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「RAW~少女のめざめ~」(原題:Grave、英題:Raw)は、2016年公開のフランス・ベルギー合作のホラー&ドラマ映画です。ジュリア・デュクルノー監督・脚本、ギャランス・マリリエら出演で、獣医科大学に進学したベジタリアンの少女が肉を食べたことから、自らに内在する獣性に目覚めていく姿を描いています。2016年のカンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した作品です。
![]() 【スタッフ・キャスト】 監督:ジュリア・デュクルノー 脚本:ジュリア・デュクルノー 出演:ギャランス・マリリエ(ジュスティーヌ) エラ・ルンプフ(アレクシア) ラバ・ナイト・ウフェラ(アドリアン) ジョアンナ・プレイス(ジュスティーヌの母) ローラン・リュカ(ジュスティーヌの父) ブーリ・ランネール(ドライバー) マリオン・ヴェルヌ(ナース) ほか 【あらすじ】
【レビュー・解説】 少女に潜在する獣性の目覚めを、単なる暴力的描写や性的描写、挑発的な描写の連続ではなく、感情移入を誘う導入、象徴的表現と多層構造の中で描き出した、ドラマ性が高く深みのある稀有なボディ・ホラー映画です。 ドラマ性が高く深みのある稀有なボディ・ホラー映画 ![]() 巧みに構成されたボディ・ホラー系ドラマ映画 ホラー映画のサブジャンルであるボディ・ホラーに分類される作品です。ボディ・ホラーは、人体の生々しく、心を毟るような残酷な描写を敢えて見せるもので、常軌を逸したセックス、突然変異、身体損壊、ゾンビ化、理不尽な暴力、疫病、不自然な肉体の動きなどを描きますが、本作はいきなり過激な場面を見せるのではなく、
最終的には過激な描写もあるわけですが、何よりも本作が凄いのは、少女に潜在する獣性の目覚めを、
二人の姉妹をお互いへの愛に溢れた存在として描きたかった。私にとって、それがこの映画のストーリー、現代の悲劇を形作っています。私はギリシア神話や、ギリシア悲劇、聖書に思いを巡らし、聖書における姉妹や兄弟の描き方が、非常に血生臭く、露骨でえげつないことに気がつきました。これら西洋文化の礎となる書物の中で、彼らは互いを食い合い、殺し合います。互いを愛しすぎるが故に、相手を消滅させずにはいられないんですね。ケインとアベルもそうですし、全くそのとおりです。彼らはあまりに近すぎ、父親の前で嫉妬に狂います。そんなものなのです。だから私はこの物語を姉妹で描くことにしました。とても映画的だと思ったのです。(ジュリア・デュクルノー監督) 姉妹愛とアドリアン、獣性を巡る姉妹の相克も描かれている ![]() 実はのっぴきならない低次の欲求 本作で描かれている獣性は、セックス、暴力、反逆、そして過剰な愛といったものの象徴です。原題の「grave」(フランス語)は「重大な」という意味で、人間を構成する不可欠な要素という意味が込められています。つまり、獣性なくして人間たり得ないという、のっぴきならない想いが込められているのです。余談になりますが、この映画を観てマズローの欲求5段階説を思い出しました。この説では、
例えば、性的欲求は最も階層が低い生理的欲求ですが、社会的成功を最優先した結果、晩婚化、非婚化が一般化するなど、低次の欲求が抑圧されているような気がしてなりません。ちょっと乱暴な言い方をすれば、自己実現欲求が満たされなくても人類が滅亡することはありませんが、性的な欲求を満たすことができなければ人類は種を保存することができないという、のっぴきならない欲求なのにです。もちろん野放図に性的欲求を満たせば良いということではありませんし、また、倫理的には否定されているもののクローニングという性欲に依存しない生殖という代替手段も存在します。しかし、この最低次に分類される欲求を、人間を構成する不可欠な要素としてもう少し重要視し、丁寧に付き合う必要があるのではないかと私は思うのです。 即物的な性描写 本作のもうひとつの特徴は、即物的な性描写です。一貫した映像美はあるのですが、デュクルノー監督)は性を美化することなく、極めて即物的に描写しています。 彼女を性的に美化することなく描くことは、私にとって色々な意味でとても重要でした。第一に、女性の体は往々にして男性を喜ばせるように、或いは女性が憧れるように描かれますが、これらはすべて幻想で、真実ではありません。私はひとりの女性としてこうした描写に感情移入できませんし、男性だって不自然に感情移入しているのではないかと思います。皆、これが真実ではないことを知っています。私は、映画を観るすべての人にキャラクターに感情移入してもらいたかった。人々には痛みを感じる体、時々臭う体があり、それは愛しく、愉快なほど下品だったりしますが、そうした体に関する仔細な描写が人々の普遍的な共感を誘うと、私は思っています。 ちょっと怖い演技指導 デュクルノー監督は脚本段階で登場人物の心理を十分に練っており、事前俳優にそれを説明しますが、撮影時は俳優の体の動きに集中し、心理を説明することはありませんが、本作には唯一の例外があります。 <ネタバレ> 唯一、私が登場人物の心理を説明したのは、フェイクの指を使って撮影したシーンです。こうしたフェイクの身体を使うと、他の種類の映画を演じているような気分になります。だから、「これはキャンディではなく、指なのだ」と、俳優に言い聞かせねばなりません。自明なように聞こえますが、初めてフェイクの指を見た時、ギャランスにはキャンディに見えました(筆者注:フェイクの指はクマのグミを溶かして作っている)。彼女はフェイクの指に自分自身を投影することができず、それを相手にうまく演ずることができませんでした。そこで、ジュスティーヌはこの指をどうしようとしているのか、私は彼女に説明しました。「ジュスティーヌは、成績優秀な学生。彼女は好奇心に満ちており、医学が好き。何故なら彼女は獣医学生だから。」そして言いました。「私であれあなたであれ、多くの人は指をボウルに入れて救急車を待つ。でも、ジュスティーヌは違う。これは人間の指がどうなっている見ることができる唯一の機会だと、彼女は考えるのです。」(ジュリア・デュクルノー監督)この話を聞いて、「体の中を見たかった、人を殺して解体してみたかった、誰でも良かった。」と、同級生を殺害して解剖した佐世保の女子高生殺人事件を思い出して、ぞっとしました。これは実際にあり得る心理なのです。 <ネタバレ終わり> 本作は、ジュリア・デュクルノー監督の長編デビュー作ですが、シャープな題材の扱い方、奥深い構成力とパワフルな展開に、フランス映画の底力を感じます。次回作は女性シリアルキラーを描く予定で、脚本を執筆中とのことですが、今後がとても楽しみな女性監督です。 ギャランス・マリリエ(ジュスティーヌ) ![]() ギャランス・マリリエ(1998〜)はフランスの女優、元ミュージシャン。 本作で主役を務め、一躍、知られるようになった。女優になる前はパリの音楽学校でトロンボーンとクラシックの打楽器を学んでいた。2009年から舞台に立つようになる。2011年、ジュリア・デュクルノー監督の短編で映画デビュー、以降、毎年、短編やテレビ映画に出演するようになる。また、デュクルノー監督のすべての作品に出演するなど関係が深い。 エラ・ルンプフ(アレクシア) ![]() エラ・ルンプフ(1995年〜)は、スイスの女優。本作で、一躍、世に知られるようになる。 他に「Tiger Girl」(2017年)、第90回アカデミー外国語映画賞のスイス代表作品に選定された「The Divine Order」(2017年)などに出演している。 ラバ・ナイト・ウフェラ(右、アドリアン) ![]() ラバ・ナイト・ウフェラ(1992年〜)は、パリ出身のアルジェリア系フランス人の俳優。14歳の時に、カンヌ映画祭でパルムドールを受賞、アカデミー外国語映画賞にノミネートされた「パリ20区、僕たちのクラス」(2008年)の生徒役で映画デビュー。以降、テレビや映画で活躍、を続けている。 【サウンドトラック】 ![]()
【撮影地(グーグルマップ)】 ![]() 【関連作品】 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]()
Last updated
2018年10月07日 05時00分08秒
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