2010/09/13(月)00:59
伝わる心
地元の病院に看護学生が実習に来ている。
要介護の患者さん一人に、実習生一人が付いて、二週間お世話をするそうだ。
その中の一人(仮にA子さんと呼ぶ)も、おばあちゃんのお世話をすることになった。
ところが、このおばあちゃん、
「あー、うー」
と、声を発すも、こちらの呼びかけには、ほとんど反応を示してくれない。
それでもA子さんは根気強く、
「おばあちゃん、これ美味しそうだね」
などと、笑顔で話しかけ続けた。
だが、その日は突然訪れた。
実習二日目、家族の意向でおばあちゃんは次の日、転院することになった。あまりの急な決定の為、病院スタッフにも十分に伝達が、行き渡っていなかったくらいだった。
二週間の予定がたった二日でのお別れ。
その最後の日、A子さんはおばあちゃんの元へ来て、
「おばあちゃん、お世話になりました。ありがとうございました」
と、言葉をかけた。
すると、それまでほとんど無反応だったおばあちゃんが、しっかりとした口調ではっきり、
「ありがとう」
と、返事をしたのだ。
A子さんの目に涙が溢れたかと思ったら、彼女は顔を手で隠すかのようにして、廊下へ飛び出し、駆けて行ってしまった。
今まで内に秘めていたものが、一気に噴き出したのだろう。
彼女の頑張りは、おばあちゃんにちゃんと伝わっていたのだね。
この日の出来事は、彼女の看護師になるという決意を、より強くしたことだろう。
「あの娘、きっといい看護師になるよ」
と、家内が言った。
俺も、そう思う。