行きかふ人も又

　人質としてイギリス兵ジョディを誘拐したＩＲＡのメンバー　フォーガス（スティーブン・レイ）。見張るうちふたりに友情が芽生えるが、結果的にジョディを死なせてしまう...。
元IRA兵士と、彼が死に至らしめた男の恋人との、危険で甘美な恋を描いたサスペンス。

　素晴らしい脚本と卓越したストーリー展開に大満足の作品でした。犯人と人質の間に生まれた友情から始まるスリリングなドラマは、心情の微妙な揺れや恋愛感情を見事に捉えて展開していきます。
“優しさ”という性から逃れられない主人公フォーガスは、人質の兵士が死ぬ間際に託した恋人ディル(デイヴィッドソン)を、組織から逃げ出し探しあてるのです。そして彼女を見守るうち、いつの間にか互いに惹かれ合うようになるのですが・・・。

実はここに大きな一ひねり。ネタバレ注意！
ディルを演じるジェイ・デイヴィッドソンは男性・・・ということは、美しいけれど彼女は男なのです。そのことを知らないままに彼女に惹かれたフォーガスは、ベッドインしたとき大きすぎるショックを受けるのはいうまでもありません。
愛した女性が実は男と知って、一度は拒絶してしまう。それでも人間的に惹かれ、「好きだ、守りたい」――という気持が消えないのは、凄く絶妙な関係。ディルは女として真剣にフォーガスを愛していて、彼も性を越えた愛おしさを抱いていく・・・。心理の移り変わりを、台詞と演技の妙で魅せる人間模様は素晴らしいです。

突如、ＩＲＡのメンバーに居所がバレ、縁を切ったはずの組織に追われることとなる中盤。ここからの展開も目が離せません。ディルがメンバーに狙われることを恐れたフォーガスは、自らの過去と罪を告白しなければならなくなるのです。。
この二人の関係はどうなるのか。そして、組織から逃れることはできるのか？
ラストまで一気に楽しめるサスペンス映画の秀作。ラブストーリーとしても見応えありです。

監督はアイルランド生まれの二ール・ジョーダン。『俺たちは天使じゃない』『マイケル・コリンズ 』『ことの終わり』が代表作。
ＩＲＡについて突っ込んだ内容にはなっていませんが、設定から感じる程よい重さが作品に漂っています。




監督　　ニール・ジョーダン
製作　　スティーヴン・ウーリー
製作総指揮　　ニック・パウエル
脚本　　ニール・ジョーダン
撮影　　イアン・ウィルソン
音楽　　アン・ダドリー
出演　　スティーブン・レイ 、ジェイ・デビッドソン 、ミランダ・リチャードソン
　　　　 フォレスト・ウィテカー 、エイドリアン ダンバー