テーマ:最近観た映画。(38001)
カテゴリ:映画
「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」(原題: Maudie)は、2016年公開のアイルランド・カナダ合作の伝記ドラマ映画です。田舎の風景、動物、草花をモチーフに、明るい色彩とシンプルなタッチで温かく幸福感のある絵を描き、カナダで最も有名な画家と言われる女性モード・ルイスの実話に基づき、アシュリング・ウォルシュ監督、サリー・ホーキンス、イーサン・ホークら出演で、孤独だった男女が出会い、貧しいながらも夫婦の絆と幸せを手に入れる姿を描いています。ベルリン国際映画祭をはじめ、世界の名だたる映画祭で上映され、第6回カナダ・スクリーン・アワード(カナダのアカデミー賞)では、
![]() 「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」のDVD(楽天市場) 【スタッフ・キャスト】 監督:アシュリング・ウォルシュ 脚本:シェリー・ホワイト 出演:サリー・ホーキンス(モード・ルイス) イーサン・ホーク(エベレット・ルイス) カリ・マチェット(サンドラ) ガブリエル・ローズ(アイダ) ほか 【あらすじ】 自由と絵を描くことを愛するモード(サリー・ホーキンス)は、カナダ東部の小さな町で厳格な叔母とともに暮らしています。ある日、町の雑貨屋で買い物をしていたモードは、家政婦募集の広告を貼り出した男に興味を持ちます。町はずれで暮らすその男は、魚の行商を営むエベレット(イーサン・ホーク)でした。叔母の束縛から逃れたいモードは、住み込みの家政婦になるべく、エベレットが1人で暮らす小屋を訪れます。モードは子供のころから重い関節炎を患い、一族から厄介者扱いされていました。一方、エベレットは孤児院で育ち、学もなく、生きるのに精いっぱいです。そんなはみだし者同士の同居生活は何かとトラブル続きでしたが、モードが作ったチキン・シチューを食べたエベレットは、心が温まるのを感じます。やがて二人はお互いを認め合い、結婚します。ある日、ニューヨークから避暑に来ていた顧客のサンドラが、エベレットを訪ねてきます。彼女はモードが壁に描いたニワトリの絵を見て気に入り、絵の制作を依頼します。モードは板、請求書の裏など、家庭内の物品、扉、雨戸、外壁、壁紙などに絵を描き続け、エベレットは不器用ながらそんなモードを応援します。やがてモードの絵は評判となり、アメリカのニクソン大統領から依頼が来ます・・・。 【レビュー・解説】 田舎の風景、動物、草花をモチーフに明るい色彩とシンプルなタッチで温かみと幸福感のある絵を描き、カナダで最も有名な画家と言われる女性モード・ルイスとその夫を、サリー・ホーキンスとイーサン・ホークが熱演、テレビもラジオもない人里離れた小さな家での二人の生活を通して、幸せの意味、芸術の意味を静かに問いかける秀作です。 幸せの意味、芸術の意味を静かに問いかける秀作 ![]() 幸せとは?
本作の主人公、モード・ルイスは、子供の頃から関節炎を患い、身体が不自由です。両親を亡くし、兄は頼りにならず、厳格な叔母の家に預けられて、自由のない生活を強いられます。耐えかねた彼女は叔母の家を飛び出し、偏屈で口汚い魚の行商人のエベレットの家に住み込みの家政婦として転がり込みます。彼の家は人里離れた野原の真っ只中にある、ラジオもテレビもない小さな家です。モードはエベレットとともに、この小さな家に40年も住むことになります。 メインの撮影を終えたときに雪深いシーンを撮ることができず、大雪のときに役者なしで再びカメラマンと撮影に向かったときのことです。そのときにハッとしたことがあって、モードたちが住んでいた場所がいかに人里から離れ非常に孤独なものであったか、ということです。物音もしないような場所で40年間同じような日々が過ぎていく暮らしなど想像もできなくて、私なんて1週間くらいしか住めないと思いました。たぶん朝起きて最初にすることは火を起こすことで、火がなければ食事も作ることができないし何もすることができません。そんなエベレットの生活ぶりというのも同じように捉えたいと思いましたし、それが彼らの関係であり置かれた環境だったのです。(アシュリング・ウォルシュ監督) 人々のありふれた願いとは縁遠い、娯楽もない辺地の小さな家で偏屈な男と二人きりで暮らす生活は、現代の日本では考えられないような選択肢です。重い関節炎を患う彼女にとって身体的にも経済的にも厳しい生活であるにもかかわらず、何故、彼女は40年もの間、幸せに暮らすことが出来たのか、とても興味深いです。 芸術とは? モードは子供の頃、母と一緒に絵を描いた以外は、美術の教育を受けたことも、絵画の描き方を学んだ事もありません。彼女は30マイル(48km)の圏内で生活しており、他の画家の作品を見て刺激を受けるようなこともなければ、展覧会にも行ったことがありません。後に彼女の作品が売れるようになっても、一つの作品の売値は5ドルから10ドル程度で、彼女は決して欲張ることがありませんでした。絵を描くことに対するこうした彼女の姿勢にも、興味深いものがあります。 私はフリーダ・カーロが大好きなんですが、男女問わずアーティストというのは、自分自身と葛藤している方が多いんです。それは自分の身体的なハンディキャップである場合もあれば、単純に女性だからということもあるのか、生活のなかでものを作る時間があまりないとか、そうやって葛藤しているのですが、作品はものすごく素晴らしいものだったりするんです。そういうところがすごくおもしろいと思うし、映画作りにも似ていると思います。我々には映画を作り続けなければいけないような脅迫観念がありますし、小説家でも同じですよね。書き続けなければいけないとか、何かやっぱり生まれつき「やらなければ!」という気持ちを持っている人が、アーティストなんじゃないかと思います。モードのことを考えると、毎日絵を描いていて幸せだったのかは、もちろん誰にもわからないですよね。恐らく向上したいという気持ちはアーティストとしてあったと思います。でも、売らなければとか、売りたいみたいな気持ちは、きっと彼女にはなくて、稼いだお金は薪や生活で最低限必要なものを揃えるために使っていただけで、それくらい遠隔地に彼らは住んでいたんです。モードってすごくおもしろいなと思うのが、30マイル(48km)圏内でしか生活をしていなくて、その外には足を踏み出したことがないんです。ほかのアーティストの作品は、新聞の記事で見る以外は目にしたことがないし、当然展覧会などにも行ったことがないんです。そんななかであんな作品を作っていたと思うと、すごいと思いませんか?(中略)多くのアーティストの場合は、自分自身の葛藤を経験すると思うのですが、モードの場合はあの小さな家で絵を描くということに、平穏を見つけることができたんだと思います。置かれている環境を受け入れて、華氏マイナス25度(=摂氏マイナス約32度)とかなり厳しい冬に、火もないなかでこれだけのものを作っていたのがすごいと思います。(アシュリング・ウォルシュ監督) 格差社会から見たモード・ルイスの生き方 かつて、一億総中流社会と言われた日本ですが、その後、経済のグローバル化に晒され、着実に格差社会に向かっているように思われます。幸せの尺度を経済的な豊かさとすれば、格差社会では例えば10人にひとりと言った、限られた人しか幸せになることができません。芸術の世界もまた、二極化が進んでいるように見えます。ヒエラルキーが陳腐化し、フラット化の波に晒され、芸術でそこそこ食える人が減り、巨万の富を稼ぐ人と、全く食えない人に二極化しつつあるようです。誰にでもチャンスがあるとは言え、豊かさを手に入れたり、芸術の領域で成功を収めるのは、宝くじを当てるほど難しく、不幸な人々がどんどん増えかねない状況です。そんな日本の今から観ると、清貧の中で創作し、金銭面での報酬を深追いしないモード・ルイスの生き方には、非常に興味深いものがあります。過酷な環境の中で、彼女は何故、幸せな人生を過ごすことが出来たのか?敢えて何十年も前の時代に逆戻りしたり、不自由な身体になったり、身寄りをなくしたり、見知らぬ偏屈な男(女)と僻地に住んで不便な生活をしたりする必要はないかと思いますが、過酷な格差社会を生きる我々が幸せになれる秘密が、ひょっとしたら彼女の人生に隠されているかもしれません。 モードは元来かなり立派な中産階級の良い家庭の出身でした。でも、そこで彼女は幸せではなかった。エベレットに会うまで彼女の人生は大変で、学校ではいじめられ、通りではやじられ、母親がホームスクールし、孤立していました。だからこそ、エベレットとの住まいが周囲から孤絶していていても、あの家で絵が描ける以上は彼女にとって問題なかったのではないでしょうか。もちろん、冬は凍えただろうし、年をとってもあの家に住み続けるのは大変だっただろうと思います。でも、彼女はトライし続け、それが人を引きつけました。人生で幸せになったり何かを達成したりするには、多くは必要でないということなのです。彼女は、自分から家政婦という仕事を得ようと動きました。自分の人生をちょっとずつ変えるためには自分から動かないといけないことを彼女は分かっていて、それが成功に繋がったのです。(アシュリング・ウォルシュ監督) サリー・ホーキンスのパフォーマンス 脚本を読むやいなや、アシュリング・ウォルシュ監督はサリー・ホーキンスを主役の第一選択にしました。サリー・ホーキンスは小柄で控えめな印象の女優で、とびきりの美人というわけでもないのですが、彼女が初めて主役を演じたマイク・リー監督の「ハッピー・ゴー・ラッキー」(2008年)が強く印象に残っています。彼女はこの作品で前向きで楽天的な女性教師を演じていますが、マイク・リー監督は最初から彼女の主演を想定して脚本を書いています。そういう意味ではもともと楽天性がよく似合う女優だったのでしょうが、非常に濃い役柄を自然に演じる彼女の演技力にとても感心しました。彼女はイギリス国内を中心に活動する女優でしたが、世界に通用する実力を兼ね備えており、「ハッピー・ゴー・ラッキー」ではベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞、「ブルージャスミン」(2013年)ではアカデミー助演女優賞に、「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017年)では同主演女優賞にノミネートされています。本作では、彼女は関節炎で身体が不自由なモード・ルイスを渾身のパフォーマンスで表現しており、「ハッピー・ゴー・ラッキー」ほどの楽天性を前面に押し出していませんが、モード・ルイス本人は中流家庭出身の上品で笑顔の素敵な女性で、明るく前向きな女性像を得意とするホーキンスにはまったくもっての適役と言えます。 (モードとエベレットの)2人は断熱材のない小さな家で、厳しい冬の寒さをうまくやり過ごしていた。彼らは常に前を向いて物事と戦っていたの。その精神があるからこそ、人生を肯定することができる。モードは、あの時代に障害や困難を乗り越え力強く生き抜いた。だから私たちも何だってできる。(サリー・ホーキンス) サリー・ホーキンス(モード・ルイス) ![]() サリー・ホーキンス(1976年〜)は、ロンドン出身のイギリスの女優。王立演劇学校を卒業、主にイギリス国内の舞台・テレビ・映画で活躍する。マイク・リー監督の「ハッピー・ゴー・ラッキー」(2008年)でベルリン国際映画祭銀熊賞やゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞、ウディ・アレン監督の「ブルージャスミン」(2013年)でアカデミー助演女優賞に、ギレルモ・デル・トロ監督の「シェイプ・オブ・ウォーター」で同主演女優賞にノミネートされており、世界的に知られた演技派の女優である。 イーサン・ホーク(エベレット・ルイス) ![]() イーサン・ホーク(1970年〜)は、テキサス出身のアメリカの俳優、作家、小説家、映画監督。1985年に映画でデビューするが、活動を一時中断し、「いまを生きる」(1989年)で復帰、「ホワイト・ファング」(1991年)で初主演、「リアリティ・バイツ」(1994年)、リチャード・リンクレイター監督の「恋人までの距離」(1995年)、「ガタカ」(1997年)と、着実にキャリアを重ねる。「トレーニング デイ」(2001年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされる。「恋人までの距離」の続編の「ビフォア・サンセット」(2004年)、「ビフォア・ミッドナイト」(2013年)ではリンクレイター監督、共演のジュリー・デルピーと共に脚本を手がけ、いずれもアカデミー脚色賞にノミネートされる。リンクレイター監督の「6才のボクが、大人になるまで。」(2014年)で、2度目のアカデミー助演男優賞にノミネートされている。 カリ・マチェット(サンドラ) ![]() カリ・マチェット(1970年〜 )は、テレビ、映画で活躍するカナダの女優。 ガブリエル・ローズ(アイダ)![]() ガブリエル・ローズ(1954年〜)はカナダの女優。「W/ダブル」(1987年)、「スウィート ヒアアフター」(1997年)などに出演している。 【動画クリップ(YouTube)】
【撮影地(グーグルマップ)】
![]() 「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」のDVD(楽天市場) 【関連作品】 モード・ルイスの伝記絵本(楽天市場) ![]() アシュリング・ウォルシュ監督 x サリー・ホーキンスのコラボ作品のDVD(楽天市場) ![]() サリー・ホーキンス出演作品のDVD(楽天市場) ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() イーサン・ホーク出演作品のDVD(楽天市場) ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]()
Last updated
2018年12月27日 05時00分06秒
コメント(0) | コメントを書く
[映画] カテゴリの最新記事
|
|