行きかふ人も又

2009/10/25(日)07:35

【北京ヴァイオリン(TOGETHER)】 2002年 僕が奏でるお父さんの夢

中国映画(6)

 たぶん、この作品は、今年観た中のベストワンになると思う。 今年すでに出会った100本以上の作品や、これからふた月の間に出会うだろう作品にも、『北京ヴァイオリン』に勝るものは、たぶんない。 これぞまさしく私にとって、嬉しくて小躍りしたくなるような秀作。ストーリー、映像、音楽、役者、どれをとっても琴線に触れて、泣きながら小躍りしてしまいそうなほど、よかった。  息子チュンの出場する、ヴァイオリンコンクールのため、田舎から出てきたリウ父子。 ふたりはそのまま、先生を見つけて、慣れない都会で暮らし始める。 チュンのレッスン代を稼ぐため、必死に働き、いい先生を探すためには恥も外聞もなく頭を下げる父を、いつでも思いやる才能ある息子チュン。 しかし、彼にはまだ知らされていない、出生の秘密があるのだった・・・。 優しい日差し、純朴な青年、父親の愛、ヴァイオリンの音色―――。すべてが美しい。 父子の深い絆に、何度となく涙がでた。 最初の先生、チアンとの出会いから別れまでが、格別に好きだ。 先生としては失格で、ダメ人間なのだけれど、チュンを立派に一人前にしたのは彼との出会い。 人同士が本気で向い合う、一期一会の出会いを見た気がして、ほんとうに心が動かされた。 チアンの部屋は汚い。汚いのだけれど、美しい。逆光の淡い光溢れる部屋は、大きなピアノがあって、たくさんの本や楽譜が並んで、捨て猫たちが賑やかに鳴き声をあげている。 世捨て人みたいになった先生の、混沌としながら味わいある部屋は、彼の魅力そのものだった。 チアン先生、見た目的には、今は亡き忌野清志郎氏のイメージ。ステキなのもよく似てる。 13歳の青年は多感で、もちろん刺激的な都会に、たいそう驚かされる。そして恋もする。 隣に住むはすっぱな年上女性、リリのことが気になってたまらないチュンが、彼女の為に大切なヴァイオリンを売ってしまう件なんかも、あざとさより、瑞々しい想いが勝るのだ。 いかにも聡明そうな、主人公チュンがいい。演じたタン・ユンはヴァイオリン奏者であって、たぶん役者ではないだろうに見事に主演を務めていた。 その涙も、笑顔も、なんだか全部が気に入ってしまった!もちろんヴァイオリンの弾き様もすごい。 それからひょうきんなお父さん。リウ・ペイチーの好演が光る、泣かせる。 チアンの次に習うことになる、高飛車教授役には、カイコー監督自らが出演している。 広い中国の、ど田舎から都会に出てきた、貧しい父と子の物語。息子の才能を伸ばし、成功させてあげたい父の願いは、果たして叶うのか。 終盤で明かされる父子の秘密とあわせて、きっと目を逸らすことはできない秀作。 チェン・カイコー監督は『さらば、わが愛 覇王別姫』が大好きだ。その後、ハリウッド進出してパッとするところがなかったけれど、母国に立ち返った本作品で、沢山の賞を貰うこととなった。 『北京ヴァイオリン』は中国にしか作れない要素がいっぱい入ってた。同じように、その国にしか作れない映画というものが、たしかにある。らしさ、を大事にしている映画は魅力があるなぁとひしひし思う。 さいごに、書き足りなかったので追記。使われているクラシックも、ヴァイオリンの音色も、全編とてもすばらしい! ●   ●   ●   ● 監督/ チェン・カイコー 脚本/ チェン・カイコー  シュエ・シャオルー 撮影/ キム・ヒョング 音楽/ チャオ・リン 出演/ タン・ユン   リウ・ペイチー   ワン・チーウェン (カラー/117分)

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