく見ると、血に染まっているが、これは激昂してテーブルを叩いた際にグラスが割れて本当に怪我をしたもの。唖然とするタランティーノ監督を横目に、鬼気迫る演技を続け、カットの声と同時に居合わせたスタッフ、キャストからスタンディング・オベーションを浴びたという。 ケリー・ワシントン(ブルームヒルダ・ヴォン・シャフト、ジャンゴと生き別れになった妻) ケリー・ワシントン(1977年〜)は、ブルックリン出身のアメリカの女優。「Ray/レイ」(2004年)でレイ・チャールズの妻役、「ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]」(2005年)でベン・グリムの恋人役、「ラストキング・オブ・スコットランド」(2006年)でイディ・アミンの妻役などを務めている。 サミュエル・L・ジャクソン(スティーヴン、アフリカ系アメリカ人、キャンディ一族の執事) サミュエル・L・ジャクソン(1948年〜)は、ワシントンDC出身のアメリカの俳優。1988年公開の「星の王子 ニューヨークへ行く」や、以降の「グッドフェローズ」、「パトリオット・ゲーム」、「ジュラシック・パーク」などの大作に脇役で出演。タランティーノ監督の「パルプ・フィクション」(1994年)でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたことをきっかけに注目を集め、以降も多数の映画で名脇役として活躍している。 ローラ・カユーテ(右、ララ・リー・キャンディ=フィッツウィリー、カルビンの姉) ローラ・カユーテ(1964年〜 )は、メリーランド出身のアメリカ合衆国の女優。出演時間は短いが、本作で唯一、南部上流階級の白人女性を演じている。 ブルース・ダーン(カーティス、ジャンゴと妻を所有していた農園主、二人を別々に売り払う) ブルース・ダーン(1936年〜)は、シカゴ出身のアメリカの俳優。祖父は政治家のジョージ・ヘンリー・ダーン、女優のローラ・ダーンは娘。1960年に映画デビュー、西部劇やサスペンス映画で印象的な演技を見せ、ベルリン国際映画祭男優賞やカンヌ国際映画祭男優賞を受賞している。演出家で映画監督のエリア・カザンに「決して主役を演じるタイプではないし、これからも決してないだろう。でも、君は演じる役になりきれるから素晴らしい。業界の誰ひとりとしてダーンが60歳になるまでその才能に気付くことはないだろう。」と言われたという。本作では、脱走を企てたジャンゴと妻を別々に売り払う農園主を演じているが、短い出演時間に見せる抑えた凄みに、当時の農園主の権威と冷徹さ感じさせるパフォーマンスが素晴らしい。 フランコ・ネロ(アメリゴ・バセッピィ、カメオ出演、「続・荒野の用心棒」の元祖ジャンゴ) フランコ・ネロ(1941年〜 )は、イタリアの俳優。1964年に映画デビューし、マカロニ・ウェスタンを中心に100本以上の映画に出演している。西部劇の伝説的なキャラクターとなった「ジャンゴ」を演じた人物として知られる。 ジョナ・ヒル(ランディ、白人至上主義の秘密結社K.K.K.団の前身であるレギュレイターズの一員) ジョナ・ヒル(1983年〜)は、ロスアンゼルス出身のアメリカの俳優、脚本家、声優、コメディアン。ニューヨークの大学で演技を学び、バーで自作の一人芝居を演じていたところ、友人の父であるダスティン・ホフマンにオーディションを受けるよう勧められ、「ハッカビーズ」(2004年)で映画デビューする。その後も「40歳の童貞男」、「もしも昨日が選べたら」などのコメディ映画でキャリアを重ね、2007年には「無ケーカクの命中男/ノックトアップ」や「スーパーバッド 童貞ウォーズ」がヒットし、「マネーボール」と「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013年)それぞれでアカデミー助演男優賞にノミネートされる。他の映画とスケジュールが重なった為、本作の出演時間は短いが、白人至上主義の組織の一員を演じ、「前が見えないので顔を隠す白頭巾の替えがないか」などと、笑いを振りまいている。 クエンティン・タランティーノ(左、フランキー、レクィント・ディッキー鉱業社の従業員) クエンティン・タランティーノ(1963年〜)は、言わずと知れたアメリカの映画監督、脚本家。1990年代前半、入り組んだプロットと犯罪と暴力の姿を描いた作品で一躍脚光を浴びる。「パルプ・フィクション」(1994年)でカンヌ国際映画祭パルム・ドール 、「パルプ・フィクション」(1995年) と本作でアカデミー賞脚本賞を受賞している。自身の作品に俳優として出演することもあり、本作でも終盤にチョイ役で出演している。 【サウンドトラック】 「繋がれざる者」オリジナル・サウンドトラックCD(Amazon)
【撮影地(グーグルマップ)】
「ジャンゴ 繋がれざる者」のDVD(楽天市場) 【関連作品】 オマージュが捧げられたマカロニ・ウェスタンのDVD(楽天市場) 「続・荒野の用心棒」(1966年) 奴隷制度の実態を描いた映画のDVD(楽天市場) 「ヤコペッティの残酷大陸」(1971年) 「マンディンゴ」(1975年) 「それでも夜は明ける」(2013年) クエンティン・タランティーノ監督 x クリストフ・ヴァルツのコラボ作品(楽天市場) 「イングロリアス・バスターズ」(2009年) クエンティン・タランティーノ監督・脚本作品のDVD(楽天市場) 「レザボア・ドッグス」(1992年) 「トゥルー・ロマンス」(1993年、脚本のみ) 「パルプ・フィクション」(1994年) 「クリムゾン・タイド」(1995年、脚本リライトのみ) 「ジャッキー・ブラウン」(1997年) 「キル・ビル Vol.1」(2003年) 「キル・ビル Vol.2」(2004年) ジェイミー・フォックス出演作品のDVD(楽天市場) 「コラテラル」(2004年) 「Ray/レイ」(2004年) 「ドリームガールズ」(2006年) レオナルド・ディカプリオ出演作品のDVD(楽天市場) 「ギルバート・グレイプ」(1993年) 「マイ・ルーム」(1996年) 「タイタニック」(1997年) 「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(2002年) 「アビエイター」(2004年) 「ディパーテッド」(2006年) 「インセプション」(2010年) 「華麗なるギャツビー」(2013年) 「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013年) 「レヴェナント: 蘇えりし者」(2015年) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017年06月12日 07時00分08秒
コメント(0) | コメントを書く
[映画] カテゴリの最新記事
|
|