2007/09/08(土)20:56
【チャップリンの殺人狂時代(MONSIEUR VERDOUX)】 1947年 ゾクッとさせる
チャップリンの晩年の作品は、順に観ていったほうがいいと聞いてから、手元にある「ライムライト」はこちらを鑑賞してから、と決めていました。
チャップリンが監督した、最後から5番目にあたる作品。
いつもの悲劇に恐怖を置き換えて描きます。
喜劇と恐怖、人間怖いと笑いたくなったりするもの、いい相性でした。
なにか違和感が残るのは、これまでずっと喜劇役者として観てきたチャップリンを、俳優としての視点で観るからかもしれません。
笑いは、必要最小限にとどめています。
その代わり、構成は複雑になり、登場人物も増えて、完成に時間を掛けたのがわかります。
今まで真面目にやってきた銀行マンが、不況のあおりでクビになり殺人に手を染める―――
正直者は馬鹿を見る、なんとも痛い内容になっています。
決してハッピーにはなれず、家族も自らも破滅してしまうのだから、喜劇を上回る悲劇と恐怖です。
晩年の作品では、今まで封じてきた声を武器に、名台詞を残したチャップリン。
「独裁者」では10分以上に及ぶ演説。
「ライムライト」では「人生に必要なのは、勇気と想像力と、そしてほんの少しのお金」。
そしてこちらでは「一人殺せば犯罪者で、百万人だと英雄です」。
なんとも感慨深いメッセージ。
作品に持ち込まれた風刺やメッセージが、彼をアメリカから追放させてしまうけれど、譲らないスタンスがあったからこそ魅力的で、今でも皆に愛されているのでしょう。
学生のころ公開になった映画「チャーリー」で、ほとんど彼の作品をまだ観ていないのに、その苦悩を知ってしまったのを思い出します。
後々今も、作品に笑いながらも、素のチャップリンをすっかり忘れることができないのは、この良質な伝記映画に先に出会ってたからだったんだなァと再確認。
いい意味で影響を受けた映画でした。
女性たちを大勢騙し、重婚して、お金を騙し取ってきた主人公アンリ。
殺人を犯しはするが、虫は殺さない男。
よく回転する頭に、怖ろしいフットワークで、フランスじゅうを駆け回った殺人鬼の恐怖と悲劇は、今までとは違ったカラーの、チャップリン映画になっていました。
監督・製作・原作・脚本・音楽 チャールズ・チャップリン
原案 オーソン・ウェルズ
出演 チャールズ・チャップリン 、マーシャ・レイ 、マリリン・ナッシュ
(モノクロ/124分)