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「3時10分、決断のとき」(原題:3:10 to Yuma)は、2007年公開のアメリカの西部劇アクション&ドラマ映画です。エルモア・レナードの短編小説を原作とする「決断の3時10分」(1957年)のリメイクで、ジェームズ・マンゴールド監督、ラッセル・クロウ、クリスチャン・ベールら出演で、残虐さと寛容さ、正確な射撃の腕前と深い教養という相反する要素を併せ持つ西部の悪名高い無法者ベン・ウェイドと、彼を汽車まで護送する牧場主ダン・エヴァンスの緊張感溢れる駆け引きを描いています。アメリカ国内で約5300万ドル、アメリカ国外で約1600万ドルの興行収入を挙げ、衰退著しい西部劇映画としては久々のヒットとなり、第80回アカデミー賞で作曲賞と録音賞の2部門にノミネートされた作品です。
![]() 【スタッフ・キャスト】 監督:ジェームズ・マンゴールド 脚本:ハルステッド・ウェルズ/マイケル・ブラント/デレク・ハース 原作:エルモア・レナード「Three-Ten to Yuma」 出演:ラッセル・クロウ(ベン・ウェイド、強盗団の頭、別名「早撃ちのウェイド」) クリスチャン・ベール(ダン・エヴァンス、農夫、南北戦争では北軍の狙撃手) ローガン・ラーマン(ウィリアム・エヴァンス、ダンの息子) ベン・フォスター(チャーリー・プリンス、ウェイドの右腕、2丁拳銃の使い手) ピーター・フォンダ(バイロン・マッケルロイ、ピンカートン所属の賞金稼ぎ) ヴィネッサ・ショウ(エマ・ネルソン) アラン・テュディック(ドク・ポッター、獣医、負傷したバイロンを助ける) グレッチェン・モル(アリス・エヴァンス、ダンの妻) ほか 【あらすじ】
【レビュー・解説】 オリジナルの「決断の3時10分」(1957年)の人物描写に深みを与えるとともに、プロットの一部を変更した本作は、ジェームズ・マンゴールド監督の巧みな演出とラッセル・クロウ、クリスチャン・ベールの二大オスカー俳優の卓越した演技により、西部劇の枠を超え、価値観が多様化した現代社会に通用する、深みと拡がりを持ったドラマ映画です。 西部劇の枠を超え、現代社会に通用する深みと拡がりを持ったドラマ ![]() 西部劇が衰退する中、高い評価を得た貴重な作品 本作の舞台は百年余り前のアメリカ西部ですが、当時の暮しが如何に厳しかったかが分かるとともに、自分の安全は自分で守るというアメリカの国民性の由来を見るような気がします。これは時代劇を見る醍醐味のひとつでもありますが、アメリカの西部劇は1950年代に陰りを見せはじめ、1970年代後半には絶滅の危機に瀕します。以降、制作側は「西部劇は稼げない」、観る側は「西部劇はつまらない」という呪縛にとらわれることになりますが、これはアメリカの原点である西部劇の時代を知る機会を逸する、残念なことです。この呪縛は今も解けていませんが、西部劇の衰退以降も、「ダンス・ウィズ・ウルブズ」(1990年)、「許されざる者 」(1992年)、「トゥルー・グリット 」(2010年)、「ジャンゴ 繋がれざる者」(2012年)など、困難を乗り越えこだわりを持って制作され、高い評価を得た作品が少ないながらも存在します。本作は、そんな貴重な作品のひとつです。 エルモア・レナードの短編「Three-Ten to Yuma」が雑誌に掲載されたのが1953年、映画化され「決断の3時10分」が公開されたのが1957年と、本作のオリジナルは西部劇が陰り始めた頃の作品です。既にかつての西部劇に見られた善玉vs.悪玉の単純な構図が崩れつつありましたが、リメイクでは残虐さと寛容さ、動物的な勘と深い教養というアンビバレントな面を持つウェイドの人物像と、ダンの戦争での傷痍や息子の前で強くあろうとする姿勢、ダンがウェイドとの取引を拒否する背景を丁寧に描き、現在に通用するドラマとして深みと拡がりを実現しています。 アメリカの歴史を説明するのは、新天地の大草原を舞台にした、貧しい者と富める者の間の暴力と血です。西部劇は、歴史劇としてではなく、比喩劇として捉えることができます。(中略)それはアメリカがかかった熱病の夢であり、我々の不安、恐怖、争い、良しも悪しくも我々の正義なのです。我々の正義は時に残忍であり、時に物事を良くします。こうしたことは、すべて西部劇の中に見出すことができます。(ジェームズ・マンゴールド監督)さらにマンゴールド監督はオリジナルのエンディングを書き変え、ダン・エヴァンスの人生の悲劇・救済と、道を外してしまったベン・ウェイドの人生を、あたかも神の視点から見降ろすかのように描いています。 ラッセル・クロウ(ベン・ウェイド、強盗団の頭、別名「早撃ちのウェイド」) ![]() ラッセル・クロウ(1964年〜)は、ニュージーランド出身の俳優。1990年に本格的に映画デビュー、「クイック&デッド」(1995年)でハリウッドに進出、「グラディエーター」(2000年)でアカデミー主演男優賞を受賞、「ビューティフル・マインド」(2001年)でゴールデングローブ賞 主演男優賞(ドラマ部門)を受賞している。バズ・ラーマン監督の「オーストラリア」(2008年)から降り、次作品として本作に狙いをつけたクロウは、マンゴールド監督の第一選択でもあった。スタジオ側が推していてトム・クルーズが本作の出演を辞退するや否や、マンゴールド監督は即座にクロウと契約するという適役であった。 クリスチャン・ベール(ダン・エヴァンス、農夫、南北戦争では北軍の狙撃手) ![]() クリスチャン・ベール(1974年〜)は、ウェールズ出身のイギリスの俳優。10歳より演技をはじめ、演劇学校に入学。いくつかのCM出演を経て、1986年に舞台に出演。13歳の時にスティーヴン・スピルバーグ監督作品「太陽の帝国」(1987年公開)の主人公役で映画デビュー。2年間学業に専念した後、着実にキャリアを重ね、「ダークナイト」三部作(2005年〜2012年)でブルース・ウェイン / バットマン役として活躍する一方、人間ドラマを描く作品にもコンスタントに出演している。「ザ・ファイター」(2010年)でアカデミー助演男優賞を受賞、「アメリカン・ハッスル」(2013年)で同主演男優賞、「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(2015年)で同助演男優賞にノミネートされている。先に出演が決まった共演のラッセル・クロウとマンゴールド監督、そしてプロデューサーの一致した選択で、本作の出演が決まった。 ローガン・ラーマン(ウィリアム・エヴァンス、ダンの息子) ![]() ローガン・ラーマン(1992年〜)は、ビバリーヒルズ出身のアメリカの俳優。幼い頃にコマーシャルに出演、「パトリオット」(2000年)でメル・ギブソン演じる主人公の子供役で映画デビュー。本作で広く知られるようになり、「ウォールフラワー」(2012年)、「Indignation」(2016年)など、高評価の作品で主役を務めている。 ベン・フォスター(チャーリー・プリンスウェイド率いる強盗団の右腕、2丁拳銃の使い手) ![]() ベン・フォスター(1980年〜)はボストン出身のアメリカの俳優。10代の時から演技に興味を持ち始め、テレビシリーズなどに小さな役で出演するようになる。映画「リバティ・ハイツ」(1999年)がブレイクスルーとなり、その後も着実にキャリアを重ね、「メッセンジャー」(2009年)、「最後の追跡」(2014年)などに出演している。本作では、偏執的な副頭目の演技が高く評価された。 ピーター・フォンダ(バイロン・マッケルロイ、ピンカートン所属の賞金稼ぎ) ![]() ピーター・フォンダ(1940年〜)は、ニューヨーク出身のアメリカの俳優。父は名優ヘンリー・フォンダ、姉は女優ジェーン・フォンダ、娘ブリジット・フォンダも女優。大学時代から演劇活動を本格化、卒業と同時にブロードウェイに進出、1963年に映画デビューするもやがてドラッグに冒され、精神的に困憊、以降、浮き沈みの激しい人生を送る。1960年代後半、ニューシネマ・ブームに乗って、映画製作会社を立ち上げ、低予算の「イージー・ライダー」(1969年)を制作、インディーズ映画のバイブルとも呼ばれ、カルト的な支持を得る。一躍アメリカン・ニューシネマの旗手となるが、時代が去るとともに、劇場未公開のB級映画への出演が続く。娘ブリジットの女優として成長しを見守るように銀幕から遠ざかっていくかに思われたが、「木洩れ日の中で」(1997年)で、ゴールデングローブ賞主演男優賞(ドラマ部門)を受賞、アカデミー主演男優賞にノミネートされる。その後も「イギリスから来た男」(1999年)や本作など、テレビ、映画に出演する一方で、プロデューサー、脚本家、監督として活躍をしているが、ハリウッド嫌いでモンタナ州の田舎でひっそりと暮らしている。 ヴィネッサ・ショウ(エマ・ネルソン) ![]() ヴィネッサ・ショウ(1976年〜)はロサンゼルス出身のアメリカの女優、モデル。母、妹も女優。1981年、ホラー映画でデビュー、1991年から本格的な女優活動を始める。「アイズ ワイド シャット」(1999年)の娼婦役で注目を集める。「トゥー・ラバーズ」(2008年)、「 サイド・エフェクト」(2013年)、「コールド・バレット 凍てついた七月」(2014年)などに出演している。本作の出演時間は短いが、マンゴールド監督はそのリアルな演技を絶賛している。 アラン・テュディック(ドク・ポッター、獣医、負傷したバイロンを助ける) ![]() アラン・テュディック(1971年〜)はエルパソ出身のアメリカの俳優。ポーランド系アメリカ人。ジュリアード音楽院で演技を学び、舞台で数々の賞を受賞している。「ワンダー・ボーイズ」(2000年)、「セレニティー」(2005年)、「無ケーカクの命中男/ノックトアップ」(2007年)、「タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら」(2010年)、「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」(2016年)などに出演する一方で、「シュガー・ラッシュ」(2012年)、「アナと雪の女王」(2013年)、「ベイマックス」(2014年)、「ズートピア」(2016年)、「モアナと伝説の海」(2016年)と、ディズニーアニメの声の出演も多い。 グレッチェン・モル(アリス・エヴァンス、ダンの妻) ![]() グレッチェン・モル(1972年〜)は、コネチカット州出身のアメリカの女優。1996年に映画デビュー。「フェイク」(1997年)、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016年)などに出演している。本作の出演時間は短いが、西部開拓時代の女性の厳しさを見事に印象づけている。 西部劇は何故衰退したのか? かつて西部劇は、正しく強い白人が主人公で、勧善懲悪をプロットの軸とし、騎兵隊は正義の味方で、それに刃向う先住民は悪者でした。白人と先住民との戦いは史実に基づいても、戦いの原因である土地の領有権に触れたものはほとんどありませんでした。しかし、1950年代に入る頃から公民権運動が盛んになり、人権意識の高まりの中で先住民や黒人の描き方が批判されるようになります。勧善懲悪では割り切れない問題に直面、西部劇は多様化する価値観や倫理観についていけなくなります。 さらに開拓者精神を象徴するヒーローが悪を倒す図式も崩れていきます。「真昼の決闘」(1952年)の町の誰からも助けてもらえない保安官、「裸の拍車」(1953年)の農園を取り戻すだけのために賞金稼ぎとなり人を殺す農園主、「捜索者」(1956年)の復讐に執念を燃やす男など、1950年代には何が正しくて何が悪いか、明らかにしないままに主人公を描く作品が登場します。善悪の区別が曖昧な作品が多くなり、派手なアクションな銃さばきの見せ場はあっても、全体の雰囲気は重く暗いものになっていきます。 1960年代に入り、さらに公民権運動が高まると、従来の製作コードが通用しなくなり、西部劇の製作本数が激減します。イタリアなどでマカロニ・ウェスタンと呼ばれる西部劇が作られようになりますが、逆にその影響を受ける中で本家の西部劇もアクションや暴力シーンが過激になります。時代の波に取り残された無法者たちの滅びの美学を描いたサム・ペキンパー監督の「ワイルドバンチ」(1969年)は、そんな中で西部劇に引導を渡した「最後の西部劇」と呼ばれています。かくして、1950年代初頭には年間100本ほどの製作されていた西部劇は、1970年代後半にはわずか1ケタの製作本数に激減していきます。 【サウンドトラック】 ![]()
【撮影地(グーグルマップ)】 ![]() 【関連作品】 1990年以降のお勧め西部劇(楽天市場) ![]() ![]() 「Lone Star」(1996年) ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 「Meek's Cutoff」(2011年) ![]() ![]() ![]() ジェームズ・マンゴールド監督作品のDVD(楽天市場) ![]() ![]() ラッセル・クロウ出演作品のDVD(楽天市場) ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() クリスチャン・ベール出演作品のDVD(楽天市場) ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]()
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2018年02月01日 05時00分03秒
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