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「正しい日 間違えた日」(原題:지금은맞고그때는틀리다、英題:Right Now, Wrong Then)は、2015年公開の韓国のドラマ映画です。ホン・サンス監督、チョン・ジェヨン、キム・ミニら出演で、映画監督チュンスと女性美術家ヒジョンの運命的な出会いと二通りの展開を描いた、二部構成の異色ラブストーリーです。 第68回ロカルノ国際映画祭で、グランプリに相当する金豹賞を受賞した作品です。
「正しい日 間違えた日」のDVD(楽天市場) 【スタッフ・キャスト】 監督:ホン・サンス 脚本:ホン・サンス 出演:チョン・ジェヨン(ハム・チュンス) キム・ミニ(ユン・ヒジョン) コ・アソン(ヨム・ボラ) ユン・ヨジョン(カン・ドクス) キ・ジュボン(キム・ウォンホ) チェ・ファジョン(バング・スヨン) ユ・ジュンサン(アン・ソングク) ソ・ヨンファ(ジュ・ヨウンシル) ほか 【あらすじ】
【レビュー・解説】 顔の表情、声の調子、仕草などによりトーンに微妙な差をつけながら、男女の出会いについて二通りの展開を描き、人生において時々刻々遭遇する瞬間に対する我々の認識と行動には無限の可能性があること、個性も思いも各様な人間が織りなす関係も無限にあることを示唆する、異色のラブストーリーです。 男女の出会いについて二通りの展開を描く異色のラブストーリー バリエーションが醸し出す奥深さ 芸能人の不倫報道が相次いでいます。私にはとんと縁がないのですが、知り合いにも不倫経験者がおり、一般人にもさして珍しくないことかもしれません。本作のホン・サンス監督と主演女優のキム・ミニも、2017年の記者会見で不倫の関係にあることを公表しています(ホン・サンス監督は妻と離婚係争中で、今年の6月14日に最終審判の予定)。二部構成で不倫を描く本作は、同じ設定で第一部はバッドエンド、第二部はハッピーエンドになりますが、ひょっとしたら二人の実体験を虚実ないまぜにしながら、正しい不倫の仕方でも指南してくれるのかと、ちょっと期待してしまいます。そんな視点で見てみると、第一部のお調子者のハム・チュンスにはバッドエンド、第二部の誠実なハム・チュンスにハッピーエンドが訪れるなど、たとえ不倫をするにしても誠実であれといった倫理的な規範(不倫なのに)が伺われます。 しかし、どうもそれだけではありません。そうした因果関係はどこ吹く風、顔の表情、声の調子、仕草といった演技が醸し出す微妙なトーンがそもそも違うのです。つまり、何かを言ったから不倫がうまくいったとか、何かをしたから失敗したという単純なことではなく、個性も思いも各様な二人の関係が醸し出す微妙な表情、声、仕草と言った映画的なトーンが、二人に訪れる結果と不可分であることを本作は示唆しているのです。正しい不倫の仕方に関する指南への期待はここであっさりと裏切られますが、よく考えてみれば正しい不倫の仕方ついて映画で指南を受けたからと言ってうまくいくほど現実は甘くないでしょうし、映画としてもたいして面白いものにはならないかもしれません。 実はこの映画の凄いところは、第一部でバッドエンド、第二部でハッピーエンドと二通りの展開を見せながら、同時に個性も思いも各様な人間が織りなす関係の微妙さを描くことにより、我々は成功と失敗の間で白でも黒でもない、永遠にどっちつかずの状態であることを感じさせる点です。本作の最大の魅力でもあるこの微妙なトーンの差は、言語や行動の論理的描写によるものではなく、バッハのゴールドベルク変奏曲、インベンションとシンフォニア、平均律クラーヴィア曲集といった様々な曲調のバリエーションで構成される音楽のようです。人生において我々は時々刻々瞬間に遭遇していきますが、それに対する我々の認識と行動には無限の可能性があり、また我々が織りなす人間関係にも無限の可能性があります。二部構成の本作ですが、そういう意味では、第三部、第四部、第五部といったさらなるバリエーションがありうること、即ち、不倫ひとつとっても様々な関係があり得ること、単なる成否だけでは割り切れないことを感じさせる深みのある作品です。 驚きの制作プロセスとリアリティ ホン・サンス監督は、場所と俳優だけ決めて、撮影する日の朝まで脚本を書かないことで知られています。また、その制作プロセスは伝えたいメッセージや、登場するキャララクターのイメージが先にありきではありません。
早々に脚本を書いて制作プロセスを縛るのではなく、撮影直前まで新しいこと、予期せぬことを柔軟に取り込み、作品を撮り進めながら最終的な構成と内容に落とし込んでいくのが彼の制作スタイルです。 通常は先に脚本を書いて、それに合った俳優と撮影場所を探すわけですが、それは机上のものを現実にすることであり、往々にして様々な現実とのギャップを時間とお金をかけながら解決していくプロセスになります。これに対して先に俳優、ロケ地を先に決め、それを見ながら脚本を書くホン・サンス監督は、眼の前の現実の魅力を引き出しながら可能なことで物語を組み立てていくことにより、大幅に時間と制作費を節約しています。可能なことだけで物語を組み立ててながらもつまらないものにならないのは、ひとえに彼のストーリー・テリングの才能によるものでしょう。因みに、本作は制作費が5万ドル、ポストプロダクション、日当、プロモーションなどが5万ドルで、合計10万ドルと驚異的に安価な費用で制作されています。また、ホン・サンス監督はこの費用を自己資金で賄っており、ファイナンス確保の為の交渉やスポンサーの干渉から解放されています。目的・目標志向ではない彼の制作プロセスは、「映画は私の人生において最も重要なもののひとつ、良い人に囲まれてハッピーに撮りたい」という映画制作への思いの必然的な帰結と言えます。 他の映画がどのような作られ方をしているのか、私はよく知りません。私は制作を始める時に明確な目的や目標を持たないようにしています。私はプロセスそのものによる創造性を信じています。その時々に私に与えられた俳優、ロケ地、天気、見たこと、読んだこと、思い出したこと、制作中に聞いたことに反応しているだけです。それは私にとって「最良の純粋さ」です。(ホン・サンス監督)https://nationalpost.com/entertainment/movies/a-rare-and-resoundingly-awkward-interview-with-acclaimed-korean-filmmaker-hong-sang-soo 本作の主役の一人、ハム・チュンスは映画監督ですが、本作に限らずホン・サンス監督の作品にはよく映画監督が登場します。これは単に彼が映画監督という職業をよく知っており脚本を書きやすい為で、物語としては別に映画監督である必要はないのですが、撮影準備を最短にしたい彼は敢えて映画監督以外の職業やキャラクターを開発する時間をかけないのです。同様、ヒロインもキム・ミニをモデルに描かれています。ホン・サンス監督はこのように効率的にリアリティティを演出していますが、私小説のように張り詰めた脚本は彼の意図するものではなく、リアリティを享受しながらもすんでのところで映画が現実そのものになることを回避しています。本作の二部構成に見られるように、描かれるエピソードは基本的にホン・サンス監督の創造によるものであり、必ずしも彼とキム・ミニの実生活の再現を狙ったものではないことは留意しておいた方が良さそうです。 チョン・ジェヨン(右、ハム・チュンス) ソウルから南35kmに位置する首都圏の中核都市、水原(スウォン)で撮影されています。市街地中心にユネスコの世界遺産に登録されている城郭都市「水原華城」の城壁があり、ハム・チュンスは水原華城の中核である華城行宮にある福内堂でがヒジョンに出会います。
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Last updated
2019年06月13日 05時00分06秒
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