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2019年10月03日
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カテゴリ:映画
​​​​​「バジュランギおじさんと、小さな迷子」(原題:Bajrangi Bhaijaan)は、2015年に公開されたインドのドラマ映画です。カビール・カーン監督、K.V.ヴィジャエーンドラ・プラサード脚本、サルマン・カーン、ハルシャーリー・マルホートラ、ナワーズッディーン・シッディーキー、カリーナ・カプールら出演で、インドのイスラム寺院を訪れた帰りに母親とはぐれ、迷子になったパキスタン人の少女を、敬虔なヒンドゥー教信者のパワンが保護し、故郷に送り届ける道中を描いています。「ダンガル きっと、つよくなる」(2016年)、「バーフバリ 王の凱旋」(2017年)に次いで、インド映画歴代第三位の興行収入を記録した作品です。

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【スタッフ・キャスト】
監督:カビール・カーン
脚本:カビール・カーン/パルヴィーズ・シャイク
   /K.V.ヴィジャエーンドラ・プラサード/カウサル・ムニール
原案:K.V.ヴィジャエーンドラ・プラサード
出演:サルマン・カーン(パワン・クマール・チャトラヴェーディー、バジュランギ)
   ハルシャーリー・マルホートラ(シャヒーダー、ムンニー)
   カリーナ・カプール(ラスィカー)
   ナワーズッディーン・シッディーキー(チャーンド・ナワーブ)
   メヘル・ヴィジュ(シャヒーダーの母)
   アンマール・アニーズ・カーン(バジュランギの友人)
   クシャール・パワール(カーミル・ユースフ)
   ミール・サルワール(ラウフ、シャヒーダーの父)
   カムレーシュ・ギル(列車の乗客)
   オム・プリ(マウラナ・アサド )
   シャーラト・サクセーナ(ダーヤナンド、ラスィカーの父)
   ラスィカーの母 - アルカ・カウシャル(英語版)
   アドナン・サミー(Bhardo Jholi Meri のシーン)
   ラジェシュ・シャルマ(ハーミド・カーン)
   クルナル・パンディット(ヴァルダン)
   ムルサレーン・クレシ(ボー・アリ)
   マノージュ・バクシ(アーミル・クレシ警部)
   ハルッシュ・A・シン(シャムシェール・アリ)
   ほか

【あらすじ】
  • パキスタンの小さな村に住む少女シャヒーダー(ハルシャーリー・マルホートラ)は生まれつき言葉を話すことができず、長老に勧められた母がシャヒーダーを連れてインドのデリーにある聖廟を参拝します。その帰路、インド・パキスタンの国境検問所付近で停車中の列車から降りたシャヒーダーは、動き出した列車に置き去りにされてしまいます。母は娘を探しますが、列車は既に国境を越えており、戻ることはできませんでした。インドに取り残されたシャヒーダーは貨物列車に乗り込みヒンドゥー教の聖地であるハリヤーナー州クルクシェートラに辿り着き、ヒンドゥー教の熱心な信者であるインド人のパワン(サルマン・カーン)と出会います。パワンはシャヒーダーを警察に預けようとしますが断られ、彼女を連れて自身が暮らすデリーに向かいます。
  • パワンは婚約者ラスィカー(カリーナ・カプール)の自宅にシャヒーダーを住まわせて彼女の故郷を探そうとしますが、ラスィカーの父ダーヤナンド(シャーラト・サクセーナ)は難色を示します。ラスィカーが親の勧める縁談を反故にしてパワンと婚約したことを快く思っていないダーヤナンドは、「半年の間に自分の力で家の購入費を稼ぐこと」を結婚の条件としてパワンに示しており、シャヒーダーの故郷探しよりも稼ぐことを優先するようパワンに迫ります。ある日、街中ではぐれたシャヒーダーがモスクで祈る姿を目撃したパワンは、彼女がムスリムであることを知ります。さらにクリケットのテレビ中継でシャヒーダーがパキスタンのチームを応援していたことから、彼女がパキスタン人であることを知ります。歴史や宗教、経済など、様々な点でインドと激しく対立するパキスタンを嫌悪するダーヤナンドは、激怒しシャヒーダーをパキスタン大使館経由でパキスタンに追い返すようにパワンに迫りますが、大使館は反パキスタン暴動の影響で閉鎖されてしまい、ビザを入手することができなくなります。困り果てたパワンはダーヤナンドの知り合いの旅行代理店にシャヒーダーを預けて帰ろうとしますが、思い直して旅行代理店の男を追うと、彼はシャヒーダーを売春宿に売り飛ばそうとしていました。激怒したパワンは売春宿からシャヒーダーを取り戻し、彼女を自ら両親のもとに送り届けようと決意します。
  • パワンとシャヒーダーは事情を知った密入国業者ボー・アリ(ムルサレーン・クレシ)や国境警備隊の助けでパキスタンに入国しますが、途中でスパイ容疑をかけられ警察に逮捕されてしまいます。警察署にあったカレンダーの写真が故郷の場所だとシャヒーダーに示唆されたパワンは警察署を脱走、その場所を探そうとします。特ダネ目的で二人を追ってきたテレビ・リポーターのナワーブ(ナワーズッディーン・シッディーキー)も、事情を知って二人に協力を申し出ます。途中、モスクで一夜を明かした三人は宗教学者アサド(オム・プリ)の協力で写真の場所を探し、シャヒーダーの故郷がアザド・カシミール(パキスタンが実効支配しているカシミール)付近らしいと聞かされます。アザド・カシミールに向かう途中、ナワーブは社長に自身が撮影した映像を放送してシャヒーダーの両親を探そうとしますが、「話題性がない」と拒否されてしまいます。翌朝、ナワーブはパワンとシャヒーダーが聖廟に行っている間に YouTube に映像をアップロードしてシャヒーダーの両親を探そうとします。彼がアップロードした映像にシャヒーダーの母が映り込んでいることを知ったパワンとナワーブは、彼女が乗っていたバスを見付け出し、シャヒーダーの故郷がスルターンプリであることを突き止めます。しかし、途中で警察の検問に遭遇、囮になって警察を引き付けたパワンは、逮捕され拷問を受けます・・・。

【レビュー・解説】
ヒンドゥー・イスラム、インド・パキスタンの対立という政治色の濃い背景に、人間愛を描く巧みな脚本と個性派俳優の好演で商業的大成功を収めた、歌あり、踊りあり、ロマンスあり、旅ありのインド産ヒューマン・コメディ&ドラマ映画です。
宗教・印パ対立を背景に人間愛を描く巧みな脚本で大ヒットしたインド産コメディ



政治色の濃い作品
父がヒンドゥ教徒、母がイスラム教徒で、伯父がザキール・フセイン元インド大統領というカビール・カーン監督は、自身はアフガニスタンの山岳少数民族パサン族の末裔だと信じています。もともとドキュメンタリー作家だった彼は、本作に限らず、政治色が濃い作品を制作する傾向があります。
  • 「カブール・エキスプレス」(2006年):タリバン以降のアフガニスタンが題材
  • 「New York」(2009年):9.11以降、生活が一変してしう移民が題材
  • 「タイガー 伝説のスパイ」(2012年):インド・パキスタスタンの対立が背景
  • 「Phantom」(2015年:ムンバイ同時多発テロが題材
  • 「Tubelight」(2017年):1962年の中印国境紛争が題材
本作はヒンドゥー教とイスラム教、インドとパキスタンの対立を背景にしていますが、作品中に政治家は登場せず、また対立の歴史が紐解かれることもありません。こうした宗教的、政治的な問題を背景に、インドの敬虔なヒンドゥー教徒の男が、インドで迷子になったパキスタンのイスラム教徒の少女を、両国の人々に支えられながら幾多の苦難を乗り越え両親の元に送り届けるまでを、コメディとロマンスを織り交ぜながら愛の物語として描いています。

商業的成功をもたらした巧みな脚本
政治色が濃い映画は商業的成功が難しいのですが、本作がインド映画歴代三位の興行収入を記録する大ヒットになった理由は、政治的な背景を持ちながらもひたすら人々の愛の物語として描いている点にあります。脚本を書いたのが、「マッキー」(2013年)、「バーフバリ 伝説誕生」(2015年)、「バーフバリ 王の凱旋」(2017年)などを手掛けたK.V.ヴィジャエーンドラ・プラサードです。159分にも及ぶ大作映画ですが、デリーを舞台にした前半、シャヒーダーの故郷を目指すロードムービーの後半と、前半後半で設定を変え、飽きさせることなくぐいぐいと観客を惹きつけるのは彼の脚本ならです。

K.V.ヴィジャエーンドラ・プラサードは、マレーシア映画「Poovinu Puthiya Poonthennal」(1986年)のリメイクであるタミル語映画「Poovizhi Vasalile」(1987年)に触発されて本作を書いたと語っています。「Poovizhi Vasalile」は、殺人を目撃し、母を殺された聾唖の少年を引き取る男を描いたクライム・サスペンスですが、本作のシャヒーダーも言葉を発することができず、身の上を語ることができないことから、謎解き要素が加わり、より魅力的なストーリー・テリングになっていることがわかります。

個性派閥俳優たちの好演
K.V.ヴィジャエーンドラ・プラサードの素晴らしい脚本を演じる個性派閥俳優たちも強者揃いです。主人公のパワンを演じたサルマン・カーンは、強固な肉体美を誇る、インドを代表するアクション・スターですが、本作ではこれまでのイメージを捨て、強いが純粋な心の持ち主で、全ての人に敬意と愛を抱き、正直で決して悪いことをしない男を演じています。

声を出せない6歳の少女シャヒーダーには、眼と表情だけでの演技が求められますが、この大役に抜擢されたのがハルシャーリー・マルホートラです。当時6歳だった彼女は、テレビドラマの子役やコマーシャル等に出演していたものの、映画出演は初めてでしたが、監督の演技指導で大きく成長し、眼と表情だけで感情を表現する彼女の演技には大人顔負けの説得力があります。サルマン・カーンも「彼女と一緒に演技ができて、素晴らしい時間になった。6歳にして俳優が必要な全てのものを持っている。」と、絶賛しています。

パワンの婚約者ラスィカーを演じたカリーナ・カプールはインドのトップ女優の一人ですが、彼女は同じくインド映画の大ヒット作「きっと、うまくいく」(2009年)にも出演しています。トップ女優だけあって演技も確かですが、本作も記録的なヒット作品となり、ミューズ的な存在でもあります。パワンと対照的なチャーンド・ナワーブ記者を演じるナワーズッディーン・シッディーキーも味のある演技を見せてくれます。彼は、「女神は二度微笑む」(2012年) 、「めぐり逢わせのお弁当」(2013年)、「LION/ライオン 25年目のただいま」(2016年)などにも出演しており、さらなる活躍が期待される俳優です。

インド・パキスタンの分断
本作ではインド・パキスタン問題の経緯について一切触れられていませんが、現在のインド、パキスタンはかつてイギリスの植民地で、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒が共に暮らしていました。ヒンズー教は多神教で、偶像崇拝を行い、牛は神聖な動物で牛肉を食べることは禁止されています。一方、イスラム教は一神教で、偶像崇拝は禁止、牛肉は食べますが、豚肉は不浄な動物として食べることが禁止されています。このように彼らは宗教的に反目しやすい状況にありましたが、イギリスは自国に対してインド国民の不満が向かないように、こうした宗教的な反目を利用してヒンドゥー教とイスラム教の信者が互いに対立するよう統治したと言われています。結局、ヒンドゥー教側にもイスラム教側にもイギリスからの独立の機運が高まり、1947年にイギリス領インド帝国が解体、両者は反目したままインド連邦とパキスタン(後にバングラデシュとして独立する飛地の東パキスタンを含む)の二国に分かれて独立しました。このインド・パキスタン分離独立は、インド独立運動における最大の悲劇と言われ、インドとパキスタンの対立は今日に至るまで続いています。

本作の後半の舞台となるカシミール地方は、イスラム教徒が多数を占めていながら藩王がヒンドゥー教徒だったことからその帰属が捻れてしまった地域で、インド、中国、およびパキスタンの3カ国が領有権を主張しています。
  • インドはジャンムー・カシミールの藩王が歴史的に統治していた領域全体の領有を主張、ジャンムー、ラダクおよびシアチェン氷河のほとんどを支配
  • 中国はアクサイチン地方を統治、1963年からはシャクスガン渓谷(克里青河谷)も統治
  • パキスタンは朝採・カシミール地方を実効支配する一方、中国の支配地域を除いたカシミール地方全域を自国の領土であると主張
しています。カシミール地方の領有をめぐって、インドとパキスタンは1947年、1965年、1971年の三度の印パ戦争を、インドと中国は1962年に一度、中印国境紛争を起こしています。また、インドのジャンムー・カシミール州では1990年以来、分離独立派とインド軍の衝突が繰り返され、数千人規模の死者を出しています。インドはカシミール州に対して70年もの間、自治権を認めて来ましたが、2019年になって自治権を剥奪、インド政府の直轄地にする決定を行いました。これにパキスタン政府が強く反発、在パキスタンのインド大使館員を追放するなど両国の緊張が高まり、核を保有する両国に国連安保理が自制を促す事態となっています。

カシミールで撮影する意味
ヒマラヤ山脈の麓にあるカシミール地方はおよそインドとは思えない美しい景観で、 「きっと、うまくいく」(2009年)や「命ある限り」(2012年)のロケ地にもなっていますが、このような紛争の場であることは痛ましい限りです。カシミール、特に山岳地帯へのアクセスは容易でなく、悪天候が続いたり寒さに悩まされたりと撮影は困難を極めましたが、「旅行に行くときも脚本を書いてから出かける」と揶揄されるほどロケ地にこだわりを持つカビール・カーン監督にとって、地理的、歴史的、政治的に意味があるカシミール以外での撮影は最初からあり得ませんでした。シャヒーダーの故郷がパキスタンが実効支配するアサド・カシミールであること、カシミールのインド・パキスタン国境でクライマックスを迎えること、国境を挟んでインド・パキスタンの人々が集結すること・・・。何も知らずに観ると見逃してしまいそうですが、単に美しいからカシミールで撮影されたのではない、この映画にはカシミールなければならない強い必然性があったわけです。

簡単には解決しそうにないインド・パキスタン問題ですが、本作では宗教を超えて人々が助け合います。カビール・カーン監督の両親や、映画「マイネーム・イズ・ハーン」(2010年)、「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」(2017年)などにも見られるように、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒、異教徒同士の結婚はそれほど珍しいことではありません。うまくやる秘訣は宗教にかかわる文化や慣習に絶対的な価値を見いださず(世俗化)、文化や慣習の違いはそんなもんだと流して気にしないことだそうです。しかし、本作で描かれているのは一種のユートピアであり、国と国との関係となると世俗化を受け入れる穏健派ばかりではありません。急進的な勢力としてイスラム過激派が有名ですが、ヒンドゥー教にも急進的な勢力があり様々な問題を起こしています。国と国との関係となるとなかなかうまくいかないのは、そうした急進的な勢力があるからでしょうが、いつかしら国と国との関係も解決できるようであった欲しいと思います。

サルマン・カーン(パワン・クマール・チャトラヴェーディー、バジュランギ)

サルマン・カーン(1965年〜)は、マディヤ・プラデーシュ州出身のインドの映画俳優、プロデューサー。アクション映画を中心に80作以上のボリウッドに出演、インドの映画史で最も有名な俳優の一人とみなされている。「タイガー 伝説のスパイ」(2012年)、「スルターン」(2016年)などに出演している。

ハルシャーリー・マルホートラ(シャヒーダー、ムンニー)

ハルシャーリー・マルホートラ(2008年〜)はムンバイ出身のインドの子役、モデル。2012年にテレビドラマの子役としてデビュー、TVCMにも多数出演、本作で映画デビューを果たす。本作では、言葉を発することができない6歳の少女という難役に。オーディションに集まった約5,000人の中から選ばれた。監督の演技指導で大きく成長、眼と表情だけで感情を表現するという大人顔負けのパフォーマンスを見せ、共演のサルマン・カーンも「6歳にして俳優が必要な全てのものを持っている」と絶賛。

カリーナ・カプール(ラスィカー)

カリーナ・カプール(1980年〜)、ボンベイ出身のインドの女優。祖父や父も俳優という芸能一家に生まれ、2000年にヒロイン役で映画デビュー、以降、以降、歴史物、サスペンス、社会派ドラマ等、多彩な映画に主役級で出演し、インドのトップ女優の一人となる。「きっと、うまくいく」(2009年)などに出演している。

ナワーズッディーン・シッディーキー(チャーンド・ナワーブ)

ナワーズッディーン・シッディーキー(1974年〜)は、ウッタル・プラデーシュ州出身のインドの俳優。俳優を志し1996年に映画デビュー、その後苦しい下積み時代が続くが、2000年代後半から演技が高く評価されるようになる。「女神は二度微笑む」(2012年) 、「めぐり逢わせのお弁当」(2013年)、「LION/ライオン 25年目のただいま」(2016年)などに出演している。

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【関連作品】
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「タイガー 伝説のスパイ」(2012年):輸入盤、日本語なし

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  「その名にちなんで」(2006年)
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  「マダム・イン・ニューヨーク」(2010年)
  「マイネーム・イズ・ハーン」(2010年)
  「ロボット」(2010年)
  「神様がくれた娘」(2011年)
  「スタンリーのお弁当箱」(2011年)
  「バルフィ!人生に唄えば」(2012年)
  「命ある限り」(2012年)
  「PK ピーケイ」(2014年)
  「ダンガル きっと、つよくなる」(2016年)






Last updated  2019年10月03日 05時00分07秒
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